※この作品はR-18です。

Hollow Beast   作:てんぞー

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勇気と策謀と堕落 Ⅲ

 迷うことなく二刀を出して構えるユウキに対して、溜息を吐きながら近くのジャンクを椅子代わりにして、溜息を吐いて片手で顔を抑える。それを見てユウキが数秒間、二刀を構えたまま黙って―――そして切っ先を下ろした。なんだかんだで、ユウキとの付き合いも1年になる。彼女としては不本意だろうが、知りたくもない事まで理解してしまっているのだろう、彼女も。俺も、めちゃくちゃに手を出している訳ではないのだ。そこらへん、ある程度理性でコントロールして殺したり、遊んだりしている。

 

 こういうのは俺の趣向じゃない。だから座って、はぁ、と足を組みながら溜息を吐いた。それを見ていたユウキが、

 

「……どうしたの」

 

「いや、ここに来る前に久しぶりに高い酒を飲んでてな? それで転移門を使って帰ろうとしたらこんなもんになるんだから、折角良い感じに酔いが回ってたのにおかげで完全に酔いが醒めちゃったし、それにお前と次会うのももうちょっと焦らしたかったのにこんな風になるし……厄日だ」

 

「焦らすって言うなよ。ボクはお前の顔が見れない方が嬉しいんだから、待ち望んでるような言い方は止めろよ」

 

 はぁ、とユウキの言葉とリアクションに溜息で答えつつ、しかし気分を入れ替えなくてはならないだろうと軽く頬を叩いた。何時までもうだうだ言っている訳にもいかない。仕方がないと呟きながら立ち上がり、そしてウィンドウを表示させる。そこから通信状態を確認するが―――やはり、どこにも通じない。

 

「まるで隔離されているみたい……転移結晶も通じないよ、ここ」

 

「やっぱりか。こっちも色々と確かめているがまるで反応がないな。やはり、どっかシステムの穴にでも落ちたか? データの廃棄場とか。ほら、俺もお前もユニークスキルとかいう他の誰もが持ってない玩具を持っている事だしな。或いはエラー処理で捨てられたのかもよ?」

 

「お前とずっと一緒だなんてゾっとしないから止めてよ」

 

 溜息を吐くユウキの姿にニヤリ、と笑みを浮かべながら、今いる場所を見る。ここはジャンクヤードの小さな広場で、瓦礫の山に囲まれている。その端のオブジェクトに座っているのが現状だ。周囲を見れば、瓦礫の間に道があり、そこを歩けば奥へと向かえそうな気はする。とはいえ、馬鹿正直にマップを守らずに瓦礫の上に登って移動するというのも十分にありだ。だが今はイレギュラーな状況だ。そこで派手に動いた場合、どういうデメリットが付与して回るのかが解らない―――ある程度、大人しくルートに従った方がいいだろう。

 

 参った、本当に情報がない。

 

「ユウキ」

 

「一時休戦でしょ? ボクに異論はないよ……それに加えて一生ボクに関わらないでいてくれれば嬉しいんだけどなぁ」

 

「それは諦めてくれ、君の瞳に恋しちまったんだ」

 

「もしかしてカサブランカ? さんざん人の体を貪るだけ貪った後でそんな言葉を投げ込まれても感じるものはないよ。それよりも、ここから出るまでは休戦するから、さっさと脱出しちゃおう……なんか、嫌な気配がするし」

 

 軽くあしらわれつつも、ユウキがパーティー申請を送ってくる。それを受けながら、この奇妙な状況を少しずつ、楽しみ始めていた。この、データの捨て場の様なジャンクヤードへと突入してしまった事は予想外ではあったが、だがそれと同時にユウキとパーティーを組めるという幸運に感謝していた。

 

 不明な状況ではあるが―――まあ、こういうイレギュラーはやはり、楽しいよなぁ、とは思える。やはりゲームなのだ、これぐらいのイレギュラーがあってくれた方が断然楽しめるに違いない。故にパーティー申請を受け取り、パーティーを結成する頃にはやる気を大分取り戻していた。そんな此方を見て、ユウキは剣を一本向けてくる。

