「あれが10層の姫君か」
「うん、優しくて、笑顔が絶えず、それでいて10層の騒動に関して常に心を痛めているんだって。まるで絵にかいたようなお姫様だよね」
「そうだな―――だからこそ滅茶苦茶にしてみたいって気持ちが強いな」
「ほんと、ベオ君ってば酷いよねー」
10層主街区奥にある城郭から出ながらそんな事を口にする。防衛線である為、必然的に最高責任者は10層の支配者たるNPCとされていた。当然ながらそういう趣旨なので町中の警備は上がっており、多くの侍、武者風NPCが警邏しているのが見える。この中で犯罪をするのは馬鹿だな、と思いながらクエストへの登録が終わったので、報酬を受け取り権利を取得し、クエストが始まる夜までの時間を潰す為に街中を歩く。
クエストが始まるのは夜だとされており、クエスト発生当日である今、NPC以外にも腕に覚えのありそうな多くのプレイヤーの姿が町中を少し興奮気味に歩き回っているのが見える。それを視界の端に捉えつつアスナを連れて主街区の大通りを軽く外れて裏通りの方へと進み、喧騒からは離れた場所にある、茶屋を見つける。その中へと入って行き、
そこで目的の人物を見つけた。
「やぁ、綺麗な経歴での生活は楽しんでいるかいベオウルフ」
「待たせたなモリアーティー」
先に店内の中で待っていたのはモリアーティーだった。それ以外の客の姿は見えない。何時も通り似非紳士っぽい恰好で、茶と羊羹を前に優雅なおやつを楽しんでいるように見える。そのテーブルに合流する様にアスナと並んで座る。すると店の奥から注文を取らずとも、茶と羊羹を運んでくる人間が来るのが見えた。巧妙に偽装してはいるものの、女中の恰好をしている姿には見覚えがあった。ヴォイドの人間だ。茶と羊羹を運んできたところで爪楊枝を羊羹に突き刺しつつ、
「モリアーティー君こんにちわー」
「やぁやぁ、アスナ君その姿を見ると今日も羊の皮を被った狼として存分に人生を楽しんでるようだね? 君が見込んだそこの彼は見た目狼中身狼ではあるが僅かに慈悲と矜持を残した獣でもある。扱い方と接し方を間違えさえしなければ捨てられることもないだろうからね、君には私が監視しやすい首輪として是非ともそこの彼を常に満足させていてほしいね、主に私の命の為に! 私の命の為に! そこの獣は機嫌が悪ければ私でさえ殺しかねないからね、突発的に!」
「いや、俺に視線を向けるなよ。俺がお前を殺す時が来たとしたら相当俺がぶちギレた時だろうから、あまり考えたくはない」
「おや、それぐらいには心を許していたなんて思いもしなかったね」
「群れるのは嫌いだが、別に友人の一人や二人いた所で困らないだろう?」
「個人的にここ最近の出来事で君の中に友達という概念があった事に驚きだねぇ! ……まぁ、そう思われて悪い気分ではないさ、悪い気分では。まぁ、それはそれとして寛ぎたまえ。この周辺では部下が監視しているからそう簡単に人が寄ってくるようなことはないよ。ついでに言えば私もここから事の推移を見守る予定さ」
モリアーティーにしては珍しい話だった。基本的に黒幕を気取って人前には絶対に出ない男、絶対に姿をさらさないタイプだ。そんなモリアーティーが巻き込まれるかもしれない可能性の高い場所まで自分から前に出てくるのは非常に珍しい話であり、同時に驚くべき事でもあった。それはつまり、モリアーティーにそこまでする価値のある何かが、このイベントには隠れているという事実でもある。この男の事を知るのであればそれぐらいは察せるが、それ以上は流石に厳しかった。
「そういえば少し前に武器を色々と消耗していたね? 補充の分を持ってきたから受け取っておきなさい。どうせ使っても使っても足りないだろうからネ!」
「モリアーティー君、結構ベオ君に貢ぐよね」
「投資だと言ってほしいなぁー。実際彼を超える程便利でコストが低い手駒はいないからね。私としても非常に重宝しているんだ」
「ま、お互い持ちつ持たれつつ、ってところだ。犬が気にする事じゃねぇ」
