μ,sの女子会から数日後。
慎は桂木プロダクションの一室にいた。部屋の中心には長テーブルを二つくっ付け、大きなテーブルにしている。そこに、慎と聖が無言でパイプ椅子に腰掛けていた。
「なぁ、聖。今日何で呼ばれたか知ってるか?」
「さぁ~、俺にもさっぱり分からないけど」
お互い、スマホを弄りながら会話をする二人。それから特に会話はなく、無言で時間だけが過ぎていく。一体、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。慎は壁に掛けてある時計を見る。長く感じていた時間。しかし、意外にも、まだ十五分位だった。慎は小さく溜め息をつく。それから数秒もしない内に部屋の扉をノックする音がした。
「はい、どうぞ」
聖が答える。ゆっくりと開かれた扉から、にこを始め、希、凜、海未、穂乃果、ことり、真姫、花陽の順で入ってくるμ,sのメンバー。そこには絵里の姿はない。少し遅れて、亜里沙と雪穂も入ってきた。慎と聖は咄嗟に椅子を立ち上がり、部屋の隅に逃げる。二人は女性が苦手なのだ。特定の女性以外は近寄るのを極力避けている。
「二人共、そこに座りなさい」
桂木プロダクションの社長であるにこが二人に言い放つ。慎と聖は怯えた表情で、さっきまで座っていた椅子にゆっくりと座る。女性陣は二人を囲むように立ったまま。聖は希を見た。視線を感じた希は、聖を見る。何かを言いたそうな表情で希を見ていた。いつもならすぐに希の側に行こうとする聖だったが、部屋に漂う暗い雰囲気に、じっとして他の女性達を観察している。
「さてと、話を始めましょうか」
声のトーンは明るめでにこが言う。その場にいた女性陣が小さく頷いた。男性は慎と聖のみ。そして、女性陣が一斉に慎と聖を見る。視線の多さに引く二人。
「聖はとりあえず後にして、慎。貴方に今日は話をするわ」
にこの表情が変化する。その表情は怒り。にこだけではない。そこにいる女性陣は皆、怒りの表情だ。
「……慎、どうして呼ばれたのか分かりますか?」
海未が言う。慎は無言で首を横に振った。
「貴方が呼ばれた理由は、絵里です。」
絵里の名に反応する慎。
「慎君、最近の絵里ちは疲労困憊や。その理由は分かるやろ?」
「……俺が無理させてるって言いたいのか?」
「そうや」
希の言葉に慎は睨んだ。今にも掴みかかりそうなオーラを纏う慎。すると、海未、真姫、にこが慎の前に立つ。慎は一瞬で壁に逃げた。すると、にこの不敵な笑み。海未と真姫はそれに少し呆れつつも、にこと同じ様に慎に近付く。慎は逃げ場を失い、ガタガタと身体を震わせている。
「……ゃめろ…、近付くな」
「それは却下」
そう言って、にこが慎の腕に触れた。次の瞬間。慎の全身に蕁麻疹が出る。呼吸も荒くなり、弱々しい。
「……俺が女性アレルギーなのを知ってんのに、どうしてこんな事するんだ」
「慎君、さっきも言ったんやけど。絵里ちの為なんよ。」
「……絵里の為?」
「そう。絵里ちの為」
慎の問いに希が頷く。他の女性陣も同じ様に頷く。
「絵里ち、自分の事より相手の事考えたり、素直やないんよ。μ,sに入る時もそうやった。本当はスクールアイドルしたいんに、自分の気持ちを押し込めて。今だってそうや。慎君の事ばかり考えて、正直身体しんどいはずやのに」
「……希もね」
真姫が希に視線を送る。言われて希は舌を出す。
「つまり『絵里の身体の事もう少し考えて』って言いたい訳よ」
「……分かった」
にこの補足的な話に、慎は素直に頷いた。そして、そこでようやく気付く。海未、真姫、にこ、凜、希以外の女性達に。
「……居酒屋の店員さんがいる。あと亜里沙ちゃんとお友達の雪穂ちゃん。それと二人は誰だ?」
慎の言葉に、みんなが目を丸くする。そして笑った。
「そう言えば言っていませんでしたね。私達は絵里の高校時代からの友人です。」
「……っええ!?」
「予想通りの反応やな」
慎の反応が面白いのか、みんなが笑っている。聖も驚いて、口をポカンと開けていた。
「自己紹介がまだでしたね。」
海未が視線を穂乃果に送る。それに気付いた穂乃果。満面の笑みで。
「高坂穂乃果だよ。雪穂は私の妹なんだ~」
「どうも、宜しくです」
元気な姉と対照的に、雪穂は冷めている。
「小泉花陽です。『花陽の食卓』の店長しています」
照れながら花陽が言った。
「南ことりです」
「……ことり、旧姓ですよ」
「っあ、そうだった。今は井元ことりなの。苗字が変わると言いにくいよぉ」
海未の指摘にことりが弱々しく嘆く。
「亜里沙の事は言わなくても大丈夫だよね?」
「絵里の妹だろ」
にこの問い掛けに慎は答えた。そこに絵里が宗次郎と入ってくる。
「……ちょっと、みんな」
絵里は部屋に入って驚いた。慎の全身に蕁麻疹が出る事に。
「慎、大丈夫なの?」
言いながら駆け寄ろうとする絵里。しかし、それは叶わない。それは希達によって、遮られたからだ。その行動に怪訝な表情の絵里。
「慎、約束して。今後、絵里に無理をさせないって。絵里は私達の大切な友達だから」
にこの真剣な表情。その言葉に、絵里は理解したようだ。慎の回答を待つ面々。慎は力強く頷き。
「約束する」
すると、希達はゆっくりと絵里と慎の間から離れる。絵里はすぐさま近寄り、慎の頬を撫でた。大人しく撫でられる慎。絵里が触れた所からゆっくりと蕁麻疹が薄れていく。それにはみんな驚いた。全身に出ていた蕁麻疹はゆっくりとだが、確実に薄れていく。しばらくして、慎の身体に出ていた蕁麻疹は治まり、慎は絵里に抱き付いた。
「……ところで、スクールアイドルって何だ?」
頭に?マークを浮かべ慎が絵里に尋ねる。一瞬、絵里の身体がピクリと反応。そして。
「……ふふ、今はヒミツ」
そう言った絵里の表情は妖艶だった。
ちょっと今回は短めでした。まぁ、これに懲りて、慎の性欲も少しは抑えられるでしょ……。恐らく。
でも、絵里の色気に当てられるでしょうけどね。