三つ首の番犬が全速力で疾走してくる姿を飛び越える様に回避しながらその背後へと着地した。その巨体が振り返る前に後ろ脚を掴み、握りつぶす様に力を込めながらそれを引きずる。それに抵抗するようなボスの力を感じるが、限界を超えた筋力がここにはあった。全身を真っ赤に染め、服も、肌も、顔も、髪の毛も、その名を血濡れという名に相応しいほどに真っ赤に染め上げた状態で発揮する筋力は、心意による恩恵に預かりシステム的な制約を超過していた。
故に、ボスは自分よりも小さな人の姿に引きずられた。
「オ、ォ」
腹の底から声を吐き出す様に握り、引きずり、振るった。どこまでも暴力的に、どこまでも怪物的に。獣の様に振る舞った。それこそが誇りだった。この世界で見出した自分らしさだった。だからその衝動に身を任せたまま、迷宮に響く声で叫んだ。握った足を振り回し、大地に叩きつけてから壁へと叩きつけ、そしてその巨体を壁へと投げた。回転しながら壁へと着地した番犬が此方へと視線を向けるよりも早く、床を蹴って加速していた。
そしてそのまま、首の一つを千切りながら壁に叩きつけて潰した。
「一ォつ!」
すり潰した頭からあふれ出す大量のポリゴンが返り血となって体にかかる。それを受けながら両側から噛みついてくる頭を紙一重で回避し、スーツの裾を翻しながら二つ目の頭の頭上を取った。その上に乗った瞬間、犬顔が恐怖で歪むのが見えた。だがそれに構う事無く頭上から全力の拳の振り下ろしを放った。雲曜の一撃は認識が到達する前に放たれ、そして気付く瞬間には頭に突き刺さる。本来であれば脳のある場所を抉り抜く様に貫通し、その傷を広げる様に手を抜き去れば、完全に頭が潰れる。
「二ァつ!」
残された頭が最善を取ろうと壁から跳躍して距離を空けようとする。だがそれに合わせ足元に手裏剣が撃ち込まれ、足を貫通して壁と影を縫い合わせた。これぞ《手裏剣術》の奥義、《影縫》。それによってボスは一瞬で動きを失った。その瞬間に首へと飛びつき、それを両腕で抱いた。そしてそのまま、超絶の筋力で一気に首を締め上げる。一瞬で歪み、そして折れる音と共に首が曲がった。
「三ィつ……!」
ゴキャ、と音が響いてから首を解放し、力を無くした体共々床に落ちて、着地する。ボス、《Murderer Fang》は床に落ちるとはじけてポリゴンと化し、大量の血液となって体にかかる。それで生み出されるドロップアイテム、《エリュシデータ》とかいう塵をくノ一へと取得権利を委譲し、一部の隙も無く返り血で赤くなった姿でボスの間の奥へと進む。
「うーむ、拙者の財産も潤ってきたで御座るなぁ……問題はこれで豪遊するだけの暇がないという事に御座るな」
「なら折って遊ぶか、投げ捨てて遊べ。高級な玩具を壊して遊ぶのも楽しいぞ」
「流石にそこまで肝が太くないに御座るよ!」
所詮はデータ的な装備でしかない。最も信頼出来るのは己の肉体だ。そうである以上、武器の類は全て塵だ。そうでしかない。故に無価値。あの本当の輝きと比べればどれもいらない。
いらない。必要ない。欲しいものは解った。それ以外の物は何もいらない―――。
本当の美しいものを見つけてしまったら、それ以外の全ては要らない。それだけを何が何でも守るのだ。それしかない。それだけしか存在しない。だがそれでいい。それでも燃え尽きれるのであれば本望だ。漸く、自分がやりたい事、やるべき事を見つけ出したのだ、自分の意思で。これだけは絶対に曲げることはできない。だから歩き出す。次の階層へ。89層のボスは殺害した。もはや邪魔するものはいない。
歩いた足跡は大地に赤い血の跡を刻んで行く。許容できる量の血液を浴びた結果、必要以上のそれが溢れて赤い道を作っている。殺して潰して蹂躙して生み出された畜生の道が続いている。体を前へと進ませる。殺して食らった命を背負っている様な気がした。
