※この作品はR-18です。

Hollow Beast   作:てんぞー

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英雄の産声 Ⅴ

 戦術と技術の向上により、騎馬戦は駆逐された。だが当然ながらそれが最強を誇っていた時代は存在する。それはなぜか? 当然ながら馬には人間には存在しない幾つかの資質がある。そして育て上げられた馬は鎧を纏い、それその物がすさまじい質量と重量の暴力となって、速度と共に突撃してくる。つまり、それ自体が一つの凶器として完成されるのだ。それ故に対策が完成されるまでは突撃というのは非常に恐ろしく、そして有効な打撃手段であり、

 

 それはこのSAOという環境でも違わない。育て上げた馬はまだ完成という状態からは程遠い。だが鎧を纏ったその姿は強く、そして恐ろしい。インベントリから突撃槍を取り出して装備し、それを正面に構えながら姿勢を低く、手綱を片手で握りつつモンスターのウェーブに、斜め横から奥へと向かって突撃する様に全速力で突進する。既に100を超えて200のモンスターが地平を覆う第4ウェーブに突入している状況、モンスターたちは半狂乱状態にあった。発狂しながら前へと向かって前進し、転んだ仲間を()()()()ながら前へと進んでくる。

 

 その集団に紛れ込めば一瞬で襲われるであろう中へと自分の意思で、ランスチャージで突入する。騎馬の速力と重量がSTR補正によってランスチャージを支え、一気に衝撃をモンスターに衝突するのと共に与え、その姿を上へ、奥へ、横へと吹っ飛ばしながら道を開けた。ランスチャージは恐ろしい戦術だ。知性を持って対策し、止めない限りは非常に対策し辛い攻撃でもあり、一瞬で群体の中へと食い込んで行く事が出来る。そしてそのヘイトもまた、一瞬でダメージを生み出す此方へと一気に向けられ、通り過ぎた者は構わずとも、奥から湧いてくるモンスターの大蛇や亡霊甲冑が此方へと向かい始めてくる。

 

 故に、騎馬の背を蹴って跳躍する。

 

 モンスターが届かない高さにまで跳躍した所でランスを足でオーバーヘッド気味に蹴り飛ばし、モンスターの集団の中へと飛ばした。そのまま、落下しつつ、

 

「戻っていろ、お前には強い仔馬を産んでもらわないと困るからな」

 

 了承の嘶きを愛馬から聞きつつ、馬は広がった隙間を駆け抜けるように離脱する。その間に、体は僅かに滞空しながら、着地点を見極めず、モンスターたちが殺到してくる。その姿に笑みを浮かべながら、鎖をインベントリから取り出した。

 

「弁えろ」

 

 着地点に来た大蛇の頭を蹴り飛ばしながら踏み、着地を狩ろうとする武者の刀を受け流しながら蹴り上げる。そのまま反動で体を逆さまにしながら跳躍し、鎖を近くにいた別の武者の首に引っ掛けて、それを連鎖させるように別の武者と別の武者に引っ掛け、進もうとする大蛇の前に合間を引いた。突進する質量が一瞬で鎖に食い込み、筋力で勝負し、一瞬で勝利しながら空中に居る状態で纏めて武者の胴体と首を粉砕しながら発生する攻撃で滞空する。

 

 短い滞空時間から再びモンスターが群がってくる。だが攻撃密度、モンスター数、その数が圧倒的に多い。通常の戦闘ではまずありえない数、密度だ。普通であればこんな状況、放り込まれたら即死するのが世の常だろう。だが逆だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()。漸く、武器はともかく、技量の本領を発揮できる環境となった。笑みを浮かべながらもう一度、魂の宿っていないデータだけの存在に宣告する。

 

弁 え ろ

 

 攻撃を蹴って滞空する。滞空しながら跳びかかってくる存在、その攻撃を使って更に滞空しつつカウンターを決め、鎖を引っ掛ける。それで相手の動きを制限抑制し、そして壁にする様に勢いを受け流してズラせば、攻撃に対して自分以外の誰かの攻撃が命中する。そして同士討ちで足が止まれば、背後から来たモンスターがそれに衝突し、事故が発生する。

