※この作品はR-18です。

Hollow Beast   作:てんぞー

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目覚める悪意 Ⅳ

 迷宮区を出た所で比較的にレベルの低いモンスターが出てくるエリアへと移った。普通の草原が広がるが、周辺には道が見えず、街道からは大きく離れた場所であるのが発見できる。周辺にはレベルが比較的に高く設定された雑魚モンスター、フレンジー・ボアの姿が見え、非アクティブ状態でゆっくりと草原を散歩している。

 

 すぐ横には移動用の馬を放してある。何時でも移動できる状態にしてある。モリアーティーは実験自体はそう長くはならないと宣言している。ともあれ、その実験に協力すればシステムを無視する能力を得られるらしいし、自分はそれに協力することにした。少なくとも、この見た目が子供の犯罪王志望は裏切る事だけはしなかった。

 

 だから大人しくモリアーティーの言葉を待つ。

 

「まぁ、これでいいかなぁ……というわけでベオウルフ君、これを受け取ってくれたまえ」

 

 そう言ってインベントリから取り出した糸を此方へとモリアーティーが渡してきた。情報ウィンドウを表示させても特に特別な事は見当たらず、裁縫用の糸にしか見えない気がする。それを軽く手の中で持ちながら眺めていると、

 

「ベオウルフ、それは本サービスが開始した時に使えるちょっと頑丈な糸でね、新しい戦闘用スキルに使う道具なんだよ。ちょっと頼りなく見えるけど、それでもモンスターを絞め殺す事が出来る筈だから、ちょっと試してみてくれないかな?」

 

「これが……」

 

 手の中の糸を見て、少し頼りなさげな武装に、一回使ったら切れそうだと思いつつも、まぁ、やれなくもないか、と判断する。モリアーティーが言うのだから疑う必要もないだろう。糸を余裕をもって両端で掴み、弛ませながら近くにいるフレンジー・ボアを目標、一気に加速して飛び込んだ。此方が飛び込むのに反応してフレンジーボアが素早く反応しようとするが、流石はそこは初心者モンスター、動きが遅い。

 

 その間に糸を軽くループを作り、フレンジー・ボアの首にひっかけながら頭上を飛び越え、そのまま糸を一気に引く―――締め上げる糸が首に食い込み、そしてフレンジー・ボアの頭を断ち切りながら糸がそこで限界を迎える。フレンジー・ボアがいた位置の反対側に背を向けるように着地しつつ、破損した事でポリゴンとなって消える糸を捨て去りながら振り返り、モリアーティーへと視線を向けた。

 

「あぁ、次はこっちで」

 

 今度は毛玉を投げられた。ばらせばそれが毛糸になるのだが―――明らかにこれ、戦闘用の道具じゃないよね? とは苦言を呈すしかないのだが、

 

「じゃあ同じくそれで始末を宜しく」

 

「あいよ」

 

 モリアーティーがそう言うのなら可能なのだろう。先ほどの様に毛糸を使ってフレンジー・ボアに接近し、足に引っ掛けて締め上げ、それを千切る様に足を飛ばしながら首に引っ掛けて頭を引き千切った。やはりその後に毛糸が壊れる。まぁ、どこからどう見ても戦闘用の道具じゃないし、当たり前なのは当たり前なのだが。そう思ってモリアーティーに再び視線を戻すと、うん、と頷いた。

 

「ベオウルフ、君が戦闘を行う時、何を考えている?」

 

「ぶち殺すって事だけ」

 

「迷いとかは?」

 

「ない。動くときには殺すって決めてる。だから殺す。頭の中でどう殺すか、どうやって殺し終えるか、それだけを考えて殺す」

 

「成程―――ありがとう、君がいなきゃこれは解らなかったね」

 

 モリアーティーはそう言うと少し困ったような様子で頭の裏を掻きながらこれをどう説明するかなぁ、と呟き、困った様子で腕を組み、しかしそこでそうだね、と言葉を置いた。それは普段、嗤うように眺めて、常に即断で物事を済ませてしまうモリアーティーとしては実に珍しい姿だった。少なくとも初めて目撃する姿だった。とはいえ、それも一瞬で消滅し、何時も通り人を道から踏み落とさせるのが上手な犯罪者の顔に戻った。

