最近、希は悩んでいた。悩みの種は、勿論、聖である。聖は希と二人きりになると、よく甘えてきて、隙をみせると、希の乳房に吸い付いてくる。別にそれが悩みの種ではない。何が悩みの種かと言うと、希の仕事場まで来る事だ。
「慎は性欲が強過ぎて大変だったけど。和久井君は、また違った意味で大変ね」
少し大きくなったお腹を撫でながら、絵里が言う。今、希と絵里は『花陽の食卓』でのんびりとコーヒーを飲んでいる。絵里の方はお腹の赤ちゃんを気遣って、カフェインレスのコーヒーを飲んでいた。いつも夜に来ている『花陽の食卓』は、最近は妊婦である絵里の為に、昼間に来ている。夜、仕事帰りのサラリーマンやOLで賑やかな店内。日中は絵里達と年頃が近い、主婦層が多い。二人は小さく溜め息をついた。
「そうなんよ。別に甘えて来る分にはええんやけど、仕事場に来るのはさすがに困るんよね」
呆れた表情で希はそう言った。慎と同じで、女性に対しての不信感は、今もあるようで、希以外の女性には、近寄れない聖。
「患者さんの中には、女性の患者さんもおるから」
心理カウンセラーをしている希。患者の悩みを聞き、一緒に解決法を考える必要性があるのだが、患者の個人情報を聞かれても困る。
「和久井君には言ったの?」
「言うには言ったけど。うちから離れたくないって言うんよ」
「……和久井君、不安感があるのかしら?」
「聖君が?」
絵里の言葉に、希の表情が変わる。
「そう、不安感。私の考え言っても良いかしら?」
「ええよ」
「和久井君、今まで自分の内面を見てくれる女性がいなくて、女性に不信感を抱いた。そこに、その内面を受け入れてくれる希が現れた」
「…………」
「でも、和久井君は自分自身に自信が持てていないのよ。だから、もしかしたら自分は希に捨てられるって思っているかも知れないって事」
そう言われて、希の表情が驚きに変わる。
「絵里ち、意外と心理カウンセラーになれるんやない?」
希の言葉に絵里は微笑む。
「恋は盲目。希、和久井君の事になると、周りも見えなくなっているのよ。まあ、その分だと、希も和久井君にゾッコンって事なのね」
今の言葉で、希の顔が真っ赤に染まった。普段見せない希の表情に、絵里は満足そうに笑う。
「今日は良いものを見られたわ」
「…………やられた」
希は悔しげに言ったのだった。
数日後
聖は希を後ろから抱き締めている。希の方は、黙々と心理学の本を読んでいた。聖の腕がするりと服の中に入り、二つの大きな乳房を揉む。
「……ちょっと、今ウチ忙しいんや。やめて」
「…………」
聖は無言で希から離れる。そして、寝室へ消えた。希は溜め息をつく。本を綴じると、同じ様に寝室へ向かった。ベッドに腰掛けて、聖はスマホを弄っている。希は聖に近付いた。
「……なあ、希ちゃん」
「何?聖君」
スマホから視線を外して、希を見つめる聖。
「俺達、別れようか」
聖の言葉に、希の心臓が軋む。急激に血の気が引く。
「……な…に……言うて…」
「俺さ、考えたんだ。俺、希ちゃんに迷惑しか掛けてないって」
「…………」
「だから、別れよ?」
希の表情は暗い。無言で聖を見つめている。聖は希の横を通り過ぎ、荷物を纏め始めた。そんな聖の後ろ姿を黙って見ている希。
「…………聖君、本当。勝手やな」
暗い声に、聖は振り向いた。希の表情は怒りに満ちている。ただ、目には涙を浮かべ。
「……希ちゃん」
「確かに、仕事場に来られるのは、正直しんどいよ?でも、迷惑なんて。ウチは一度も思った事ない」
希は一度、深呼吸する。
「絵里ちが言うてた。聖君、自分に自信がないって。不安なんだって」
聖は何も言えない。
「どうすれば自信がつく?不安は無くせる?ウチな、考えたんよ」
希は聖に近付いた。そして、手を繋ぐ。
「聖君、ウチと結婚して」
「……っぇえ!?」
希の予想外の言葉に、聖の声が上擦る。希は聖の腕を引き、ベッドに押し倒した。希は馬乗りになる。
「……聖君返事は?」
唖然としている聖。希はどんどん自身の服を脱ぎ捨て、聖の上着に手を伸ばす。
「希ちゃん、本気?」
「ウチはいつも本気や。特に聖君に関してはな」
そう言って微笑む希。その表情はとても色っぽく、妖艶だ。聖が希の身体をひっくり返し、今度は聖が上になる。
「……後悔しない?」
「どうして?」
「だって、俺こんなだし。頼りないよ」
希は吹き出す。
「そんなん、初めから知ってるやん」
「本当に、俺と結婚してくれるの?」
聖の瞳には、まだ不安が入り交じる。
「その気がなかったら、ウチからプロポーズせぇへんで」
優しく微笑む希。ようやく、聖の不安は和らいだ。希の首筋にキスを落とし、服を脱ぎ捨て、二人は産まれたままの身体になる。そして、重なりアツく濃厚な夜を過ごした。
数か月後
「希、そろそろ準備出来たか?」
「……ちょっと待って。聖、女には時間が必要なんよ」
今、二人は聖の実家に挨拶に行く為、慌てて準備している。
「もう、聖ったら。早めに予定言ってくれんと」
「ごめん、忘れてたんだ」
いつも二つに結ぶ髪を一つに束ね、横に流す。希は明るめのメイクで、可愛らしい。聖はそんな希に見惚れながら、希の手を取った。あの日から二人はちゃん、君付けを止め、名前で呼び合っている。
「聖のご両親に会うの、今から緊張するわ」
胸に手を当て、何度も深呼吸する希。そして、それを見つめる聖。二人の表情はとても幸せに満ち溢れていたのだった。
次回は、聖編です。これで、二人の話は終わります。
が!?しかし。これで終わりではありません。実は、このまま第2章に突入します。出てくるメンバーは、ラブハンターの三組と花陽、真姫、海未の話です。
一話、あらすじに使用しますので、ご了承下さい。