※この作品はR-18です。

Hollow Beast   作:てんぞー

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英雄の産声 Ⅱ

 SAOにはグリーン、オレンジ、レッドという区分が存在する。

 

 グリーンが所謂一般プレイヤー。彼らはルールや法を守っているプレイヤーであり、通常のプレイの範疇から飛び出していないプレイヤーだ。つまりまだ犯罪を犯していないプレイヤーになる。厳密に言えばゲーム内における犯罪行為である。無論現実でやれば犯罪ではあるが、ゲーム内であればただのペナルティ行為扱いされる。そしてこれを行ったプレイヤーを、行った証として変質したカーソルの色になぞらえてオレンジと呼称する。何らかの理由で犯罪行為を犯したプレイヤー、或いは自分の意思で他のプレイヤーへの攻撃や略奪行為を行ったプレイヤーになる。

 

 そしてレッド。これは色を示すのではなく、オレンジプレイヤーの中でも特に殺人を行う者たちの事を示す言葉である。カーソルの色に変化はないが、殺人を繰り返した事から赤く血の色にカーソルが染まっていると言い、レッドと呼ぶのだ。これが大きく分けて三種類のSAOにおけるプレイヤーの種別だ。餌と獣と獣だ。

 

 さて、このグリーンからオレンジへの変異は一方通行に思えるが、そんな事はない。一度PKしてしまったプレイヤーが一生PKのままだなんてとんだクソゲーでしかないからだ。当然ながら、一回PKした程度で或いは百回PKしたところで手遅れになる様なネットゲームは存在しない。SAOもちゃんと、そこには救済手段を残しているのだ。それをカルマリセットクエストと呼ぶ。

 

 つまりはクエストを達成する事によってカルマ値をリセットし、再びグリーンプレイヤーとして活動できるようにするクエストだ。今のところ発見されているのは第5層の一つだけではあるが、それ以外にも上層でカルマリセットを行えそうなのは、NPCからの会話で判明している。

 

 他のクエストはともかく、現在10層までが攻略されているSAOでカルマのリセットを行い、再びグリーンプレイヤーに戻るには5層でカルマをリセットするクエストを受注しなくてはならない。このクエストは勿論、回数制限が存在したり、難易度もそれなりに高くなっている。そうでないとオレンジとグリーンの間を行き来する連中が出現するし、完全に野放しにすると世界観が壊れるからだ。とはいえ、改心の機会も必要だ。故にこういう高難易度クエストとして設置されている。

 

 普通に攻略されたり利用されたりするのも腹が立つ、という運営側の悪意が地味にだが見えるこのクエスト、レベルが30もあるエネミーNPCを殺害せずに無力化し、その上で反省を促さないといけないという面倒なクエストであり、しかも受注条件がグリーンのプレイヤーとパーティーを組んでいる状態であり、同じ人物がクエスト中に協力し、最後まで無事でいる事も条件なのだ。

 

 まずSAOにおける安全なレベルマージンとは階層+10レベルになる。つまり5層時点での安全マージンは15であり、このクエストではその二倍の数値を要求している。その上でオレンジプレイヤーがグリーンの協力者を得るのは非常に難しい。これに加えてクエストそのものが隠す様に存在しているというのも面倒な部分で、クエストの敵対先が5層の拠点を利用させてくれるマフィアの下っ端、という地味に良心を刺激してくる内容でもある。そんな訳で5層到達時点ではクソという言葉で評価できる難易度のクエストになっている。

 

 

♦

 

 

「お疲れ様、これで晴れてグリーンね」

 

「あぁ、面倒なだけだったな」

 

 とはいえ、最初から手札が揃っていれば余裕だった。

 

 やったね、と言いながら腕に抱きついてくるのは自分よりも背の低い少女の姿―――ボス報酬として得た血の様に赤いフード付きの外套を装備して、腰にレイピアを装着したアスナの姿だ。彼女はまだ犯罪に手を出していない為、堂々のグリーンプレイヤーとして協力させられるし、戦力としてもカウントできる程度には強くなってきた。その為、アスナを呼びつけてさっくりとカルマクエストを完了させた。

 

