継母が逮捕されてから数日後
慎は実家がある福岡に来ていた。理由は父親に会う為である。閑静な住宅街に一ヶ所だけ大きな門と塀に囲まれたその場所が、慎の実家。慎は門の正面にタクシーを停め、門へ近寄る。
『お帰りなさい。慎お坊っちゃま』
インターホンのスピーカーから年配の女性の声がすると、それと同時に門の扉が開く。慎は無表情のまま中へと入っていった。
(相変わらず広いな、この庭は)
門から玄関の入り口まで数十メートル。ようやく玄関に辿り着くと、すでに一人の女性が慎を待っていた。
「慎お坊っちゃま」
「愛ちゃん、久しぶり。見ない間に老けたな」
「……その口振り、慎お坊っちゃまは相変わらずですね」
愛と呼ばれたその女性が呆れた表情で言う。年の頃は六十代くらいの少し小太りの女性。彼女はこの時田家の使用人である。
「愛ちゃんとゆっくり話したいんだけど、今は親父に用があるんだ。いるんだろ?」
「ええ、旦那様は書斎でお待ちしておりますよ」
「分かった。ありがとう」
慎は彼女に微笑むと、書斎に向かう。途中、彼女に向き直り。
「そうだ。あとで俺の部屋にいつもの持って来て」
「畏まりました」
慎の言葉に、彼女は恭しく頭を下げた。
慎は書斎の前で静かに深呼吸した。そして、ノックする。扉の向こうで父親の声がした。慎は部屋の中に入る。父親は大きな椅子に深々と座り、慎を待っていた。
「数日振りだな。元気にしていたか?」
父親が言う。
「ああ、お陰様で元気だ」
慎は頭を掻きながら部屋の真ん中に置かれている椅子に座る。父親と向かい合う形だ。
「絵里さんは?どうした?」
「絵里は仕事だよ。なかなか都合がつかなくて来れなかった」
「そうか」
父親は小さく溜め息をつく。慎はただ黙って父親を見つめた。父親は一度、目蓋を閉じると今度は深く深呼吸し、慎に視線を向ける。
「慎、今まで済まなかった。私が至らぬ為に、お前だけでなく、絵里さんにも迷惑掛けた」
そう言って、頭を下げる父親。慎はその姿をただ見つめた。
「アレはもう私達の前に現れる事はない。私の友人達にアレの処罰を頼んだからな」
父親は複雑な表情で言う。
「親父、お袋の事。今も大事か?」
「……何だ。唐突に」
「教えてくれ、本当はどうなんだよ」
真剣な表情の慎。父親はその真剣な表情の慎を見つめ、小さく頷く。
「私は、お前の母を愛している。それは今でも変わらない。…………あの時、私はどうしてあんな事をしたのか、分からないんだ。代議士になって周りから羨望の眼差しを向けられ、自惚れていたんだろう。アレに唆され、私はその言葉を信じてしまった………その結果が今回の事を招いたのは事実だ」
「…………」
「私が言うのも何だが、お前には幸せになってほしい。私が出来なかった幸せな家庭をお前には築いてほしい。それが私の願いだ」
父親の目にはうっすらと涙が滲んでいる。慎は驚いた。初めて父親が泣いている。
「なら、絵里との結婚認めてくれるのか?」
「……認めるも何も、私は反対する意思はないぞ。そもそも、アレのせいで女性アレルギーになったお前が、唯一触れられる女性だぞ。奇跡だ」
歓喜の声を上げ、父親が熱弁する。慎は唖然としていた。父親の話は続く。
「出来れば早く孫の顔が見たい。絵里さん、美人だから産まれてくる子も勿論、美人だろうな」
「……女が産まれるとは限らねぇよ」
「それもそうか。しかし、男ならイケメン確定だな」
楽しそうに言う父親。慎は呆れながらも笑っていた。
福岡から帰ってくると、慎は絵里のマンションに向かう。絵里に連絡は入れていない。しかし、慎が絵里の部屋の鍵を開けると、漂ってくる美味しそうな匂い。慎は匂いに誘われ、キッチンに向かう。