 

心意(インカ―ネイト)システム本格導入していたか、ラースめ。それとも茅場か? どちらであっても不思議はないが……連中め、まだ不安定な技術を利用するとは正気の沙汰とは思えないね……。だがどちらにしろ、実装させているのなら好都合だ。()()()()()()()()()()()()()()、それがこのモリアーティーのモットーであるとも」

 

「で、俺には何を説明してくれるんだ?」

 

 特にそこらへん、背景とか設定とか()()()()()()()()()()のだ。企業の思惑とか、真実とか、未来へと向けたなんたらとか。そういうのには一切興味はない。自分が興味あるのはモリアーティー同様、システムを悪用出来るか否か、という事にしかない。そして悪用できるとモリアーティーの表情を見れば理解できるので、細かい話を抜きにして、本題に入って欲しい。

 

 それを理解したか、モリアーティーがいつも通りおどけた様子で、

 

「いやぁ、済まない済まない。簡単に言えばイメージ回路という物がSAOにはあるのサ! それでちょこーっと、頭がおかしいレベルで想像力と意思の強さが足りていれば、その回路を利用して悪用が出来るって寸法サ!」

 

「解りやすく」

 

「出来るって信じれば出来る」

 

「なんだ、その程度か」

 

 色々と聞いて損した、と思ったが、モリアーティーはそんな事はないよ、と言葉を吐く。

 

「君に言った、今の糸の話は完全な嘘だ。SAOにそんなスキルはないし、実装されている気配もない。つまりそれはただの糸で、戦闘に一瞬でも耐えられるはずはない。だけど君はそれを確かに、見事に使いこなした! 雑魚とはいえ、その首を跳ね飛ばしたんだからネ! ……解るかいベオウルフ? 君の信じる力がそれを可能にしたんだ。無論、限界はある。だけど心意システムは用意されている他のシステムの制限をぶち抜いて無視できる」

 

 それを君は証明したんだ、とモリアーティは笑みを浮かべながらしてきた。そう言われながらもなんだかなぁ、と呟きつつ掌を見て、拳を作ったり開けたりを繰り返す。モリアーティーの言葉はまぁ、信じているし疑う事もないのだろうがなんというか、自分を信じて行動するなんて今更過ぎる事でもあるし、そうすれば可能になるって言われても困る。

 

「……まぁ、解りやすく言えば君の跳躍力や投擲とかは明らかにゲームの仕様を超える範囲の動きだった。まるで現実にあったそれを引きずり下ろしたような動き……現実では出来るんだろう? そして当然のように違和感を抱く事もなく、それをSAOでも行えると信じた。そこに疑問の余地もない。出来て当然であると」

 

「……だから出来た、と」

 

「そうだねぇ。逆にゲームがインフレしてもっと派手な動きをするようになれば逆にイメージの範囲から成長する必要があるから、思考訓練する必要はありそうだけどね。これはそういうインチキだよ」

 

「ほーん……」

 

 なんというか、

 

「しっくりこないな……自分が出来ると思って行動するのは当然だしなぁ……」

 

「それが出来ない人間がほとんどなのだよ、破壊王くん。そして君はそれが自然とできているとてもとても素晴らしい人間である。まぁ、その方向性がプラスじゃなくてアクセルをぶち込んだマイナス方面というのが実に面白い話なんだけどネ! 百害あって一利なし! 間違いない! 君は生きているだけで悪だろうネ! 現実に戻ったらきっともっと狡猾な悪になるとも、それは私が断言するさ」

 

 成程、とモリアーティーの言葉に頷き、で、と言葉を置く。

 

「どうでもいいからこれ、どう使うんだ?」

 

「あぁ、うん。なんというか予想通りのリアクションだね……」

 