 

 それを空中で回避しながら受け流しとカウンターだけで前進と滞空を続ける。

 

 凄まじいまでの攻撃密度は全て滞空する為の()()()()()()()()()()。それが自分が見出した技だった。曲芸の様な動き、大道芸の様なパフォーマンス、だがその全ては自分の技を煌びやかに飾る為のパーツでしかない。その本質は殺すという事に超特化させた軽業、身体完全操作技能。

 

 完全に肉体を操作する事でどんな攻撃からも常に対応を可能にし、その全てを自分の動きを飾り、加速させるためのステップとして利用させる。大仰なアクションはその為の挑発でもある。根本的にまともに打ち合う為の動きではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()為の殺人術になる。

 

「はは、久方ぶりに全力で体を動かせるせいか、鈍ってるのが伝わってくるな」

 

 久方ぶりに感じる絶対的密度だった。早く、より正確に、そして確実に殺すという密度にまで達人が技を磨きあげれば、それはこれに匹敵、或いは勝るだけの殺人的密度になって襲い掛かってくる。それに対応するために鍛え上げられた直感、技術はこの程度の敵の攻撃を余裕で対処させる。

 

 攻撃密度によって上へと押し上げられる様に、地上から4メートルほどの高さへと跳躍した。逆さまになる様に滞空しながら、両手には鎖を巻き付けて、広げている。軽くそれを握りしめながらタングステンワイヤーであれば引っ掛けてこの程度の軍勢であれば自滅へと追い込むことも出来たのになぁ、とは思わなくもない事だった。まぁ、それは仕方がない、と眼下を駆け抜けてくる姿を見た。

 

 それはハルバードを片手で握り、振るう姿だった。踏み込む姿は半回転の円運動による加速を乗せながら加速させ、

 

「―――裂け、《無限槍》」

 

 ハルバードが振るわれ、その進行方向に色の付いた斬撃が見えた。直径二メートルに届く刃は10メートルほどの距離を正面に居るモンスターを食らいながら進んだ。成程、無限の槍とは良く言ったものだと落下しながら思った。確かに射程が10メートルも増えれば、それは無限に等しい距離だろう。ただでさえリーチが強烈な槍という武器に射程距離を延ばす技能を与えるとは狂気の沙汰でしかない。特に、

 

 それを十全に使える存在であれば。

 

「次に会う時は死合う時だと思っていたが―――早い再会になったな」

 

「モンジか」

 

「然り―――怪物を倒すのだろう? あの獲物を一人で独占するとは酷いものだ。手柄首を前に指を咥えて待てとは中々酷い事をする」

 

「それは済まない。では一番槍を任せて血路を開いてもらおうか」

 

「応、一番槍の誉れを貰えるのならば十分だ」

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべながらモンジが突貫した。《無限槍》と呼ばれる初めて耳にするスキルで突貫した。それはどうやらパッシブ系統のスキルらしく、発動すればそれ以降はモンジの意思に従い、その動きに追従する様に斬撃や刺突の射程が飛躍的に伸びる、というスキル。それだけ、たったそれだけ―――そう思われるかもしれない。

 

 だが、だからこそ恐ろしい。

 

 このスキルの知識、先入観無しで戦闘を行い、それを突然使われた時、そのまま理解する事もなく即死できるだろう。

 

 強い。そして滾る。これが終わったら死合いたい所である。

 

 そう思いながらモンジを先頭に直進する。危機的状況を前にその槍術は一切陰る事無く振るわれる。槍を片手で回転させながら、それが金属の塊であるのを忘れさせる様な軽快さで振るわれ、その度に腕が、足が、首が飛ぶ。射程の長い槍は相手を内側に踏み込ませる前に敵を引き裂き、道を作る。

 

 その表情には楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 

「数字だ仮想だなんだと馬鹿にしたが―――戦国を味わえるとはなんとも望外の幸運か。正直な話、退屈とばかり感じ始めていたがはは、良いぞ、一番槍の誉れと共に参るか、獣の!」

