ブラックベリーフィールズ 〜やがて女の子になる君へ〜 作:孤児郎
女子大生ズのランさんが教育実習生として東陵高校にやってきた。友達と神社の祭りに行く俺はランさんに無理やり浴衣を着せられる。祭りの夜店で宏海とケンカになった俺は、一人でいるところを怪しい連中に捕まって、人気のない場所で車に乗せられた。
今回のエピソードは今までになくバイオレンスです。ご注意ください。
暗闇にだんだんと目が慣れてくると、窓から差し込むほんのわずかな光でおぼろげながら車内の様子が見えてくる。
フルフラットになったシートに突き飛ばされて両手首を掴まれ、うつ伏せにシートに押し付けられていた。背中で衣擦れの音がする。どうやら浴衣の帯を解こうとしているようだ。
帯は締めるのがカンタンで可愛く見える蝶結びにしていた。蝶結びと言ってもヒモを結ぶ時に使うヤツとは違って、折り重ねた帯を中心で縛って『チョウチョ』のような形にする結び方だ。帯の締め方としてはカンタンな方だけど、俺は一人じゃ締められない。
こんな暗がりだと結び方を知らないヤツには解くことも難しいハズ……そうタカをくくっていたのに、帯はあっという間に解かれてしまった。
コイツら、慣れてやがる。
帯が解かれると、今度は仰向けに寝かされた。
同時に鋭い光が目に突き刺さる。ペンライトかなにかで顔を照らしているようだ。これを使って帯を解いたのだろう。
ライトの光の外から腕が伸びてきて、浴衣の胸元を掴んで力任せにはだける。ライトの光線が無遠慮に俺の身体に向いた。
「!……」
そこで男たちの手が止まった。
何人かが息を漏らす気配がする。
「コイツ、ホントに女か?」
おそらくはリーダー格の男……俺を抱きとめた金髪野郎のものらしき声が仲間に問いかける。
今まで、女かと疑われることは何度もあったが、その逆は初めてかもしれない。
浴衣が薄手のちりめん生地だからブラをしてこなかった。でも、衿もとから覗かれるのはイヤだし、生地と擦れて痛くなるのも困るから乳首に絆創膏を貼っていた。
それにしても、俺の小さい胸を見て文句を言うのかと思ったら、性別を疑うだなんて、良いセンスしてるじゃないか。両手が自由だったら拍手喝采してやるところだ。
もちろん、コイツらの目的はわかってる。
このゲス野郎たちは女をレイプすることが目的なんだ。そうすることで自分が女を蹂躙して支配できる強い男だという儚い幻想に浸れる。
この場合『自分は女だ』と主張するのと『ホントは男だ』と言い張るのでは受ける被害に差は出るだろうか?
どういうわけか妙に冷静な俺の頭がそんなことを考える。現状を鑑みると自分から『女だ』と主張することにはなんの意味もない。ちゃんとした女ですからどうぞ安心して襲ってくださいと言ってるようなものだ。
では、男だと言ったらどうだろう。自分でどう言い張ってもパンツを降ろされたらバレてしまうだろう。
では、
ちょっとしたイタズラ心が頭をもたげる。しかし、時間切れだった。
太ももに硬くて冷たい物が押し当てられる。
刃物だ。ナイフか……あるいはハサミ。
そう思った瞬間、刺されるかもしれない恐怖に全身が硬直する。そして音もなく下着が切り裂かれて、どこかに投げ捨てられた。
「よく見ろよ。ちゃーんと立派なおま○こ付いてるじゃねぇか! 生えてねぇけどな」
金髪がそう言うと野卑た笑いが車内に起こる。
「……ってことは、単なるツルペタか。可愛いと思って連れてきたのにガッカリだぜ。こんなにペッタンコじゃぁ彼氏も揉み甲斐ねぇだろうな」
再び車内がどっとウケる。
「うるせーよ。お前らのためにあるんじゃねぇよ!」
前言撤回だ。やっぱりこんなヤツらにはセンスなんか欠片もない。
胸を揉む彼氏もいないけどな……。
「威勢がいいねぇ。そういう強気な女を嬲って
金髪のセリフとともに、ヌメっとした感触の温かいなにかが股間に押し当てられる。同じものが首筋や両胸の先端に次々と纏わりついてくる。
「がぁーっ?!」
舐め回されてる?! 舌で?! 身体中を?!
そのあまりの嫌悪感に全身の毛が逆立ち、意思とは無関係に身体が激しく抵抗を始める。
強姦されるかもしれないと思っていた。
処女喪失は痛いと聞くし、こんな連中なら力任せに無理やりやられるだろうとある程度は覚悟していた。
男とエッチしたことがないので実際のセックスがどういうものか知らないけれど、まさか
「やめろ、テメぇこの野郎!」
全身が男たちの行為を拒絶する。
血中にアドレナリンが大量に放出されて、普段の何倍もの力で両手脚を振り回した。
「急に暴れだしたぞ!」
「押さえつけろ!」
「痛ぇ!」
何人か男の頭を蹴飛ばし、顎を殴りつけてやった。
あれ? これって、ひょっとして脱出できるんじゃね?