 

「言っておくけど、ここを突破するまでの間、ボクに手を出さないでよ? 無駄だと思うけど」

 

「いや、流石にそこは俺も弁える。それ以上にこの状況が楽しいからな。未知のエリア、未知の現象。ゲーマーとしてはこれ以上なく楽しい状況だろう?」

 

「いや、まぁ、うん……そうなんだけどさぁ! あぁ、アスナが居なくてよかった! だけどなんか納得いかない!」

 

 げらげらと嗤いながらジャンクに挟まれた道を歩いて進んで行く。先ほどまで、街に居た頃は夜だったのに、ここは完全に昼間―――或いは黄昏時とでも表現すべき時間帯だった。オレンジ色の夕日がジャンクヤードの鋼鉄を照らし、輝かせるそんな光景だった。朽ちて行くデータ達はその光を浴びて、最後の輝きを見せている。どこか、寂しささえ感じるエリアでもあった。

 

 だが最初の広場を抜けて感じるのは空気にピリピリとした警戒と危機の感触。軽い気持ちは一瞬で霧散し、思考が即座に戦闘状態へと変質され、片手にナイフを握ったままの状態で、ユウキの前を歩く。ユウキも自然と文句を言う事はなく、二刀を常に出したままの状態、警戒したままの状態で後ろに付いて歩いてくる。

 

 どう動くか、何が出来るかを相談する必要はない。その事に関してはお互い、さんざんと体に刻んである。だからそんな事をしなくても、どう動けば効率的なのか、なんて良く解っている。故に俺が前で、ユウキが後ろという形になる。出の方はユウキが早い。だが動きを潰し、蹂躙するという意味では此方の技量が圧倒的にずば抜けている。

 

 その事実で判断するなら、やはり此方が前に出て動きを潰してから火力と手数がユニーク最高峰の二刀流で潰すのが最適だろう。

 

 故に前衛と後衛で別れる形で黄昏のジャンクヤードを進む。見えるのは積み上げられたジャンク、ジャンク、ジャンク。そこら辺に見た事のあるオブジェクト、見た事のないオブジェクトが大量に積み上げられている。その中には明らかに名刀や名剣に見える装備が転がっている、車の様な現代のオブジェクト含め。それを抜きたくなる衝動を堪えつつ、歩くユウキに声をかける。

 

「ここ、どう思う?」

 

「見た目だけなら……こう、楽屋裏? みたいな感じはあるかな」

 

 うん、でも、とユウキが呟いた。

 

「データの廃棄場ってのはちょっと納得できるかな。無造作にオブジェクトを配置しすぎだもん。投げ捨てて、それを退けて道を作った……って感じはある。明らかにプレイヤーが入る事を想定していない場所みたいな気はする」

 

「やはりか」

 

 道のつくりも非常に雑だ。ユウキの言葉の通り、瓦礫を退けて無理やり道を作った、という感じがする。その証拠に捨てられているオブジェクトはそのまま手を伸ばせば触れられそうな気がするし、そのまま取得できそうな感じもある。ただ、これが本当に廃棄されたオブジェクトで、捨てられているものであれば、取得した場合、何らかのエラーを発しそうなのが恐ろしい。

 

「やっぱりなんか気持ち悪いよここ。居ちゃいけないって感じが強い気がする」

 

「……ま、どちらにしろ出口を探さなければならないからな」

 

「うん、まぁ、そうなんだけど……はぁ、憂鬱だなぁー……」

 

 呟くユウキの姿に苦笑した所で、直感が危機を訴える。足を止めながら正面へと向ければ、道の曲がり角、ジャンクの影から出現する姿が見えた。頭上に見えるHPバーはまさしくそれがモンスターである事の証だった。

 

「なに……あれ……?」

 