ごめんなさい、と舌を出して可愛らしくアピールするものなので、流す事にした。とはいえ、モリアーティーの考えは気になる。普段は穴倉決め込んでいる男が何でここまで出てくる必要があるのか。つまりはこの男にとってそれだけ価値のある事であるのは確かだ。そしておそらくはモリアーティー本人が前に出なくては意味のない事なのだろうとも思う。
「―――後輩だよ」
「あん?」
「私はね、後輩を探しに来たんだよ」
モリアーティーは此方の考えを読んだのか、悪い笑みを浮かべながら軽く顔に影がかかり、表情が読めなくなる―――と、そこでモリアーティーの表情やしぐさから感情や考えを読もうとするのを諦める。そういう化かし合いに関してはほぼ最強の男だ、相手をするだけ馬鹿らしい。与えられた情報だけで考える方が100倍マシだ。故にモリアーティーの言葉に耳を傾けた。
「私の推理が間違っていなければ彼は既にこの街に来ているだろうね。そして同時にこんな大型イベントで活躍するチャンスも逃さないだろう。なんだかんだでお祭り騒ぎという言葉を苦手としている男だからね、アレは。見ているだけじゃ退屈だろうし、それに個人的な興味を……いや、見出す為に動くだろうネ」
その言葉でモリアーティーが誰を探しているのかを察する事が出来た。すくなくとも、普段からモリアーティーに接しており、彼の言葉を聞いている自分ならある程度推察できる内容だった。故にそうか、と呟きながらモリアーティーとのトレードウィンドウを開く。そこにはマスターピースと呼ばれる現在最高品質で作成できる武器の数々が並んでいた。今回のイベントに合わせてモリアーティーが用意した物だろうと思う。
「ま、私の事は気にしなくていいよ、相手が問答無用なモンスターではない限りこの口一つでどうにでも出来る様に自分を育てたからネ! それよりも問題は君だよ、ベオウルフ君。ホームズには
「俺が一番理解している」
「ならいいのサ、必要のない言葉余計な言葉だっただけサ! なぁに、私だって君の様な天然の獣がそう簡単に敗北するとは思っていないしネ!」
言ってくれるな、タヌキも。とはいえ、昨日はモンジ相手に敗北寸前だったのも事実だった。地の利が取れなかっただなんて言い訳に過ぎないし、自分の力を過信していた部分もあるかもしれない。道具だとかなんだとか文句を言う前に、出来る事をなすべきか、と、考え、
「情婦に毒されたか」
「ま、英雄ってのは大体女か金か死への恐怖で破滅する生き物だからネ―――あんまり、入れ込み過ぎるなよ?」
「承知している」
「ならいいサ」
モリアーティーの疑いっぷりにやれやれ、と息を吐きながら茶と羊羹の最後の一切れを口の中へと放り込んで、席を立つ。ここに残る理由もなくなっていた。後は暗くなるまで景色の良い場所を確保して、必要な時まで見物に回っているだけで良い。正直、どれだけ敵が襲い掛かってくるもんか解っていないのでかなり楽しみにしているのも事実だ。
モリアーティーから受け取ったものをインベントリを開きながら確認して出て行けば、アスナがすぐ後ろから追いかけて来る。横に並んだところで、アスナが首を傾げる。
「結局、モリアーティー君って何者なんだろう? 見た目は子供だけど明らかに雰囲気はお父さんとかよりも鋭いというか……なんか、本職の軍人さんみたいな鋭さあるよね。ベオ君とは別方向だけど」
軍人、とは面白い表現をすると思った。なので人がいない路地裏を進みながらアスナに、言葉を継げる。
「アリシゼーション・プロジェクト
「……?」
「モリアーティーが一度だけ、ふざけながら自己紹介した時に言った言葉だ。あいつはホームズが究極的にモリアーティーに勝利出来たのはモリアーティーにはホームズにいたワトソンの様な存在がいなかったから。だから俺にあいつのワトソンとなり、手駒として悪事を成してくれ、と頼んできた。俺も悪い事をしたかったからな、こうやってお前を奪ったりする事の切っ掛けにもなった」
