虚ろの獣
80層主街区カーリアナに到達する。転移門広場に到着し、出てきたところで自分へと向かって飛び込んでくる姿があった。その姿を受け止め、抱きとめた。胸の中に飛び込んできた栗色の髪の少女はアスナだった。そういえばその姿を見るのは久しぶりだったな、と小さく笑みを零しながら頭を撫でる。
「ベオ君! 本当に本当に心配してたの……今までどこにいたの!?」
「なに、ちょっとした遠出だよ。トラップに引っかかって中々脱出できなくて―――な、ヒースクリフ」
言葉を同じ転移門から出てきた姿へと向ける。横には赤いサーコート姿の騎士、ヒースクリフの姿がある、無論、茅場晶彦ではなく、ヒースクリフという仮面を既に被りなおしている為、隙がない。そのヒースクリフもやれやれ、と困ったような様子を浮かべていた。
「まさか通信封印に結晶無効化空間があるとはね、私も些か焦ったものだ。まぁ、時間はかかったがこうやって二人で何とか脱出できたところだ、そこに免じて彼を許してくれないかな、アスナ君」
ヒースクリフの仲介にアスナは此方の胸に埋めていた顔を持ち上げ、そしてヒースクリフを一瞬だけ見てから、再び抱き着いて顔を首元に埋められる。匂いを嗅がれている気がするが、まぁ、そこは気にしない。俺の所有物のやる事だし、それぐらいは許容範囲だ。何より彼女を壊したのは俺なのだから。最後まで道具の面倒を見るのが良い持ち主というものだ。
視線を奥へと向ければ、ストレアの姿が見える。此方の視線に気づいて片手をあげて挨拶してくる。ハニカミながら笑みを浮かべ、向けてくる彼女の姿を見て、本質を見つめた―――それで、大体その正体を察せた。
今までよりも遥かに視界が広がった気分だった。見える者がまるで違う。感じられる事がまるで違う。片手でアスナの頭を軽く撫でつつ、
「では、
「あぁ、解ってる」
肩を軽く叩くとヒースクリフは転移門の中へと消えて行く。ヒースクリフ―――いや、茅場晶彦との取引は理解している。それを破れないというのも。今、ユウキは茅場晶彦の遺されたGM権限により、深い眠りにある。システム的に無理やり催眠状態を維持しているのだ。故にユウキは何も知らず、何もわからず、SAOが終わるその瞬間まで眠り続けている。だがそれでいいのだ、何も問題はない。それで何も、問題はないのだ。彼女は良い。
眠れる騎士となって、そのまま平和な終わりを迎えればいい。それまでに決着を決める。
アスナを抱きしめたまま、ストレアへと言葉を向ける。
「俺が失踪していた期間はどれぐらいだ」
「うーん、大体1か月ぐらいかなぁー。ついでに言えばアルベリヒの快進撃も一時的にストップして、急に姿を見せなくなったわね。欠員が出た訳でもないのに不思議がってるわね。その影響で通常の攻略が開始されたけどペースは超低下、2週間に1層って感じで、ここが最前線ね」
「成程」
無敵が消えてメッキが剥げたのか、或いは茅場晶彦の悪辣な一手を理解したのか―――どちらにしろ、邪魔者がいないのであれば問題はない。後は駆け抜けるだけだ。アスナをなだめる様に頭を撫で、髪の感触を楽しみつつも、視線を周囲へと向け、そして口を開いた。
「いるんだろう、姿を出せ」
言葉を向ければストレアの影の中からスタ、と残像と共にくノ一の姿が見えて来た。
「拙者、気配は完全に消していたと思うので御座るが」
「妙に頭がクリアでな、隠れていてもなんとなくだが解る。それよりも今から100層まで攻略しに行く。全財産を出すから手伝え。どうせモリアーティーにもなんか言われているだろう、お前」
対魔忍みたいな恰好しやがってこいつ、と言いながら告げると、対魔忍は関係ないで御座る、と言い返されつつも、頷きを返される。インベントリから全てのコルを記入した小切手を取り出し、それを渡す。
「5800万コルで御座るか。溜め込んでいるで御座るなぁー」
「大半がプレイヤーぶち殺して搾取した金の上、装備にも金をかけないからな。余ってしょうがねぇ。とはいえ、これからクリアするゲームには無用の長物だがな」