 

「饒舌だな。しかし、気持ちは解るとも。あぁ、これは楽しいな」

 

 蹂躙されるかもしれないという圧倒的物量の中、殺される可能性がある強大な敵。弁えろ、俺の方が強い。貴様なんぞに俺が殺されるものか。そういう自負を持って挑んでいるのは事実ではあるが、現代では絶対に見る事のない物量。鍛え上げられた技は現代では居場所がない。それを存分に振るうだけの()()があるのだ。

 

 殺すための武芸を磨く者としては、それを存分に振るえるというだけで楽しい。

 

 鎖で引っ掛け、引っ張る敵を正面へと転ばせるように投げて、相手の正面に転ばせながら踏みつけさせ、渋滞を起こす。その中に一瞬の隙も無くモンジが突貫し、《無限槍》を放つ。回転するハルバードが斬撃を線となって刻み、道を開け、その中へと飛び込んで行き、周囲に鎖を引っ掛けて転ばしながら引っ張って、投げる。

 

 ひたすらそのループを全速力で前へと飛び出し続けながら繰り返す。即興で構築した連携、粗は存在するが一定以上の武芸者であれば、相談などせずともある程度の空気と風と先読み技術で動きを合わせる程度の事は難しくはない。

 

 連携訓練をしたことがないから―――なんて、そんな言葉は雑魚の理論である。

 

 強者にそんな理屈は通らない。やる、できる。殺す、殺した。それだけの話になる。そしてそれが可能であるようにお互い、積み上げ続けて来た。背負っているもの、背景、その全てが違うだろうし理解する必要もない。唯一理解するのは武芸への理解だけである。

 

 強さ。その理解だけがあればいい。

 

「見えた」

 

 軍勢を殺しながら突貫して行く。殺す数は最小限に、自分の正面に来る、殺せる範囲、殺さないとならない範囲だけを殺して二人で直進する。そしてその向こう側に動き出す巨影を見る。殺され続ける供物に反応し、少しずつ質量を得る九つ首を大蛇はその体を這わせるように動き、此方の存在をその九つ首でしっかりと、睨んできた。敵意を感じる。そしてその敵意に笑みを浮かべる。

 

「我こそ―――」

 

 迷わず突貫した。

 

 周辺にはいまだに大量のモンスターが存在する―――だがそれに一切の我関せず、モンジは一直線に九つ首の大蛇へと突貫する。その頭上にはまだ完全にネームは表示されていなく、まだ完全ではないことを証明する。だがそれでも敏感にモンジに反応するそれは迎撃に巨体を揺らして尻尾を薙ぎ払う様に振るってくる。だがそれよりも槍が一瞬で斬撃を結んだ。

 

「―――一番槍……!」

 

「おぉ、凄ぇ楽しそう」

 

 切り結ぶ動きは直線的で、全力の突きを切り出しながらも、体を捻り、跳躍し、尻尾の払いを飛び越えながら延長された一撃を胴体へと叩き込み、ヒットスパークを溢れさせながらその姿にHPゲージを表示させる。一気に表示される大量のHPゲージを完全に無視しながら、今度は此方の番と、跳躍したモンジの背後へと向かって跳躍する。

 

 僅かに此方に差し出されたように残る槍の柄を蹴って更に跳躍し、鎖の端を僅かにモンジの近くに残す。

 

 跳躍した姿を狙う九頭の衝撃を、モンジがそれを掴んで空中で回避する事によって動きを作る。その反動を此方が利用し、空中で動きを変えながら大蛇の頭上を完全に奪った。

 

「俺が上で貴様が下だ、覚えておけ」

 

 言葉と共にインベントリから引きずり出した大剣、大斧、ハルバードを無造作に、しかし速度と回転を乗せて連続で投擲し、それを大蛇の顔面に叩きつけながら回転落下の踵落としを頭に叩きつけ、そのまま大地へとサンドイッチさせる。衝撃を土ぼこりが舞い上がる中で見えるHPゲージの変動は極小のもので、ほとんど変化がないのが見える。《無限槍》の一撃によるHPの変化も大きくはない、かなり低い部類だった。