 今はそれを終わらせたばかりで、第5層の主街区カルルカンに報告したばかりの所だった。何が嬉しいのかは一切理解できないが、アスナは片腕に嬉しそうに抱き着きながら体を寄せていた。どれだけ鍛えようとも、体の感触は変わらない。腕に抱きつき、寄せてくる身は服越しに柔らかさが伝わり、報告を終えて遺跡の様な街に出た所で、周辺からアスナを連れる此方に対して嫉妬の視線が見える。故に見える嫉妬の視線を無視し、道路の端で煙草を口に咥えて、アスナをそのままにさせる。

 

 これで面倒な前提条件が終わった。

 

「ふぅ―――これで、後はスタンピードの参加クエストに参加するだけだな」

 

「出現モンスターはレベルが最低で4~5上昇した状態、だけど大量出現する事を考慮してHP自体は通常の半分以下にまで減っているらしいね。防御力も大幅に減ってるって。その代わりに数が凄まじいって事だけど」

 

「大量出現するクエストってならそれぐらいの調整してくれなきゃただのクソゲーだろうな……まぁ、統率者は違うんだろうがな」

 

「まぁ、絶対にボスはユニークの類でレイド前提よね」

 

 10層のレベル+5と考えるとモンスターのレベル平均は15から16程度だ。そこに安全マージンを計算すればレベルが最低で25は欲しくなってくる。最前線で生活時間を攻略に捧げている超廃人攻略プレイヤーであればその上にさらに10レベルぐらい重ねて、34レベルぐらいは到達しているだろうが、これは全体から見た1%程度のレベルだろう。数としてもおそらくは数百人以下だ。

 

 よほど突出した才能と実力の持ち主が混ざりでもしないしない限り、容易く崩壊する未来が見える。とはいえ、自分やPoHの様な一線を越えた怪物がこのSAOには存在している。流石に、これで最後だとは思えない。偶に聞く話には妙な活躍を行うプレイヤーなども聞く。それらが事実ならまだ、きっと、どこかに英雄級の怪物が隠れているはずだ。

 

「まぁ、そこまで焦る必要もないか。クエスト登録ついでに散歩に連れて行ってやる」

 

「そこで絶対にデートって言わない辺り流石だよね、ベオ君は」

 

 煙草を取り、それを落として踏みつけて消しながら当然だろう? とアスナに向けて笑みを向けた。

 

「俺と対等になっただなんて夢を見せて少しでも落胆させたくないだろう? お前は俺の所有物で、楽しませるためのもんなんだから、俺がお前を引きずり回すのは畜生の散歩であり、娯楽だ。デートになる訳ないだろう」

 

「うん。そのブレない畜生さ、私好きだよ」

 

 アスナを腕に抱きつかせたまま、転移門へと向かって歩く。この女もこの女で、依存症を突き抜けている部分があるな、と思いつつ、確かに芸に精通していて中々面白い女なので捨てても殺してもいない。端的に言えば、日常的な部分で自分を満足させるには十分な女だったのだ。

 

 ともあれ、転移門に到達する。これはプレイヤーが利用する事で同じくアクティベートされた転移門であればアインクラッド内のどこへでも一瞬で行けるという装置だ。無論、それが町中にあるという性質上、利用できるのはグリーンのプレイヤーだけであり、通常プレイにおける最大の利点とも言える。

 

 これが利用できない場合、自力で次の層や前の層へと移動させられる羽目になるのだ、オレンジプレイヤーは《盗賊の抜け道》と呼ばれる、オレンジ用の専用移動手段もあるにはあるのだが、それでも迷宮区や主要都市へと一瞬で移動する事を可能とする転移門の利便さには負ける。何せ、目の前に立って行き先を指定するだけで一瞬で移動できるのだから。そしてグリーンへと戻った今、これを遠慮なく利用できる。

 

 そのまま、10層主街区へと移動する。

 

 犯罪拠点の鬼の里はどちらかというと忍者の里の様な感じが強い。だがそれと変わって此方は侍が支配する領域で、古都、という言葉が似合っている。京都とか、そういうイメージが強い。水路が町中を走り、そこを木船が抜けて行き、木造建築が多く見え、奥には城がある。

 

 こっちに乗り込んでみるのは地味に初めてだった。モリアーティー構想の《存在しない者共の集まり(ヴォイド・コミュニティ)》が構築されて行く中で、初期の頃は足りなかった状況が今では満たされ始めているからだ。とはいえ、楽しみはある。

 

 アスナを抱きつかせたまま、町中を歩く。

 

