※この作品はR-18です。

Hollow Beast   作:てんぞー

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10層 善悪の区別
英雄の産声


 壁を蹴って跳躍する。そのまま次の壁を蹴り、再び壁を蹴る。複雑に入り混じる遺跡群の中、乱立するその姿を足場に二次元的ではなく三次元的な戦闘を跳躍とダッシュを繰り返す事で行う。壁を走りながら跳躍し、素早く遺跡にある壁から壁へと移動する。空は青く晴れており、そこから光が降り注ぎ、跳躍する度に埃が足元に舞う。そうやってフリーランを繰り返す中で、それを追いかけて来る姿が見える。

 

 黒く長い髪を持った少女の姿は()()()()()()()()()()()同じように壁を蹴って跳躍して追いかけて来る。二本の剣を後ろに引きずるように跳躍しながらAGI型特有の超速度で一気に接近してくる。空へ跳躍し、舞い上がった此方の姿を追撃する様に一瞬で迫ってくる少女は後出しという性質から此方を下から追いかけ、二本の剣を振るう為に構え、

 

「甘ぇ」

 

「っ!」

 

 振るわれる直前の剣に靴裏を合わせた。振り抜かれる前に両足で両手を抑え、そのまま空中で重量をかけるように手を下へと押す。それに反射的に二刀流の少女が手に力を籠めるのを利用して、一時的に滞空と落下が停止し、少女の手が足場になる。無駄に張り合おうとして憎悪を撒き散らし、判断を鈍らせている。対抗、抵抗しようとするから逆に利用される。

 

「だから温い」

 

 そのまま、抵抗しようとする少女の手を歩き、肩を歩き、背中に足を付け、背後へと回り、足を掴んだ。そのまま少女の両足を掴んで倒立する様に立ち上がりながら、此方の肉体重量を利用して前へと向かって体を捻れば、空中という支えがない場所で身動きが取れず、少女が足から振り回される。

 

 そのまま、空中で回転しながら振り回す様に、車輪の様に空中で円を描いて掴んだ少女の両足をハンマーの様に大地へと向かって振り下ろした。

 

「ぎっ、ぐっぅ―――」

 

 食いしばり、痛みを吐き出すような声をユウキが漏らす。当然ながらそんな痛み、SAOには存在しない。だがセックスをして当然の様に快楽が発生し、触覚によって感覚を感じ、味覚によって美味しさを味わえるのだ……ならなぜ痛覚だけが不完全なのだろうか? 本当に存在しないのだろうか? それとも―――想像力の欠如が否定しているのだろうか? 痛みを想像すればアインクラッドはそれに応えてくれる。

 

 心意システム、知らず知らずに、プレイヤーはそれを使いこなしているのかもしれない。ただ、それに気づかないだけで。どちらにしろ、

 

「また負けたな、ユウキ」

 

「くっ……!」

 

 あぁ、倒れ、埃に塗れながらも良い憎悪の視線を向けてくれる。だが憎悪だけではなく期待で混じる濁りをそこには見ている。それを感じながら地面に叩きつけたユウキを拾い上げながら、それを壁に押し付ける。

 

「なんで、ボクを、殺さないんだ……!」

 

「そんな事言わなくても解るだろう? 言葉で聞かずに体で聞いてくれ―――ほら、お前も既に準備が出来ている事だしな」

 

 壁にユウキを押し付けながら黒いスリットの入ったロングスカートに手を伸ばせば、その下の秘部に触れて既に濡れていることが伝わってくる。軽く指を下着に這わせて触れてやればくちゅくちゅといやらしい水音がユウキの秘部から溢れ出し、ユウキが顔を赤くしながら歯を食いしばっている。

 

「なんだ、期待してたんじゃないか」

 

「違う! ボクの体をこうしたのはお前だろう!」

 

