※この作品はR-18です。

Hollow Beast   作:てんぞー

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勇気と策謀と堕落 Ⅴ

 武芸に善悪はなし。

 

 ただ成すのみ。

 

 武芸とはただ殺す為の業。そこに区別を付ける等愚か極まる。即ち、振るう者によりそれは遍在する。鬼に逢うては鬼を切る。神に逢うては神を切る。そんなもの、剣術の本質であり、剣聖に至れば行えて当然の事である。それは出来る事であり、やるべきことではない。

 

 戯け、武の基本、根本とは殺す事にある。即ち死の芸術。人体破壊の芸術。それから目をそらしてはならん。故に多くを学び、実践し、そして習得しなくてはならん。一つを極めるという事は即ち、多くの可能性を積むという事でもある。故に知り、否定し、その上で研鑽する必要がある。一を知るにはまず万を知る必要がある。故に、

 

 悪になるには、悪を構成するものと、悪を構成しないものを理解する必要がある。故に強くなれ。武芸を教えよう、授けよう、望むがままに強くして進ぜよう愛しくも愚かしい小僧め。お前は生まれる時代を間違えた、あの馬鹿の様に。だからこそ二人揃って愛しい。

 

 あぁ、世が戦国であれば居場所もあっただろう。

 

 だが平和な世に居場所はない。だがそれでも求める愚かしさはあるのであれば―――良かろう。殺しの芸術、武芸、武術、剣術、殺人術。そう呼ばれる生き方を刻んで進ぜよう。

 

 喜べ。そこに一切の迷いも手段も選びはしない。存分に学び、喰らい、そして成長しろ。お前は希代の悪人になれるだろう。それは間違いない。お前は間違いなく類を見ない純粋悪になるだろう。

 

 だがそこに居場所はないであろう。そう思うとその選択を憐れに思う。故に後悔するな。絶対に後悔してはならん。お前は選んだのだ。己の選択肢を悔いるな。選んだのであれば走り続けろ、その選択のままに。焦がれ、そしてそのまま燃え尽きるという事を忘れるな。

 

 この時代に、悪を表現できる自由等ない。

 

 

 

 

 救援は来ない。

 

 7日が経過して、それをユウキと共に認めた。そのころには煙草は尽きていた。救援は来ない―――来なかった。誰も来ない。ただ二人きりだけで時が過ぎ去って行くだけだった。ここまでは良かった。インベントリの中に保存食があった。趣向品があった。何よりもユウキと話せる話題があった。どうやって過ごしたとか、ご老公にどうやって鍛えられた、とか。リアルでは病人だ、とか。殺し合う訳にもいかず、無視するには狭すぎて、自分がちゃんと思考できているという事を確認する為にも、言葉を口にして話していた。

 

 だけど7日目、携帯食料が切れる。

 

「……やばい、お腹すいた」

 

「……奇遇だな、ハニー。これはまさに相思相愛と言えるのではないか」

 

「くっそぉ、その軽口が今では心強いって思えるぐらいには今、凄い虚無ってるよボク」

 

「じゃあ、話を続けよう。所詮は餓死できないシステムなんだ。話の続きをしよう、ハニー。こうやって話して思い出している間は狂わずに会話できている証拠だからな。……何の話をしていたんだっけか?」

 

「えーと……あぁ、そうそう。サバイバルゲームにご老公とかいうお爺ちゃんが本気になった時の話」

 

「あぁ、アレか。KKK(白人至上主義)の馬鹿が紛れ込んでいてな、散々馬鹿にしたうえでレギュレーション違反の物を取り出してくるもんだからご老公が切れてだな、禁断の虎徹を抜いて切りかかったんだ」

 

「ボクでも解る凄い名前が飛び出て来たぞぉ」

 

「あの時のご老公は凄かった。ぶち殺してやるぜ、って中指を突きつけながら上半身半裸で山中を駆け抜け、潜伏している相手を紙一重で切り続けて、服を脱がして全裸に追い詰めてなぁ」