「装備や服装が変わって来たな」

 

「うん、なんだかんだで皆RPとか好きだからね。職人もこの街に来ることで和風装備の作成解禁クエストとかできるらしいし……そういう装備、ベオ君は興味ある?」

 

「まぁ、ないと言えば嘘だな」

 

 そこらへん、男の子なので甲冑とか刀は無論大好きでもある。とはいえ、武器は壊す事前提で使い捨てているから職人の作ったマスターピースを使う事なんてないし、防具に関しても基本的にはこ(・)こ(・)に(・)来(・)る(・)ま(・)で(・)敵(・)の(・)攻(・)撃(・)を(・)全(・)て(・)回(・)避(・)しているので、これ以上必要としていないというのも事実だ。

 

「どうする? ベオ君お金に余裕があるでしょ? 少しは買い物して回らない?」

 

「……まぁ、いいか」

 

「やったっ」

 

 ガッツポーズをとるとアスナが機嫌良さそうに此方の腕を引きながら街を進んで行く。名前を憶えてもいない10層の主街区ではあるが、これだけではなく、それぞれの主街区にはフリーマーケットエリアが存在する。巨大な公園の様なエリアではプレイヤーが自由に露店やワゴンによる屋台を開き、そこで簡易的な商売を行う事が出来るのだ。どんなMMOにも存在する基本的なシステムだ。どうやらアスナはそれが行われている広場へと此方を連れ去っているらしい。

 

 まぁ、飼い犬にリードを引かれるのは良くある事だと納得しつつ、連れられるままに移動する。

 

 そうやってアスナに引きられ連れてこられた公園はかなり広く、そして多くのプレイヤーの姿が見えた。入り口から覗き込むだけでも百人を余裕で超える規模が見え、奥へと行けばさらにその数は増えるだろうというのが解る。凄まじいまでの活気はSAOというゲームが今、最盛期を迎えているという事に対する証でもあった。それをみて、モリアーティーの懸念を理解する。

 

 確かに、イベントでこの街が崩壊すれば、ここにいる活気が死滅するようなものだ。

 

 プレイヤーが減れば需要と供給が減り、それだけ動きが遅くなり、攻略のペースが落ちる。これは致命的だ。狩りで遊ぶにしてもまずは狩場を整える必要がある―――遊び場の手入れは欠かしてはならない。それで痛い目に合うのは自分なのだから。

 

 そこらへんPoHは解っていない様に思える。いや、解って無視している狂人か。

 

「やっぱり流石カグラのフリマね……出ている装備が和風ばかりね」

 

「大衆ってのは常に話題性と真新しさに弱いもんだからな……かく言う俺も楽しみじゃないかと言えば嘘になるな」

 

 何時になっても新しいマップ、モンスター、装備の邂逅はゲーマーの心をくすぐるものだ。地味にゲームを終わらせた後でアイテムを集めて、そのフレーバーテキストを読むのも楽しみにしている。そんな事でアスナを散歩させつつ、フリーマーケットで販売されている装備品を見る。

 

「安いよー! 安いよー! 要求値が低いコスプレ用装備だよー!」

 

「こっちは最前線の攻略組でも使用できるレベルの装備だよー!」

 

「刀! 刀を売ってるぞー! 《曲刀》から派生した《刀》スキルはもう取ったかー!?」

 

「ここに最強の盾と最強の矛がある! だが勝つのは俺の拳だ!!!」

 

 意味の解らないのも時折混じっているが、これが人が増えた事により得る猥雑さ、それが嫌いではなかった。大地にマットを敷いて開かれている露店が販売しているのは装備ばかりではなく、素材専門や、或いはサービス系統の露店まで存在していた。どこからともなく聞こえてくる演奏は、そういう系統のプレイヤーが演奏で収入を得ているのだろう。

 

 需要と供給だ。

 

 戦(・)闘(・)だ(・)け(・)で(・)は(・)生(・)き(・)て(・)い(・)け(・)な(・)い(・)。

 

 つまり使命感だけでは長続きしないのだ。戦闘そのものが楽しいと言える人間であれば別だが、SAOの攻略は常に死のリスクが付きまとう。モンスターハウスなどによる事故死だって常に存在し、犠牲者だって発生している。人間、どこかで休まないと絶対に躓いてしまう。今は1層を無傷で乗り切った勢いと、ボス戦で犠牲者が出ていないという事実で押し切っているが、これも永遠に続くわけではないだろう。そして同時に、戦闘するプレイヤーがそれだけで生きていける訳じゃない。