 押さえつけながらも片手で逸物を取り出し、スカートを捲り上げてそれを秘部に寄せた。擦り付けながら太腿のすべすべとした感触を楽しみつつ、下着の隙間から逸物をユウキの中へと進めて行く。それが少しずつ中へと侵入して行く度に、ユウキの口から小さな喘ぎ声が漏れる。完全にその体が受け入れる準備を完了させ、出来上がっていた。それが完全にユウキの秘部に割って入り、奥へと到達したとき、段々とだが膣が此方の逸物の形を覚え、その形に馴染むような感じがした。文字通り、目の前の才ある少女を開発している感触に笑みを漏らし、言葉を与える。

 

「だけど抵抗しないだろ?」

 

「逃がしてっ、くれないっ、じゃないかっ、んぐっ、膣内に入って、るっ……!」

 

「そこに発情してる雌がいたらお前は見ないふりをするか? 少なくとも俺はしない。犯せるなら犯しておく方が得だしな。お前も何時までも否定していないで、受け入れた方が楽しいぞ」

 

「うるさいっ、うるさいっ、うるさい 殺してやる ころしてやるぅ

 

「やれるもんならな」

 

 発情しているユウキの膣を壁で抑え込みながら犯せば、その声はすぐに嬌声に変わって行く。何度も何度も犯された経験が即座にユウキをただの雌へと変貌させ、快楽がユウキの脳味噌から敵同士であったという事実が一時的に消去される。肉棒を突っ込んで、そして犯している間は完全にタダの雌になって快楽を貪っている、楽しんでいる。その直前までは完全に殺意で満たされているのにこの変貌を遂げるのだから、

 

「本当に可愛いなぁ、お前は」

 

 後ろから犯しつつ、ユウキの唇を奪い、舌を絡め合いながら官能を楽しむ。犯しに犯したユウキの心は屈していなくても、その体は与えられる快楽に完全に屈する様になっていたのだから。

 

 

 

 

 早いもので1層攻略から二ヵ月が経過した。

 

 第1層の攻略は順調に終わった。大きな犠牲者もなく、スムーズにボスは討伐された。その背後にはこっそりと情報を提供したモリアーティーの影があるが、それを知るのは彼に繋がるグリーンの情報屋プレイヤーだけである、第1層のボス、イルファングはβ時代から行動パターンが変化していたらしく、本来は使わないソードスキルなんかも使って来ていたらしいが、クソ雑魚過ぎて気付きすらしなかった。だがモリアーティーがそれを指摘した結果、どうやら犠牲者は出なかったらしい。

 

 そういう訳で、攻略組は()()()のだ。

 

 なんだ、やればできるじゃねぇか。しっかりと準備すれば、レベルを上げれば、団結すれば―――頑張れば―――きっと―――何時かは―――俺達は―――私達は―――きっと、何時か、このデスゲームから脱出できるのではないのか? そんな希望がプレイヤーの間に芽生える。犠牲もなく乗り越えたのなら……俺達でも、もしかして、やれる? そんな安易な考えと希望が多くのプレイヤーに湧き出す。そしてそれはモリアーティーの思惑通りでもある。そうやって希望を抱いた人間は前進せずにはいられないからだ。そして動き出した、そのどうでもいい不特定多数こそが、オレンジプレイヤーが餌にする層なのだ。

 

 そういうわけでSAOに訪れたのは爆発的冒険ブームである。

 

 まぁ、クリア出来そうなら……やろうか? と思う様になった層が一気に増えた事で、今まで最大手であった行動しなかった層が活性化し、街の外へと出てレベリングや戦闘、生産を開始する様になった。そうする事でアインクラッド全体が活性化し、漸くSAOと呼べるような活気を生み出し始める。正直なところ、第1層の攻略が完了するまでは街中はまるで死都の様な静けさで、活動しているのは一部のプレイヤーとNPCばかりだった。

 

 だがこれで漸く、プレイヤーが本格的な活動に乗り出す。それと共に死んでいた産業が生み出され、各方面で需要が発生する。金銭の価値が本当の意味で稼働し、物流が発生する。

 

 ビジネス、その言葉が一番意味を持つ状態にSAOが移行するのだ。そして同時に攻略組に大量のプレイヤーが流入する。それを食い物にする一部のオレンジプレイヤーが発生し、想定されていた流れが生み出される。それと同時にSAOを攻略するという意欲が向上する。犠牲者なしで突破できるのであれば次もいける、という考えに賛同した多くのプレイヤーが組み、ギルドなどを結成しながらもSAO攻略のために効率的な探索とレベリングを行い始める。