始めた時よりも、遥かに体が重い気がする。
「いや、当然で御座るよ。付き合っている拙者もそうで御座るが、《血濡れ》殿は既に
「あぁ、もう4日目か……案外早かったな」
そう思いながら迷宮区を抜けて地上に出た。90層は平原が見える。穏やかな丘に木々の姿が見え、ここはどうやら、そういうエリアらしい。周辺へと視線を向ければ、近くに主街区が見えた。振り返ればくノ一と白野衣の姿が見える。白野衣を呼び寄せるとその背に跨り、くノ一を乗せて主街区へと向かう。
「正直、そろそろ休んだ方が良いと思うで御座る」
「そうか」
「ぶっちゃけ、ドン引きで御座る。
心意システムの事をこいつは知ってたっけ? とは思わなくもないが、今更興味のない事でもあった。まぁ、知っている奴は知っているだろう。モリアーティーが知っていたのだし。まぁ、それはどうでもいい。そう、どうでもいい。今は必要のない事は考えなくてもいい。必要な事以外のリソースは全て切り捨てる。成すべき事を成す為だけのリソースを残す。
「それに、そろそろ妨害が入るで御座るよ」
駆ける。白野衣も睡眠をしていない事によるペナルティを受けている筈なのに、人を二人乗せて駆ける。第90層主街区コヨルノスへと向けて。アインクラッドは上層へと近づけば近づくほど、構造が段々とだが小さくなってくる。そして90層ともなれば、非常に狭い。それこそフィールドを突破しなくても次の迷宮区へと向かえるぐらいには。好都合だった。これならもっと早く、攻略が出来る。白野衣を休ませることが出来る時間が増えるだろう。
そう思考し、迷うことなく転移門前に到達した。白野衣から降りて転移門へと向かえば、背後からくノ一の声がかかってくる。
「《血濡れ》殿のやっている事は褒められて然るべきものに御座る。されど、性急すぎるで御座る。それをラフコフ等がどう見るか等解りやすいで御座らぬか?」
「興味はない」
蹴りを転移門に叩き込んでアクティベートすれば、ワールドアナウンスが再びアインクラッドに響く。その蹴りの衝撃で血が転移門にかかり、僅かにその姿を赤く染める。蹴りを繰り出した足を下ろしながらふぅ、と息を吐く。これで再び、ベオウルフという男の名声がアインクラッドに響く。だが正直に言えば、今さら名声なんてものはどうでも良かった。そんなものを求めているのではない。ふぅ、と再び息を吐いて精神を整え、それで心に圧しかかった疲労を食い殺す。
妥協はない。諦めはない。進むと決めたのであればそれを完走するのみ。
そう思っていると転移門が開き、そこから出てくるプレイヤーが見えた。
迷うことなく殺しに来る姿は片手にブッチャーナイフの様な剣を握っており、転移門から飛び出す勢いのまま切りかかってくる。その動きを蹴り上げの動作で
「よぉ、兄弟。最近景気がいい様じゃねぇか」
「噂をすれば影、って奴か。お前も飽きない奴だな」
追撃する様にポンチョ姿の殺人鬼―――PoHが踏み込んでくる。様々な技術を混ぜ込んで、一つの形に洗練された体術は合理的な動きであり、極限まで効率化されてある動き、踏込と同時に武芸の匂いを想わせながら殺す為に洗練されたと解る、集団で戦う為の技術。見覚えのあるそれは軍隊格闘技である、と記憶から思い出しながらPoHのブッチャーナイフを手で触れず、保護の分厚いブーツで蹴って反らす。だがそれを解っているPoHは一歩も引く事無くそのまま連続で切りかかってくる。それを蹴っていなせば、更に続く様に転移門から出てくる姿が見える。エストックを装備したPoHの子飼いの部下等が出現し、それが加勢に入ろうとするくノ一を分断させた。
「アスナとストレアを抑え込んだかお前」