だけどそう、促進培養とは上手い表現だと今更ながら、モリアーティーの事を見て思う。まるで数百年間の成長を子供の間に圧縮して与えた。そんな感じのアンバランスさをモリアーティーからは感じる。とはいえ、あの男の事だ、必要な時が来るまでは殺されても絶対に喋らないだろうし、口を割らせようとするのも探るだけ無駄だ。
理解していればいいのは、
「お互いに利益があるから手を貸している。過去やら設定やら、そういうのはお互いにどうでもいいんだよ、究極的には」
「それはちょっと……詰まらなくない?」
「寂しい、じゃなくて詰まらないって表現する辺り性根の悪さが滲み出ているな、悪くない」
俺好みの情婦になって来た、と思いながらアスナを連れて大通りの方へと戻る。無駄に広い主街区は一日で到底歩きまわれるような広さをしていない為、昨日公園を回った程度で全てを見終わったわけではない。他の所にも同じようなフリーマーケットをやっている場所はあるし、それ以外にも劇場等の娯楽施設も存在するのだから、遊べる場所はまだまだある。
それでとりあえずは時間を潰しつつ、街の正面から襲い掛かってくるというモンスターの群れとの戦いを一望できる場所を探しに動く。
10層の日が傾き、夕日が世界を黄昏色に染め始める頃に段々とだがピリピリとした空気を纏ったプレイヤー達の姿が見え始める。また同時に完全武装したプレイヤー達が統率された動きで陣形を組み、街の前に集まる姿が見える。防衛陣地を街の支配者であるNPC達や、甲冑姿の侍達などと協力して組み上げており、迎撃態勢を街を覆う城壁の前に構築していた。かなりしっかりとした様なもので、迎撃態勢の本気さを感じさせる光景だった。
とりあえず、最初から出るつもりは欠片もなかった。最初のウェーブ、雑魚だけで崩壊するような前線、或いは特級戦力でどうにかなってしまう様な状況なら
段々と空が暗くなって行けば主街区を隠す様に闇が覆って行き、光が街を照らし始め、数百という膨大な数のプレイヤーとNPCが同時に防衛線を構築し、迎撃態勢を生み出していた。
それを城壁の上から眺めていた。
ぐるりと主街区を囲む城壁の上は歩けるようになっており、その上に乗って外の光景を見ることが出来る。ただ真正面は無駄に人が多く、人込みも酷くそのまま間引きを行ってしまいそうになるので、正面からそれなりに開け、戦場を端の方から俯瞰できる位置にまで移動していた。
服装は先日買ったばかりの白の着流し姿で、白い姫武将衣装の様なアスナとは色的にはある程度マッチングした格好だった。暗くなり、人の気配が街の正面、もしくは逃げる様に奥へと下がった事で周辺には全く人の姿はなく、遠目に豆の様に潰れた人が見えるだけだった。
暗くなって誰も見えないという状況の中、
―――城壁にアスナを押さえつけ、後ろから隙間に手を通して胸を揉んでいた。
無論、戦場を俯瞰したまま。
「その隙間、気に入ったの?」
「気に入った」
「そうなんだ……」
この袖のない部分から手を差し込んで胸を揉むの、嫌いじゃない。なんか自分の中の琴線というか、性癖にヒットする部分があったらしく、隙間から手を差し込んで胸を揉むのが結構癖になっていた。もう片手はアスナの体を抑え込む様に腰を抱きながら、体全体を後ろから覆いかぶさるように城壁に身を押し付けつつ戦場を見ている。
「死の香りで溢れてるな」
「死の香り? ……んっ」
背部部分の長いスカートを捲って逸物を露出させながらそれを秘部へと這わせ、戦場全体に満ちている濃密な死の香り、その気配を感じ取りながらアスナを犯す準備を進める。
「死の気配みたいなものだな。これから人が死に、或いは
つまりはだ、と言葉を口にしつつ、愛撫をする必要もなく濡れている膣の中へと逸物を進めて行く。アスナの中へとそれが沈んで行けば、彼女の口から喜びの声が漏れる。既に膣は此方の逸物の形を覚えたかのように収まり、包む。
「簡単に言えば少なくとも死人なしで今日を超える事はないな、って事だ。壊滅しない限りはどうでもいいから、人の死を肴にしばらくは楽しもう」
「はぁ……ぁあ、不謹慎なのに体が悦んじゃってる♡」