 

「そのご老公って人本当に人間なの……?」

 

「実は俺も疑ってる」

 

 話をすればユウキは笑い、俺も笑う。ご老公周りの話は結構ネタに事欠かない。そして笑顔は心を癒す。打算的なものもあるが、善だとか悪だとか、ロールだとか立場とか、そういうのを捨て去った状態でユウキと話すのは不覚ではあったが―――楽しかった。或いはそれはそういう諦めが既にあったからかもしれない。助からない、ゲームオーバー。そういう類の諦めが一種、悟りの心境に達しているのかもしれなかった。

 

 ただ、不思議と何かを考える、気負う必要なく喋れるのは楽しかった。本当の意味で立場を忘れて喋る。あのPoHの時の、結局は互いの妥協点を探り合う様な喋りあいではなく、お互いに時間を潰す為にひたすら、話を続けるだけの為の会話。そこに何故、何、なんてものはない。

 

 ただ、

 

「で、お姉ちゃんが―――」

 

「成程……同じような境遇の姉……」

 

「あ、今姉妹丼とか考えたなこいつ」

 

「正直、お前の様な女だったら抱いてみたい」

 

「お前……」

 

 呆れる様なユウキの声に笑い声を零しつつ、話が続く。そうやって話している間は空腹が紛れて行く。だけど、それでも限界はやってくる。喋るのも疲れる。だからどこかで休みが必要になってくる。だが景色の変わらない静けさはやがて、心を蝕んでくる。何も変化のない状況が少しずつ理性を侵食し始める。

 

 あれだけ喋っていたのだ。それなりの時間が経過したはずだ。

 

 そう思って時間を見ようとするユウキの手を止めた。

 

 当然だ。

 

 喋って2時間も経過していないのだから。それを知れば理性が削れる。そしてその為に何かをしようとすれば更に正気が削れる。ガンガンと正気が削れ、そしてやがて、発狂に至って廃人となる。それは、避けなくてはなかった。

 

 ……誰の為に?

 

「……ねぇ」

 

「……? あ、あぁ……少しぼぉっとしてた」

 

「しっかりしててよね。ボクの話し相手は今は君しかいないんだから」

 

「あぁ、そうだったな、ハニー」

 

 くつくつと笑い声を零せば、ユウキが此方へと視線を向け、呆れる様な目線を送るが、やがて笑い声を零す。ここ数日で笑いの沸点はかなり下がっていた。くだらない一言でも笑えていた。だけどそれも時間の問題だった。話題が尽きればやがて、無言になる時が来る。そうなったら―――この静寂を別のもので破壊する必要があるだろう。

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

 隣、肩が触れない距離に座っている。コンソールの前、出来る事は何もなく、しかしここから動く気力がある訳でもなく。ただ、ここで無為に時を過ごしている。

 

「なんでボクを犯そうと思ったの」

 

「お前の目と匂いに惚れたから」

 

「うわっ、変態チック……だけど、本気?」

 

「あぁ、本気だ。お前は生きている目をしていた。俺の様な腐っている目じゃない。話を聞けば解った。お前はどんな状況、どんな状態でも、死に抗って生きていたんだ。その姿が何よりも堪らなく美しく、そして尊い。それは俺にはたどり着けない境地だ。俺では絶対にダメだ。楽しければ途中で果てて本望。俺はそう考えてしまう」

 

 だからきっと、俺にはないそれを持つ少女を、俺は直感的に羨んだ。死に魅入られているのに、どこまでも生きるという意思だけでそれに抗っていた。そう、それこそがユウキの心意だったと思っている。その生きようとする意志そのものが彼女を生かす魔法だった。その心に惚れたのだ。

 

「だから穢したいと思った。堕落させたいと思った。体を穢して堕とせばそんなもの消えてなくなるって証明したかった。俺と同じ領域に堕とせばほら、手が届く」

 

「うわぁ……倒錯し過ぎじゃない?」

 

