世界にも自分にも絶望している短気な中年童貞「
初回限定無償キャンペーンがあるというピーニャに、虫太郎は半信半疑で「記憶だけ過去に飛ぶ」アビリティをお願いしてみる。すると、予想に反して本当に過去に飛べたため、さっそく次のアビリティをもらおうとする虫太郎。童貞は大好きだった幼馴染に捧げたいし、レ×プはしたくないという虫太郎は、そのどちらも妥協せずに中出しできる、ある秘策を思いつく……。
なんとか昼休み中にニュース動画やらインターネット掲示板やらグー×ルマップを駆使して、飛び降り自殺があったマンションを特定することができた。
「ピーニャ、飛ぶよ」
「がんばってー」
「ちなみに、過去に飛んだ先にピーニャはいるの?」
「飛んだ先が虫太郎くんと出会ったあとの時間ならいるよー」
「あ、なるほどね。そこの辻褄は合わせる感じ?」
「カンジカンジー」
ってことは、今朝に飛んだ場合はなにか困ってもピーニャを頼れるってことだな。
「他力本願~」
おれは親指を立ててピーニャに笑顔を向け、飛ぶ先をイメージする。飛び降りがあった時間は始業の20分前、8時40分か。おれが会社の最寄り駅についたのは50分くらいだから、隣駅を通過したのが47分くらい。まにあわんな。めんどうだが自宅からやり直すしかないか。よいしょーっと。
†
「おはよー」
「おー。3回目にしてもう慣れてきたよこの感覚」
「『ジャンパー』みたいに飛ぶたびにぶわわわわーって突風を巻き起こすこともないしね。まーあれは時間までは飛ばないけど」
「ループものは比較的静かな時間移動をするよな」
「うんうん、静か静か」
「静か一番! っていうかこのアビリティに名前ほしいな。そのほうがテンションあがるし」
「『ダイヴ』で」
「早っ! まーいーや、べつにこだわるとこじゃないしな。過去の自分にいまの自分が入り込むっていう効果ともちゃっかり合致してる名前だし。決断までのこのスピード感、ピーニャはIT企業に向いてるな」
「『ライド』とかもカッコイイなーと思ったけどなんか『ア×ハラ×ド』を思い出されてもまずいなーと思ってやめといた」
「正しい判断だ」
「まあ『T×e 3×d Bi×t×d×y』ってゲームでは過去の任意の人間のなかに入り込む能力としてオーバーダイ――」
「そこまでだピーニャ! 駅に向かおうぞ」
それにしてもこのクソ満員電車はどうにかならんものか。なんでおれはこんなゴミ溜めみたいなとこに立ってるんだ?
ピーニャもついてきてくれてるが、さすがにこの状況で声を出して話をするわけにもいかない。あー、ピーニャとテレパシーで会話できるアビリティもほしーなー。気分転換したいー。おれの心のオエイシスー。
「できるよ」
「うわっ」
やべ、声出しちゃったよ……うわうわうわ、みんなこっち見んなって。マジ勘弁してくれ。クソ視線を浴びてクソ使えないクソヤローになっちまう。
「虫太郎くんはピーニャ専用サト×レ」
シ×ア専用×ク×ロみたいだな。
「だからピーニャは虫太郎くんの考えていることがわかるのれす。そしてピーニャは天使だからその姿も声も心の澄んでいる虫太郎くんにしか認知されないのれす」
あ、よくよく考えたらそっか。っていうかやっぱハックしてたんやん! まあ便利だから許そう。これまでのできごとに比べたらそれくらいできそうだし、不思議じゃない。とはいえいまのクソ視線シャワーで精神力がだいぶ減っちゃったぞ。っていうかしつこく突っ込んでおくけど「心の澄んでいる」というくだりは完全ダウトね。
「これからえっちするんだから、疲れてらんないよー! マカ飲も」
即効性あるの?
「知らんね。っていうか、ご主人さまって童貞なのですよね?」
センシティブな話題になった瞬間に相手の気を悪くしないよう気を遣うその賢しい感じ、怖いなおい。
「伊達に生きてないからね。荒廃した現代社会をサヴァイヴするための必須スキルれすよ。で、童貞なのにちゃんとセックスできんの?」
急に軽くなったし! 持ち上げて落とされるのおれが一番恐怖するパターンだかか! ちなみに80万のラブドールと毎晩のように肌を重ねてるからいけるはず。き、きっといけるはず。べ、べべ、べつに緊張で全然勃起しそうにないとかそんなんじゃないから! これからするのも、ラブドールみたいなもんだし。
「あー、またそーゆー問題発言するー。ピーニャは虫太郎くんのこと信じてるからね。いつかきっと更生してピーニャを迎えに来てくれるって」
おーおー待ってれ待ってれ。っていうかなにキャラですかそれ……ってことで着いたな。早いなやっぱ、ピーニャと話してると。
「それほどでもー」
おれは駅を降り、スマホのマップアプリで目的地を目指す。時刻は8時15分。いーじゃん、余裕あるじゃん。
ん? なんかおかしくないか? さっきから同じ道歩いてるんだけど。お? お? GPSも正常に機能してなくてまるで使い物にならん。マップ上だとそろそろ着くはずなんだけど……とかって歩いてたらもう8時40分じゃねーか! 駅着いたときにダイヴするか。
†
時刻は8時15分。さて、気を取り直してマップアプリを立ち上げて……と。
おいおいおい、まじかよ。迷っちゃった? 迷子確定? カタツムリ出てくる雰囲気?
で、結局40分過ぎてんじゃん……。もう1回。
†
「ご主人さまご主人さまー、迷路ゲームどうだったー?」
「やっぱおまえの仕業かー」
「天使はだいたいのことはできるからね。ブロックパズルをしてるみたいで楽しかったよピーニャは。あ、迷路になっちゃってたのは虫太郎くんの現実だけだから。ほかの人には迷惑かけてないよー」
「おれの体力はまた余計に消費されたわけですが」
「でも虫太郎くんループ好きそうだったから、ちょっと体験させてあげたいなって思って……怒った?」
いじけたように片足で地面に弧を描いた状態で手を背中のほうで組みながら首を少しだけかしげて上目遣いで――はいはいはいはい、降参降参、ピーニャはどーせかわいーですよ。
「やったー」
「さて、今度こそ行くぞ」
ってことでマンションには8時30分に到着。20階建て。なかなか高いな。ただ、お目当ての女性は最上階にはいなさそうだな……お、いたいた、5階にいる。なんだ、意外と低いな。まあ高すぎて本当にただの肉塊というか肉片になられても困るし、ラッキーだったというべきか。
10分待つ。
そうして8時40分、女性は地面と身体が平行になるような後ろ向きの姿勢で手を広げながら落ちた。
飛行石があればずいぶんと美しい光景になったのだろうが、通常、この世に飛行石はない。最終的にお尻のあたりから落ちていた。
このタイミングでは目撃者はおれだけのようだな。とはいえ通勤とかでわりと人は定期的にマンションを出入りしている。こりゃ近くにある駐車場に運んでから挿入したほうがよさそーだな。
「さーてさてさて、クソ臆病なおれと違って自殺というセイクリッドな偉業を成し遂げたのは、どんな女性かしら?」
おれは羨望と恐怖と緊張が入り混じった奇妙な昂揚感を覚えながら、スキップで女性が落ちた場所へ向かった。
「ふぇ……?」
24年が経っていてもなお、一目でわかった。
間違えるはずもない。
四肢が不自然に折れ曲がって頭からおびただしい量の血を流している死体の顔は、おれのかつての幼馴染「