堕落するところまでこの女は堕落したな、と人が死ぬと聞いておきながら本気で喜んでいるアスナを感じながら思う。それを肴に犯す俺も大概だが、完全に体も心も喜んでいるこの女も、もはや引き返せない段階まで堕ちてきている。そろそろ、ユウキと会わせても問題のない頃だろう。いや、寧ろユウキに彼女の友人として近づけさせてから裏切らせた方が楽しくなるかもしれない。そう思いながら高める訳でもなく、見られるかもしれない、という状況で愉しむ様に胸を揉んで楽しむ。
まだまだ夜は始まったばかりだ、すぐに盛り上がるのも勿体ない。膣に収めたまま締め付けを楽しみつつ、隙間から差し込んだ胸を揉む。なぜかわからないが、こう、隙間に手を差し込んで胸を揉むのはフェチズムを刺激するというより、狭い隙間を満たすというのがなんか安心感があるというか―――妙な性癖を開拓してしまったのかもしれない。
それはともあれ、
「動き出したな」
「んっ……はぁ、どう、なる、と思うの……?」
そうだなぁ、と戦場を俯瞰しながら考える。
「割とモンスターの物量次第だが―――」
と、前置きをする。防衛線に集うプレイヤーは陣形を構築しながら統率者たちによって防衛線の準備を整え終わっており、武器や防具を構えながらモンスターたちの襲撃に備えていた。やがて、段々と強まる濃密な破滅と絶望の感触に、甘い香りを感じ始める。今夜は極上の悲鳴が聞こえそうだと思うと、逸物が更にいきり立つ。
「一騎当千の英雄級がいるか、否か……というところか」
「戦争っ、はっ、数じゃ、ないのっ?」
「まぁ、本来ならな」
だけどそれは近代化された現代での戦争の話だ。
「近代化された戦争では兵器を使った圧殺が一番強い。広範囲に爆撃すれば素手で弾丸を止められるような達人であろうと化学反応と物理の限界によって蒸発する。それを人間が超える事は決してできない。だから近代化された戦場において必要なのは突出した戦力ではなく、統一された意思と統率された軍隊なんだが―――」
まぁ、SAOの戦場環境は近代化からは程遠いよな、と呟く。
「SAOは中世ファンタジーベースだ。その上で身体能力は解りやすく数値という形で出力されるが、それとは別にシステム外スキル等の存在によって一騎当千する事が不可能ではない」
そう、不可能ではないのだ。
「MMOという環境はつぎ込んだだけのリソースを成果として還元するシステムが構築されている。だけどそれとは別にVRという環境は肉体に対する知識、技術、経験をダイレクトにフィードバックするシステムが存在する。現実では身体能力の都合上不可能な動きがあったとしても、数値化されたシステム上の身体能力であれば、現代で十全な鍛錬を行っているのであればそれを再現、或いは進化させる事もできる」
つまりは
それは良くもあり、そして同時に悪くもある。まぁ、個人的に身体能力の超人がVR世界では身体能力を発揮しきれないことが物凄く息苦しい部分とかはある。
例えば俺とか。リアルではもうちょっと自由に動けたはずなのだ。後タングステンワイヤー欲しい。あれがあるだけで戦術幅が非常に広がるのだ。狭い空間であれば足場として展開する事も出来るし。本当に万能な武器なのだがやっぱり、中世の世界観にはまるでマッチングしないので存在しない。
「あ、はぁ、はぁ♡ ……はぁ、けっきょくぅ、どうなのぉ?」
「あぁ、そうだったな……究極的な話、こういうレベルの戦いは士気が重要になってくるからな。だからこそ前線を盛り上げてくれる一人の勇士が重要になってくる。そういう背中姿を見て兵士とは鼓舞されるものだからな」
そう、だから言ってしまえば簡単だ。
「
犠牲者を抑えられるか否かはここにかかっていると思う。そう考えながら地平線の向こう側に、黒い群体を見た。敵の登場とその数に笑みを浮かべ、アスナを犯す腰を漸く動き出させた。
「さ、あっちが始まるみたいだし、此方も始めるか」
「うんっ♡」
10層を守ろうとするその他大勢の雑魚の姿を目視し、その奮闘とこれから巻き上がる死の連続を肴にアスナを犯し、盛り上がる。おそらくこんな最低な事が出来る人間も、このSAO広しといえども、俺一人ぐらいだろう。そう思うと余計楽しくなってくる物がある。