「だけどそれだけ美しく映ったんだよ、俺には」

 

 武芸の世界は殺し、殺されの世界。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の世界。そういう覚悟の世界だった。故に絶対に死んでやるものか、と意気込みだけで死神を追い返す存在は、初めてだった。だからこそより美しく映った。その愛情表現を、

 

「こういう形でしか見せられないのは許せ。俺も性根が腐ってるんだ」

 

「いや、許せって言われて許せる事じゃないよ。というかアスナが実は奴隷で命令に従ってボクの信用を得る為にこの1年間一緒だったとか割とドン引きだよ。やらせるお前にも、本当にやってるアスナにもドン引きだよ。絶対に頭おかしいよ」

 

「自覚しているとも!」

 

「誇る事じゃないから」

 

 会話が止まる。なんてことはない、それだけの話だった。クソみたいな内容だった。だけどそれがベオウルフという獣の全てだった。英雄の名を借りたハリボテでしかない。自覚していたからこそ、力を振るって打ち立てる必要があった。そして自由である事に囚われていた。思えばどこまでも憐れで、そして中身のない人生だった。

 

 あぁ、だけど、悪くはない。

 

 悪くはなかった。

 

 

 

 

 それから更に数日間、話し合いを続ける。話題が続く限り話す。だがそれも、いずれは尽きる。50年も生きたとしても、語る事の出来る内容は少なく、それこそ3日もあれば人の一生なんて語れるだろう。だがここにいるのはその半分と、そしてその半分以下しか生きていない者だ。無論、そこまで長く話せる話題がある訳ではない。だとしたら何か別の事が必要になる。正気を保つ為に。

 

 モンスターを狩るか? チート染みた経験値の取得は趣味ではなかった。そんな事してまで強くなりたいとは思わなかった。第一、本当の強さはそこにあるのではない。システムなんてものは心の強さの前には完全に屈服する事は、何よりも心意システムが証明してくれた。もはや語るに語れる事は口にして、そしてその上で出来る事は少なかった。

 

 残されたのはこの身一つ。

 

 ならば―――。

 

 と、日数を忘れた頃には、ユウキと座る場所はもっと近づいていた。手を重ねていた。或いは寂しかったのかもしれない。だがそうやって時を過ごす中、

 

「ねぇ」

 

「おう」

 

「ボクね」

 

「あぁ」

 

「まだ……死にたくないなぁ」

 

 生きる意志を感じさせるが、堪える様なそんな声に、我慢できずにユウキを押し倒していた。ユウキの姿を大地に押し倒し、そして上から覆いかぶさる様に、抵抗できるように両手を解放した状態で覆いかぶさっていた。顔を寄せ、視線をこの数日間で初めて、合わせた。

 

 そこに見えたのは、綺麗に澄み渡った瞳で、涙が浮かぶ瞳だった。押し倒された状態でユウキは静かに涙を流しながら、呟いた。

 

「ねぇ」

 

「あぁ」

 

「ボクね、お前の事が憎くて憎くてしょうがないんだ。だけど同時に凄く羨ましくて―――そしてどこまでも憐れだと思うんだ」

 

「あぁ」

 

 だからね、とユウキは言葉を続けた。

 

()()()

 

 一言、そう告げた。

 

「犯して。死の恐怖も、狂いへの誘惑も、全部忘れるぐらいに激しくボクを犯して―――静かになれば成程、何も喋らなければ喋らないほどそれで狂ってしまいそうなんだ……!」

 

 そしてユウキの唇を奪った。舌を入れればすぐさま応える様に舌が絡みつく様に返って来た。結局、ここに帰結するのだろうと思った。このどうしようもないまでの肉欲と蹂躙するという行いに。片手でユウキの胸を守る金属鎧を剥がして捨てて、抱き寄せる様に腰に手を回して引き寄せれば、ユウキの手が首に回り、しっかりと身を寄せる様に抱き着いて来た。そのまま、抱擁しながら口づけを交わした。