「報酬を貰う、という事に意味があるので御座るよ《血濡れ》殿。では拙者、これから体の関係以外は従う所存で」
「一言余計だ」
とはいえ、くノ一の方もくノ一の方でどこか楽しそうなのは否めない。これはもしかしてあるかもしれない? そんな事を考えながらアスナを引きはがし、頭を撫でる。その様子を受けたアスナが此方を見上げる。
「ベオ君、なんというか……大人になった?」
「俺は今まで大きな餓鬼かよ―――いや、まぁ、そんなもんだったか。まぁ、そこはもうどうでもいい。それよりもアスナ、お前は俺の帰りを待っている間に消耗品の類と俺の為の使い捨ての武器を焦らずにいいから集めておけ」
これから一切、休息を入れる事無くボスを殺し続ける。ボスを殺して走って進んで殺して進む。そこに一切の妥協も何も入れない。ただただ、獣の如く駆け抜けて殺戮するのみ。もはやそこには躊躇も迷いもなく、慢心も遊びも一切入れない。この心意というシステムも、使う事にはもはや否はない。英雄が欲しいのであれば、その願いに答えよう。
ただ、願いは絶対に叶えて貰うぞ、茅場晶彦。
それが―――俺という獣に芽生えた、どうしようもなく欲しいなにか、だからだ。
だからアスナを撫で、そして解放した所でストレアへと視線を向けて、
「ストレア、ナビゲートは出来るだろう? クソ虫がつかない様にアスナと一緒に居ながら俺に迷宮区の突破方法を送れ」
「はいはい、了解―――うん、前も格好良かったけど、今もかなりイケメンよ」
「そうか」
まぁ、どうでもいい。だがこれで準備は完了した。黄昏のジャンクヤードで雑魚を殺した事でレベルは94まで上がっている。ここが80層で安全マージンを考えればギリギリのライン、ボス攻略を考えれば明らかに不安になるレベルだが、問題はないと断定する。やると決めたら後は一直線だ。この胸の中にある熱量の全てが今、初めて、自分の中にある歯車をかみ合わせて動かしている。
「じゃあな……行くぞ、くノ一」
「了解で御座る。うーむ、これは《無限槍》殿や《剣豪》殿が羨みそうで御座るなぁ」
祭りに乗り切れない方が悪いのだ―――いや、あいつらならきっと、追いついてくるだろう。そんな予感があった。俺であってもこんな祭り、見逃すわけにはいかない。そう、これは一種の祭りだ。そう思いながらアスナとストレアに背を向け、転移門へと触れる。既に80層迷宮区への道は開かれている―――フィールドを駆け抜けて迷宮区へと向かう必要はないらしい。
故に転移門をアクティベートし、告げる。
「
「あ、これガチな奴で御座るな」
くノ一の呆れる様な、しかし同時に期待の混じった声に笑い声を零しながら光に包まれた―――そして始まる。
このアインクラッドでの疾走が。
絶対に滅ぼすという決意を持った蹂躙が。そう、これは善意ではない。善意であるわけがない。これは悪意の塊だ。仕様を無視し、持てる能力を駆使して、他人の楽しみや願いの全てを踏みにじってでも絶対に破壊し、踏み潰して進んで行く。そこに楽しいか否か、なんて問題は考えすらしない。自分の破滅がその先に見えているのは確実だった。自分でさえそれが見えている。この疾走は最終的に自分を破滅させえるものでしかなかった。だけどそれでいい。それでいいのだ、と気づいてしまった。
自分が本当に欲しかったものだ、自分が本当に求めていた
迷宮区へと到達するのと同時にメールでストレアからフロア構造のデータが送られてくる。流石AIだと称賛しつつ、到着と同時に一気に床を蹴って飛び出した。踏み出すのと同時に一気に息を吸い込み、《暗黒剣》のスキルを心意と合わせて発動させる。
「オォォォ―――!!」
息と共に戦咆を、《ウォークライ》を発動させる、HPが消費されながら全身を巡る血液が活性化し、力が体に漲ってくる。だが遺跡の様な迷宮区の回廊内を戦咆が響、声が反響しながら場所を震わし、レーダーマップに表示される敵の姿が一気に活性化される。それに気にする事無く、バトルスキルを連続で発動させて行く。