「あぁ、ちょっとオイタが過ぎたな、ベオウルフ。大人しく玉座に座ってればまだ良かったが、このまま攻略されるのはまだ困る」
「そうか。じゃあ悪いが死んでもらうぞPoH」
「はは、やれるものならな」
ブッチャーナイフを蹴り流しながら踏みつけて、PoHの体勢を崩せば、PoHの首が取れる位置まで降りて来る。その首を一瞬で蹴り取る為に動き出そうとすれば、それに割り込む様に雑魚の姿が割り込んできた。その首を狩り落としながらPoHを殺そうとすれば、既にその姿は武器を放棄し、別のプレイヤーを壁にする様に押し出し、蹴り出しながら邪魔に入る。
「Here here, kitty kitty」
自分の部下だけではなく、見学や祭りに来たプレイヤーを引きずり出し、押し出し、システムを無視して壁にする様にPoHは動かす。無関係の人間を盾に使って此方の動きを止めに来ている。その程度で躊躇する筈もなく、押し出されたプレイヤーを千切って捨てながらPoHを殺すに前進するが、事態も解らずに転移門から出現してくる数百のプレイヤーの数が邪魔で、PoHの姿を見失いつつある。
「さぁ、この観客に一体何人俺の手の者が混ざってるか。何人がシステムの穴を抜いて攻撃出来るか。気になるな?」
「特に興味はない」
故に逃げようと近くにプレイヤーを踏み台に跳躍し、衆目の上へと飛ぶ。ここで漸く現実が追いついて来た一部のプレイヤーが避難を開始する。動きが遅い、と思いながらも此方へと向かってきた投擲物を蹴り飛ばし、それを足場に一気に白野衣の方へと着地する。
「素直に相手をする理由もない、な。くノ一。足止めを頼む」
「流石に拙者一人でこの数は無理で御座るよ! 無茶振りで御座るよ!」
流石にそうだよなぁ、と敵意の気配を嗅ぎ取って数える。おそらく数千は流れ込んでいるこの90層に混ざっている《ラフィンコフィン》特有の腐った甘ったるい魂の匂いは全部で50を超える。流石に特定は面倒だから、纏めて薙ぎ殺せばいいのだがその為には手段と武器が足りない。困った、と素直に息を吐く。
アスナとストレアが連中によって抑えられている。いや、あの二人が死ぬのは別に構わない。その分殺し返すだけだからだ。問題は、あの二人がいないと補給物資を受け取る事が出来ないという事実だ。つまりスタミナのペナルティを受けつつこれ以降は行動する必要があるのだ、と冷静に考える。
またこの状況で白野衣で飛び出そうとすれば、間違いなく白野衣から潰される。高速の移動手段を失うという事でもある。最低で95層まで白野衣を生存させたいと思っている手前、こんな所で失う訳にはいかない。
PoHも、かなり面倒な手を使いやがった。
そう思った直後、転移門広場の一角で人混みが吹っ飛んだ。動きを止めて、その方角を見れば、吹き飛んだ一角の中心に、見覚えのある男が二人見えた。背中合わせに武器を手にしているのは大陸の槍を握る男の姿と、太刀を鞘に納めた男の姿であり、どちらもユニークスキルの使い手として有名な奴らだった。
モンジとラシェの武人コンビ。《無限槍》の大陸の槍術使い、そしてもう片方は西洋人の《抜刀術》の使い手だ。どちらも武芸に覚えのある者、現代の武芸者とでも呼ぶべきコンビだ。
「おぉ、援軍で―――」
「まぁ、そうなるで御座るよな。知ってた。連中、どう見ても義に参上するとかいうタイプじゃ御座らんし」
大暴れする理由があるのなら、突っ込むのが現代の武人だよなぁ、とは思う。何せ、現代で戦争となると基本的に銃や爆撃で終わってしまうのだ。時代錯誤の技量比べなんてやる場所がない。そう、VRの世界でもなければ。そう考えるとこの世界は自由だ。その機会が与えられるのだから。
「はーっはっはっは! センゴクターイムだプー! グレイブヤードへと持って行くハニーは用意したかなぁ! かなぁ!」