 

 あぁ、本当に、どうしようもなく……救いがない。自分も、ユウキも。

 

 犯す女、殺す敵、悪逆非道を成せる善良な人間が居なきゃただのハリボテである俺と、生きるという事に必死で死から逃れる為に誰よりも笑って楽しもうとする彼女。

 

 結局のところ、個人では完成できない不完全な形。男と女がそうであるように、俺には善が必要であり、悪を行う環境が必要だった。そしてユウキは何かをし、現実逃避する手段が必要だった。

 

 だがここにきて、この場所でそれは失われた。

 

 必然として、男と女で残され、何かから逃げ続けるには―――一つ、お互いを貪るしかない。

 

 持ち上げ、抱き寄せながらたっぷりと舌を絡めた口づけでお互いの存在を確かめ合い、減りに減った空腹を満たす様に唾液を交換する。たっぷり口づけを交わしてから顔を放せば、蕩けた表情のユウキが此方を見ていた。今まで無理やり犯していた時の様な否定の声はなく、息を荒げながら彼女の方から口を寄せてくる。再び口づけを交わしながら手元を剥き出しになったインナーに這わせ、胸に触れる。

 

「はぁ、はぁ……時間とか、死とか、リアルとか―――全部、全部忘れさせるぐらいにぐちゃぐちゃにして……!」

 

 息継ぎをしながらユウキが呟き、口づけを重ねてくる。本当に、何て救いがない生き物なんだろう、俺達は。そう思いながらアスナやストレアと比べればはるかに薄い胸に触れる。何度も何度も触れたことのあるそれは、幾度となく繰り返されてきた調教によって敏感にユウキの体を反応させ、触れただけでもその息を乱す。片手でユウキの腰を掴んで引き寄せながら、もう片手でその胸を撫でる様に揉んで行けば、すぐに呼吸が乱れ、そして肩の上に頭を乗せてくる。溺れる様に股を太腿に擦り付ける様に寄せて、体そのものを寄せて、体温を感じさせる。

 

 その姿を淫乱だとは罵れなかった。

 

 快楽を求めて理性を消し飛ばそうとするユウキの姿は乱れに乱れていた。舌を絡めるだけで表情を蕩けさせ、胸に軽く触れるだけで絶頂し、秘部は濡れに濡れ、スカートを汚し始めていた。それはこの1年の間に何度も蹂躙して、体に刻み込んできた快楽の成果だったその上でユウキ本人が快楽を求めているのだから、当然の反応だった。だけどそれを笑う事も蔑むことも、罵る事も出来なかった。ただ求める様に身を寄せてくるユウキの体を支え、持ち上げ、そしてスカートの下に隠れている秘部に逸物を差し込んで―――犯す。

 

「っ―――

 

 深呼吸をしながら体の中に入り込んだ逸物を喜ぶ様にユウキは受け入れ、対面座位で動き始めた。コンソールを背に、抱き寄せる様に、足を腰に回して逃がさない様に、そうやってユウキが動いた。どこまでも淫靡で、艶やかな姿は仕込まれた娼婦の様にさえ思えるが、

 

―――必死だった。

 

 そう彼女はただ必死だった。この閉ざされた環境、状況、状態で、生きるという事を実感する為だけに必死だった。ここには追及する冒険も、知る事の出来る物語も残されておらず、残されたのはセックスによる刺激だけだった。

 

 怖かったのだろう、生きる事が。怖いのだろう、死ぬ事が。何時か絶対に追いついてくる破滅が。どれだけ頑張った所で逃げ切る事の出来ない絶望的な終わりが。ユウキの終末医療、それはこの仮想世界で一人の健全な少女として冒険し、活躍し、そして生きるという事にあるのだろう。

 

 だがそれが出来ない。

 

 逃げ場は一つしかない。

 

「はっ はっ はっ

 