 

 無論、その裏では色々と暗闘が発生している。とはいえ、最終的にはSAOはクリアされなくてはならない。その為、クリア出来るための下地を作らなくてはならない、そしてその利益を美味しくいただく為の腐敗も生み出さなくてはならない。そこは完全にモリアーティーの領域となるが、自分も一部には協力している。

 

 そう、強行偵察によるボスの情報取得だ。というか戦闘能力しか存在しない為、この程度しかできない。とはいえ、この情報を提供するだけでも犠牲者が大幅に減るのだから有用であるのは間違いがなかった。

 

 そういう事で始まったSAOの攻略は順調だった。

 

 攻略ペースは概ね三日、四日に1層を攻略するという凄まじいハイペースであり、攻略に際して目立った死者を出さずに進んでいる。そう、目立ったのは。多少の犠牲は発生している。それでもノンストップで攻略は進んで行く。それは間違いなくSAO攻略に関するビッグウェーブが来ていたという事になるのだ。

 

 熱狂が導くがままに誘われて第10層へとSAOという世界へ、プレイヤーは踏み込んでいた。そこは一つの節目でもある。100層存在するうちの第10層。それはつまりついに全体の1割が完了したという事の証でもあり、10、という倍数の数字はどこか、特別な気配を漂わせる。

 

 とはいえ、熱狂は危機を忘れさせる。

 

 そんな狂奔に導かれるままにSAOの勇者たちはついに、第10層に到達していた。

 

 

 

 

「やぁ、お帰りベオウルフ。その表情を見ると中々楽しかったみたいだネ?」

 

「まぁな。逢う度に楽しませてくれる女だよ、アレは」

 

 ユウキを犯し終わったら最前線の10層の犯罪者用拠点へと帰還した。第5層に続き存在するこの犯罪拠点は頭から角を生やした半人半鬼が支配する地域であり、グリーンプレイヤーが近づこうとすれば集団で襲い掛かってくる連中だ。これは第5層の犯罪拠点を支配するマフィア共と同じ事である。

 

 ただここの連中は何よりも武を強く重視するらしい。その為、勝負で勝つ必要がある。それを乗り越えた者たちが犯罪拠点として鬼の拠点の一部を利用させて貰える。

 

 なお、この連中―――恰好は和服である。

 

 そう、第10層は和装エリアなのだ。

 

 建築物も日本式で、NPCやモンスターたちも日本風になっている。迷宮区の中には甲冑姿の様なサムライの姿が目撃出来、既に偵察済みのボスは《Kagachi The Samurai Lord》と呼ばれる、巨大な武者型のボスだった。もう名前からして日本風である。そして雑魚の方も《Orochi Guard》や《Orochi Elite Guard》で明らかにジャパンである。

 

 拠点を運営しているNPCから話を聞けば、鬼の一族と侍の一族は常に衝突しているとか、そんな感じの設定が存在するのがこの第10層になる。もう色々とあれだ。

 

 西洋風のファンタジー世界に和風ファンタジー混ぜていいの? そう叫びたくなるような采配だが、国民的な有名なゲームでもなぜか常に和風文化は存在している。というかRPG系統であれば絶対に存在している。忍者と侍の対立とか、このSAOで見かけるだけではないのだ。

 

 ともあれ、そんな愉快な階層であるここを今は仮拠点として利用させて貰っていた。

 

 その最大の理由は階層間の移動の不便さがオレンジプレイヤーには常に付き纏う、という点にあった。オレンジプレイヤーは転移門が使えない為、転移門が設置されている場所へと自由に移動できる訳ではない。その為、自力で迷宮区を突破しないと次の階層へと向かえないケースだって多いのだ。その為、拠点は必然的に最前線に移動させるものだと認識してもいい。

 

 一応、抜け道はあるのだが、それでも最前線にいるのが活動しやすいのは事実だ。

 

