世界にも自分にも絶望している短気な中年童貞「
初回限定無償キャンペーンがあるというピーニャに、虫太郎は半信半疑で「記憶だけ過去に飛ぶ」アビリティ、「ダイヴ」をお願いしてみる。すると、予想に反して本当に過去に飛べたため、さっそく次のアビリティをもらおうとする虫太郎。だが、そのためには誰かに中出ししてピーニャに精液を伝送しなければならない。そこで、童貞は大好きだった幼馴染に捧げたいし、レ×プはしたくないという虫太郎は、飛び降り自殺をした女性と性交しようとする。
だが、女性が飛び降りた直後の現場に辿り着くことに成功した虫太郎を待ち構えていたのは、まさにその女性が大好きだった幼馴染「七実みさき」であるという事実だった。
ターニングポイントは、中学生になってからだった。
みさきとは幼稚園のころから一緒で、小学校ではあまりにも一緒にいるからってことで周りからかわかわれることも少なくなかった。
それでもみさきは変わらずおれと遊んでくれた。といっても、ふたりとも図書室で本を読むのが好きだったから、会話をした記憶よりも、ふたりで黙って同じ空間で別々の本を読んでいた記憶のほうが多い。
ともかく、「好き」のもつ多様なニュアンスなんて知らなかった当時の――これはいまもか――おれは、それでも、いや、だからこそその関係がずっと続くと思っていた。
そんなみさきが、中学にあがってからはおれに接する態度がどこかぎこちなくなっていった。最初はクラスが一緒じゃなかったせいかと単純に考えていた。この時期はちょうど小学校のときとは違う友人関係ができあがっていく時期で、珍しいことでもないのだろう、という具合に。それまではまるで仲良くなかったやつらが急に四六時中おしゃべりをするようになったり、その逆だったり、どこに行ったって1年生というのは環境の変化に頭を悩ませるものだ。
ただ、いつまでも本当の答えが見つからないでいると、人は疑心暗鬼になっていく。最初は、おれがアニメや漫画やホラー映画に傾倒していったせいではないかと気になり出した。クラスのみんなから冗談まじりでキモいと言われることは日常茶飯事だったし、それはそのうちちょっとした嫌がらせにも発展していったから、そんなおれとは一緒にいたくないのかもしれないと思った。
また、みさきもみさきで、もう昔のように静かに読書をしてるだけの女の子ではなくなっていた。人はいろんなものに興味を覚え、好きになっていく。
それに、成長するにしたがってカッコよさとは無縁の領域に爆速で突入していったおれとは違い、みさきが見た目もキャラクターとしてもどんどんかわいくなっていったことも、距離を感じるようになった理由の一つだった。
そんなみさきを周りが放っておくはずもなく、みさきが告白されたという噂を聞くことは珍しいことではなかった。おれは毎日のように、無理やり告白されて嫌がるみさきを助け、感謝されたみさきとセックスをするというキモい妄想でオナニーをした。ノストラダムスの大予言よりもリアリティのない内容だと自分でもわかっていた。
そうしてどこかで掛け違えたボタンを放置したまま中学2年になり、決定的な事件が起きた。
みさきのリコーダーとスクール水着が盗まれたのだ。
すぐに緊急ホームルームが開かれた。みさきとは2年のときもクラスが違っていた。小学校のように気楽に雑談をするような関係は、もはや幻のように遠く感じられた。それくらいおれたちは離れていた。けれど、真っ先におれが犯人だと疑われ、周りはあっけなくそれを信じた。きっと小学校時代のおれたちの関係を知っている誰かがあらかじめ言いふらしてたんだろう。先生がおれのスクールバッグを開けた。ケースに入っていない裸のリコーダーと、びしょびしょに濡れているスクール水着が入っていた。一つ前の授業がちょうどプールだった。おそらく終わってすぐにおれのバッグに入れたんだろう。
おれは、これは仕組まれたことだと叫んだ。おれのあまりの取り乱しっぷりに、両隣のクラスから教師も生徒も関係なく野次馬がやってきた。おれはそれでもかまわず必死になって抗議した。一向に効果はなかった。
そして、リコーダーと水着をつかみ、こんなものに興味はないんだと叫んだとき、野次馬のなかのみさきとちょうど目が合った。なにもかも終わりだと思った。
放課後、みさきと先生と三人で話す場が設けられた。この場ではなにを言っても無駄だと思ったから、粛々と謝罪の言葉を並べて早く切り上げた。
