カップル成立から次の日
晃太郎は悩んでいた。理由は花陽の事である。男女の交際は勿論、異性に対しての免疫がない花陽。晃太郎とようやく普通に話せる様にはなったものの、時折怯えたように反応する時がある。晃太郎はその事を気にしていた。
(今は恋人として振る舞うより、今まで通りの接し方でいくべきか)
そう考える晃太郎。しかし、初めて恋心を抱いた相手なのだ。晃太郎は花陽の言動に胸が高鳴り、悶絶する日々を送る事になる。
「……こ…晃太郎君、これお願い出来ますか?…」
ほんのり頬を染めて、晃太郎にそう言う花陽。花陽の横には大きなコンテナが二つ置かれている。
「どこに持っていけば良いんだ?」
晃太郎は花陽に近付き、コンテナを持つ。花陽の大きな瞳が晃太郎を見つめる。晃太郎はドキリとした。
(……な、何だ?そんなに見つめられると)
晃太郎は一度コンテナを下ろし、花陽に背を向ける。
(うわぁ~!抱き締めたい~!)
晃太郎は無表情のまま、悶絶していた。
「晃太郎君、どうしたの?」
背後で花陽が晃太郎に声を掛ける。我に帰る晃太郎。ゆっくりと振り向く。困惑顔の花陽。晃太郎は小さく咳払い。
「……悪い。それで、どこに運べば」
「晃太郎君」
晃太郎の言葉を遮る花陽。その目は少し潤んでいる。
(……っえ?何?)
晃太郎は狼狽えた。花陽はゆっくりと手を晃太郎の前に差し出し、手の中にある小さな豆電球を見せる。
「……あの…実は、これを替えて欲しかったんです」
晃太郎は豆電球を無言で見つめる。そして、花陽を見た。
「……豆電球を替えるのか?」
「はい、私じゃ手が届かなくて」
そう言って、何故か天井を指差す。晃太郎は不思議に思った。そして、花陽の頬が染まる。
「私の部屋の豆電球を交換して欲しいんです」
そう言って、俯く花陽。晃太郎はドキリとした。実は、花陽が住んでいる場所は『花陽の食卓』の2階部分。花陽の住んでいる場所は店舗兼自宅である。
「へ、部屋の電球?」
晃太郎の声が微かに上擦る。俯いたまま花陽は小さく頷く。晃太郎の見ている角度からは、花陽の表情は分からないが、横髪から少しだけ見えている耳が赤い。
(……っえ?俺、誘われてる?)
晃太郎の口角が上に上がる。花陽に見られないように、手のひらで唇を隠し、心の中でガッツポーズ。
「分かった。交換するから案内して」
平静を保ちつつ晃太郎が言う。晃太郎の心情を花陽は知らない。ゆっくりと花陽は顔を上げ。
「ありがとうございます。良かった……。断られるかと思いました」
可憐な花の様に微笑む花陽。その表情に晃太郎は目眩を覚える。
(……か、可愛い!っくぅ~!抱き締めたい)
花陽はポットから鍵を取り出し、厨房の裏口へ向かう。晃太郎も花陽と同じ様に裏口へ向かった。花陽は、厨房の裏口へ出る扉には見向きせず、もう一つの扉に鍵を差し込む。厨房の裏口は店舗の端で、その扉から直角の位置に、もう一つの扉がある。ロックを解除し、花陽は扉を開けた。中に入る花陽。晃太郎も後に続く。扉の向こう側は壁だった。
「晃太郎君、こっちです。」
晃太郎は声を掛けられた方を見る。右側に階段が見えた。そして、何気に反対側を見る。そこには、もう一つの扉があり、明かりを取り入れる為の小さな硝子がはめ込まれていた。
「……この扉は外に続いているのか?」
晃太郎が問う。花陽は晃太郎の前を通り過ぎ、その扉を開ける。
「はい、こっちの扉は一応玄関です。でも使っていないんです。」
「何でだ?」
言いながら外を覗き込む込む。花陽は一度、外に出るとドアノブを指差す。
「この扉、外から鍵が開けられないんです。内鍵らしくて」
困惑顔の花陽。晃太郎はドアノブを内、外側を見る。確かに、外側のドアノブには鍵穴がない。
「……これは不便だな」
「いえ、不便なんて感じた事無いですよ?」
「どうしてだ?」
「……だって、私。ほとんどお店の中にいるので、厨房の裏口が玄関みたいなものですから」
その言葉に晃太郎は納得。
「確かに、それもそうか」
晃太郎の反応に、花陽は小さく笑う。玄関の扉を閉め、鍵を施錠。そして、晃太郎の前を再度通り過ぎ、階段を登り始めた。晃太郎も階段を登り始める。
「そう言えば、靴脱がなくて良かったのか?」
階段を数段上がった所で、それに気付く晃太郎。
「はい、大丈夫ですよ。」
階段を登り終わり、再度右側を見る。そこは数メートルの廊下。そして、階段を登りきった場所に下駄箱がある。それの境界線が分かる様に、可愛いウサギの刺繍がある玄関マットが敷かれていた。
「ここで靴を脱いで下さい」
花陽の指示に従う晃太郎。靴を脱ぎ、花陽の横に立つ。
「ここからが私の家です」
廊下を先頭で歩きながら花陽が言う。そして、明らかにセキュリティーの高そうな扉の前に立つ。扉のドアノブの上には、指紋照合の装置が付き、花陽が取り出した鍵は特殊な鍵。壁には、警備会社の名が書かれたステッカー。廊下の天井には防犯カメラが目を光らせている。
「……何だか物々しいな」
「常連のお客さん達が付けてくれたんです。女の子の独り暮らしは危ないからって」
指紋照合と鍵の解除を終わらせた花陽が答えた。ゆっくりと扉を開けると『ピー』と鳴る電子音に『ロックを解除して下さい』とアナウンスが流れる。部屋の中の入り口に靴箱位のボックスがあった。それはセキュリティーボックス。花陽はセキュリティーボックスに鍵を入れ回す。『ロックを解除しました』と再度流れるアナウンス。晃太郎は少し引いていた。
(厳重過ぎるだろ)
変な汗を流しつつ晃太郎は部屋の中を見渡す。部屋の中は、花陽のイメージそのまま。可愛い動物のヌイグルミ、パステル系の家具、床に敷かれている敷物は、フワフワしていて、クッションやソファーもパステルピンクのモコモコ。
「……イメージ通りだな」
「っえ?何か言いましたか?」
晃太郎の一人言に、?マークを浮かべた花陽。
「いや、何も。ところであの蛍光灯か?」
晃太郎は天井を指差す。そこにあったのは天井にはめ込むタイプの蛍光灯。
「確かに、花陽には手が届かないな」
蛍光灯の高さは、晃太郎が踏み台に乗って届く高さだった。花陽は晃太郎より頭一つ半くらい小さい。しかも蛍光灯のカバーを外さないと豆電球が取り替えれない。晃太郎は蛍光灯のカバーを外し、豆電球を取り替えた。
「……ん。これ」
古くなった豆電球を花陽に渡す。花陽はそれを受け取り、微笑む。
「晃太郎君、ありがとう」
頬をピンク色に染めて、花陽は晃太郎に言った。踏み台を降りかけていた晃太郎は踏み外し、床に落ちる。
「晃太郎君!?」
(……不意打ちのその表情は反則過ぎる!超キスしたくなる!)
床に顔を押し付け、悶絶する晃太郎だった。
次回は、花陽側です。花陽は晃太郎の事、どう思っているのでしょうか……