勇気と策謀と堕落
ソードアート・オンラインの攻略開始から1年が経過した。
1年という時間がこの巨大なバーチャルの牢獄で経過された。
それは大きくSAOというゲームの形に影響するには十分すぎる時間でもあった。ともあれ、この1年間で多くのプレイヤーが死亡し、そして流れも変わって来た。この1年の攻略によって今、SAOというゲームは第50層までの攻略を完了していた。そう、1年で50層。10層までの月に10層ペースでの攻略が続いていれば今頃、脱出しているはずであったタイミングだった。
だがそうなっていない。無論、攻略ペースが激減したのに原因があった。予定の半分以下の攻略状況の起因は25層のボスが原因となる。25層のボスは双頭型の巨人であり、このボスを相手に攻略隊はほぼ壊滅するという事態を迎える事になってしまった。そうやって崩壊した戦線を《神聖剣》のヒースクリフが一人で支えるという伝説を打ち立てた攻略戦、そのボスは今までのどのボスをも遥かに超える強さと容赦のなさを持っていた。
そう、まるで攻略させる気の無いかのような、悪意を詰め込んだボスモンスターだった。25層を超えた26層のボスとの戦闘が発生し、それは25層の様な怪物さを見せる事はなかった。そう、25層だけだった、その化け物染みた強さは。逆に言えば4分の1を攻略した証明としての、ゲーム攻略を阻むための守護者でもあったのかもしれない。
そんな、地獄のような番人を突破したところで、前線が大きく崩壊し、ロストされた装備―――そして、命を補充する必要があった。当然ながら今まであった押せ押せムード、何とかなるという空気はその一戦で完全に消沈してしまった。当然だ。今までのボス攻略に明確な犠牲者は存在しなかったが、それがようやく表に出て来たのだ。
事前調査による情報の横流しは続いていた―――だけど、それでも犠牲者は出た。つまりは、攻略本を見ながら楽々攻略できる時代は終わりを告げられたのだ、25層で。そこから先は選別と選抜の時であることが示された。
つまり、生き残れる者だけが攻略に挑める。SAOで一つしか確認されていない特殊なスキル、ユニークスキルと呼ばれるスキル持ちを筆頭とし、それ以外にもリアルで軍人だった、或いはVR環境で才能を開花させた者、純粋に鍛錬を欠かさずに攻略に意欲的な者がまず最初に残った。だが軽い気持ちで参加していた者や、成果を得るために影に隠れている様な者は全滅した。
本格的に味方を鍛え、そして戦力となる者を作るという事が必要な時がきたのだ。25層まで解禁された事で多くのコンテンツが解放され、ほとんどのスキルも解放されたと言われている。様々なサービスやクエスト、強化手段も聞こえる様になり、SAOは自由度という意味では10層なんて比べ物にならないレベルで広がっていた。それはつまり、プレイヤーを鍛える為の場所や手段が増える事でもあった。
攻略ギルドも25層の事件で一部が崩壊し、解散もした。だが攻略する事を諦める程、まだ絶望的な状況ではなかった。まだ攻略できるという事はヒースクリフや他のユニーク持ちが証明してしまった。つまり英雄という誘蛾灯に群がる環境が出来上がってしまった。ほとんどのユニークはフリー活動ではあるが、ヒースクリフはギルドを設立、大規模であり、そして精強な攻略プレイヤーの育成に本格集中し始めた。
そういう事情もあり、攻略は滞った。本格的な攻略のための準備、という物が必要だったほか、今まで駆け抜けて放置していた階層のイベントやクエストを発掘する事で遊ぶという娯楽へと視線を向ける事も始まった。
一部の攻略プレイヤーはその日集めた銭を娼館で溶かすような毎日を送り、現実へと帰る事さえも忘れ始めていた。
そうやって、1年が経過した。短いようで、長い1年だった。少なくとも世界観に完全に違和感を抱くようなことがなく、呼吸する様にシステムを利用するレベルには人々が馴染んだ。果たして、SAOを本当の世界の様に全てを忘れて生活する人々が出てくるぐらいには、生活という幅が広がった。
その中にはAIの向上が原因か、NPCの人間らしさの獲得という所にも点があり、同様にモンスターたちももっとリアルな恐怖や憤怒を見せる様になったという事もあった。そう、まるで生きているかのように振る舞うNPCの存在達。