 

「体力の大きいタイプか、参ったな」

 

「好きなだけ殺し続けられるのは魅力だが殺しきれないのは困るな」

 

 地面に叩きつけて着地した頭を抑え込めば、横からモンジが全力の斬撃を反対側へと抜ける様にと押した。直後襲い掛かってくる八連撃を鎖でモンジを引っ張り上げながら蹴り、空中で方向転換しつつ回避し、素早くモンジを空いた隙間へと投げ込みながら頭の一つに鎖を巻き付けて足場にする。勢いをつけてその方向を歪めて別の頭と衝突させ、その勢いでダメージを生み出しながら目に足を突き刺し、反動で体を飛ばしながら距離を開けて滞空する。

 

「……ふぅ、はぁぁあ―――!」

 

 迫って来た頭を蹴り飛ばして跳躍し、一番ダメージを与えている頭の上に着地しつつ、インベントリから引きずり出す斬馬刀を一回転させながら頭に突き刺し、それを全力で下へと向けて蹴り落とす。その衝撃に頭が下へと落ち、捨てる短刀を足場に体を下へと蹴り飛ばして加速、斬馬刀で頭を貫通しながらそのまま大地に串刺しにする様に頭を穿ち、

 

「首、貰い受ける」

 

 宣言通り、振るわれた槍が首を両断しつつモンジが抜けた。斬馬刀で切断された首を大地に縫い留めたまま、ポリゴンの飛沫を切断面からシャワーの様に降らしながら漸くゲージを1個破壊するのに成功し、八首の大蛇となって悲鳴を上げる。だがその間にも戦場に増える死によって大蛇の姿は力を得つつあった。九つあるHPゲージの内一つを破壊したまでだった。

 

「間に合うか、これ」

 

「これが現実の環境であれば首を四つは既に落としている自信があるのだが……数値で管理するのも一長一短だな」

 

「まぁ、その分現実では相手できないものが出来るんだ」

 

「それもそうだな」

 

 切り離された首は未だに生きているかのように斬馬刀から抜け出そうとするが、それを蹴って黙らせながら横へと飛び、残された首からの噛みつきを飛びのいて回避する。チ、と舌打ちしながら顕現し始める影と、そして後ろの戦況を見る。

 

 前線はまだ形を保っている。敵の数は増えており、戦闘は続行されている。だが敵の数が増えた事はつまり、殲滅スピードと数が上がっているという事でもあり、それがダイレクトに強化につながっている。あの防衛隊の一割でも此方へと向けてくれれば、此方の討伐は間に合いそうだが、

 

「このままだと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ」

 

「魂も宿ってない雑魚に壊滅まで追い込まれるのは腹立たしいが―――!」

 

 火力と手数が足りない。回避し、カウンターで頭を蹴り飛ばしながら断言する。おそらくはこのイベントそのものが罠だ。

 

 おそらく本サービスでの扱いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()イベントだ。その上で判断するのはこれは部隊を二つに分けて運用するしかない。一つは防衛部隊。そしてもう一つは特攻打撃部隊。犠牲を覚悟で敵が一番薄い状態である最初のウェーブで突撃させ、その上で即殺する。

 

 これを本格的に動き出させた時点で敗北する。

 

 いや、倒す事だけを考えれば()()()()()()()()()()()()()()()だろう。だがその間にこいつが動き出して前線を崩壊させれば10層そのものが滅ぶ。そしてそうなればこちらの敗北だ。

 

「参ったな……どうすりゃあいいものか」

 

「考える暇はなさそうだぞ獣の」

 

 大地の上に着地しながら見上げれば、八つの口が大きく開かれた。典型的なブレス前のモーションだった。八つの口という武器から放たれるブレスは食らっていなくても逃げ場のない超広範囲攻撃であるのが理解できる。個人的に、こういう逃げ場のない攻撃をするのが一番辛い。自分ひとりだけであれば頭の上に逃げればいいのだが、モンジを引き連れてとなると流石に厳しい。