 

 戦う日があれば休みたい日もあるし、遊びたい日だって。

 

 そうなると本来であればこの状況、見向きもされない《料理》や《執筆》等の趣味の色が強いスキルが輝いてくる。そういう物の需要は人(・)が(・)余(・)裕(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)発(・)生(・)す(・)る(・)、とはモリアーティーの言葉であった。逆に言えば今のペースは心に余裕があるという事の証拠でもあり、だからこそ遊びの色を持つスキルやサービスにも需要が存在する。

 

 これで1層の攻略で犠牲者が生み出され、空気が悪くなったり攻略が遅れ始めたりしたら、前線には素早く攻略しなくてはならない、という空気が生み出されて心から余裕が消えてくる。そうなってくるとこういうサービス系統も需要が減り始め、必然的に生活の為に別の事に手を出さなくてはならなくなる。

 

 需要と多様性はそれ自体が状況の余裕のあるなしを現す物でもある、とモリアーティーは口にしていた。そして多様性の中に悪用出来る所を見つけ、そこに付け込むのが犯罪者のビジネスでもある。つまり余裕があり、多様性が存在する状況こそが一番おいしい状態なのだと言っていたのだ。だからこそ常に全体の状況は余裕があるのがいい。余裕がなくなって必死になると、守る事にも必死になり、必然的に攻撃的になってやり辛くなるものだ。

 

 だからなるべく、今の状況とペースを守る。利益、趣味、そして最終的な脱出というゴール。この全てを見据えた上での判断だ。

 

「あ、付け耳」

 

「姉ちゃん目の付け所がいいねぇ。知ってるかい? SAOにおけるこういうコスプレ装備は違和感なくくっつく様に出来ているんだぜ? 軽く染色すれば髪色と一緒に耳の色を染められるしな、本当にそういう種族かの様に見せる事だってできる……ちなみに付け尻尾には通常型とアナルプラグ型があるぜ」

 

 アスナがみていた露店の店主がサムズアップを見せながら自分の装着している耳と、ズボンの隙間から出して揺れる尻尾を見せる。まるで生きているかのように動いている尻尾は確かに、本物の様に見える。

 

「ちなみに俺が装備しているのはアナルプラグ型だ」

 

「次へ行こう」

 

「買います」

 

 そうか……買うのか……。アスナが幾つかのバリエーションを購入するのを見つつ、俺を楽しませるという意味では成功しているしこれはこれでいいのでは? とは思わなくもない。それはそれとして、今の露店の様に何をトチ狂ったのか、と思わなくもない露店は他にもある。こういうのを探すのも一つ、超リアル型のVRMMOでしかできない楽しみなのかもしれない。

 

 今まで犯罪拠点で活動していた為、地味にこういう場所には来てなかった。それだけに楽しく感じるものがある。

 

「はいはーい、手裏剣各種揃えていますよー!」

 

「む、出来がいいな、これは《手裏剣術》に使えそうだな……店主=サン、店にある手裏剣全てを売ってくれ」

 

「ま、まいどっ!?」

 

 聞こえてくる会話だけでも中々愉快に感じる。こうなってくると地味に自分の為にも何か用意したくなってくるのが人情というものだ。今までは洋風の恰好だったが、ここは昔を思い出して和服を入手しておくのも悪くはなさそうだ―――実際、ここは和風エリアなのだから。とはいえ、アバターはリアルを反映して褐色肌にしてしまっている。そこらへん、似合うものを探すのは骨が折れそうだと思う。

 

 そんな事を考えながら広い空間を眺めていると、

 

「お、アスナじゃねーか! おーい!」

 

 と、声をかけてくる男の声がした。あら、というアスナの声に振り返りながら声の方へと視線を向ければ、バンダナを頭に巻いた、甲冑と和服を融合させたような恰好をした男の姿が見えた―――才能はないが、それでもなんらかの英雄としての資質を感じさせる男の姿を前に少しだけ興味が沸く。

 

「あら、クラインじゃない……あ、念願の甲冑装備を手に入れたんだ」

 