 そういう訳で5層から10層へと帰還した。そこにモリアーティーが待ち構えている。座布団の上で胡坐をかきながらちゃぶ台に急須とお茶を置いて。畳張りの床に武家屋敷風の建築は、どうもリアルを思い出してしまう。

 

「相変わらず落ち着かないかい?」

 

「リアルを思い出してな……なるべく早く違う層へ行きたいな」

 

 溜息を吐きながらモリアーティーの反対側の座布団に座る。無論、思い出すのはご老公の方々の事だ。あの方々は何というか―――形容しがたい。それだけに尽きる。それはともあれ、座布団の上に足を崩して座りながら、茶に手を出す。

 

「不味い」

 

「私が淹れたからネ!」

 

「お前を相手する度に毎回不味いモンを飲まされてる気がするわ」

 

「それでも飲むんだ……」

 

 勿体ないし……。そうつぶやきながらアホみたいに渋い茶を喉に通す。美味いものばかりを食っていると舌が馬鹿になるし、こういうものも偶には悪くはない。そう思いながら飲み進めて行く。逢瀬を終わらせて賢者タイムに入っている今、大体の事であれば許せる気持ちだった。

 

 それはともかく、

 

「で、態々逢瀬が終わってから呼び出してくれたんだ……なにかあるんだろう?」

 

「うん……まぁ、正直君の力を借りてさっくりと終わらせたい案件かな」

 

「ふむ」

 

 モリアーティーへと視線を向けて、言葉の続きを促す。それを受けてモリアーティーはどうするかなぁ、と呟く。その姿は第1層に居た頃とは違い、紳士風の服装となっており、その口調や胡散臭い言葉遣いと合わせ、似非紳士っぽさが前よりも遥かに強くなっている。流石にモリアーティーの名を冠するだけはある。

 

「実はねぇ……ベオウルフくん、ちょっと、クエストに興味ないかナ?」

 

「ない」

 

「うん、そこでないって言われたら困るから嘘でもあるって言って欲しかった」

 

「ある」

 

「よし来た!」

 

 良くもまぁ、そんなに饒舌でいられるよなぁ、とモリアーティーのマシンガンをトークを半分聞き流しながら耳を傾ける。正直自分はそこまでフリートークで喋る自信はない。それはそれとして、モリアーティーがそこそこ真面目そうな雰囲気を出す為、真面目に聞く態勢を整えておく。それを見て数秒待ったモリアーティーが茶で喉を潤してから話を始める。

 

「……どこぞの馬鹿が大規模なイベントトリガーを引いた」

 

「ほう」

 

「それも10層の主街区を目標としたスタンピードだ。どうやら実行犯はPoHに心酔する一派の出だったらしいね」

 

「ケジメは」

 

「PoH本人が付けてきたから流しておいたよ。彼方としてもスタンピードイベントを引き当てるつもりはなかったんだろうネェー」

 

「……ま、だろうな」

 

 スタンピードイベント。

 

 またの名を大襲撃イベント。良くネットゲームに存在する拠点防衛イベントで、ボスを討伐するまで無限湧きする雑魚を殺して経験値とアイテムとスコアを稼ぐという催しだ。無論、SAOにもそんなイベントらしき存在はあり、小規模ながらクエストという形で存在するが、基本的に命が何よりも大事なSAOではそれが忌避されている。

 

 街が一つ消える可能性があるのだから当然と言えば当然だ。その損害は計り知れない。プレイヤーが敗北すれば自動的な死となるし、最前線の街が消失すればそれだけ攻略が遅れるだろうという事実もある。リターンは間違いなくあるが、それ以前にリスクが高すぎて話にならないというのも事実だ。それに相手はデータの塊だ。

 

「やる気でない?」

 

「でない」

 

「そっかー」

 

「闘技場のチャンピオンをぶち殺せ、とかだったらまだやる気が出るけどな」

 

