作者、何気に病気のデパートであります!
晃太郎と交際が始まった数時間後
お昼時、いつもの様に絵里と希が『花陽の食卓』で昼食を取っている。花陽が二人の側に歩み寄った。
「花陽、どうしたの?顔が赤いわよ?」
絵里の指摘の通り、花陽の顔は赤く、挙動不審だった。どことなく落ち着きがない。希には理由が分かっているようで、微笑んでいる。
「……希、その顔。何か知っているの?」
「それは、うちの口からより、花陽ちゃん本人に聞いた方がええんやない?」
そう言うと、希は花陽を見る。同じ様に、絵里も花陽を見た。二人の視線に、花陽の顔はさらに真っ赤に染まり俯く。そして、消え入りそうな声で、数時間前の事を話したのだった。
数分後
「へぇ~、花陽と土井君がね」
「うちは土井君が、花陽ちゃんの事好きなこと分かっとったよ」
無言の花陽を見ながら、二人が言う。当の花陽は、耳を真っ赤に染めたまま。そんな花陽に絵里が見つめる。
「まぁ、希なら何でもお見通しなんだろうけど。それより花陽。何か相談事でもあるんじゃないの?」
澄んだ青い瞳で絵里が言う。希も微笑んだまま花陽を見つめている。
「…………絵里ちゃん、希ちゃん。私」
頬を染めて、潤んだ瞳で花陽はゆっくりと口を開いた。
「……私、晃太郎君の事。……好きなんだと思います」
「……何だと思うって、好きなんじゃないの?」
花陽の言葉に怪訝の表情の絵里。希の表情に変化はない。
「分からないんです。晃太郎君と一緒にいるとドキドキするけど、それが好きって気持ちなのか。私分からなくて」
俯きながら花陽はぽつりと溢した。絵里はそれを聞いて、希を見た。
「……だって、私。晃太郎君の事、まだよく知らない」
その言葉に、絵里と希は互いに顔を見合わせ、クスリと笑う。そんな二人を見て、花陽は狼狽えた。
「その人の全て知らないと好きになっちゃいけないのかしら?」
「もし、そうだったら、うち達はなんやろうね。」
二人の会話に、首を傾げる花陽。
「花陽、私と慎の出逢い、話した事あったかしら?」
「うちと聖の出逢いもな」
絵里達の言葉に、首を横に振る花陽。絵里と希は小さく笑う。
「少し話が長くなるけど」
そう言いながら、二人は笑っていた。
次の日
花陽は晃太郎を初めて、自分の自宅に招き入れた。『部屋の豆電球を交換して欲しい』なんて、ただの口実だ。本当の目的は、もっと晃太郎の事を知りたいと思ったから。花陽は、早鐘を打つ胸を抑えながら、晃太郎と会話する。基本的に、晃太郎の表情は無表情。絵里達やラブウルフのメンバーと会話する時も、表情を変える事がない晃太郎。しかし、花陽の前だとその表情は時折変化する。困惑な表情、何か考え事している表情、そして、小さく微笑む表情。そのどれもが、花陽の胸を締め付ける。
(どうして、みんな晃太郎の事分からないんだろう?)