「そうなんだよ! 《刀》スキルの存在を知ってからずっと刀と一緒に装備したかったんだけどな、漸くここにきて揃ったぜ……で、所でそこにいる彼ってもしかしてこれか?」

 

 にやにやと笑みを浮かべながらクラインと呼ばれたバンダナの男が小指を持ち上げる。何とも古いイントネーションだが、悪い男ではないらしく、苦笑が漏れ出す。男には邪気や悪意の類、気配が一切存在しなかった―――というか寄ってこない、というタイプだ。接しているうちに毒気が抜けて行くそういう才能の持ち主か、と察する。

 

「そうそう、私の大(・)事(・)な人でベオウルフ君……私はベオ君、って呼んでるけどね」

 

 そこで彼氏、とか言い出さない辺り、弁えているのが実に好ましい。だから話を合わせながら片手をあげて挨拶をする。

 

「俺の方が年上なんだけどな……よろしく、クライン」

 

「おう、宜しくベオウルフ、俺は聞いたかもしれないけどクラインってのだ。しっかし、まぁ、お前も運の良い奴だよなぁ、こんな美女を手に入れてよぉ! あー……俺もロマンスしてぇー……」

 

 悪いがやったのはロマンスではなくバイオレンスとセックスなんだ、とはこの状況では言えない。あぁ、そうか、グリーンである間は言動とかもある程度考えた発言しないといけないのは自由の対価としては面倒だな、とは思わなくもない。

 

 無精髭を掻きながら、クラインがんで、と声を置く。

 

「二人そろってデート、ってところか?」

 

「ま、ちょっとした散歩という所ね。面白いものが並んでいるし……ベオ君はどう?」

 

「ん? そうだな……個人的に和服が欲しいな。とはいえこんな肌色だからな、どんなのを選べば……ってのもある」

 

 成程なぁ、とクラインは呟きつつ、そうだな、口を動かす。

 

「たぶんお前さんに合うのは白だと思うぜ」

 

「……白?」

 

「おう。このSAOのシステムは服の汚れとかを細かく再現してくれないからな。黒髪に褐色つったらそりゃあもう白をメインにするしかねぇわな。汚れないSAOの事を考えれば白色でも汚れずに着続けられるんだよ。だから肌の色とマッチングさせるために白だな。後はそれに合わせて帯は濃紺がいい、ってところか? さっきちょい良いところがあったからな、案内してやるよ!」

 

 そう言うとクラインが胸を張りながら案内しだした。その姿を見ながらアスナが苦笑し、此方へと視線を向けて来た。

 

「悪い人じゃないでしょう?」

 

「そうだな……ただ、ああいう毒気を抜かれるタイプは個人的に苦手だ」

 

 なんか、こう、根本的な戦意が自分の中から抜け落ちて行く。悪い事をしようって気持ちがなくなるというか、やる気をなくす。やはり才能とでも表現すべきだろう、アレは。自分の周りにそういう空気を作るのが上手だ。

 

 まぁ、善意を無理に蹴り飛ばす必要もないし、毒気を抜かれたまま、クラインに付いて行き、勧められた店を確かめる。

 

 そこに売られていたのは白に薄い金の紋様が描かれた着流しであり、それに合わせ青い帯が用意されている。それに合わせ、濃紺の羽織も用意されていた。軽く褐色の腕を伸ばし、色を並びてみたが成程、確かに悪くはないと思えた。折角のゲームなんだし、こういう方面でも少しは楽しむか、と購入を即決する。それを見届けたクラインが、

 

「じゃ、これ以上お二人のデートを邪魔しても悪いからな、前線で会ったら協力しようぜ、じゃあな!」

 

 本当にそれだけで去っていった。紹介に金を貰う訳でもなく、何かを探る訳でもなく、100%の善意で声をかけて紹介して去って行く。今時、天然記念物レベルで珍しい善玉だな、と軽く頭を抱えそうになる。ああいうのは究極的に長生きしない筈だ。何せ、困っている人間を見捨てて自分だけ生き残るという選択肢が出来ないからだ。それでも生き残ったとしたら―――まぁ、今はその善意に負けて、先の事を考えるのは止めよう。

 

「とりあえず購入して着替えるか……流石に靴はブーツのままだな」

 

「下駄とかだと戦い辛いからね」

 