 だから根本的にそういうのには興味がない、と伝える。楽しめるか否か。それだけが重要な事で、複雑な事は考えたくもない。自分に必要な思考は殺す、犯す、食う。この三つだけでいい。だがその前提として生きなければそれを楽しむ事さえできない、という事実だ。だからこそ暴れまわるだけではなく、モリアーティーに首輪をつけて貰っているのだ。その方が後々、楽しめるという事実を理解しているし、俺も死にたくはないのだから。だからぺら回しはどうでもいい。

 

「はよ簡潔に答えを出せ」

 

「……君が君らしく自由に動けばそれでいい。君は既に使いこなしている。先入観に囚われず、その強靭な意思の力で現実を捻じ伏せればそれで問題ない筈サ」

 

 そう言うとはぁ、とモリアーティーは溜息を吐いた。

 

「口だけが武器なのにまるで通じない君が私の手駒で本当に良かった……君、私みたいなのが敵に回った場合、迷うことなく喋らせずに殺しに行くでしょ」

 

「うん」

 

「ほらー! 見たもんかー! 思考停止して殺しに来てるんじゃなくて喋らせたら面倒だしー? とりあえず喋らせる前に殺すのが基本だよねー、って顔してるー! これだから本能理論融合タイプのハイブリッド殺戮者は……!」

 

「馬のサラブレッドの様に人を例えるのは止めろ」

 

 だけど自分が考える事、その想像が力となるシステムであれば、かつて友人を殺す為だけに鍛え上げたこの数々の技と技術を、システム的な制約を無視して使えるとなると、更に攻撃手段が増えるな、と解る。個人的にはもうちょっとワイヤーの類が欲しいが、流石にSAOというゲームからは外れ過ぎだし無理だろう。それはともかく、一番重要な事を聞かなくてはならない。

 

「モリアーティー」

 

「なにかな」

 

「……この心意システムを使えば圏内でも……?」

 

「あぁ、うん、まぁ、うん……《隠蔽》と合わせて使ったり、システムなんざぶっ殺してやる、って考えながら実行すればハラスメントコード無視出来るんじゃないかな……?」

 

 モリアーティーのその言葉に拳を作って天へと掲げた。それを見たモリアーティーがえぇぇ、と声を零しているが、女と酒は割と真面目に死活問題なのだ。それ以外の娯楽が存在しないこの状況でそれが降って湧いて来た気持ちを解ってほしい。だがこれで問題解決だ。

 

「今夜はより取り見取りだな……!」

 

「わぁ、凄い良い笑顔を浮かべてる……あ、解っていると思うけど、派手に暴れちゃ駄目だヨ……? あとはね―――」

 

 レクチャーを受けつつそれは理解していると答える。

 

それはそれとして、この戦闘とかでよりも犯罪生活で有効活用できそうな心意システム。これを練習する必要もあるだろう。そう考え、視線を馬へと戻し、移動する事に決める。ニヤつく表情を抑え込みながらモリアーティーに軽く感謝を告げて移動の為に馬に跨る。そうやって馬を走り出させつつ、向かう場所は一つ。

 

 始まりの街へ。

 

 

 

 

「さて、到着したわけだ」

 

 始まりの街は見えるが、それでもまだ遠く、人影が豆粒程度にしか見えない距離で動きを止めた。そのまま、始まりの街を一望できる位置から見下ろし、眺める。そこは初心者の救済拠点だ。ここがゲームの始まりであり、第3層ぐらいまでは一番設備が整っている場所でもある。だがこれも第5層になると、次の大型拠点が出現するという事もあって、一気に人はそっちへと移動するだろう。

 

 だがそうなっても衛兵NPCの数は減る訳ではない。そこだけはそのままだ―――始末すればまた別の話ではある。とはいえ、衛兵NPCの実力はそれこそ70レベルとか必要だとの噂であり、殺害は現実的ではない。何より連中が死んだ場合、オレンジプレイヤーが野放しになる。その場合に発生する打撃をあまり考えたくはない。だから重要なのはこっそりとバレずに入り込む事だ。

 