「《ブラッド・ウェポン》、《ラストリゾート》、《ソウル・サルヴェイション、》、《マッドネス》、《フューリー》」
最大体力が2割まで低下する。そしてHPそのものが残り10%まで減る。その対価に全ての攻撃が防御を無視し、超高威力の破壊力を得て、攻撃の一撃一撃が無効化できないというシステム的能力を得る事に成功する。ただし、防御力もその過程で完全に放棄しているので、一撃でも攻撃を受ければそのまま即死する。保険に一回だけ食いしばりを許すスキルが存在するが、その必要もあるまい。
「最短を殺して進むぞくノ一」
「あい、了解で御座る。その心変わり、如何様なものか、確かめさせてもらうで御座る」
出来るものならやってみろ、と声に出す事もなく一気に迷宮区を疾走する。それに合わせ、当然の様に迎撃にモンスターが出現してくる。姿はスケルトンやスライムが多く、その奥には待ち構える様に腐ったドラゴンの姿も見える。アンデッド系がどうやらメインの迷宮区ではあるらしいが、
「有象無象が、邪魔だ」
踏み込んだ。
一番近くにいたスライムを踏み潰して殺しつつスケルトンの顔面を掴んで握りつぶすし、次のスライムを更に踏み潰しつつ、ポリゴンが霧散する前にスケルトンの武器を奪い、奥にいるドラゴンゾンビの首に投げて突き刺した。そのままスライムを踏み潰して殺しながら一気にドラゴンゾンビに接近し、顔面を掴んで床にたたきつけ、軽く持ち上がった巨体を押し蹴り飛ばし、後方から迫る姿を巻き込みながら吹き飛ばす。
一気に数を始末しながら、そのまま、迷宮区の奥へと向かって進んで殺戮する。
「おぉ、これは見事。動きから遊びが消え去っておりますなぁ……しかもすべて、急所を破壊する動きしかしてないで御座るな。男子三日合わずして刮目せよとは言いますが、これほど劇的な変貌というのも中々目撃出来るものではないで御座るなぁ」
「持ち上げても金は出せんぞ」
「まぁ、全財産出したばかりですからなぁ」
「
「お、これはボーナスで御座るかな? 拙者の好感度が上がったで御座る」
「良し、黙ってろ」
軽口を叩き合いながらも此方の動きに遅れる事無くくノ一はついてくる。そのまま出現してくるモンスターを一撃で必殺し続けながら進んで行く。《暗黒剣》のスキルは全てが重コストを支払う代わりに火力の強化へと直結するスキルとなっており、体力が減れば減るほど逆境強化によって火力がインフレを見せる構成になっている。その上に心意システムを利用した、特性等を無視した必殺の一撃ばかりを叩き込んでいる。
相手が人工的な魂を持った存在で、奇跡を巻き起こせるような存在だろうと、関係ない。
ただ殺し、存在を犯し、そして命を貪る。
フラクトライト、人工フラクトライトの話は晶彦から聞いた。晶彦とモリアーティーで計画されている事の話も聞いて、心意システムがどういうものかも聞いて、このSAOというゲームのシステムや裏側や、ラースという機関の計画している事や陰謀、その全てを教えて貰った。だが、その全てがどうでも良かった。いや、どうでも良くなった。
かつての俺であればそれをどう利用するかを考えただろう。だが、今の俺は違った。既に答えは得たのだ。そこに止まる理由も、考える余地もない。それと同時に、自分に出来る事も決まっている。
もう、それ以外を考えるのは。満たされてしまった以上、もはや停止する事は出来なかった。胸を掻き毟るほどに走るこの情熱に従って体を突き動かす事だけが自分を許せた。もはやこれ以外の道はない。
故にストレアから送られるデータを見て、迷うことなく最短ルート選んだ。
出現してくるモンスターは全て、アップデートによって人工フラクトライトが搭載されていたらしい。それはよりこの世界にリアリティを与える為の試みであり、実際、SAOというゲームは更に現実に近い情報密度を得る事に成功した。つまり、今ではモンスターたちも疑似的に生きている、と表現できる程度にはなっていた。
だが止まらない。止められない。踏み潰し、千切り殺し、握りつぶす。