 何が楽しいかは全くわからないが、ご機嫌のアスナに腕を絡ませることを許しつつ、適当に歩いて、他に並んでいるものを見る事にする。幸い、基本的にはモリアーティーから必要な道具は支給されている為、お金は有り余っている。偶の散財も悪い事ではないだろうと思いながら足を進める。

 

 

♦

 

 

 露店が並ぶ大広場を抜けて公園の奥へと進めば、今度は大道芸などをやっているのが見える場所へと出てくる。露店広場に響いていた音楽もここから流れているようで、吟遊詩人の様な恰好をした少女がリュートを手に、街中に音楽を響かせていた。その内容は……聞いたことがない。おそらくは俺が知らないのか、或いはここに来てからオリジナルで作曲したのだろう。後者だとしたら尊敬に値する行為ではある。

 

 だがそんな真っ当な芸の他には面白いものが並んでいたりする。懐かしすぎる燃焼系の体操とか、そのネタの通じる世代ってもう30台に突入してないか……? と思わなくもない。

 

 地味に心へのダメージが大きい。

 

 そんな中で、広場の奥で目を引く光景があった。軽い人込みが出来上がっている中で、良く響く声が聞こえてくる。

 

「―――さぁ、さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 此方におわすはなんと、現在PvP記録134戦134勝の槍使いモンジ! その強さには種も仕掛けもない! そんな決闘王モンジと対戦する勇敢なプレイヤーを募集中だ!」

 

 そんな声が聞こえる。面白そうな気配についつい足がそちらの方へと向かってしまい、アスナを若干引きずる様な形で人込みに混ざる。

 

「え? そんなに強いのと戦いたくない? 無論、ただの勝負って訳じゃないのさ……ここにいる決闘王モンジとは二種類の勝負が挑めるぞ! 三分以内にモンジに一発入れればそれで即終了のルール、こっちは何とそれだけで10万コル獲得だ! そしてもう一つ、ハーフライン決着モードで勝てばな、なんと! 今まで稼いできた金の全て、359万コルをドドンとプレゼントだぁ―――!」

 

 人込みの向こう側に二人の男の姿が見えた。片方は紙で作ったメガホンで客寄せをやっている男で、少し背が低く、いかにも舎弟という言葉が似合いそうな雰囲気を持っている奴だった。こいつは問題外、完全な雑魚だった。才能も可能性も持っていない。それを見ただけで理解できる。だがその横―――槍を持った方の男は違う。

 

 ハルバードを大地に突き刺してそれに寄り掛かる男の気配には隙が無かった。その意識は常に外側へ、死角を潰す様に行われており、どんな奇襲にも対応できるようになっている。その上で右手にはハルバードを、左手には短い鉄棒を握っているのが見えた。重心の置き方から大体だが、実力が見えてくる。

 

 これ、普通にリアルで鍛えこんでいたタイプだな、と。

 

 服装もハルバードを握らない左手、そして両足を覆うようにプレート装備で覆いながら、体の方は布製の防具で関節部を特に動かしやすくしている。ただこの恰好だけでは流派やどこ出身の武家かは見えてこないが、それでも空気や気配が違う。僅かにだがその視線が此方へと向けられた気がする。

 

 金髪の槍使い……覚えておく必要があるかもしれない。

 

 そんな事を考えている間に人込みをかき分けながら出てくる姿が見えた。

 

「よーし! だったら俺が相手をするぜ!」

 

 出てきたのは両手剣持ちのプレイヤーだった。フルプレートで身を固めたオーソドックスな騎士スタイル、流石にレベルは見ただけでは判別できないが、明らかにモンジと呼ばれた槍使いと比べれば格落ちする。

 

「これは負けるな」

 

「挑戦者の方が、でしょ?」

 

「解るのか?」

 

「すぐ横に基準がいるからね」

 

 言うじゃねぇか、と小さく笑みを浮かべながら挑戦者の姿を見た。

 

 ルールや掛け金の話が出てくる中で、このイベントがどうやら退屈せずに済みそうだという事実に気付き、笑みを浮かべた。

 

 場合によっては暴れる可能性が出て来た。




 主人公には活躍が必須である。敵が必要である。そして同時に周囲に匹敵する存在が邪魔である。主人公補正が途切れるという事はつまり、彼、或いは彼女に匹敵するか、それよりも強い存在の台頭を物語に許すという事でもある。

 つまりはモブが強くなるよ。後原作未開放ユニークも解放の方向で。
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