 衛兵NPCも決して理不尽な設定をしている訳ではなく、目視した範囲で判断して行動しているだけだ。つまりは目視されなければ良い、というだけの話だ。後はシステム的に見つからない事だろうか。流石に話しかけてしまえば見つかるだろう。故にやる事はシンプルだ。

 

 ()()()()()()()()()

 

 巨大な城壁に囲まれた始まりの街はこっそりと侵入するのが難しい。壁は高すぎて登り辛いし、入る事の出来る門はその数が制限されていて、常に衛兵NPCによって監視されている。中々入るのが難しい場所でもある。まぁ、大型拠点なのだから当然と言えば当然なのだが。オレンジプレイヤーが侵入する隙間はぶっちゃけ、ほぼない。普通であれば。

 

 だがここでモリアーティーの告げる《心意》というシステムが本当に存在するのであれば―――イマジネーション回路による仕様外現象を発生させられるのであれば、それである程度の好き勝手は出来る。ゲームを完全に崩壊させられるような出力はない、とモリアーティーは別れ際に言っていた。だからそれで過信してはならないとはいえ、

 

 やるべき事だ。

 

 疑うな。

 

 信じろ。

 

 想像しろ。

 

 それはそれは―――とても簡単なことだ。だから馬から降りて、《隠蔽》のスキルを使う。イメージとしてスキルを使っていた方がノリが良いというのも事実だ。こう考えると心意前提でスキルを使う為に、心意システムと相性の良いスキルなんかもありそうだ、と思いながら始まりの街へと向けて歩く。《隠蔽》のスキルは間違いなく相性が良いだろう、と思いながら、

 

 イメージし、描く。

 

 誰にも捉えられない、認識できない、気付けない影のイメージを。

 

 システムを認識してそれを絶対的な物として信じて動き出す。そこに迷いはないし、疑いも雑念もない。今まで何度も何度も繰り返してきた事だ、信じる事は。疑いは不運と迷いを生む。だからそれがどんな間違いであろうが、どんな理論を持ち出されようとも、どんな弁舌で信じさせられそうになっても、絶対に自分の行動と考えを信じ、実行する。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。元から間違っている自覚はあるのだし、それを理解して行動しているのだから説得なんて無意味だし、どんなに弁舌が得意でも惑わす事は出来ない。

 

 故に俺は絶対に捉えられない。そう思って歩きながら始まりの街へと近づく。

 

 段々と近づいて行く街の姿に、大きくなって行く人の姿が見え、始まりの街の入り口をそれを守るガードが見える。もう既に目視範囲だ。だけどそこで足を止める訳でもなく、緊張する事もない。俺が歩いて通り抜けられるのはもはや当然の事実だからだ。故にそのまま歩いて近づき―――門の前に到達し、衛兵の横を抜けて街の中へと入った。

 

 圏内に入った証としてシステム保護がかかり、あらゆるダメージから守られる様になる。

 

 そうやって門を抜けたところで自分の体を見て、《隠蔽》スキルのエフェクトが薄い影の様に体を覆って、体を影の怪人みたいに見せていた。これがイマジネーション回路を通し、絶対に見つからないと信じた俺を反映した姿なのだろう。頭上へと視線を向ければ、そこには一時的にカーソルそのものが消失しており、システムから逸脱した行為に成功した事を示していた。

 

「悪くねぇ」

 

 これで町中である程度活動する事が出来る。そう思いながらまだ実験は必要だな、と思いながら時間を確認した。

 

 移動やら実験やら探索やらそれなりに時間がかかっていたこともあって、既に空は暗くなっており、アインクラッドの世界に夜が訪れていた。流石にこの時間になると街灯によって街中が照らされており、通りを歩く人の数も少なく見える。

 

 その中でも多いのは絶望したような表情を浮かべている(PC)で、毎日を空虚に、祈るように過ごしている家畜だった。本当に、失望させてくれるゴミ連中だ。立ち上がる気概さえもないクズ共でしかない。ぶち殺してやった方がいっそ、動き出す理由になるんじゃないかと思うが、この時点で暴れる事は許されない。