 

 防御用の大剣、ディフェンダーを三本インベントリから引き抜いて壁の様に正面に突き刺した。その動きで察したモンジが槍を大地に突き刺し、それを蹴って大跳躍しながら防壁の裏へと飛び込んできた。

 

「忝い」

 

「言葉は乗り越えてからだ」

 

 大剣の背後で、震脚を大地に叩き込み、砕いて抉りながら土砂を巻き上げて大剣へと振りかけながら、浅い穴を生む。そこへと飛び込む様に身を隠した直後、八首のブレスが放たれた。炎、そして液体のブレスはディフェンダーに衝突しながら焼ける様な音を響かせ、それが武器破壊効果を保有した酸性の物であるのを理解させられた。これが炎だけであれば地面を掘って回避できたが、酸性はだめだ。()()()()()()()()()()からだ。

 

「チィ」

 

 本当に遺憾ながら―――もっとも取りたくない手段ではあるが、()()()使()()という手段が残されている。モリアーティーは動くのに無意識的に使っているとは言っていたが、こんなの身体操作の基本だと思っている自分に、そんな自覚はない。だけどこの心意システム、使えばおそらくあの大蛇を蹂躙するだけの性能を発揮できるだろう。だけどそれは、

 

チート行為だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()だ。

 

 遊ぶのに、弄ぶのに使うのは構わない。それは娯楽であるのだから。だけど戦いはだめだ。それは殺すという行為に対する冒涜であり、俺でも忌避する禁忌だ。心意を使わなければ死ぬという状況であれば、迷うことなく死ぬことを選ぶだろう。だが、この先の事を考え、こいつを始末しなければこの先の全てが潰れる事を考えたら、

 

 やむを得ない……かもしれない。

 

「仕方がない―――」

 

「―――諦めるにはまだ早い」

 

 心意を使って最低限の突破口を作るか、と思考した瞬間、聞いたことのない声が響いた。それと同時にディフェンダーが破壊され、炎と酸性のブレスが襲い掛かってくる。だがその前に飛び出したのは特大の大盾を構えた男の背中だった。男は()()()()()()()()()()をブレスへと叩きつけ、それを一瞬だけ遮断し、前へと叩き潰しながら前進した。そして()()()()()()()()()()()でブレスへと切り込み、大盾と剣のコンビネーションでブレスを切り抜いた。

 

「スイッチ」

 

 ブレスを振り抜いて途切れた瞬間、その背後から黒い影が飛び出した。

 

 一瞬で凄まじい加速を得た黒い影は黒い残像となって大蛇の首へと到達し、斬撃を刻んだ―――一合、二合、三合、残像すら残さない速度で刻んだ無数の斬撃は首筋を辿りながら胴体へと到達し、凄まじい刺突と共にダメージを刻み、大蛇に悲鳴を上げさせた。だがそれで動きを止める事無く大蛇は体を薙ぎ払う。

 

 入れ替わる様に大盾の騎士が前に出た。影―――少女が後ろへと反動で飛んでくるように入れ替わった騎士の男は衝撃を後ろへと軽く押し出されながら受け止め、そのまま大盾での全力のバッシュをヒットスパークと共に叩き込んだ。痺れる様な轟音と共に大蛇の姿が震え、一瞬だけ停止した。

 

 その瞬間に一気に距離を開けた。

 

 そして見た、援軍に到達した二人を。

 

「すまない、前線指揮を預けられる者を探すのに時間がかかって駆け付けるのに遅れてしまった」

 

「……」

 

 男はオールバックに髪を後ろで纏めた、灰髪の騎士だった。まるで狙ったようなタイミングで出現した男は僅かにHPを減らしながらも楽しそうな色を声に乗せ、そしてこの状況を楽しんでいるのを感じさせていた。

 

 それと共に出現した姿は―――二刀流の黒い少女だった。

 

 彼女は、登場し、足を止め、剣を片方此方へと向けながら睨む様に動きを停止させていた。その姿を見て、その娘の名を呟いた。

 

