亜里沙は頬を真っ赤に染め、雪穂の家に急いだ。どうしてそんなに急いでいるのかと言うと。それは、絵里の艶かしい声と何かをぶつける音。それを聞いたからだ。男女の交際経験がない亜里沙でも、絵里が何をシテいるのか容易に判断出来る。
絵里が脱衣室へ向かった時、絵里の彼氏である慎が音を忍ばせ後ろについて行ったのを亜里沙は見ていた。亜里沙は好奇心で、二人が入って行った脱衣室へ向かう。あまり薄い扉ではないが、二人の会話が聞こえてきた。
「……ん、ちょっと」
絵里の甘ったるい声が聞こえ、次第にチュッチュッとキスをする音がした。亜里沙は、恥ずかしさでその場を離れたい衝動に刈られたが、足がすくんで動けない。そんな事など二人は知る筈もなく、浴室に入る。亜里沙は早鐘を打つ心臓を落ち着かせながら、脱衣室の扉を少しだけ開けた。そして後悔する。浴室からは絵里の喘ぐ声が響き、同時に慎の声が聞こえた。
「良いのか?亜里沙ちゃんに聞かれるけど」
その言葉に亜里沙の顔が真っ赤に染まる。絵里の喘ぐ声が小さくなると、今度はパンパンとナニかがぶつかる音が浴室から響き、絵里の掠れた声が響いた。
(……お姉ちゃん達、エッチしてる)
亜里沙は今にも噴火しそうな頭で、その場を離れた。真っ赤に染まった顔を、近くにあった雑誌で冷ます。しばらくして、慎が絵里を抱えて寝室に入るのを見た。亜里沙は、雑誌で顔を隠す。そこに慎が来た。
「亜里沙ちゃん、俺達お風呂上がったから」
「…………」
言葉が出ない亜里沙。
「もしかして、さっきの聞こえてた?」
慎が問う。亜里沙は雑誌から少し顔を出して、小さく頷く。
「ごめんな。本当は抑えようと思ったんだけど。どうしても衝動が抑えられなくてな」
気まずそうに頬を掻く慎。
「……あの」
「ん?どうした?」
亜里沙はゆっくりと雑誌を下ろし、慎を見つめる。
「彼氏さんにとってお姉ちゃんは特別なんですよね?」
「ああ、特別で大事な人だ。だから、プロポーズもした」
真剣な表情の慎。亜里沙は満面の笑みで慎を見る。
「私、今日は友人の家に泊まりますね」
その言葉に慎は何かを悟ったようだ。
「なんか悪いな。気を使わせて」
微かに笑う慎。絵里がいる寝室に向かう後ろ姿を見て、亜里沙はまた真っ赤に顔を染めた。寝室からは、絵里の声が時折聞こえ、亜里沙は声を掛けるタイミングを計る。そして、思い切って話し掛けた。絵里は掠れた声を抑えながら返事をしている。そして、亜里沙は退散するようにマンションを出た。
『花陽の食卓』
今日は定休日である。しかし、店内からは複数の話し声が聞こえ、賑わっていた。
「それで、今日は絵里と希来るの?」
真姫がその場にいた全員に聞く。店内にいたのは穂乃果、海未、ことり、花陽。にこ、雪穂、凜、そして、亜里沙である。
「多分、お姉ちゃん遅くなるかも」
真っ赤な表情で亜里沙が言う。雪穂も同様に頬を染めていた。
「……慎、一度、しっかり説教しとかないとね」
にこが溜め息混じりに言う。
「それ、聖君にもお願い出来るんかな?」
店の戸を開けながら、希が入ってきた。後ろには絵里の姿も。絵里の方は、少し疲れた表情だった。
「希、絵里。遅かったですね」
心配した表情で海未は言った。
「……もう始めてたの?」
「ええ、それより絵里。大丈夫ですか?顔色が良くないようですけど」
海未の言った通り、絵里の顔色は良くなかった。疲労感もあるのか、店内に入ると椅子に座る。
「慎君がね。朝まで絵里ちを抱いてたんやって」
「それじゃあ、絵里、一睡もしてないの?」
「そういう事やな」
にこの問いに希が答える。当の絵里は、座ったまま眠り始めていた。今の時刻はお昼前。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「う……ん、ちょっと眠たいわね」
「絵里ちゃん、こっちならゆっくり横になれるよ」
花陽がお座敷のテーブルを動かし、綺麗に座布団を敷き並べる。絵里は亜里沙に手を引かれ、そこに寝転んだ。そして、数秒も掛からず眠りに落ちる。みんなは絵里が眠るのを見届けると、一斉に溜め息をついた。
「……慎には、お灸を据える必要があるみたいですね」
「それは賛同するわ。慎には悪いけど」
海未と真姫が頷く。にこも同じ気持ちのようで頷いていた。穂乃果と凜は話が見えていない。二人して頭に?を幾つも浮かばせている。
「でも、彼氏さん。本当にお姉ちゃんが好きなんです」
亜里沙が唐突に話す。みんなは亜里沙を見た。
「うん、分かってるよ。だからこそ、ちゃんと慎君に話さないといけない事もあるんよ」
真剣な表情の希。亜里沙は小さく頷いていた。
「亜里沙ちゃんは、慎の生い立ちを話した事なかったから、今の状態が良くわからないわよね。絵里は話さないだろうし。どうする?」
「慎は、絵里と一緒になる覚悟はあるようですよ。先日、私にその話をしました。」
「まぁ二人のラブラブ見てたら、教えてもらわなくても分かるやん。近々結婚するのは目に見えてんやから、話してもええんやないの?」
希の言葉に、一度眠っている絵里を見る。スヤスヤと寝息をたてて絵里は起きそうな気配はない。みんなは顔を見合わせ、頷いた。
まだ眠そうな表情の絵里が、無言で身体を起こした。眠っていた時間は、二時間くらいか。みんなの方を見ると、丁度お昼ご飯の準備をしていた。
「っあ、絵里。起きたのですね。大丈夫ですか?」
絵里が起きた事に気付いた海未が言いながら近付く。
「……ええ、ごめんなさい。私も準備手伝わないといけないのに」
まだ身体をフラつかせながら、絵里が言う。
「絵里ちゃん、大丈夫だよ。みんなが手伝ってくれたから」
花陽がお茶を絵里に渡す。絵里はそのお茶を受け取り、ゆっくりと啜った。
「それよりお昼食べられる?」
「うん、食べられそう。みんなは?」
「今から食べるよ。ほら、絵里ちゃんこっちに座って」
花陽は希の横に絵里を座らせた。みんなが絵里を見つめる。
「お姉ちゃん」
「亜里沙、昨日はごめんね。今日はゆっくり話をしましょ?」
「うん」
絵里と亜里沙は微笑み合う。それをみんなが温かく見守っていた。
次回は……。何やらμ,sが計画してます。