 

 ……そう、50層だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 安全圏で虐殺を行い、そうやって安全な場所はなく、飛び立てぬ家畜に生きる価値も可能性もないという事を証明しよう。きっと、暴徒の様に街を飛び立ってレミングスの如く死んでゆく豚の姿が見れるだろう。それはそれでかなり愉快だろう。少なくとも成功すれば数千単位で死人が出るに違いない。

 

 現代でそんな大量の殺人者を出すのはこれからの死亡者数を考え、()()()()()()()だろう。

 

 まぁ、それは未来の話だ。見所がある面白い事になっていればそれも考え直そう。それよりも今夜はどこで過ごすか、という所にある。

 

「まぁ、迷うでもなく女が欲しいところだけどな」

 

 頭上のカーソルを消したままであればおそらく、娼館に行けるだろう。NPC経営の奴はシステムを参照してくるから少々難しいが、PCを相手にするのであれば手渡しでコルを渡せばいいから、多少は騙せるだろうとは思う。問題はあまり、此方の方には来ていないから相場や誰がいいとか、そういう知識に欠けている事だ。

 

 基本的にβ時代で利用していた娼館は第5層に存在していたものだ。

 

 遺跡がメインの迷路エリアの第5層は始まりの街に変わる大型拠点が存在する―――というよりも、5層毎に大型拠点が設置されているのだ、このゲーム。そして10層目には多機能型の超大型拠点があると予測されている。そして無論、その恩恵を受けるのはグリーンプレイヤーだけではない。

 

 第5層にはオレンジ用の活動拠点が用意されているのだ。無論、それは圏外エリアではあるが、NPCの犯罪者集団によって構成された街が第5層には存在し、グリーンプレイヤーに対しては非常にヒャッハーばかりではあるが、オレンジプレイヤーに対しては同胞として受け入れてくれる場所になっているのだ。ここには犯罪者プレイヤー向けに人生を破滅させそうな女、酒、薬、ギャンブル、制限のないストリートファイトなどという素敵なラインナップが存在するほか、オレンジ向けの発掘所の襲撃クエストを受けたりすることもできるのだ。無論、その防衛に回るのはグリーンプレイヤーだ。

 

 元々は大型PvP用のマップではないのか、という予測だが、今となっては貴重なオレンジ用拠点の一つだ。

 

 そこに行けば娼館を利用できるのだが……まぁ、今では土台無理な話だ。あっちの方を利用していたから始まりの街の娼館は全く知らない。だって1層早々オレンジになってフリーダムに遊んでいたんだもの。

 

 まぁ、ヒャッハーしているのは何時もの事だからこれも自業自得だ。事前にモリアーティーに話を聞いておけば良かった……そう思いながら、すこし奥へと歩きながら中央の横に逸れ、道路の端、適当な壁に寄り掛かりながら道路を眺める。

 

 こうなったら適当に見繕って襲うしかねぇな、と決める。

 

 とはいえ、SAOの女性比率は非常に低い。ユウキのチョイスだってモリアーティーが見繕ってくれたから出会えたようなものだ。万単位で接続されているこのゲームの中を数字で見れば女性はある程度はいるだろうが、抱く気になれる美少女、というレベルになると少し難しくなってくる。

 

「となると基本的に美形ぞろいのNPCのがいいか?」

 

 道路を眺めながら呟く。自身の姿を影に馴染ませるのを忘れずに。その状態でひたすら道路を見つめ、通り過ぎるプレイヤーやNPCの姿を探す。こういうMMOゲーはプレイヤーの人気を誘う為に、可愛かったり姿の綺麗なNPCを初期拠点で会えるように設置しているはずだ。確かこの街のどこかにそんなNPCいたよなぁ、と思いつつ、誰かに聞かないと思い出せもしない情報だ。

 

 やっぱり妥協するべきか? と思った中で、目を引く者を見た。

 