「ユウキ」

 

「煩い。ボクの名前を勝手に呼ぶな。なんでお前がこんなところにいるんだ!!」

 

 殺意を乗せた刃をユウキは此方へと向けていた。睨む様に、今にも殺しそうな程の憎しみを感じさせるように言葉を吐き出す。それをモンジは一瞥し、興味がないようにそのまま、大蛇の方へと向かって突貫した。まぁ、極まった武芸者に善悪なんて基準はほとんどない。関係のないところだろう。

 

 そもそも本当に強くなるのであれば人の一人や二人、当然の様に斬るものだし。

 

「こっちを見て、答えろ。なんで、お前が、ここにいるんだ」

 

「俺がボスを倒しに来た、と言ったら信じるか」

 

 その言葉にユウキはブレない剣先を突きつけながら断言した。

 

()()()よ」

 

 ユウキはそう答えながら剣を振り払って、大蛇へと視線を向けた。流石に、迷う事もなくそう断言されるのは予想外だった。脅すか煙に撒くかでユウキに共闘させようかと考えていたところなのに、流石にその反応は予想外で、一瞬だけだが呆然としてしまった。そんな此方へと、背中を向けてユウキは語り掛けてくる。

 

「お前……純粋悪で許せない、最低クズでどこまでも許せないけど……それでも、誰よりもSAOという世界に対して真摯、楽しんでいるという事は知ってるよ。本当に腹立つけど、お前前に言ってただろ、SAOは攻略されなきゃ困るって」

 

「あぁ、お前を犯しながら言ってたっけ……」

 

「今はその話をするなよ!! 畜生……」

 

 頬が僅かに赤くなっているのが見えるが、それも即座に消えながら、ユウキは前へと向かって進んで行く。前線ではモンジが踏み込み、槍捌きから放たれてくる連続噛みつきを受け流しながらそれ自体でダメージを叩き込んでおり、その合間を抜けた騎士の男がバッシュで大蛇の動きを一瞬だけスタンさせながら確実に攻撃を叩き込む間を生み出していた。その隙間に潜り込んだモンジが槍を振るい、そして男が再び動きを止める為に潜り込み、モンジの負担を削り落としながら動きをコントロールする。

 

 モンジの動きのそれが完全なる技巧から来る美しいとさえ表現できる型と経験の賜物であれば、騎士の動きのそれは合理の塊だった。超効率化された、最短で最良の結果を計算して導き出したような数理の防衛術。一番ダメージを減らし、行動妨害を成功させる最も可能性の高い動きを常に成功させるような、計算づくめの防衛術だった。一種の天賦とも表現できる防衛術だった。

 

「……今回、お前を見逃すのは今回だけだからな」

 

 踏み出し、二刀を構えながらユウキは踏み込む前に一瞬だけ動きを止め、呟きを零した。

 

「誰かの為に戦えるのなら……なんで普段からそうしないんだよ……」

 

 そう言って残像となって黒が飛び込んだ。その背中姿を見て、溜息を吐く。

 

「俺は思うままに振る舞っているから、それは難しいな、ユウキ。結局のところ俺が動く理由は()()()()()()にだけ尽きるからな―――」

 

 大蛇に飛び込み、戦う二人の姿と、それを完全に防衛する要塞の如く堅牢な男の姿を見て、しかし、まぁ、と声を零しながら指の骨に音を鳴らし、鉤爪を構える様に指を作った。

 

「偶にはこういう趣向(自分以外の為)も悪くはない」

 

 ゲームなのだから、こういうイベントやロール、役割も時には悪くはない。根本的に殺し、蹂躙し、奪う側の人間である為、逆にこういう経験は新鮮だ。だけど偶には悪くない。そう思いながら踏み出そうとしたところで、

 

You Have Acquired A New Skill

 

Get 《暗黒剣》

 

「……なんだこれ―――っと」

 

 跳躍し、回避しながら着地し、新しく表示されたメッセージウィンドウを確認する。そこには新しくスキルを習得した、というメッセージが書かれてあった。新しく取得したスキルの取得条件を確認するが、そこにはエラーの文字と共に取得条件が表示されていなかった。とはいえ、システム的に正式に習得しているようで、どうやら勘違いや間違いではないらしい。