 経験値やドロップが美味しくても、データの塊を相手にし続けるのは何をどう足掻いても勝てるのでそこまで……という気持ちだった。いや、確かにレベルが30以上差があると攻撃でダメージが極端に減り、自然回復分で相殺されて永遠に回避し続けてダメージが発生しないというゲーム特有の悲し過ぎる状況になるのだが。というかそれをダークエルフの女王を襲った時に学習した。だからまぁ、最近は武器とかレベルとかもそこそこ意識する様になったのだが、それでも安全マージンは確保していない。

 

「というか俺がいなくても善意のクエスター諸君がどうにかしてくれるだろう?」

 

「私としてはそこらへん、あまり信用していないのだよ。確かに今のSAOのプレイヤーはかなり勢いに乗っているし、DKBとかそこそこ使えるのは台頭してきた。だけどね、連中は根本的に()()()なのだよ、ベオウルフ君。彼らは一般人であり、庇護される側の存在なのだよ。だから完全なる死を前にした瞬間、彼らの勇み足は停止するだろうね。そうなると今の大規模な攻略体制は崩れるだろう」

 

 モリアーティーはそう言うとうーん、と呟き、

 

「そうだね、3日から4日で攻略ペースだろう、今は? これが大体1週間から10日に1層ぐらいのペースに落ちると私は計算しているヨ」

 

 今のペースでも一ヶ月で大体10層を攻略する勢いだ。このペースで続けた場合、約1年で100層へと到達できる計算になってくる。だが無論、不確定要素やプレイヤーにも休息や飽きが来る。同時に()()S()A()O()()()()()()()()()()()と思う連中も出てくるだろう。それを加味すれば攻略ペースはさらに+3~4か月すると考えても良い。この場合、1年と数か月で全行程の完了となるだろう。

 

 だけどこれが1週間に1層、というペースとなると全行程を行う時間が最低で2倍に増える。いや、大規模な脱落が発生しているのだから、更に遅くなるだろう。雑に計算して進行にかかる時間は2.5倍―――俺がルール破りをしてボス単独を撃破を繰り返したとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と計算できる。

 

 そうなった場合、おそらくはゲーム内で状況を楽しんでいる茅場晶彦を殺して脱出するのが手っ取り早いだろうが、それは最終手段であり、最も取りたくない手段だとモリアーティーが告げていた。茅場晶彦を殺すと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 どれだけSAOで人を殺しても、茅場晶彦が無事であれば()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「君という鬼札は()()()()()()()()()()からネ! 今はまだ私が好きに使えるジョーカーなんだよ」

 

「まぁ、ユウキとアスナを除いて、俺の顔を見たグリーンは皆殺しにしているからな」

 

 服装もここまで来てほとんど変化はない。素肌の上からパーカージャケットという恰好で、パーカーを被って顔を隠している。これに心意を使用すれば誰も顔を認識する事が出来ない。する必要もない。覚えなくても良い。見られた所で殺すのだが。それはそれとして、

 

「気が乗らないな……」

 

 モリアーティーの懸念するところは解るが、それでも俺じゃなくても別にいいだろう、という思いはある。その上、こんな大型イベントで活躍して見ろ―――間違いなく顔と名前を覚えられるではないか。俺は誰かを助けるつもりなんて欠片もない。結果としてそうなるだけであり、基本的には自分本位に動いているだけだ。

 

「俺は俺に対して利益が出るから従っているだけだぞ、モリアーティー」

 

「勿論、それは重々承知さ。だから今回も君が気に入りそうな餌を用意したよ」

 

「女は間に合っているぞ」

 

 アスナとユウキで女に関しては十分満足している。アスナも元が良いのか、下品ではない淫靡さをどんどん習得しているし、ユウキもあの涙ぐましい抵抗が実に面白い。何より、女なんてその気になればどれだけでも連れてこられるんだ。良い女で少し食いつかれたのなら、適当な女を犯して殺せばいい。俺の容姿であればそれこそ果物を皿から取る様に食えるだろう。

 

 だけどそれを理解してか、モリアーティーは解っている、解っている、と声を置く。

 

「最近、めきめきと実力をつけて来たプレイヤーの情報は知りたくはないかナ? 才能や素質を見せるプレイヤー―――明らかにリアルで何らかの武芸を嗜んでいたと解るプレイヤー。君としてはそういう連中の情報が今は一番欲しいんじゃないかナ? ン? 無論、君の為に仕入れているともサ!」