「慎、お帰りなさい。」
「俺、帰る時間言ってなかった筈だけど?」
「……ふふふ、どうしてかしら?帰ってくる感じがして」
絵里の言葉に慎は。
(なんか、良いなぁ。)
慎は沁々感じた。その日の夜。慎はいつもより優しく絵里を抱いた。絵里の身体を気遣い、欲望のまま抱く事はしない。絵里の方は、慎の深い愛撫に乱れ、腰はユラユラと揺らめく。気持ち良さで歪むその表情が色っぽく、慎は深く貫いた。
「……んん、気持ち……い……」
絵里の腕が慎の首に絡み、キスをねだる。舌を絡め合う二人。慎は絵里の中がいつもよりきつく、子宮の入り口が近い事に気付く。少し深く入れるだけで、慎のソレの尖端と子宮の入り口がキスをする。慎は何度も子宮と尖端をキスさせた。すると、絵里の中が蠢き、射精を促す。絵里は掠れた声で喘いだ。
「……やぁあ……もう………イッちゃ………いやぁあ」
絵里の身体が痙攣した。慎は絵里の締め付けを感じながら、子宮の入り口に思い切り尖端を押し付け、白濁の液を流し込んだ。
数か月後
ここ数日、絵里の態度がおかしい。慎はそう感じていた。最近、表情も冴えない。いつも蒼白く、気分が悪そうだ。
「大丈夫か?一緒に病院に行こうか?」
「……大丈夫よ。あともう少しで良くなる筈だから」
どうやら、病院には行ったらしい。それでも慎は心配だった。ある日、絵里が仕事でいない時、慎は何気無く絵里の本棚に置かれている雑誌を手に取る。その雑誌は、結婚専門誌。さらにその横には赤ちゃん関連の雑誌が幾つかあった。
(……もしかして、妊娠したのか!?)
慎は驚いて、雑誌を落とした。数日後、慎の手には小さな箱が握られている。絵里は台所で洗い物をしていた。慎は小さく深呼吸。
「絵里、こっちに来て。話がある」
「……どうしたの?」
不思議そうな表情で絵里が慎の側に来た。慎は無言で小さな箱を絵里の目の前に差し出す。
「何よ、これ?」
「開けてみて」
絵里は怪訝な表情で小さな箱を開けた。中に入っていたのは、シルバーリング。絵里は両手で口元を隠した。
「……絵里、前に一度、プロポーズしたけど」
そう言って、絵里の前に膝をつく。
「改めて言わせて、俺と結婚して下さい」
慎は絵里を見つめる。絵里は小さく震え、少し頬を染めていた。ところが、呆れた表情に変わり、溜め息をつく。慎は絵里の行動に狼狽えた。
「……慎、もしかして覚えていないの?」
「?」
「やっぱり覚えていないのね………仕方ないわよね。だって、慎。酔ってたから」
「……っえ?何、何が?」
狼狽える慎。絵里は小さく笑い、そして溜め息をついた。
「慎が実家に行く前の日よ。慎、お義父様に会うのが恐いって。緊張するからお酒飲みたいって」
絵里に言われて、朧気に思い出す慎。
「お義父様に反対される前に籍を入れようって話したでしょ?思い出さない?」
「……ああ!?」
「ふふ、ようやく思い出したのね」
「それじゃ」
絵里は微笑む。
「時田絵里になってるのよ。私達はもう夫婦なの」
絵里の言葉に慎はその場に座り込む。絵里は慎の横に座った。
「結婚式は少し先になるけど」
絵里が言う。慎は絵里を見つめた。
「……妊娠、したんだろ?」
「気付いていたの?」
「絵里が仕事に行ってる時にたまたま見つけたんだ」
そう言って、絵里の本棚に視線を送る。絵里は一瞬驚いたが、すぐに微笑み。
「名前、決めないとね?」
「ああ、そうだな」
そう言って二人は微笑み合った。
次回は、希と聖の話がメインになります。ちなみに、μ,sの再結成あるかも!