《暗黒剣》と心意と、そして心技体の全てが入り混じった技でただ、一撃で殺して滅ぼして行く。それはただの作業であり、自分という存在を燃焼し続ける行いでしかなかった。
そしてほどなく、数時間が経過して到達する―――迷宮区の一番奥に。ボスの間へと。その扉を足を止める事無く蹴り開いて飛び込めば、ボスが姿を現す。出現する為の演出の時間すら煩わしく、形が見え始めて来た浮遊するその姿へと飛び込んだ。
「くノ一」
「承ったで御座る」
前へと飛び込む此方に合わせてくノ一が跳躍した。同時に出現した大鎌を握った存在へと向かって跳躍する。出現したボス、《The Guilty Scythe》は死神と呼べるような容貌をしたボスモンスターで、4メートルは存在するであろう身の丈程の大鎌を握りしめ、此方が飛び込んでくるのに合わせ振るう。
それを背後から飛翔した苦無が衝突し、ヒットスパークを生み出しながら止めた。
動きの始動、そこに苦無を投擲し、そして起点となる動きを潰す事でそれを崩壊させ、動きの時間延長を行う。それによって一動作、或いは二動作を挟むだけの余裕を生み出し、行動させる。それによって動きが停止した死神に一気に接近し、その顔面を掴んだ、そのまま、万力の様な力で握りしめながら肩の上を超えて、反対側へと抜けながら掴んだ顔面を引きずる様に反対側の壁へと叩きつけた。
轟音と共に激突音が響く。壁に叩きつけてHPが減っているが、それでもまだ死亡していない。動き出そうとする。その顔面、骸骨型のマスクを無理やり引きちぎった。悲鳴が聞こえるも、それを無視する。後方から飛んでくる苦無が動きの始動を潰し、その間にシステムを無視して死神を解体して行く。顔、首、腕は形がある為、それを千切って無力化し、残された姿を壁に叩きつける様に全力で殴る。
完全にルールも、システムも無視した戦いの果てに、ダメージすら発生できずにその姿は砕け散った。
発生するドロップ権利を全てくノ一に移譲しながら、次の階層へと向けて歩き出す。
「《血濡れ》殿、まだこのように叩き続けるで御座るか?」
「あぁ」
「拙者、ピンチとなった瞬間逃げるで御座るよ?」
「構わん。殺し尽くすまで止まらんからな。それよりも次の転移門をアクティベートして補給物資を受け取ったら次の迷宮区へと向かうぞ」
「……本当に変わったで御座るなぁ」
くノ一のその言葉を無視してさっさとボス部屋を抜け、そしてその先にある階段を抜けて地上へと出た。その先に広がっているのは広大な砂漠と、そして砂漠の中に存在する主街区、そしてその転移門広場である。
他の全てを無視して転移門広場へと接近し、転移門に蹴りを入れる。それと同時に転移門がアクティベートされる。
システムアナウンスとワールドメッセージによりアインクラッド全体に名声が響いた。そして少ししてから転移門から人が出てくるのが見える―――そのなかにはアスナとストレアの姿があり、また同時に新しく連れてこられている姿は、しばし放置していた相棒の姿だった。
「はい、これ! 携帯食料と回復薬、後他にも使えそうなものを用意しておいたよ」
「あと、彼もね。まだアクティベートされていない転移門の事を考えたら連れて行った方が便利でしょ?」
そう言ってアスナがトレードを申し込んでアイテムを補充し、ストレアが手綱を引いて、愛馬の
「済まなかったな、お前には似合う雌を与えてやりたかったが……どうやらお前が最終世代になりそうだ。最後まで俺と走り抜けてくれるか?」
頬を撫でながら確かめる言葉に、白野衣が嘶きを響かせながらその舌で此方の頬を舐め上げて来た。その様子にそうか、と小さく声を零し、アイテムを補充しながら鞍を乗せたその背に一気に跨った。くノ一も両手に手裏剣を装備している状態で後ろへと乗り、移動の準備を完了させた。
アクティベートされたばかりの転移門はどういう状況か、というのを確かめる為に大量のプレイヤーで溢れ始めていた。その視線は解放の主である此方を指さすが、それを無視して、鐙に足を通して横腹を蹴った。