そんな1年が経過し―――まだ、SAOは第50層という中間点を迎えたばかりだった。
第50層主街区アルゲードは猥雑で、そして迷路のような形状をしている。大通りを避けて路地裏へと入って行けば、それこそ迷子になって出てこれないレベルで入り組んでいる。だが最新であり、そして最も発達し、SAO、或いはアインクラッドの半分というのを象徴するこの街はひたすら大きく、大量のNPCとプレイヤーで溢れている。近頃のアップデートにより、NPCはすさまじいまでの人間性を獲得しており、それこそ人間との違いが判らない程度にまでそれは進んでいた。おかげでカーソルを見なければプレイヤーかNPC、その判別がつかないなんて事もあった。
だけどそれが逆にプレイヤー達を異世界に迷い込んだ、という感覚を強める。
そんな自由度の高い最前線の街で、
―――牧場で馬の世話をしていた。
口に煙草を咥えた状態で、片手には馬の世話の為のブラシを手に、それで愛馬の世話をしていた。優しく首筋を撫でる様にその青毛に白皮を撫でて行く。愛情をこめて、傷つけない様に力加減を気を付けながら心を無にして撫でる。それを何度も何度も繰り返し、ブラッシングを続ける。気持ちよさそうな声を漏らす白馬は目を細めながらブラッシングに感じ入っているように見える―――やはり、この反応はNPCらしからぬ部分があるな、と思いつつ手入れを続ける。
「……馬、好きなのね?」
「あぁ、動物そのものが結構好きだ。ご老公の善意で昔、馬の世話をさせて貰っていたこともあってな。それにこいつらは武器とは違って替えが利かないからな。その分、やはり面倒を見ておきたいというのもある」
「へぇ、という事は動物とかの世話って慣れているんだ」
「鍛錬の一つでもあったからな。命を飼う事は命というものを知る事の勉強にもなる、と。まぁ、それとは別に馬の面倒を見て遠乗りするのが楽しかったというのもあったが。数少ない娯楽の一つだったよ」
そう言って語り掛けてくる相手はアスナ―――ではない。彼女は今、ユウキを堕とす為に10層の出来事の直後に別れている。なんだかんだで何度も顔を合わせているしアスナは裏切る気配を欠片も見せないが、結構な時間、別れている。そうなってくると別に抱く女が必要になってくる。元々アスナはそういう情婦としての役割が欲しくて殺さずに手元に置いていたのだから。ユウキを堕とす為の最終段階は練りに練ってある。
ほぼ1年に近い時間を取って、アスナへの信頼をユウキに刷り込む。その上で裏切らせ、正面から悦ぶ姿を見せつける。これでなら、と色々と練っている。SAOも残すところは半分。そろそろ機が熟してきたか? という所ではあるが、徹底してユウキを堕とすのなら、好意と信頼を徹底して心に刷り込まないとならない。その上でへし折って屈服させる。
その時は絶頂する程に楽しいだろう、と予測している。
その間、アスナと毎日会える訳ではないので、必然的に相手をさせる女がいなくなる。困った所で女を紹介してくれたのがモリアーティーだった。横で此方が馬のブラッシングをしている女は菫色の髪に菫色の防具を装着した、両手剣使いの女であった。才能と呼ぶものはなく、完全に計算され尽くされた合理の剣術の使い手で、どこまでも正確に、そして機械的な剣術を使う女だった。
そんな彼女を、モリアーティーが好きに使えばいいさ、と連れて来たのだ。
相変わらず謎の人脈だった。とはいえ、アスナよりも大きな胸に、良い声で鳴く彼女―――ストレアは悪くなかった。会話の仕方も上手で、どこからか教養の気配もする。唯一、
横へと視線を向け、ストレアの表情を捉え、ブラシを持ち上げる。
「やってみるか?」
「いいの?」
「男に相手して貰うよりは、こいつも女の方が気持ちがいいだろう」
「そう言われるとなんだかちょっと複雑よねー……」
そう言いながらもブラシを受け取ると横に回って、ブラッシングし始める。最初は少々不慣れな手つきだが、40回目のストロークを超える頃にはどこか、コツを掴んだような動きに変わってくる。リアルで同じことをやろうとする場合、慣れていない奴だと簡単に腕が疲れてしまうんだよなぁ、と昔の事を思い出しながら苦笑を零した。そしてそのまま、正面に回って白馬の顔を両側から抑え込む様に掴んで、視線を合わせた。