 頭上に浮かぶ名前は《Mechanized Skeleton》、つまりは機械化骸骨という名称のモンスターだ。そしてそれはその名を現すような、奇怪な姿をしている。まずその姿が金属であり、機械だった。骨の一つ一つが機構の様なパイプやワイヤーで構築されており、肩甲骨からは腕が二本生えている。チェーンソーの様な先端を保有した槍を二本エクストラアームで、そして別の腕で取り回しやすいナイフを二本逆手に握っている。完全に機械化されている怪物はサイズ的には人間とほぼ同等だが、歩くたびに金属音と重量を響かせ、それが三体、奥から歩きながら此方に迫ってくる。

 

 その異様すぎる姿、とてもだがSAOという世界観に相応しくない姿に、ここが本当に不要データの捨て場であるのを確信する。こんなもの、世界観に合わないから実装する訳がないに決まっている。

 

「うわ、金属でしかも骸骨型だ。金属体は刃が通らないのが辛いのに極端に当てられる場所の少ない骸骨型ってどんなクソエネミーなんだよ!!」

 

「ぼやくなぼやくな……俺なんか始動用の血液を補充出来ないんだぞ」

 

「あっ」

 

 《暗黒剣》のスキルはHP上限を割合で減らし、現在HPをコストに、そして相手にダメージを与えて発生させた返り血をリソースとして確保する事で稼働する。その際、武器は流血させられるのであれば大体なんでもいいのだが―――一部のモンスターにはその流血が判定されないのだ。当然、それは血液を持たないモンスターの事だ。骸骨とか、金属体とか、後は幽霊系とか。

 

 そういう場合、普通にそのままぶち殺すのだが、

 

「……まぁいい、足を止めて纏めるから、ひたすらSS(ソードスキル)をぶち込め、なるべく範囲が広い奴な」

 

「言われなくても解ってるよ。それよりもそっちもちゃんと動きを止めてよ……アレ、絶対にまともなエネミーじゃないから」

 

「任せろ」

 

 言葉と共に大地を蹴って一気に跳躍しつつ、迫りつつある機械化骸骨へと向かって飛び込んで行く。それに反応した骸骨共の目が赤く光り、今までゆったりとしていた動きがまるでスイッチが入ったかのように機敏になり、四つ存在するアームを使って一気に跳びかかる様に襲い掛かってくる。チェーンランスで削る様に、逃げ場を封じ、それで踏み込みにはナイフで対応する、明らかに戦闘慣れしている者を殺す為の動き。

 

 それに鎖を投げた。

 

「甘い」

 

 チェーン部分に鎖を引っ掛けて絡めて動きを停止、その上に着地しながら次に飛んでくるランスを柄を蹴って跳ね上げようとして―――蹴り飛ばしきれず、軌道もほとんど変えられず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だが甘い」

 

 なら逆に動きを利用した鎖を引っ掛け、回避しながら三体から放たれる怒涛の連続攻撃を紙一重で回避しながら、鎖をその体に引っ掛けて行き、一気に引く。バランスを崩しながら倒れようとする骸骨たちが抵抗し、力が入る。だが鎖の結びつきがそれを逆に利用し、

 

 骸骨が自分の筋力で、自分の体を引っ張り、転ばす。

 

「ふっ―――」

 

 骸骨が倒れる瞬間に飛び出したユウキが相手のリーチ外からSSを放った。ヒットスパークを飛び散らせながら骸骨の上にダメージを示す、HPの減少が始まった。

 

「はぁっ!? 嘘でしょ!?」

 

 ユウキの一撃、勢いの乗った連続のSSは()()()()()()()()()()()()()()()。ソードスキルの反動で硬直するユウキの隣へと骸骨共の背後から跳躍して着地し、その姿を軽く掴んでもう一度跳躍、距離を軽く開けてユウキの硬直が解けた。振り返れば強引に鎖を抜けた機械化骸骨共が立ち上がりつつあった。その体力は削れたままで、回復してはいないが、

 

「これはちょっと骨が折れそうだな」

 

「骸骨なだけに?」

 

「そうか、それだけ余裕なら後は任せても―――」

 

「あ、ごめん、嘘です。超嘘です。ヤダよ、こんな戦っていて欠片も楽しくないエネミー、ボク一人で戦うのなんて嫌だよ!?」

 