嘶きを響かせながら、馬が砂地を蹴り飛ばして一気に走り出した。
迷宮区の位置は見れば解る。次の階層へと続く最も高い塔がそれなのだから、中央へと向かえば到達できる。問題はその間に出現するモンスター、マップ、イベント、そしてミッションだ。
だが今はそれを攻略する手段があった。マップはストレアが、そして他の物理的障害は全て心意システムで破壊しながら突破すれば良い。それは間違いなくシステムとして想定された使い方ではないだろう。砂漠に出現するモンスターを白野衣が跳躍して飛び越え、雑魚を回避しながら疾走して行く。背後に乗るくノ一が追いかけて来るモンスターを手裏剣で牽制し、そして迎撃する。
「《血濡れ》殿」
「なんだ」
「本当に変わったで御座るな」
「悪いか」
「いえ、そうではないで御座る。ですが、今の《血濡れ》殿は生き急いでいるようにも思えて、少々拙者、巻き込まれないか不安で御座る」
「安心しろ、100層を突破するまでは何があろうとも死なん。俺を殺せる気もしない」
あえて口にするならば……そう、
「
「に、御座るか」
「あぁ。神はこの地を見放した。無法が法を説く時が来た」
「それは、真に世紀末に御座るなぁ……いや、しかし。拙者としても中々楽しそうなものが見れそうで。忍びをしていた甲斐があるというもので御座って」
口を開くたびにキャラが濃いなこいつ……と思いながら白野衣を走らせる。砂漠の砂は間違いなく馬を走らせるのに適した環境ではないだろう。だが走り抜けるという役割を、白野衣はその全身で、全力で表現して駆け抜けていた。こいつは―――おそらく、最後まで生き残ることはできないだろう。
使い潰す前提で走らせている。
非道ではあるが、もはや止まれなかった。そう、止まれない。ただそれだけだった。殺して殺して殺し尽くして。踏みにじって潰して進んで、そしてこの世界を破壊する。
その為だけに、自分の全てをつぎ込む。
半日後に81層が攻略された。
SAOを震撼させる最新の出来事でもあり、その数時間後には82層が攻略された。あのアルベリヒが打ち立てた最速攻略伝説を上書きする速度でのボス討伐と攻略だった。1日1層で攻略したアルベリヒに対して、その攻略ペースは1日に2層というでたらめな速度に達していた。無論、そこにはアルベリヒとは違う方向性でルールを無視している、という点が少なからず存在していた。
マスター権限で攻略なんて行わずに終わらせるアルベリヒに対して、搭載されたシステムで悪用の限りを尽くすベオウルフ。その思考、趣向、やり方は全く違えども、根本から他者からすれば、チートをしているとしか思えないだけの反則性を見せつけている。それを疑うプレイヤーも少なからず存在している。
だが82層。
残された最後の100層まであと18層。
それは、明確に見えたSAOというゲームの終わりでもある。いよいよ、SAOというゲームが終わりに近づきつつある。もし、本当に攻略がこのまま続くのであれば、1日に2層という奇跡的な、或いは狂気的なペースが続行するのであれば、それは1週間と数日の間にこのアインクラッドという世界が完全攻略されるという事の証でもあった。
その認識に、アインクラッドが沸き立つ。熱狂が再び世界を包む。
そしてその熱狂の中点に立つ獣は―――燃え尽きながら全力疾走する。
全てはソードアート・オンラインというゲームのエンディングへと目指して。
という訳で終章開始。内容から大体解るけどもう長くはない。原作によれば政府は大体の出来ごとや流れは外から見えたらしいので、大量虐殺や功労者などはちょくちょく把握できているっぽい。ラフコフ勢が放置されてた理由? ご都合主義ぃ……ですかねぇ……。
まぁ、それはそれとして、
後は燃え尽きるのみ。胸を満たした想いを胸に、それで身を焦がし、残された積み上げられたデータや魂、願いを踏みにじって全てを破壊して進むのみ。
断じて、彼は英雄ではないのだ。動機も成してきたことも全ては欲望より生まれただけ。故に彼は能力を持っている小者でしかない。