そう思ったところで誰かに顔を殴られた。緊張しているせいか痛みはまったく感じない。でも、驚いて力が抜けたところを大勢で押さえつけられた。手脚を動かそうとしたけど、もうビクともしない。
誰だかわからないけど女の顔を殴るなんて男の風上にも置けないヤツだ。
一瞬、早瀬と殴り合った時のことを思い出した。そういえば、アイツは処女なのだろうか? 非常事態だというのに、どうでもいい疑問が頭をよぎる。
身動きできない状態で、また舌が身体じゅうを這いずりだした。
意思に反して身体が反応する。全身の皮膚が泡立つ感触。
気持ち悪い。
きもちわるい。
キモチワルイ!
そう思うのに体の奥が痺れてくる。
俺はひょっとしてコイツらに感じさせられてるのか?
そんなの、絶対にイヤだ!
助けてっ!
『バシャーン!』
聞いたことのない破裂音が車内に鳴り響き、硬く目を閉じた顔に小石のようなものがバラバラと落ちてくる。
恐る恐る目を開くと、割れた窓ガラスから一本の太い腕が車内に突き出され、ペンライトの光に照らし出されているのが見えた。
やっと来たか……。
俺は覆いかぶさった男の肩越しに見える、待ちに待った頼もしい腕を見つめていた。
車内の男たちが唖然として振り返る。
腕は全員の視線を釘付けにしたままロックを解除し、重いドアをガラガラと勢いよく開け放った。
車内灯が点灯する。
ヒーローとは遅れてやってくるものだ。
なぜなら、囚われのヒロインが悪役によって十分酷い目に遭わされた後でないと、圧倒的な強さを存分に発揮することができないからだ。
女の子を助けるついでに無抵抗の拉致犯を半殺しにしていては、正義の所以たる勧善懲悪が成り立たない。
しかし、今夜の
ドアのすぐそばにいた男が車外に吹っ飛んで行く。そのすぐ隣にいた男もドアから突き出した腕にシャツを掴まれて引き摺り出される。直後に聞こえる短い悲鳴。
そしてまた、次の獲物を求めて車内に腕が突き出される。
大勢の男たちに車に押し込められても落ち着いていられたのは、心の奥の深いところで彼が助けにきてくれるという確信があったからかも知れない。
中学の頃から宏海は強かった。俺にチョッカイを出して
高校に入って野生の獣のような凄みはナリを潜めたけれど、宏海の強さは変わっていない。
男たちが次々と車外に放り出されいく。
その光景は超人的パワーで敵を倒す正義のヒーローと言うよりも……なんと言えばいいのだろう? まるで、チャラい連中がキャンプ場で次々と殺されていくホラー映画の冒頭シーンのようだった。
宏海の襲撃はそれほど圧倒的で、徹底的だった。
最後まで俺を押さえつけていたヤツ――おそらくリーダー格の金髪だろう――が立ち上がってドアから飛び出していく。手に持った刃物が光った。
いくら宏海が強くても、武器を持った相手に素手では分が悪い。危険を知らせようと叫ぶために息を吸い込んだ時、金髪が背中から車内に飛び込んできた。俺は車の後部に後ずさってギリギリでソレを避ける。
衝撃で電球が切れたのか、ふたたび車内が真っ暗になった。
「なんなんだ、テメぇー! いったいなんで俺た……ぅぐっ!」
金髪の口から苦痛の声が漏れる。
ドアから腕が突き出して、叫んでいる金髪の襟首を掴んで引き摺りだしていった。直後、車外からサンドバッグを叩くような重い音が何度も響き、その度に男のうめき声が聞こえる。それが最後に絶叫に変わった。
オイオイ! ちょっとやり過ぎじゃないか?
からだ中ベロベロ舐められて気持ち悪かったし、顔だって殴られたけれど、大したことはない。それに今もって俺は処女のままだ。
そう思いながらも、俺のためにそこまで怒ってくれる宏海の気持ちが嬉しかった。
なんて格好良いんだ、宏海!
すぐにでも抱きついてキスしてやりたい。
そうだ! 今なら特別に抱かれてやってもいいぜっ!
拾ったライトを向けながら宏海が車内に入ってくる。一言も喋らないところを見ると、まだ怒りが収まらないらしい。
最初に俺の顔を照らし、ついで光が身体を照らし出す。
浴衣が完全に肌蹴てしまっているのを思い出して、両手で慌てて隠した。
見られちゃった!
いや、ひょっとして宏海も、るちあたちのようにあの露天風呂の写真を見ていたのかもしれない。俺が女になってしまったのを知っていたのかも。
俺の身体を照らしたままの明かりがさっきから動かない。
見てるのか? 宏海が俺の身体を?
自然に顔が熱くなる。
そう思った瞬間、大きな手が伸びてきて胸を隠していた両手首を掴まれた。そのまま頭上に押さえつけられる。
ちょっと待てっ!
嘘だから! さっき『抱かれてもいい』って思ったのは冗談だから!
いや、万が一冗談じゃないとしても、こんな場所でなんて絶対イヤだ!