 気持ちは解る。とはいえ、骸骨のクソエネミーっぷりはもはや言葉に出来ない悪意を感じる。熟練PCを狩る徹底した動き、ソードアートの概念を否定する金属ボディ、そもそも攻撃面積が少ない骸骨エネミー。

 

 クソ・オブ・クソ。その名にふさわしいクソエネミーだった。害悪でしかない。ここまでクソだと逆に殺意が沸き上がってくる。こんなの出現しなくて当然というレベルのクソっぷり。

 

 ……或いは、そんなクソエネミーを配置するだけの価値がある場所なのだろうか? ……どちらにしろ、長く考えている時間はない。既に鎖を抜けて骸骨は立ち上がっていた。インベントリから攻撃力ブースト用の秘薬を取り出したらそれを口の中へと放り込んで、ATKブーストを行いつつ、血液を使わずに発動できる《暗黒剣》のバトルスキルを発動させる。それで現段階で上げれるところまでATKを上昇させたところで、

 

「俺が止めて、転ばして、ハメる」

 

「で、ボクがそこをぶち込んで殺す、と。うん……気が遠くなりそう」

 

 だよなぁ、と呆れながら再び飛び込んで行く。

 

 

 

 

「ドロップ無し! クソエネミー認定だなこれは……」

 

「経験値が凄く多くてレベルも上がったけど、それでもアレはないよ。殺すのにどれだけ時間がかかったんだよもぅー」

 

 一戦を終えた所で完全にくたくたになっていた。インベントリの中に放り込んでおいた長期保存用の食料アイテムを取り出し、某メイトっぽいそれを齧りながら溜息を吐く。まさか三体纏めて殺すのに40分もかかるとは思いもしなかった。HPが減り出すと更に腕が増えるあの骸骨は、それを使って投擲攻撃を使い始めるという流石のクソっぷりを披露してくれた。おかげで転ばせても常に投擲攻撃が来るという地獄の様な状況で戦わされるハメになった。

 

 ほんと、戦っていて欠片も楽しくないので二度と出てこないでほしい。

 

 しかもドロップは皆無。

 

 だが―――()()()()()()()()()()()。倒した後でそれが確認できた、経験値という形で。おそらくはレベル的には圧倒的に上のランクだったのだろう。莫大に流入した経験値は一瞬でレベルアップをさせる事を可能とさせ、そしてレベルアップした上で更にレベルアップさせる事を可能とさせ、そのまま再びレベルアップを続けて何度か繰り返し、レベルアップエフェクトが一時的に繰り返され続けた。辟易としつつ携帯食料を口の中へと放り込んで飲み込み、

 

「ユウキ、お前の元々のレベルは?」

 

「68だったよ。今の戦闘だけで73まで上がったけど」

 

「俺は52だった。だけど今の戦闘で一気に60まで上がったな」

 

「うっわ、レベルの安全マージン取れてないじゃんお前!?」

 

 回避し続け、そして殺し続ければ自然と勝利できるのだから、重要なのはレベルじゃないのだ―――と言い訳しておく。が、問題はそんなもんじゃない。レベル70を超えてしまったユウキと、レベル60へと到達してしまった自分。経験値を貢献度で割って振っている為、完全に全て取得している訳ではないが、莫大すぎる経験値が一気に流入した。そのおかげでステータスの割り振りを行わなければならないのだが、

 

「……経験値から計算して80台か、レベルは?」

 

「まぁ、確かにそれだけレベルがあれば一気にレベルが上がるぐらい経験値入るだろうけどさ……でも流石に異常だよ、あんなの。普通こんなに経験値が入る存在を放置しないよ。バランスが壊れるんだから」

 

 いや、うん、この状況だと美味しいんだけどね、とユウキが言葉を付け加える。実際、かなり苦労させられたがこの時間でレベルが数個も上がるのは美味しいの一言に尽きる。だがレベルこそが絶対的な暴力であるレベル制MMOにおいて、雑魚がこのレベルでこの強さ、というのは正直笑いごとじゃない。