「我が絶槍を見舞いしよう!! なんと相手は一切遠慮の要らぬ悪党、ならば躊躇する理由もなし! いざ! 尋常に!」
「あいつら頭おかしいで御座るなぁ」
「だが助かる。で、お前も残れ」
白野衣の背に乗りながらそれをくノ一へと向ける。それを受けたくノ一は一瞬、迷う様な表情を浮かべ、しかし溜息を吐いた。
「まぁ、拙者は雇い主の意向に従うで御座るが……本当に良いので御座るか? 正直、《血濡れ》殿は誤魔化せる範囲を超えているで御座るよ?」
「安心しろ―――今の俺は無敵だ。どんな手段、どんな方法であろうと負けねぇよ」
「それ、無敵モード切れたら狩られるフラグなんで御座るが……まぁ良いで御座るか。なら拙者は報酬分は仕事をするだけで御座るよ」
そう言葉を残してくノ一は姿を消した。新しく乱入してきた馬鹿二人の対処に追われ、PoH達が此方を追いかけて来ることが出来ない。どこからともなく出現する手裏剣の一撃が更に動きを牽制し、此方が逃げ出す隙を与える。その間に白野衣へとさっさと騎乗して、コヨルノスから脱出し、
そのまま、迷宮区へと向かう。
少し前までだったら、まず間違いなくPoHの誘いに乗っていただろう。そこで《ラフィンコフィン》の連中と戦い、殺し尽くすまで戦闘を続けていただろう。その選択肢には迷いがなかっただろう。おそらくそれが何よりも楽しいであろうし、
そう、俺は自己顕示欲に溢れていた。誰かに知ってもらいたくて堪らなかった。俺はここまで出来るんだぞ、ともっと世界に俺の事を知って欲しかった。善の為、恩返し、なんて一回で終わる事じゃない。ずっと、ずっと、皆に知ってもらいたかった。
だからあんな凄惨な殺し方を生んだのだ。誰もが忘れられない様に。千切って、殺す。その姿を恐怖と共に胸の中に永遠に刻むために。そうすれば俺の事を覚える、嫌でも忘れる訳がない。忘れることが出来なくなる。その為だけに凄惨な殺し方を生み出したのかもしれない、と今更ながら思っていた。
そう、俺は俺が思う以上に―――自分の事をよく知らなかった。俺はただの暴力装置だったのだ。空っぽの中身にただシステムだけを入れた機械的なものだ。だからこそ、自己という存在を知って欲しかったのかもしれない。もっと強く、誰かに自分の存在を忘れられない様に刻み付ける様に。そういう意味ではPoHとはある種の友情を抱いていたのだと思っている、
PoHはPoHで、憐れなものだった。中身が空っぽ。小者。悪を行うのはそれしかする事がないから。そういう意味では共通点のある男だった。それでも決定的にあの男と相いれなかったのはやはり、矜持なんてものではなく、
あの男は憎んでいた。身を焦がすほどに。殺したい、強く強く蹂躙して殺したい。
その強い感情があの男の中には常にあった。その傲慢、強欲までの自分を焼いて正気を失わせるまでの強い感情を、俺は羨んでいたのだ。だからこそどう足掻いても、趣味や主義主張という範囲に踏み込めば殺し合うしかなかった。だが今のその、PoHの気持ちは解らなくもない。
自分の願望、奥底にある願い、抱いてしまった想い。PoHはそれに気づいてしまったが故に、発狂して、あの殺人ギルドを生み出した。そして俺も、自分のそれに気づいて今、発狂してしまった。そう、俺は狂っているのだ、
愛に。
奴もきっとそうなのだろう。憎悪という愛に身を焦がし続けているのだ。これは狂うしかない。俺たちのような人間が目覚めては絶対にならないものだった。どこかでも下水を煮詰めたようなクソでクズの俺達は、こんなものに触れず、そして燃え尽きる間に死ぬべきだった。
ひっそりと。報われずに。救いもなく。あっけなく。
だが違う。この世界で最も勝つ者、勝てる者とはズルい奴だ。そしてその頂点に立っているのが茅場晶彦とモリアーティーだ。あの二人の事は解る。