話が終わったあと、教室から先に出ていったみさきを追いかけた。野球部の掛け声が遠くに響いている下駄箱で、おれは自分の本当の気持ちをできるかぎり正直に伝えた。
おれはやっていない。きっとおれたちの昔のことを知っている誰かが仕組んだことだ。あの場では必死になって興味ないなんて言っちゃったけれど、みさきのリコーダーや水着を思わず盗んでしまう気持ちがわかるくらい、みさきのことを魅力的だと思っている。おれはみさきのことを昔から変わらず好きだ。
けれどみさきは、おれの精一杯の告白など聞こえていなかったかのような冷淡な声音でこう答えた。
気持ち悪いから、もう話しかけないで。
みさきとはそれっきり、一度も言葉を交わさなかった。
なにごともなかったかのように淡々と下駄箱から去っていくみさきになにも言えなかったおれは、すぐにトイレの個室に入り、水着をつかんだ感触が残っている右の手のひらを自分でなめた。ホームルームのときから一度も手を洗わないでおいた右の手のひらをなめた。もう乾燥してしまっていて、みさきの雫なんて感じることはできなかったけれど、なめた。
そしてその右手をなめながら左手でペニスをしごいた。涙があふれて視界が歪んでいたせいで、精液は便器を逸れて床を汚した。そこまで堕ちてようやく、リコーダーと水着を盗んだのは変態の自分なのだという半分ねつ造された真実を受け入れることができた。
それからおれは、学校になど行かなくなった。一念発起して何度か登校してみたこともあるが、落書きされてる机を雑巾で拭いた記憶しか残っていない。
卒業式も休んだ。卒業アルバムが家に届くと、おれはすぐにみさきの映っている写真を探した。それを使って何度もオナニーをした。そのうち、精液の残骸が付着しているせいで、みさきの写真があるページは開くたびにパリパリと歪な音を立てるようになった。数年後に実家を出るときに捨てるまで、幾度となく使い続けた。
†
「なんだ、ふつーの言葉で思考できるんじゃん」
「いちおー、人間だからね」
「でもさ、そんなことがあったのに、それでもみさきたんに童貞捧げたいと思ってたの?」
「いつかみさきが真実に気づいてくれて、また一緒に笑えるようになれたらいいなって、昔はそう思ってたから」
「昔?」
「実際には、25を超えたくらいからはもうそんなふうに思えなくなってたよ。でも、慣性の法則みたいなもんで、そこまで来ると自分じゃどうにもできないんだよね。童貞を捧げるならみさきしかいないっていう考えに囚われちゃってたんだ」
「あー、コンコルドの誤謬とか一貫性の原理的なあれですな?」
「あーそうそう、たぶんそのコンチェルトの錯誤 featuring 返報性の定理 loves あれ的ななにかだよ」
「知ったかぶりしてんのかわかっててわざと間違えてんのかわかりづらっ!」
「……みさき、変わってないや……」
中学のときと同じ、黒のショートヘアだ。まあ頭割れて血だらけだから、赤黒くなっちゃってるけど。
服装は、もう仕事に行くつもりもなかったのか、この時間に着替える必要がないようなライフスタイルなのか、ワンピースタイプの白いルームウェアを着ていた。カラフルなフラワーモチーフが、まるで棺桶に入れられた花のように綺麗だった。
「いまのキミなら、みさきちんが飛び降りるもっと前に戻って救うこともできるかもよ?」
「おれだってこんなクソな世界をどう生き抜けばいいのかわかってないのに?」
「なんだったら中学時代に戻ってやりなおせるじゃん?」
「今回みたいな必要に迫られないかぎり、1秒だって過去には戻りたくないんだ。いーことがあろーが悪いことがあろーが、もう一度同じ中坊から人生をやりなおすのはつらすぎる」
「ここで屍姦して現在に戻るアビリティをGETすれば、過去に戻ってやりなおして満足したタイミングで現在に戻ってくるってこともできるよ? まあ一重に現在に戻るっていっても、いくつかパターンがあって結構違う結果をもたらすんだけど」
「なんとなく想像つくよ。っていうかその方法にした場合、結局みさきを屍姦しちゃってるよね」
「まーね。あ、ちなみに先に言っておくと、死者を生き返らせるアビリティは無理だよ」
「生き返らせても、おれじゃあみさきを救えないよ」
「人の悩みを解消する系はできなくもないけど、記憶の問題が発生するからリスクは高い」
「そんな気はしてた。いや、わかってる、いーんだよ……ありがとうな。ピーニャはやっぱり、マジ天使だよ」
「ほえ?」