「浴衣なんか着てるから、わからなかったぜ」
あれ? ……宏海の声じゃ……ないっ?!
俺は一瞬にして恐慌に陥る。
助けてくれた男が宏海じゃなかったから。
俺は裸の身体をそいつにずっと見られていたから。
そして、その声に聞き覚えがあったから……。
聞き違えるハズもない。
この声は、ビーチで俺を拉致しようとした……あの、変質者のものだ。名前は……ええと……思い出せない! でも、アイツは今ごろ拘置所にいるハズ。こんなところにいるわけがっ!
途端に三半規管が悲鳴をあげながら回転し、視界が急激に狭くなっていく。
思考は目まぐるしく働いているのに、大きく開いた口からは声がまったく出てこない。
浅くて早い呼吸を繰り返して、胸が苦しくなってくる。
「あんなガキどもにやらせてんじゃねぇ! お前は俺のものなんだよ!」
男の顔が急に近づいて、無理やり唇を奪われた。
以前見た鋭い眼光。格闘のためだけに鍛え抜かれた筋肉。人間の急所を的確に攻撃する判断力。餃子のように潰れた両耳と、訓練によって平らに潰れた拳と向こう脛。コイツにはどう頑張っても勝つことはできない。
以前、警察署の廊下ですれ違った時の記憶が蘇る。あの時、俺は気を失ってしまったのだ。
でも、このままムザムザと犯されて溜まるもんか!
固く閉じたまぶたの裏に宏海の顔が浮かんだ。
ヤツの唇に歯を立てる。力一杯噛むとガリっとイヤな音がした。ヤツの顔が離れたその直後、大きな平手が風を切って俺の頬に炸裂する。暗闇のせいか目の奥にチカチカと火花が散っていく。ただの平手なのに、さっきの金髪のパンチとは段違いの威力だ。
口の中を切ったらしく金属の味が口いっぱいに広がる。続けて三回殴られた。固く目を閉じたまま歯を食いしばり、次の殴打を警戒して震える。
恐怖で抵抗する気力が奪われていく。
押さえつけていた手首を解かれて、今度は足首を掴んで持ち上げられる。両脚を大きく開かされた。
「お前は俺の花嫁だ。ジュリア……」
?????
今、コイツは『樹里亞』と言ったのか? どうして彼女の名前を……。
突然出てきた幼馴染の名前に戸惑う。
脚の間に何かが押し当てられ、そのまま身体の中に突き立てられた。
針で刺すような鋭い痛みと、強烈な圧迫感で息ができなくなる。歯を食いしばった口から呻きが漏れる。
「……きおぉーっ!」
熱にうかされたような混濁とした頭に、今度こそ聞き覚えのある声が響く。
直後に男の頭がガクリと下がった。宏海の攻撃だ。
「
正真正銘の宏海の声だ。助けにきてくれたんだ!
しかし、喜んだのは一瞬だった。
男は俺から離れることもせず、上体だけ捻って宏海に掴みかかった。圧倒的な力でなにかが破壊されていく嫌な音が車内に響く。
「ぐぁああぁあぁぁぁあぁっ!」
そのまま車外に放り出される音。
やられたのは宏海なのかっ?
男はまるでなにごともなかったかのように、ふたたび俺を陵辱にかかる。
宏海はどうなった? 大丈夫?
「……んのぉヤロウぁーっ!」
宏海が怒声ととも車内に飛び込んできて、男の首に腕を回して組み付いた。男は身体を振って引き剥がそうと立ち上がり、宏海もろとも車外に転がり落ちていった。
これで助かったとは思わない。俺はビーチで見た極限まで鍛えられた肉体を思い出す。
ヤツは対人戦のために鍛えられた格闘マシンだ。いくら喧嘩慣れしている宏海でも、まともに戦って勝てる相手じゃない。
何かがぶつかる音がして車体が激しく揺れる。
枯れ木が折れるような音。
押し殺した呻き声。
骨が折られたか?
もういいからっ! これ以上やったら殺されちゃう。俺を助けにきてくれただけで十分だからっ!
だから……もう、やめてっ!
車外が急に静かになった。
宏海は? 大丈夫なのか?!
男が真っ暗な車内に戻ってきて俺の上に覆い被さる。
再び下腹部が強烈な圧迫感に襲われる。でも、宏海の安否が気になって痛みは全然感じない。
救急車……呼ばなきゃ。
スマホは巾着の中に入れたハズ。巾着はどこだ? 暗くてわからない!
宏海が死んでしまったんじゃないかと思って、絶望感に心臓が今にも止まりそうになる。
「……っだぁぁぁぁぁぁらぁっ!」
俺の目が信じられないものを見る。
倒れているハズの宏海が三たびヤツに挑みかかった。
いったいなにをしてるんだよ?
なんで逃げないんだよ?
そんなこと、わかってる……死に物狂いで戦ってるんだ。
こんな……俺のために。
急に目の周りが熱くなって視界が歪む。殴られても乱暴されても流れなかったものが、初めて俺の瞳にあふれて落ちた。