 首に手を回し、胸板に押し付ける様に胸を押し付け、そしてユウキが腰を上下させる。きつい膣の感触が射精感を高める様に逸物に吸い付いてくる。かつてない快楽の心地よさに意識が朦朧としてくるが、それを抑え込んで、自分から犯してくるユウキを見た。

 

 その快楽に自分から溺れ切った姿は、一番最初に自分が生み出そうとした、堕とそうとした彼女の姿だった。それはある意味、俺がSAOというゲームで目指した一つのゴールだった。この少女を乱れに乱れさせて、そして堕とす。その瞳をどこまでも濁らせたかった。

 

 なら今はどうなのだろうか? 乱れている彼女はその瞳を濁らせているのだろうか?

 

「はぁ もっと、もっとボクに生きている実感を感じさせて……

 

 その瞳は―――濁っていなかった。ずっとそうだった。憎悪に濡れ、色欲に染まり、それでも堕落してはいなかった。当然の話だ。ユウキが目指したのは善悪でもなく、生きるという行いなのだ。その上で彼女は幸せになれる道を選んでいただけだった。そこに軽度の善悪の基準はあっても、振り切れたわけではなかった。

 

 変わっていない。何も、最初の時から。

 

 だけども、最初から今も、今までずっと、戦ってきたのだろう。死の恐怖から。その脅威から。動き、自分という存在を誰かに刻んで、覚えられ、そして死んだ後であっても誰かの心に残る―――健気で儚く、今にも消えそうな姿を、

 

 今、初めて本当に―――本当に、愛しく思えた。

 

 狂おしいほどの愛しさが胸の中に沸き上がって来た。年齢やなんであるか等という事ではなく、純粋にこの少女という存在に対して愛しさが沸き上がった。何が何でも欲しい、という気持ちが今までとは別の方向で心を支配した。欲しい、だが同時に愛しみを感じ、初めて感じる感覚に、少しだけ遅れて、それがなんであるのかを理解した。

 

 蹂躙し、犯し、壊そうとして―――それで漸く、この子が好きだったのだと気づいた。

 

「あっ

 

 気づけば肉棒に更に力が入る。ユウキの狭い膣を内側から押し広げる様に更に膨張し、ユウキの口から嬌声を引きずり出しながら両手で腰を掴み、下から突き上げる様に更に強く、犯した。彼女がそう求める様に強く、更に強く、生きているという感触を教える為に犯し、快楽を子宮から体に伝えて教える。

 

 この快楽が、感覚が、何よりも生きているという事を実感させるのであれば、それでいい。

 

ユウキを掴んで犯し、絶頂して背中を反らしながら震わせる体を無視して、そのまま更に犯す。絶頂している間に更に犯される体が痙攣する様に跳ね上がり、何度も何度も声が喉の底から漏れ出すのが聞こえる。だがそれでもユウキが腰に回した足は、解かれない。強く、更に強く求める様に足だけが絡まっていた。

 

故に犯す。膣の中に精液を流し込んでも抜かずにそのまま更に犯す。反り返るユウキの体を引き寄せて再び唇を奪い、舌を絡ませないながらお互いに求める様に、

 

 強く、強く求める様に犯した。

 

 

 

 

 数えるのが面倒なぐらい犯した。そもそも最初から数えてすらいなかった。経過する時間を考える様な事はしていない。そうやって過ぎ去った時間を考えるだけ無駄だからだ。どれだけのペースでSAOが攻略されるか、何て考えても、考えなくても、時間の概念を把握しづらいこの空間でそれを考える事は正気を削って行く。だから最初からそれを放棄し、お互いに求める様に、没頭する様にセックスし続けた。

 

 それ以外する事がなかったとも言える。

 

 或いはそれしかできなかったのかもしれない。

 

 だが結果として、二人で時間も立場も始まりさえも忘れてひたすらセックスし続けた。ユウキの穴という穴を犯し、その体を犯し続けた。もはやその身で知らぬところはないという具合に犯し、そして飽きる事もなく犯し続けた。偶には攻守を入れ替えて犯され、また犯して、そして混じり合い続けた。