そう、ゲームなのだ。
楽しまなければ意味がない。
ゲームは遊んでこそ意味がある。
そう思い、アスナの口から喘ぎ声を零させながら視線はアスナではなく、戦場へと向ける。今はオナホの事よりもどういう風に動くか、反応するのか、それを見て楽しむ方が優先だからだ。
そうやって始まる戦いの先端―――一瞬で正面を埋め尽くすモンスターの数は50を超えていた。広がったプレイヤー達はファランクスを展開しながらそれを受け止め、そして槍による迎撃を選んだ完全なる防衛体勢で挑んでいる。そこから突出するような姿はなく、どこからかカリスマによって統率されているのを感じる。誰か、或いは何かが入れ知恵したか? と思いながら蛇型のモンスター、《Servant Of Orochi》、オロチの眷属と呼ばれる2メートルほどのサイズの蛇との戦いが始まった。
先陣を切るのはNPCではなくPC。様々な理由が考えられるが、やはり大義名分を大事にしているのだろう、と判断する。戦術は層のテーマに合わない西洋式のファランクス戦術、密集するというとてもシンプルな戦術だ。前衛に立つものが大盾を移動力を削って用意し、それでモンスターの突進を耐える。
そこで受け止めて相手の動きを止めてから盾の合間、隙間から槍が突き出される。無論、HP概念のあるSAOではそれで敵が死亡するのは稀だ。突き出される槍はソードスキルで固められ、威力も大きいがそれでは四割程度しか削れない。
ならどうするのか?
敷き詰めて、交代して、突き刺し、前進する。
盾を出す。抑える、ソードスキル、交代しつつソードスキル、殺したらまた一歩前へと大盾を突き出して前線を押し上げる。そうすることで押し込まれる、という状況に対応して前へと踏み出す。ソードスキルでHPが端数残って倒れていない場合は、このSAOにおける唯一の遠距離攻撃手段である《投擲》スキルでナイフや槍を投げ、ダメージを稼いで始末する。いわゆる
前進する。
「有能な奴が指揮を執ってるな……」
この戦術は確かに相手を効果的に処理出来ているが、それ以上に、
「
複雑に考えず、下された一つの役割に集中すればいい。盾を持っている奴は盾を使って防ぐ事だけを考えればいい。槍を突き出す者はそれだけを考えればいい。投擲する者はそれだけを考えればいい。究極的に個人個人の役割だけを考えて行動すればいいという組み合わせだ。他の誰かに気を配る必要はない。
ヒット&アウェイがベースのSAOの中に耐えて殴るという軍団戦用の戦術が組み込まれている。良くもここまで統率できるものだな、と感じなくもない。やはり優秀な統率者が紛れ込んでいる。今までチェックしてきた大規模攻略ギルドにそういう器の人間を見なかった気がするのだが―――やはり、どこかに隠れていたのだろうか? 或いはこのイベントに引きつられ表に出て来たか。
「チョビ髭の様なカリスマは出て来ただけで空気を変質させるからな……唐突にPoPしてきてもおかしくはない」
「あっ♡ んっ♡ なんでっ、今まで♡ 出てこなかったんだろっ♡」
「そりゃあ勿論、自分の存在感を示す為の戦場を探していたんだろう」
少なくとも俺ならどうするかなぁ、と思う。無論、活躍して売り込むという前提ではあるが。普通に活躍を重ねるよりも、絶望的失敗が見えている戦場で活躍したほうが経歴としては
「ま、気にはなるが後だ、後」
それよりも今は眼下の光景を肴に盛り上がる。
盾で動きを止めながら槍で殺し、一歩だけ前へと前進する。そのループを繰り返せば最初のウェーブ、最初の50匹の血祭りが終わり、僅かな休みを挟みつつ次のウェーブが迫ってくる。
軽く見える数は100に届く。
およそ前の2倍の数だった。
それに従い、NPCの一部が刀や太刀を抜刀する。ファランクスを飛び越えて、盾で受け止める動きを見せる中絶妙に攻撃と敵の合間を抜けながら訓練された動きで一刀で大蛇の首を落として行く。見事としか表現できない動きはやはり、鍛錬されたものであり―――どこか、リアルで目撃した事のある流派の動きが見える。もっと接近しない限りは細かい動きが解らないが、ちょくちょく目立つのには薩摩の方のやべー動きが見える。