「どうだ、気になる雌は見つけたか? ……まだいないか。そうか……となるとお前の見合いをどうにかせんとな。いっその事、下の層にいるユニコーンかペガサスを娶ってみるか?」
そう告げると鼻息を顔面にかけられた。
「純愛じゃないと嫌だと抜かすかお前。お前の母親は凄かったぞ。お前を身籠る為に自分から襲い掛かったからな」
白馬が顔を反らして明後日の方向へと視線を向けて会話から逃げた。こら、逃げるな、と顔を掴んで此方へと視線を無理やり引きずり戻す。
「いいか、お前の母親も、そのまた親父も、そしてその親父も、俺を乗せて戦うために生まれて育ってきたんだ。お前に高い金を出して訓練を施したりしているのはその為だ。そうじゃなきゃ今すぐ馬刺しにする。というかしてる。お前の維持費馬鹿にならないんだよ。突然変異で2世代先ぐらいの成長しやがって……」
ドヤ顔の白馬の顔面にビンタを叩き込む。心なしか、泣きそうになっているが、気にしない。徹底して上下関係を叩き込んでおかないと、この手の天然の天才は付け上がる。特に動物はそこらへん非常に敏感だ。誰が上であるのかを示さなくてはならないのだ。この馬は8世代目だ。だが性能としては10世代目に突入している―――つまりあと10層近くはこいつを交配させずにそのまま運用できるレベルで完成されているのだ。
だからなんとなくだが、こいつが見合いを断る理由とかが解っている。
「お前に見合う相手……探すのは大変そうだな……」
「Brr……」
ドヤ顔にもう一発ビンタを叩き込んで黙らせる。そりゃあノンストップで走り続けられる体力、一気に5メートルほど高く跳躍できる程の脚力、そしてモンスターを踏み潰して殺せるだけの暴力を兼ね備えた本当に良い馬なのだ。ただやはり、能力の高さ故に驕っている部分が強い。そこだけをなんとかへし折れば良いのになぁ、と思いつつも可愛い今の愛馬なのだ。
正直、女よりも手間をかけている自覚がある。だが馬は投資した分の成果をきっちりと出してくれるので、無碍には出来ない。凄まじいまでの金食い虫だとは自覚していても、馬を飼うのは1層からずっと続けている事で、リアルでもやっていたことだけに投げ出したくはない。
悔しい、だけど飼っちゃう。
何より馬に乗って全力で草原を駆け抜けて行く感触は他の乗り物では味わえない躍動感というか、強い生きているという感じがあるのだ。鋼の乗り物にはない、生きている馬だからこそ感じられるそれが好きなのだ。
「うーん、ブラッシング一つ結構奥が深いわね……それはそれとしてベオウルフ?」
「ん?」
「いや、のんびりしてて大丈夫なの? 攻略とか」
「まぁ、まだ50層に到達してから3日だしな。問題はあるまいよ」
第50層。その脅威度が第25層の時の地獄とそう変わらないのであれば―――おそらくではあるが、必要以上に準備した上で挑まないとならないだろう。そしてそれを予期し、ユニーク持ちは全員招集がかかるだろう、と予測している。それに通常の攻略ペースであっても、今は1層攻略するのに最低で1週間をかけている。
流石に3日ではどうにもならない。
「ま、慎重に行動をして―――今回、攻略にかかる時間は2週間ぐらいだろうな」
「結構かかる感じね?」
「25層での壊滅が忘れられないものさ。人間とは基本的に悪い事ばかりを強く記憶してしまう生き物だ。だからたとえそれが半年以上前の出来事であろうとも、連中は忘れられないのさ、死への恐怖が」
全く、馬鹿々々しい。
「死んだ奴の顔や声なんてもう思い出せないくせに、これ以上犠牲者を出さない為に、何てことを言えるんだぞ? 面白いだろう?」
「その話のどこに笑いを見出すのかちょっと解らないかなー」
「そうか?」
「うん。でもベオウルフはそれはそれでいいんじゃないかな。楽しそうだし」
「そうか」
「うん」
まぁ、ストレアがそう言うのならそうなのだろう。そんな事を考えながら目の前の牡馬の見合い相手をどうしたものか、と悩む。ユニコーンやペガサスではどうやら、格が見合わないらしい。となるとやはり、準伝説系統のモンスターを連れてこないと駄目だろうか? 麒麟とか捕まえられたらいいのだが、性別の厳選を考えるとなると更に難しい。となるとこいつの相手の為にもう一頭育てるべきだろうか?