 

 想像以上にやばいところに踏み込んでしまったらしい。

 

 だがいや、って言葉を置いた。

 

「……アルベリヒか?」

 

「うん? なにが?」

 

 いや、ここの主がだ、と言葉をユウキへ返した。回復アイテムの残量等を確認しつつ、言葉を続けた。

 

「PoHが奴に仕掛けたとか抜かしててな、その結果ダメージが発生しないとかいう面白い事を言っていた。ここが本当にデータ廃棄場なのか……或いはデバッグルームの類か。もしこれが後者だとしたら……」

 

「……アルベリヒの絶対神話の裏が取れる、って話?」

 

 その言葉に頷く。

 

「ここはどっちにしろ、イレギュラーな領域だ。GMが知っているか否かで大きく変わるが、だとしてもあるべきではない物があるんだ。探せば転移門だけじゃなくて、コンソールの一つでも出て来るかもな」

 

 瓦礫の山を見つめる。そこには大量の意味の解らないオブジェクトが積み上げられている。これだけオブジェクトで溢れているのなら、転移門や操作用コンソールが一つぐらい残っていてもおかしくはない。

 

「ま、希望的観測ではあるけどな」

 

「でも入り口があるのなら出口はある筈だよね」

 

「と、祈っておこう」

 

 まだ空気にはピリピリとした、敵の気配があった。だがユウキと二人であれば無傷で殺せると、慢心しない限りであればと証明は出来た。なら後は同じことを繰り返すだけの作業だ。相手が圧倒的レベルが上の存在でも、一回殺せるのが証明できればそれでレベルアップし、同じ事を繰り返すだけの辛い作業になるだけだ。ややずるをしているような感触ではあるが、元からレベリング作業はさぼり気味だったのだから、将来の事を見据えて、攻略しながら経験値を取得するのは悪くなかった。

 

 黄昏のジャンクヤード。そこを、ユウキと二人で、パーティーを組んでゆっくりと歩いて進んで行く。モンスターを殺し、経験値を取得し、予想外のレベルアップを経験しながら、言葉を交わす。

 

「お前ってさ」

 

「あぁ」

 

「結構賢いしさ、多くのことが出来るのにさ」

 

「あぁ」

 

「……なんで、ボクの事を犯したりするの? 正直、他にもできる事いっぱいあると思うんだけど。その力があればもっと誰かの為になるとは思わないの? 自分だけじゃなくて他人も楽しくとかさ」

 

 どうだろうな、と終わりの見えないジャンクヤードを歩きながらユウキに答える。確かに自分は色々と学んだ。殺人技術とかはその最たるものだ。確かに色々と覚えたし、それで別の事も出来るだろうとは思う。だけど結局のところ、

 

「善い事をする理由がない」

 

「いや、理由とかいらないでしょ、それは」

 

「あるぞ。善い事も悪い事も、どちらも理由があるから行われる事だ」

 

 歩きながらユウキに語り掛ける。

 

「ハニー、お前が誰かを助けたとして、感じ悪そうにそいつが去っていったらどうする?」

 

「うーん……ありがとうぐらい言えばいいのになぁー……とは思わなくもないかも」

 

「だろう? それが理由だ。お前は無意識的に感謝されるその感情を報酬として、理由として善い事を求めたんだ。そして逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()という言葉がある。正当性があるから善として定義が出来る。だから報酬が出る、得られるという事はそれに対する正当性が証明され、そして善である事が定義される」

 

「……それは極論なんじゃないかな?」

 

「然り。無論、それは極論だ」

 

 だけど、考えてみよう。完全に無欲で、報酬を求めずに正義を行う存在を。そんなもの当然ながら()()()()()()に違いない。故に馬鹿も同じだった。あいつは人に褒められ、認められ、そしてそれが社会を正常化する一因になるとして善行を行いたいと言ったのだ。自分が善を成すのは当然の事であり、それが社会の正常化という形の報酬として支払われるのも当然であると。その為に何をしても殺せないような超人になり、国の将来を守るために戦うのであると。