それを握ったやつが一番ズルく、勝つ。
だけどどうなのだろうか―――果たしてそれだけだったのか? 俺の旅路は。
否、否―――否。そんな事はなかった。確かに利用されていたし、空っぽで、虚ろな道行きだったのは事実だ。人の人生を歪めて、壊して、喰らって、啜った。それでもそれは間違いなく楽しい道だった。こういってしまえば今まで蹂躙してきた全てに申し訳ないだろうが、
「―――
あぁ、これで良かった。それを悟る事が出来た。
迷宮区を突破し、主が住まう部屋へと突入し、白野衣から降りて一人で中へと進んで行く。その奥に見えるのは巨大化した上で機械化された鎧のケンタウロスの様な生き物で、その姿に見合うサイズの剣を二刀流で握っていた。あぁ、もう、いつの間にか90層のボスに到達していたか、と、
記憶が曖昧で、どれだけどこを、どうやって駆け抜けて来たのかさえも思い出せない。だけどお腹は空いていて、物凄く眠くて、凄い……疲れた。
頭はガンガンする。胃の中は空っぽなのに吐き気しかない。目の奥がチリチリする。脳髄が熱した鋼鉄を流し込まれているようにガンガンと痛みを訴える。足がこれ以上動かないでくれと懇願する様に重みを感じる。体に染みついた血の匂いが呪いを振りまく様に体に圧し掛かる。その血液が命を吸い上げながら、火事場の馬鹿力とでも表現すべき、燃え上がる炎の様に、
命を、燃焼させる。
或いは、本当に燃えているのかもしれない。
心意というシステムが本当に、システムを超えて数々の奇跡を起こす事の出来る創造力の産物であるのならば、今、魂を燃焼させる勢いで成し遂げようとする俺の
巨体が大地を蹴って威嚇し、殺意と戦意を叩きつけてくる。どこまでもリアルなそれが正気と理性と命を削っていく。だがあぁ、と吐き捨てる。なんでもない。そう、そうだ、お前、二刀流だったな。
「雑魚が……俺の前でそれを見せたな」
腕を低く広げて爪を立てた。それに合わせてボスが後ろ脚で大地を蹴り、一気に此方へと両手の剣を振り上げながら迫ってくる。その姿を加速された視界の中でスローモーションで眺めつつ、呼吸を消し去って一気に飛び込んだ。
振り上げた手を捻りながら流れを変えて、その力を加速させながら加算させて一気に逆方向へと捻じ曲げて突き刺した。
「―――無刀返し」
無刀取りで取れる剣を取らず、流れを変えてそのまま相手に突き刺し返す奥義。切れば死ぬ。そのシンプルなルールに合わせ、体力を貫通しながら突き刺さった剣が頭から腰までを貫通して突き刺さった。倒れる様に着地した姿に続けて爪を叩き込んで頭を引き千切って殺し、後ろから戦闘が終わった事で追いついて来た白野衣を横に歩かせる。
ここに至り、《暗黒剣》は本当に命を食らう魔剣となった。
ドロップを、経験値を、その全てを無視して迷宮区を抜けて、地上に出た。
「9、1層ぉ……」
息を吐き捨て、血の道を作りながら外に出た所で、次の主街区と転移門を見つけた。だがそれを無視し、白野衣の上に騎乗して、次の迷宮区を駆け抜ける為に走らせた。アスナとストレアや、他の誰かからも補給を受けられることが出来ないのなら、転移門を解放したところで意味はない。
なら補給もいらない。
味方もいない。
殺して進む。燃え尽きるまでに。休む必要も、休むこともない。自分のなすべきこと、成したい事を果たす為にはもはや妥協は出来なかった。後は駆け抜けるだけ。自分が積み上げて来た全て、それを投げ捨て、壊し、失い、
駆け抜ける―――だけ。
心意はイメージを強化し、フラクトライトに干渉出来る手段。即ち心意で暗黒剣を使うとガチで死ぬのだ!!
さぁ、エンディングまであと少しだ、積み上げて来た全てを破壊しつつ進むのだ。