やはり現実で達人と呼ばれる人々のモーションを読み込んで登録しているんだろうなぁ、とちょっとだけ、戦ってみたい欲望が沸き立つ。とはいえ、今はまだグリーンだし、すぐにこのグリーンマークを落とすつもりはない。少なくとも次のカルマ浄化を行えるクエストを見つけるまでは一時的に表舞台の方で活躍しよう、とは思っている。
モリアーティーもヴォイドの人員が増えて来た今、裏で動かす人間は俺以外にもいるだろうし。
そう思っている間にウェーブ2が処理された。今のところ、大きな被害は見えず、そしてNPCも全員無事の様に思える。騒めく気配の中、段々とだが死の匂いが濃密に世界を満たして行くのが感じられる。懐かしい気配と、どうにもならなそうな感じが少しずつ、少しずつ泥沼にはまって行く感触を覚えさせる。そしてそれと同時に、城壁の上から戦場の向こう側、その更に奥に一つの巨影を見た。
今はまだ掠れる様な影しか見えないが、大蛇が死ぬ度にその姿が段々と色を濃くし始めるのを感じる。巨大な影は九つの首を持ち、数百を超える軍団の後方で、眷属が死亡する度に少しずつ、少しずつリソースを満たされて行く。
そしてそれが形を少しずつ見せる度に、10層に満ちる死の気配が濃密になって行く。
それを見て、腰の動きを停止させた。
「……はぁ、はぁ……ベオ君……?」
「……」
アスナを犯す動きを止めながら逸物を膣から引き抜き、口元へと指を持って行き、甲高い指笛の音を響かせる。城壁から響く指笛の音に反応し、疾走するような足音が響いてくる。それに従い着崩れた服装を軽く正しつつ、城壁の端へと足をかけ、
一気に飛び降りた。
「アスナ、引っ込んでろ。戦果を稼ぐつもりがあるなら好きにしろ。だがなるべく前に出るな」
「ベオ君!?」
城壁から飛び降りた体を拾い上げる様に跳躍した馬が足元に飛び込んでくる。落ちながらその背に乗り、鞍に尻を落ちつけながら横腹を蹴り、鎧を纏った戦馬を着地させ、戦場へと向かって走らせ始める。
1層で購入し、そしてモリアーティーと交代で餌を与えたりして愛情をこめて育てた馬は交配に交配を重ね、3世代目で漸く鎧を纏い、走る事に耐えられるだけの筋力と体力を持った馬が生まれ、そして育った。漸くまともに戦闘で運用できるレベルの戦馬だった。その力強い足は大地を蹴るたびに音を響かせ、木製の障害物であれば突進で破壊できる程度には強さがある、今の相棒だった。アスナから此方に乗り換えつつ馬を走らせれば、メールがモリアーティーから届いてくる。片手で走らせつつ、もう片手でウィンドウを開き、確認する。
『やぁ、ベオウルフ。早速だけどグレンデルの時の様にいいところを見せてくれないかな? まぁ、君の事だから言わなくても大体察していると思うけど、アレはたぶん、完全顕現する前に潰さないと相当やばい類のボスだと思うからネ!』
「ノリノリじゃねーか」
とはいえ、即座にこんなメールを送ってくる辺り、モリアーティー側も焦っているのだろう。予測が正しければ、おそらくはギミック系ボスだろう。敵を殺せば殺すほど強化されるボス。出てくる雑魚敵の平均レベルが2~3上であることを考え、そこにボス補正を加えるなら最大で階層平均よりも5~8は上だろうと予想できる。
その上で万全に出現させられたら潰される。
防衛線を引いて守備したのでは供物を捧げるだけだろう。
その事態を発生する間に潰す。
「絶望を肴に一発ヤれなかったのは残念だが―――」
流石に、アレを放置して10層が潰れたのでは話にならない。
殺される前に殺す。それだけの話だ。
VR系のよくある防衛線ゲー。某宇宙の救世主のゲームも初期のころは何度も何度も失敗を繰り返しながら漸く突破したよなぁ、って想い出。役割分担キチっとやらないとあっさりと前線崩壊する懐かしさ。
なお環境インフレしてからは虐殺になる。
ワンマンアーミ―共の砂遊び始まるよー。