流石にそれは破産するな、と思ったところで、
「―――は?」
思わず、そんな声が漏れ出した。聞きなれたアナウンスはフロアの攻略が終わり、次の階層への転移門が利用できる事を告げるワールドアナウンスだった。それはプレイヤーがボスを討伐し、次の街に到達したときに転移門をアクティベートした事の証であり、全てのプレイヤーが現在、51層へと迎える様になったことを示すアナウンスでもある。そのアナウンスに一瞬考え込む。
聞いた事のない名前だ、と。
まだバレていないユニーク持ちか? それとも心意システムを見つけ出した者か? どちらにしろ、結構な事だ。51層へと超大規模攻略パーティーなしで上がった、という事実はつまりそれだけの実力と何かが存在する、という事の証でもある。
「ベオウルフ、顔が悪そうに歪んでるわよ?」
「悪人面なのは生まれつきだ。それよりも51層へと向かうぞストレア」
愛馬の顔を軽く撫でてから背を向け、牧場の端の方に見える転移門を見た。一応の所、愛馬の飼育の為に今はグリーンプレイヤーへと一時的にだが戻っている。その為、転移門を利用する事は可能だ。今すぐ51層へと向かえば、おそらくは50層ボスを攻略した人物の姿を目撃できるかもしれない。
そんな期待を込めて、ストレアを引き連れて転移門へと向かって行く。
51層はアルゲードよりも縮小された層であり、主街区もアルゲードよりも小さく感じた。とはいえ、此方はアルゲードよりも遥かに整っており、白銀の城、という言葉が似合う姿をしていた。中世の城下町をベースとした姿をしているが、そこをもっとファンタジックに、幻想的に美しく整えた姿をしている。そう、美しい。言葉としてその姿を表現するのであれば、
―――
そう呼ぶのに相応しい外観をした主街区だった。美しい銀細工が転移門広場から見え、その奥に見えるおそらくはNPCの居城は光に包まれている。今まで何度か見た、療養かリゾートエリアに匹敵する優美さを兼ね備える階層だった。おそらく、この階層全体がこういう形になっているのだろう、と予測できる姿だった。
そんな転移門広場には既に大量のプレイヤーによる人込みが出来上がっていた。当然ながら、新しく階層が開いた場合、それは攻略にまた一歩近づいたという事実を確認できる為、階層開きという一種のお祭り状態になる。それは希望を見るのと同時に、それを成し遂げた戦士を慰撫する為の物でもあるが、今回はその事情が少々異なる。祭りの空気ではなく、混乱と困惑の色が見えていた。
当然ながら3日での攻略なんて最初期にあっただけだ。今の迷宮区はかつてのそれよりも遥かに広く、そして深い。プレイヤーは強くなっているが、NPCもAI更新によって、パターンハメする、という概念が通じなくなってきた。その為、攻略には今までよりも時間がかかっている。その結果、全体的なプレイヤーの戦術等の向上が発生してはいるのだが、それでもこのスピードでの攻略は俺やモンジの様な単騎特攻で全てをご破算に出来る怪物でもない限りは不可能であり、益がないからそんな事はしない。
だが今、この状況が達成されたことを証明していた。
そして転移門広場の奥、良く見える位置には一人の男を筆頭とした集団が見えた。筆頭の男は金髪をした、美形だった。全身を白銀の鎧に包み、まるでこの世界の王かの様に君臨している、そんな気配の男だった。その姿を見て、即座にインベントリからローブを取り出し、それで全身を隠す様に纏った。心意を使って気配を消して、完全なる影となりながらストレアの背後へと回った。
「あれ、ベオウルフ?」
「そのままにしてろ」
ストレアの影に潜みつつ、その耳に言葉を囁き、うひぃ、なんて声を漏らす姿にやや呆れつつ盾にして隠れる。そしてそのまま、影から筆頭の男を眺めつつ、その所感を口にする。
「あれは……
「……ダメ?」
「魂が腐ってる。目が欲望しか映していない。心が小さい。野望に飲み込まれている。どうしようもない小物だが……あれは災禍を引き起こす類の小物だ」
「うーん……?」
「アメリカでかつて起きた戦争は睨み合いの末、たった一発の銃弾が放たれたことによって始まった。あの男の口が引き金で、言葉が銃弾という所か……目が気に食わない。断言しても良い。あれは絶対にやらかすぞ」
ストレアにそう断言すると、ストレアがうーん、と首を傾げる。まぁ、普通の人間には解らない話か、と呟く。これは経験則から来る直感の様なものだ。同時にどこか、相性の悪さも感じる。自分の中にある、言い知れぬ感覚を確かめる為にも黙ってストレアの影を借りて隠れている。やがて、背後からも転移門を抜けて出て来たプレイヤーによる、数百を超えるプレイヤーが集まり始める中、
漸く、男が口を開いた。
「―――やぁ、お待たせしましたね、皆さん」
友達へと語り掛ける様な気安さで男は話しかけた。しかしその目からはどこか、見下すようなものを感じる。そんな視線で男は見下しつつ、言葉を続けた。
「僕の名前はアルベリヒ―――えぇ、今回50層ボスを討伐したパーティー、そしてギルドのリーダーです」
言葉一つ一つにイラっと来る。何かが、何かが気に食わないのが事実なのだ。今すぐにでもぶち殺したい、という欲求に駆られる。理性で獣性を抑え込みつつ、冷静に、気配を乱さずに眺め続ける。たった5人だけのパーティー、それでボスを討伐したという存在を。
「もしかして私の事を疑っているのでしょうが……えぇ、こうやってここにいる。その事がなによりもの証拠になっていると思います―――あんな雑魚、迷う必要も戸惑う必要もない。僕らで一ひねりでしたとも!」
「なんか殴りたくなる喋り方よね、アレ」
「同感だな」
ストレアの言葉に頷きつつ、白銀の男アルベリヒは―――口を開いた。そして言った、おそらくはこのSAOにおいて、最も口にしてはならない言葉を。
「―――えぇ、だから安心してください! 貴方達はもう怯えなくてもいい!