 

 時代錯誤の馬鹿ではあったが、ある種、真理を常についていた。

 

「だから俺には善行を行う理由がない。()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。だから俺は悪行に手を出し、悪徳を好む。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。ただSAOのルールで言えば俺が得られるリターンなどは一般的に忌避されるもので、犯罪扱いされている、というだけの話だ。そう難しくはないだろう? 善い事だけじゃ満足できない。それだけの話だ」

 

 俺が女を求めるのは、善い事をして女を手に入れようとすれば面倒だからだ。女を一人手に入れる手間とリターンの収支が合わない。その割にレイプして調教すれば自分好みの女を育てながら手元に置くことが出来るし、何よりもストレスを感じない。だから俺は我慢する事もなく、悪行に手を出す。

 

 それが楽しいからだ。

 

「でもその気になればもっと大きな事が出来る力が君にはあるじゃないか」

 

「成し遂げてどうするんだ? 誰かを助けた所で俺が楽しいか? そうじゃないだろう。そもそも俺はこの無駄に育てた技能を自由に、法に縛られずに使う場所を求めていたんだ。そしてその結果、法に囚われないVRの世界を見つけ出した。俺はこれで割と満足してるんだよ、ハニー」

 

「こんなにも強くて、役立つんだから、ボクは君が誰かの為に役立つわけでもないけど、それでも誰かを不幸にさせる事は止めた方がいいと思うんだけど―――まぁ、今更こんな話をしたところで無駄だよね。散々ボクを組み敷いて犯してるんだし」

 

「それもそうだ」

 

 ユウキの言葉に笑いながらまた一体、骸骨を処理した、流入する莫大な経験値を黄昏の中で浴びつつ、改めて思う。ユウキという少女はまるで自分の正反対であるのだ、と。彼女は死に魅入られながらもむせ返るほどの命の匂いを感じさせる。精一杯を生き続ける。解放されている。そしてその中で楽しく、全てに受け入れられて生きている。

 

 俺の様な悪漢とは違う。役割を果たして育て上げた技も業も振るう場所を見つけられず、VRの箱庭で格下を弄んでいる日々。

 

 俺の人生のなんと薄っぺらな事か。

 

 やって来たことは人を殺す努力をするだけ―――必死に生きようとした、そんな匂いを感じさせるユウキと比べるなんておこがましいほどに俺の人生は薄っぺらだ。だからこそ、この娘を手に入れたいと思うのだ。

 

 堕落させて、穢して、此方側に堕として、そして手に入れたい。その輝きを独占したい。

 

 なんとも、歪んだ欲望だろうか。

 

 黄昏の中で、敵の残骸からまた、何もドロップを得られなかった。分かれ道が存在しない、一本道のジャンクヤードは本当に最低限マップとしての機能を果たしている様な形で、迷う様な要素を見せない、そんなエリアをユウキと共に、初めて肩を並べてマップ攻略を進めながら、羨んだ。

 

 彼女の眩しさを。

 

 だけど俺は獣だ。自分でそう定義した。無念無想は今は置いた。そして愛を囁く事なんて自分は出来ない―――出来なかった。自分に出来るのは奪い、喰らい、そして貪る事だった。だけどユウキを見て、改めて思う。

 

 ()()()()()()()()()のだ、と。

 

「きっと世間一般としてはお前が正しいんだろう」

 

「きっとじゃないよ、確実にだよ」

 

「まぁ、そうだろう。だけど俺はこれで問題がないと思っている」

 

「いや、間違ってるよ」

 

「戯け、問題がないのと、間違っているのとはまた別の話だ。間違っているのは事実だ。それが世間から見た道徳というものだからな。だけど間違っていないというのはこの行為に後悔がないという事、意味があるという事だ」

 

「どういう事だよそれ」

 

「自分で考えろ。俺は悪漢だからな、全部教えてやることはできないのさ」

 