「これもさ、きっとなんとかの原理ってやつでさ……みさきを救うことやみさきとおれの関係を修復することよりも、みさきに童貞を捧げることのほうが大事に思えちゃうんだ……。それにほら、これ、見てくれよ……? こんなときだってのにおれのおち×ぽ、こんなにギンギンになってるんだぜ……?」
おれは駐車場の壁と車のあいだの狭い空間にみさきを運んだ。途中、みさきの一部とおれの涙がポタポタと地面に落ちていた。
「……虫太郎くん、だいじょーぶ?」
「たぶんな」
「……よし、ピーニャは虫太郎くんを応援するよっ! れっつ☆いんさーと!」
みさきを仰向けに寝かせてから、スラックスとパンツを脱ぎ捨て、みさきのワンピースの裾をまくりあげた。パンティは一度脱がせてから、左脚の膝のあたりに引っ掛かるようにもう一度みさきの脚を通した。
ローションを持ってきてなかったことに気づいて一瞬焦ったが、おれのペニスはしっかりとカウパーを漏出させていたし、なにより、ここには大量の血があった。
肉片の混じったその血をまずは自分のペニスに塗りたくる。なにかのイニシエーションでも始めるかのような神聖な空気に包まれている気分になってくる。
次に、みさきの膣内にも塗っていく……ん? 外に漏れるほどじゃないけど、こりゃ子宮だかどっかが出血してるな。すでにぬるぬるだ。
準備を終えると、おれは奇怪に折れ曲がっている生脚をつかみ、夢にまで見たみさきの淫裂に自身を送り込んだ。そしてすぐに、抽送を始めた。
「……っ…………っ……っ、っ、っ……ぅ……」
あぁ……どうしてこんなにも気持ちがいいんだバカヤロー。
子どもたちにぐちゃぐちゃに遊ばれたマリオネットのようにでたらめなポーズしてるのに……こんなん、おれの80万のラブドールのほうがよっぽど綺麗な肢体だぞ?
「……っ……ん……っ……うっ……っ……ぅぐ……」
でも、おま×このなかは80万じゃとうていかなわないくらい最高だよ……みさき。
「はぁ……ハァ……っ……んっ……ぅっ……ハァ……」
指輪はしてないんだな。独身? それとも内縁の夫がいたとか? それとも処女だったりして。
「ふぁ……ん……ぅぐっ……っ……ぐ……ハァ……はぁ……」
嗚咽をこらえたときの胸の痛みがなくなるアビリティとか便利かもなー。
「んっ……んぐっ……ん……っ……っ……ぐふっ……っ……」
みさきが高校やそれ以降の生活をどのように過ごしてきたのか、おれは知らない。
けれど、どのような道であれ、どのような心理であれ、ある種の生きづらさを抱えてたっていう点では、おれたちつながってたのかもな……いや、そんな幻想を抱くのはキモいか……それに結局、おれはそっちには行けずに、いまもこっちの世界でのうのうと生きてるもんな……。
「ピーニャ……いるか?」
「行為中は話しかけてほしくないタイプかと思った」
「場合による……ってそういうことじゃなくて、アビリティなんだけど、記憶を消すのは可能?」
「やっぱそれ聞く? 正直、アウト寄りのグレーだね。一応できるんだけど、次の二つの障害のうちどちらか、あるいは両方を引き起こす可能性が極めて高いよ。超ざっくり説明すると、一つは、人間はあらゆるタイミングであらゆる記憶にアクセスし得る回路をもっているから、消していない他のあらゆる記憶がなんらかの体験をきっかけにもうないはずの記憶を呼び覚まそうとして、でも呼び覚ませなくて、虫太郎くんの頭がちゅどーんってなっちゃうパターン。もう一つは、まーほとんど同じことなんだけど、そもそも『みさきちんに関連する記憶』を消そうとしたところでみさきちんに関連する/関連しないの境界線を厳密に設定するのが難しいから、ピーニャたちの予想を遥かに超える量の記憶が消えて虫太郎くんの頭がどっかーんってなっちゃうパターン。」
「一言でまとめると、プルースト効果こわいよねって感じか」
「いー感じに間違ってるけど、言いたいことはわかるからその理解でいーよ」
「じゃあ、任意の対象がおれに惚れるっていう魔法は?」
「えらく即物的かつ俗物的になったなー」
「それさえあれば、もうこんな思いをしてこんなことする必要もないかなと思って」
「まあ今後必要だしね。オッケー。それはよゆーだよ」
「ありがとう」
おれはみさきの脳みたいにぐちゃぐちゃになりそうな心とペニスを奮い立たせ、腰を振る速度を上げた。
みさきに覆いかぶさるようにしてみさきの身体を抱き、口づけをする。
そうして、ペニスを押しつけながら子宮目がけて精液を送り込んだ。
射精が終わるまで、おれは不自然に見開かれたみさきの目をずっと見つめていた。