 

「む」

 

「そして当然ながら彼らの耳に届く様に話を進めるからイベントに参加してくるだろうナー!」

 

「むむ」

 

「オレンジで会えば即座に戦闘になるだろうけど、グリーンで会えればお話ししたり、つまみ食いも出来るんじゃないかな! 悪感情なしでネ!」

 

「……」

 

 モリアーティーの言葉に数瞬黙って腕を組むと、和装の鬼が出現した。どうやら茶菓子を運んできてくれたらしい。新しい茶も淹れてくれ、それを試しに飲んでみるとモリアーティーの淹れたそれよりも遥かに美味しく、満足できるものだった。ふと、茶で喉を潤し、茶菓子を口に入れて食欲を満たしながら、

 

 最初に出してきた糞不味い茶がこの時、この交渉の場で満足感を与える為の物だったとしたら、交渉するのが馬鹿らしい相手だよな、と思わなくもない。

 

 まぁ、いいか、と呟く。

 

「使われてやる」

 

「やぁ、やぁ、やはり持つべきものは理解してくれる手駒だヨ。というか君との交渉は地味に心臓が辛いんだよネ。理には適っていても根本的に気に入らなきゃ君、殺しに行くでしょ」

 

「だからPoHを殺そうとしたしな」

 

 1層でPoHにモリアーティーを殺さないかと誘われた時は実にテンションが上がってしまった。俺にそんな恥知らずの事を誘ってくる屑がいるとは思いもしなかったし、その話が欠片も通るとは思わずに挑発する為だけに話しかけてくる奴がいるとは思わなかった。しかもあの男、煽るだけ煽ったらそのまま逃亡して生き延びた。

 

 断言する、あの男は絶対的な害悪だ。

 

 だけど同時に面白い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()タイプだ。寧ろ味方にしたら何時裏切られるのかを監視しなきゃいけない分、手間が増えて面倒だ。割り切って敵として楽しむのが一番だ。だからPoHとはラインを繋いでいるだけで、究極的には敵対関係にある。

 

「本当にそこらへん、理屈が通じないネ、君は」

 

「あえてそこらへん投げ捨てているからな。ある程度理性は投げ捨てたほうが全体的に楽しめる……」

 

 呟きながら美味い方の茶を飲む。それにしてもさっきの茶を運んできた鬼、そこそこ可愛かったし後で襲うか、と考えながら軽く息を吐く。モリアーティーの言葉は参加しろ、ってだけで活躍しろとも何とも言っていないし、そもそもそこまでの活躍に期待してはいないのだろう。こっそりと参加して、破滅的な一線を超えない様に予防線として出陣して欲しいという程度の考えだろう。

 

 本気で暴れまわって蹂躙しろ、と言われたら困るところだったが―――これぐらいなら特に問題はない。

 

「……となると、一旦俺の状態をグリーンに戻さないと駄目だな」

 

「そうだね、5層でのカルマリセットクエストを行って一旦グリーンに戻す必要があるけど……地味に君、初めてじゃない? SAO始まってからは」

 

「うむ。今まで充実したオレンジライフだった」

 

 だけど連続オレンジ記録もここまでかなぁ、と思ってしまうと少々悲しみを覚える。まぁ、でも、どうせスタンピードが終われば適当に誰かをぶち殺して再びオレンジに戻ればいいのだから、問題はない。

 

 そんな事を考えながら面倒の予感に、少しだけ頭痛を覚えた。




 主人公補正とはプラスであり、マイナスでもある。

 主人公がいなければ助からない者がいるだろう。だけど逆に主人公がいなければ発生しなかった悲劇もある。あいつがいるから、あいつが活躍する為には、その為には何らかのイベントや事故が必要である。これもまた主人公の物語を彩る為の補正である。

 即ち、黒いのが死ねばもっと全体的に平和になる。最終的にキリト☆アイで魔王カヤバーンを見抜いて倒さないと詰みだけどね。それはそれとして、殺意の高い連中が続々とエントリー予定だ!!
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