 そう言うとユウキが足を止めてジト目を此方へと向けてくるので、笑みを浮かべながらニヒルな笑みを浮かべ、ユウキが視線を逸らす。夕日のせいか、その顔はやや赤く染まっているようにも思えた。或いはそれ以外の理由もあるのかもしれないが、それを追求するような場所でもなかった。

 

「ほんと、なんでお前はそうなんだよ……なんでもっと良い人じゃないんだよ……それだけの力と能力があるのに」

 

 ユウキの絞り出す声にそうだなぁ、と答える。やはりその答えは変わらない。

 

「善い事をする理由がなく。悪い事をする理由ならあった。それだけの差だろうな」

 

「……」

 

 言葉を告げると、ユウキは黙り込んだ。そのまま、無言を保ちながら敵を警戒し、歩き続ける。終わりのないジャンクばかりの光景に、時計を確かめるのは面倒になってお互いに何時間ここで過ごしているのかを確認するのは既に止めていた。ただ理解出来るのは理不尽なほどに強いモンスターが出現し、そしてそれを殺している間だけはまだ生きているのだ、という実感がある事だった。

 

 そうやって殺し、進み、殺し、進み、レベルアップを繰り返しながら進んで行けば、

 

 ジャンクヤードの奥が見えた。

 

 黄昏色から変動しないジャンクヤードに時間の概念はなかった。だがそこに到達した、という感触はあり、一層ジャンクヤードを包むプレッシャーが強くなった、という事は理解できた。

 

 ジャンクヤードの奥は、散らかったジャンクが放り出された大きな広場だった。崩れたタイル。かけたビーチ。どこからともなく生えては消える大樹。様々なグラフィックを並べて破棄したような光景の奥に、

 

 まるで設置されたかのような半球状の装置が奥に設置されていた。

 

 だがそれを目視し、広場へと踏み入った瞬間、凄まじいまでの殺意とプレッシャーが襲い掛かってくる。逃れる事の出来ない絶対的な死の予兆に、死期そのものを受け付けられたような、そんな感じさえも錯覚した。今までとは比較できないほど強烈で凶悪、そして悪辣な存在感を得る。

 

 それは不吉な足跡を響かせた。

 

 一歩一歩が絶望の鐘を鳴らし、生きるという意思を削いで行く。やがて、それは完全に希望を食らいつくし、その瞬間を無感情に、そして義務的に終わらせる。

 

 それは黒い布を被っていた。黒い腕をし、黒い足を持ち、布以外の全てが影で作られていた。見通せない闇から生み出されたような存在は片手に一本の剣を手にしていた。頭上には一本HPゲージを表示させるが、まるでそれが千里先にでも伸びている様な堅牢さを感じる。それは奥にあるコンソールを守る様に立ちはだかり、気配もなく、死の予兆だけを残して立っていた。

 

 《Devil Of Maxwell》―――それはマクスウェルの悪魔という名前をしていた。

 

「ねぇ、理由があればお前も善い事をするんだよね」

 

「そうだな。だからこそ俺は社会に溶け込んで生きてるんだしな」

 

「……」

 

 二刀流を抜いてユウキはじゃあさ、と槍と斧と大剣を抜き、それを片手で鷲掴みにした此方へと向けて、言葉を流してくる。

 

「……ボクがその理由にはなれない?」

 

「はっはっはっはっは! 面白い事を言う!」

 

 大剣を片手で掴んで肩に担ぎ、余った武器を投げる為に左手で鷲掴みにし、絶対的な死の化身へと向かい、視線を合わせた。

 

「やれるもんならやってみろ。……ま、これを切り抜けた後の話だがな……!」

 

 迷うことなく武器を弾丸代わりに投げ飛ばして射出し―――それを悪魔が両断する様に切り払った事で、黄昏のジャンクヤード、不滅の悪魔との戦いが始まる。




 無論、オリジナルのエリア。原作そのまま引っ張って来たんじゃキリトを物語から完全排除した意味はないしね。二次創作である以上、原作というガイドラインは常に存在するもんだけど、そこから外れる事を恐れていたんじゃ何もできないからねー。

 次回、クソエネミーのクソボス。
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