 それは通りを歩く、ローブに姿を隠した存在だった。余裕のなさを足の運びに感じ、疲れ切った気配を感じ、そして何よりもか細い希望と濃密な絶望の気配を感じる。今この瞬間も、折れそうな心を支えようとしている気配に、一瞬で興味を持つ。ユウキ程強く、純粋ではない。だが心が濁る様な音がその足音からは聞こえる。

 

 一押しすれば落ちる、という境界にいるな。

 

 ニヤリ、と被るパーカーの下で笑みを浮かべた。足運び、ローブに隠れる体の華奢さで大体女だと把握できる。細かい部分までには目はいかないが、今夜はこれで楽しむ事にしようと決める。煙草は―――流石にもう吸い切って手元に残っていない。残念だと思いながら背中を寄せていた壁から身を引きはがして歩き始める。

 

 ローブ姿の女の後ろを追いかけて、接近し、そのままついて行く。距離を少しだけ開けてついて行くが、誰もそれに気づかないし、それに疑問を持たない。悪魔のシステムと呼んでもいいだろう、これは。そう思いながら歩いても歩いても女は此方に気付きはしない。その事実に笑みを浮かべ、ストーキングを続行する。

 

 やがてローブの女は始まりの街にある宿屋の一つに入って行く。それを追いかけ、宿の中へと入って行く。フロントで鍵を受け取る事もなく宿の二階へ目指す姿は、つまり、ここで長期滞在目的で宿代を支払っているという事だろうか? 外から見た感じ、そこそこ良さげな宿ではあった。とはいえ、それに現を抜かすわけでもなく、周りを一切気にせずローブの女は宿の二階、つまりは個室のあるフロアへと向かって行く。

 

 ここからは少し、気を使うな、と思いながら距離を一気に詰めて、移動する。

 

「……?」

 

 そこで何かに違和感を抱いたのか、ローブが振り返った。その内側には影に隠れた女の顔が見えた―――ユウキにも匹敵する上玉にガッツポーズを心の中で握りつつ、今夜は期待できると、女……には少し若い。ユウキよりは年上だがまだ少女だ、と顔つきから判断しつつ、正面から見られても、その姿を見つけられない。流石に触れたらバレるであろうと思いつつも、少女にバレる事なくそのまま奥へ、

 

 一室の扉の前で止まる。

 

「……」

 

 カチャカチャ、と音を立てながら少女が扉に鍵を差し込み、開ける。その姿に触れない程度に密着しながら扉を抜ける時、一緒に扉の内側へと入って行き、部屋の扉が閉まるのを彼女の後ろから眺める。周囲へと視線を向け、室内にテーブルを見つける。椅子代わりにその上に座り、足を組んで少女を見下ろした。

 

「……ふぅ」

 

 息を吐きながら少女は溜息を吐き、フードを下ろした。それと共に亜麻色の髪が解放され、長い髪が軽く踊った。ショートよりもやはり長い方が触れる楽しみがあるから好きだ、と思いつつ、ローブを脱いでそれを椅子に引っ掛けるのを見た。そのまま、少女は赤色のベストと白いシャツ、赤いスカートという初期ではなく少しだけ選ばれた既製品の服装でベッドの上に転がった。

 

「……あと、どれぐらいこんな毎日を続ければいいんだろ」

 

 少女は顔を枕に埋めながらそう呟いた。気丈に振る舞う余裕もなさげに見える。今にも折れそうな心の姿に、愉悦を覚える。折れそうな中で必死に折れない様に取り繕って振る舞う姿を外で見かけ、そしてそれを総て投げ出して吐き出す少女の姿がここにある。その違いが実に愉しい。もう少し早めに外で見かけたかったな、と思いつつ、まだ手を出すわけでもなく眺めている。

 

「駄目……皆が待ってる。ここで足を止める訳には行かない……絶対に帰らなきゃ……」

 

 可愛らしい絶望だと見下ろしながら内心嗤う。確かに現実に帰る事は大事だが、焦った所で効率が良くなる訳ではない。ゲームは遊びなのだから、そこに楽しみを見いだせない限りは常にマイナスになるのだ、効率が。こういうものは戦いと遊びと生活に楽しみと愉しみを見出す事で初めて進む様になる。