アルベリヒのその言葉に一瞬で転移門広場にプレイヤー達の声が沸き上がった。更なる混乱と困惑、喜びと怒り、様々な感情が入り混じった複雑な感情が一瞬でアインクラッドを満たす。だがそれすら自分へのエールとして受け取っているのか、アルベリヒは楽しそうな表情を浮かべ、嬉しそうな声で笑っていた。あぁ、駄目だ、こいつ。現実が見えてねぇと認識する。同時にやはり、目が気に入らない。
「そして! その為にも是非とも迎え入れたい人がいる!」
「え、この状況でそんな指定されるのってどんな罰ゲーム」
「くくっ」
ストレアの発言に思わず笑い声を零し、殺意を霧散させる。今の発言で少しだけ頭が冷えた。しかし致命的に情勢も空気も読めない馬鹿だった―――なんらかのシステムの抜け穴か、或いは心意システムでも使えるのだろうか? そんな疑問を抱いていると、アルベリヒは芝居がかった口調で、さらなる爆弾を投下した。
「そう、アスナ―――君だ」
そう言ってアルベリヒが人込みの中、前列の方にユウキと共に居たアスナを示した瞬間、無言で殺すために心意を纏い、気配を消し去ったまま殺す為に動き出そうとした。だがその動きを留める様に肩の上に手が置かれ、横へと視線を向ければ影も気配も感じさせぬ、黒いピッチリスーツにマフラーを装着したくノ一が居た。これだけの人込みの中であるのに、その異様な恰好を気に留める者はいない―――或いは、そこに彼女がいるのだという事実にさえ気付いていない。
「《血濡れ》殿、教授より決して手を出すな、との通達に御座る」
くノ一がしっかりと肩を掴む為、動きが停止する。それを振り払うかどうかを考えるが、ストレアが心配そうに此方を見てくるので、息を吐き出し、心を落ち着ける。あの屑を殺す事と、ユウキへと仕掛けている罠の進行状況を考え、ここで飛び出してあの男を殺せば、露骨に自分とアスナの関係をユウキにアピールしてしまう。
そうするとこの一年間の我慢が無に帰す。
「……モリアーティーに言っておけ、貸し一つとな」
「了解で御座る。それでは拙者は」
言葉を残して気配も姿も残像も残さずに消えた。完全に心意を使いこなしている姿にアレを振り切って動くとなると面倒だな、と頭の中で計算を行い、言葉を吐く。
「大丈夫だ、大丈夫。まだ抑え込める。まだ、抑え込める。……殺してぇ」
「大丈夫? 膝枕する? 手を握っていよっか?」
大丈夫だ、とストレアに吐き捨てながらも、胸の内にこみあげてくる殺意と獣性にこの後、激しくこいつを犯してやろうと頭の中で決める。そして同時にストップをかけて来たモリアーティーにも詰め寄らなくてはならない。
よりにもよって、俺の所有物に手を出しやがって。
絶対にぶち殺してやる、と殺意を胸の中に渦巻かせながら転移門広場の方へと視線を向ければ、
―――アルベリヒの頬にアスナからビンタが飛んでいた。
「人を晒し者にして楽しい? 最低。もう二度と話しかけないで」
面白すぎるアルベリヒのラブコールの結果に、胸の中が少しだけすっとしながらも、これからこのSAOというゲームは更に混迷を極めるだろうな、というのが用意に予測できた。
まだまだ、このSAOという地獄は終わりそうにない。
新たなクズのエントリーだ!! 小物界の超新星! レベル200! チート装備! スーパーアカウント! 声が子安! 新たな獲物が物語に登場だ……!
そしてストレア登場。