 

 肉も、心も、思考も、魂さえもドロドロに溶かして混じり合う様に貪りあってお互いを肌を通して感じ合いながら、何も考えず、ただ体を求めた。

 

 それを誰かは感傷とも言うだろうし、誰かは無様とも呼ぶかもしれない。

 

 だがふとした時、完全に理性を取り戻した。犯し犯され、疲れ果てて一時の眠りにユウキが落ちていた。その横に座り、背をコンソールに預けていた―――犯し始める時と同じ姿勢だった。

 

 僅かな休息合間、視線を持ち上げて、広場の入り口の方へと向けた。

 

 そこにはすべてのデスゲームを始めた男と同じ、真紅のローブに姿を隠した存在が見えた。おそらく、彼は本物だろう。本物の茅場晶彦だろう。そのアバターから感じられる魂がまず間違いなく、それが本物であると示している。前よりも強く、鋭敏に感じられる感性の中で、片目を男へと向けて、

 

「逢いに来たのなら煙草でも差し入れてくれないか、ヒースクリフ。何時かは思い出せないが尽きてな、口元が寂しいんだ」

 

 そう告げると驚くような様子を見せずに赤ローブが掌の上に煙草のパックを生み出し、それを此方へとライターと合わせて投げて来た。それを受け取りながら口に咥え、片手で眠っているユウキの頭を撫でながら煙草に火を付けた。

 

 あぁ―――やっぱり、不味い。吐き気のする味だ。だけどそれが逆に生きているという事を実感させる。自分という存在の認識をシャープにさせる。思考が、未だかつてなくクリアになっていた。その中で、入り口で足を止めている深紅のローブ姿を見た。横で寄り添うように疲れて眠っているユウキの髪を梳く様に撫でながら、男の言葉に耳を傾けた。

 

「正直なところ、私は驚いている」

 

「……」

 

「君は業と呼べるものに完全に飲まれていた。それに束縛されていたと言っても良い。だから君こそ《暗黒剣》の担い手に、悪道を走る誅すべき存在であるという事の証明であるのに相応しいと思っていた。だが違う。今の君はまるで違う」

 

「……」

 

「ここまで変わるものだとは思いもしなかった」

 

 純粋に驚く茅場晶彦の声に、どうでも良く、ユウキの髪を梳いた。指の間を抜けるその感触を確かめながら、声を作った。

 

「要件は」

 

「SAOのクリアを頼みに来た」

 

 茅場晶彦という、おそらくはこの世界の存続を最も望んでいる男から、最も予想外な言葉を耳にした。その言葉に興味を持ち、視線を改めて男へと向けた。それを受けて、茅場晶彦は口を開いた。

 

「須郷伸之―――いや、アルベリヒの方が君には馴染み深いか。彼はSAOのコピーサーバーから生み出されたALOというゲームを今運営し、それとSAOを直結させる事でサブGM程度の権限を保有した状態で接続している。数多くの特権が彼を守り、そして攻略を進めている。その一つは既に君が解除し、それが原因で彼の足は一時的に止まった」

 

「興味ねぇ」

 

 つまり自分の尻拭いをしろ、と言っているのか、この男は。話にならない。

 

「自分の不始末は自分でつけろ。ヒースクリフの顔があるだろ」

 

「あぁ、だが私では意味がない。必要なのだよ、生贄(えいゆう)が。そしてアルベリヒを殺してくれる存在が」

 

 迷いのない言葉が続く。

 

「彼には既に私の権限のほとんどを移譲した。今では彼がSAOの本当の支配者だろうね。それを彼は知らないだろうけど」

 

 不可思議な事を晶彦は口にした。そしてそれ以上語る事なく、本題に移った。

 

「さぁ、取引だ、ベオウルフ君。私の願いを叶えてくれ」

 

「受けなきゃ殺す、とかだったら断る。別に……ここでこのまま、朽ちる事に異論はない」

 