 

 絶望と戦いながら脱出しようと考えるなんて、可愛らしいではないか。

 

「……回復には7時間の睡眠が必要、ね。……それだけ眠ったら……またレベリングに戻らなきゃ……」

 

 そう呟くと少女はウィンドウを取り出した。寝るつもりなのだろう。SAOでは睡眠が最低で七時間必要である。それを無視するとステータスにペナルティが発生し、大きく戦闘能力が落ちる。これはログアウトする事で代替する事も可能なのだが、このデスゲーム状況でそれは不可能である。

 

 重要なのは寝るという行いである。これできっちり7時間睡眠を取ればペナルティを受けなくなるのだ。つまりどんなに頑張っていても、7時間眠らないとどこかで命を落とすのだ。そしてその為に7時間後に合わせてアラームをセットしているのだろう。

 

 つまり、今から七時間は自由だ。起こさなければ、という言葉が付くが。

 

 扉の方へと視線を向ければそれが閉まっており、外側からは絶対に開かない状態になっているのを確認できる。ちなみにだが部屋は一つ一つ個別エリア扱いであり、特殊なスキルでも使わなければ外からも中からも声が漏れる事はない。

 

 途中で起きてしまっても、問題はない。

 

 どれだけ助けを求めようとも逃げられない密室に自分から飛び込んだのだ。くつくつと起こさない様に小さく嗤いながらインベントリからとあるものを取り出す。

 

―――鎖だ。

 

 戦闘には利用できず、防具としても利用できず、登攀ぐらいにしか使い道がない普通の鎖。非破壊物設定を受けている鎖はこのゲーム内では破壊できないオブジェクトであり、多くの検証プレイヤーがその特性を悪用出来ないかを考えた。

 

 だが今、その答えがある。

 

 監禁拘束だ。

 

 座っていたテーブルの上から降りてベッドに俯せに眠る少女の姿へと近づいた。少し捲れているスカートの下からは形のいい尻が見える。がそれをとりあえずは無視し、鎖を使って両腕を伸ばす様に拘束し、それをベッドの奥に結び付けた。

 

 破壊か戻しでもしないと外れない様に。

 

 食い込む様に巻き付いた手を上に引っ張り、囚われの姫の様にその姿を拘束した。さて、この状態ではハラスメントコードは引っかからない。起きている状態でなければ本当にハラスメントコードを試せるかどうかは解らない。とはいえ、

 

「ユウキの相手をしない間は暇だし、レベリングにも興味ないし、暇な時に相手してくれる情婦が丁度欲しかったんだ。仮想世界でならどれだけ犯してもがばがばにならないし、好きなだけセックスできるんだ。その楽しさを忘れられないほどに刻み込んでやるか」

 

 どうせ、ボス攻略まではまだまだ時間があるのだ。

 

 ()()()たっぷりとこの娘を相手するのに費やそう。

 

 そう決断し、笑みを浮かべた―――この世界に神はいても、彼は誰も助けない。平等に、そして不平等にシステムを運営するだけだ。

 

 故に助かりはしない。

 

 勇者なんて、物語の中だけだ。

 

 現実は何時だって、酷くて卑怯な奴ばかりが勝利するのだから。だからこそ、犯そう。脳味噌を潰すほどに犯して犯して犯して、忘れられなくなるぐらいに犯して、

 

 そしてそれに疲れたら人の殺し方を教えて終わったらまた犯して、

 

 そして悪徳の限りを貪る、そんな女に染めてみよう。

 

―――それを末路としてユウキに突き付けたら、愉しいに違いないのだから。




 べおうるふ は どれい を てにいれたぞ!

 そだてて りっぱな じょうふ に する のだ!

 という訳で放置してたら1層で死んでたんじゃね? って思える人。まぁ、定番といっちゃあ定番だけどペット欲しいし……。まぁ、という訳で次回はなんかある。

 それはそれとして、層は結構飛ばして行く方向性で。攻略するのがメインじゃないし。
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