 

「……どうしたものか」

 

「あの、格好つけたのなら早く混ざって欲しいんだけど! DPS足りないんだけど!」

 

「あ、そっち行ったぞ」

 

「うわぁぁ―――!?」

 

 楽しそうなユウキの悲鳴を聞きつつ、スキルを確認すれば《暗黒剣》には初期からスキルが二つ追加されていた。どちらもパッシブスキルの様で、《無限槍》に似たタイプらしく、特定の行動に対して効果が付随するスキルであった。成程、とそのスキルを確認して納得したところで、スキルスロットに《暗黒剣》を追加し、そしてウィンドウを全て消去する。

 

「待たせたな、肩を借りるぞ騎士」

 

「ヒースクリフだ」

 

「応、じゃあ借りるぞヒースクリフ」

 

 疾走し、バッシュを叩き込んで後ろへと衝撃でバウンスしたヒースクリフの肩に足をかけ、一気に跳躍した。それを仕留めようと大口を開けて迫ってくる首の一つに対して鎖を投げつけて、衝突した反動を利用して体をズラしつつ、滑り、流し、頭の上へと蹴りを叩き込む様に着地しながら、片手を持ち上げた。

 

 獣の爪を叩き込む様に、脳天に腕を突き刺した。

 

 それと共に溢れ出すヒットエフェクトとポリゴン―――その飛沫が体に触れた瞬間、ポリゴンエフェクトが変質した。

 

 服に触れたポリゴンエフェクトは変質する様に赤黒い色へと変質した。

 

 そう、返り血だ。それが赤黒く服装を染め上げる。それが一つ目の《暗黒剣》のスキルだった。相手から発生する霧散ポリゴンエフェクトを()()()()()()()()()()()()()()というスキル。そうやって取得された血液リソースは一定時間で消え去るが、ストックされている間は返り血として服装を、肌を、髪を、肉体の全てを返り血で真っ赤に染めて行く。

 

 そして()()()()()()()()()()H()P()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけのシンプルなスキル構成だった。身を削り、相手を削り、血に濡れながら敵をかみ殺すだけのスキル。

 

 ()()()()()スキルだった。

 

 ポリゴンが返り血となって浴びながら、歪んだ笑みを浮かべながら爪を、拳を頭に突き刺してそれを更に浴びる。

 

 白かった着物を赤く染め、肌を、顔を、髪も全てを元の色が解らなくなるほどに返り血を浴びて、HP最大値を30%削り、これ以上なく全身を血の色だけに染め上げながら夜空に咆哮する様に笑った。

 

 気づけば首の一つが頭から抉れて潰れ、地に落ちて行く。それを解放する様に蹴り跳びながら、赤くなった身を引きずり、体から溢れる鮮血をばら撒きながら跳躍した。

 

 新しいスキル(玩具)にご機嫌になりながら、夜を終わらせる為に、最精鋭四人で終わらせに行く。

 

 もう、負ける理由がそこにはなかった。




 きっと勇者カヤバーンはこう思っている。

 危機に駆けつけて恰好付けつつ、新しいユニークに覚醒する仲間をサポートする俺、クッソかっこいい……! と。そして彼らを守り切って討伐に貢献する我、超、恰好、良い……! とも。

 あのひと、根本が重度の廃ゲーマーあるけど、バランス調整の辺り酷く苦手そうだからそこだけ他人に任せた方がいいと思うの。それはそれとして、《暗黒剣》取得って事でタグ達成すなー。

 《二刀流》は剣を二刀装備する事で武器によるATK補正を二重に受けられる。《神聖剣》は専用武具が装備出来て盾にも攻撃判定を乗せられる。

 結構ユニスキって攻撃的なもんだよなー、って事で《無限槍》はリーチ延長による唯一無二の独壇場を得て、《暗黒剣》は体力と専用リソースによる絶大な火力補正って感じで。
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