 そうだろう、と晶彦は答えながら頷いた。そして同時に、

 

()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 その言葉に改めて思考を刺激された。賭け、この男が? 何に対して? 誰に対して? 何故? その思考が一瞬で脳裏を駆け巡り、しかし一つの結論へと至る。こんな怪物と思考合戦で張り合える怪物は一人しか知らない。

 

「モリアーティーか」

 

「アスナ君でも良かった。或いはストレアでも良かった。先輩曰く、君の鎖となりえる存在であるなら()()()()()()()()()()()。だけど君は見事勇者を選んだ。そして勇者が君の中を満たした。私は君がそうなるとは思えなかった。だが先輩はそれを予見した。故に賭けは私の負けだ」

 

晶彦はそこで言葉を区切る。

 

「私の願いを叶えるんだ、英雄」

 

「その対価に紺野木綿季(ユウキ)を救おう」

 

「―――」

 

 その言葉に呼吸を失い、ユウキの髪を梳く手が停止した。数秒間、思考し、動かず、熟考した。そして慎重に言葉を選ぶ。

 

「可能なのか」

 

「無論。元々は私自身の為の手段だが、彼女が利用しているメディキュボイドであれば同じことは可能だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と約束しよう」

 

「だがそれと引き換えに貴様の望む英雄となってこの世界を滅ぼせと」

 

「そうだ。SAOは滅びる―――だがその先があるんだ」

 

 狂人。それが茅場晶彦という言葉を表現する全てだった。この男は狂気にその才能を支配されている。あぁ、だが、それが正しい形なのかもしれない、と思う。その狂気を俺は宿す事がなかった。そして宿せなかった。だからこそ虚ろな獣だったのだ。狂的な熱狂が存在しないまま暴れるだけの存在。だからこいつは俺よりももっと上等な怪物だったのだ。それを今、対面して完全に理解した。

 

「もし」

 

「……?」

 

「もし、そこに悪意という言葉を表現する存在があるとすれば、それは貴様とモリアーティーにこそ相応しかろう。直接姿を見せる分、俺等はまだまだ、ただの小物でしかないな」

 

 呟き、ユウキを起こさない様に起き上がりながらインベントリから白い服装のセットを再び身に纏わせた。これからこれを真っ赤に染め上げる。もう二度と色が抜け落ちないほどに赤く、血の色に染め上げる。その血が乾く前にボスを殺し、次のボスに挑み、そしてその果てにこの世界を破壊する。

 

「良いだろう。その果てに待つのが俺の破滅であろうと受け入れてやるからユウキを救え。その代わりに、お前の望むままに全て蹂躙し、壊そう。俺に()い事をさせて見ろ、神。俺をイカレる具合に本気にさせたんだ」

 

 立ち上がり、拳を作りながら覇気を全身に纏わせた。

 

 もう、二度とユウキと逢う事もあるまい。自分にそう告げ、ゲームの終わりを始める為に歩き出した。新たな雇用主の方へと向かって。

 

「見せてやろう、俺が一切合切の矜持や遊び、それを捨て去った事で見せる本気を」

 

 遊びもない。迷いもない。躊躇もない。その果てに滅びがあろうとも是非もなし。

 

 本当に何が一番尊いのか、何が大事なのか、それを知ってしまった。得てしまった。欲しいと願ってしまった。それを知れただけでも十分だった。もはやそこに一切の後悔はない。

 

 後は往くのみ。




 誰が勇気を出し、誰が策謀をし、誰が堕落したのか。次回から終章で。

 GMカヤバーンが汚いノッブにGM権限の大半を移譲させたのは同時に魔王ヒスクリバーンの設定諸々を投げつける為であり、この時点で100層のラスボスが魔王ヒスクリバーンから魔王汚いノッブに変更された訳で。

 という訳で次回から、欠片も改心していないけど、人生初めての善い事するよ。さぁ、自分の人生の崩壊へと向けて全力疾走だ!
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