花陽は、絵里達に晃太郎の表情について話した事がある。ところが、絵里達には全くと言ってもいい程、誰も晃太郎の表情は無表情にしか見えていないようだ。
「それは、花陽が特別だからよ」
絵里が言う。希も頷き、お腹を擦っていた。実は、希は妊娠中。
「花陽の話も重要だけど、今は希の事ね」
花陽の横に座っていた真姫が希を見て、溜め息をつく。今、μ,sのメンバーがいるのは、『花陽の食卓』である。今日、お店は定休日。毎月恒例の女子会だ。
「希、なんでもっと早く言わなかったの?妊娠」
横目で真姫が言う。希以外のメンバーは、その言葉に希を見た。花陽も心配そうに見る。
「別にええやん。何ともなかったんやから」
「……そうやって、希はいつも」
真姫の表情は苛立っていた。
「真姫、落ち着いて。それから希。何ともなかったからと言って、秘密にすれば良い問題でもありませんよ?下手すれば、流産してたかもしれないのに」
海未が、今にも掴み掛かりそうな真姫を止めながら言う。メンバーに流れる不穏な雰囲気。その原因は、同窓会で催したμ,sのライヴ。
「……うちも悪かったって思ってるよ?でも、一度しかない節目の事なのに、うちのせいでライヴしないのはイヤやったんよ」
「だから言わないって言うのは、ちょっとおかしいでしょ?」
「そうだにゃ。言ってくれたら、違うダンス構成も出来たにゃ」
「……そうだよ。希ちゃん」
μ,sのライヴをした同窓会。希は妊娠三ヶ月だった。その事をメンバーは言っている。希の妊娠を知ったのは、ついさっきだ。本来なら今回、花陽と晃太郎の事を話す予定だった筈で、花陽は正直何を話せばよいのか悩んでいたのだが。希は申し訳なさそうな表情でみんなを見る。今、希は妊娠四ヶ月目に突入していた。
「心配かけてごめんな」
希はそう言う。メンバーは思い思いに溜め息をつくと、ほぼ同時に花陽を見る。複数の視線を一気に向けられ、花陽は狼狽えた。
「それで?花陽の方はどうなのよ」
真姫が頬杖をついたまま花陽に言った。真っ赤に顔を染めた花陽。唇がワナワナと動き、言葉が出ない。
(……フリーズしちゃったわね)
花陽を見ながら、絵里はそう思ったのだった。
それから二週間
にこの依頼された昼食用のお弁当を持って、花陽は桂木プロダクションの事務所に向かう。長い廊下を歩いていると、ある部屋の中から絵里の声が聞こえた。花陽は表情を明るくさせ、その部屋の扉を静かに開ける。しかし、花陽の手が途中で止まった。花陽の目に飛び込んできたのは、絵里と慎がキスしているところ。花陽は視線を反らす事が出来ず、二人のキスを見ている。何度も触れては離れる二人の唇。やがて、互いに舌を絡め合い、絵里の身体を引き寄せる慎。絵里が慎の肩を優しく掴む。花陽の心臓ははち切れそうに脈打っている。少しずつ後退する花陽。花陽の背は何かにぶつかった。それは、冷たい廊下の感触ではなく、温かな感触。花陽は振り向いた。そこにいたのは晃太郎。花陽の顔が一気に真っ赤に染まり、足は棒の様に動けずにいる。そんな花陽に晃太郎は無言で肩を軽く叩くと、部屋の扉をノックする。ノックに気付き、二人は離れた。
「……今、良いところだったのに、邪魔するなよ」
不機嫌な表情の慎。絵里は晃太郎の後ろに花陽がいる事に気付く。
「慎、次仕事入っているでしょ?行ってらっしゃい。土井君、慎をお願いね」
そう言って、慎の背中を優しく押した絵里。慎の背中を押しながら、耳元で何かを囁いている。花陽は絵里のそんな仕草にドキリとした。何故なら、囁いている絵里の表情が、あまりにも色っぽかったからだ。一方、囁かれた慎は、興奮した表情で機嫌良く部屋を出ていき、晃太郎は、絵里に小さく頷くと、一瞬花陽を見て、無言でその場を後にした。しばらくの静寂。
「花陽、入って」
絵里の声が優しく廊下に響く。花陽は早鐘を打つ胸を抑え、ゆっくりと部屋の中に入った。パイプ椅子に座っている絵里。絵里の横に、同じ様にパイプ椅子が置いてある。絵里は手招き。
「花陽、ここに座って。私とお話ししましょ?」
微笑んでいる絵里。花陽は恐る恐る座り俯く。
「さっきの見てたでしょ?」
「…………」
無言は肯定だ。絵里が小さく笑う。
「どうして何も言わないの?」
「……私、その……見るつもりなかったの。絵里ちゃんの声が聞こえたから」
声が上擦る花陽。
「別に見られたからって、私は怒っていないわよ?」
絵里の言葉に、花陽は顔を上げ、絵里を見る。絵里の表情は穏やかだ。
「怒っていないの?見られて恥ずかしいとか思わないの?」
「どうして?」
「……だって、私だったら恥ずかしくて」
「そうね。周囲から見て恥ずかしいかも知れないけど。あの時の私は慎しか見えていないから」
「っえ?」
「キスしてる時もだけど、慎と二人きりの時は慎しか見えていないの」
絵里が微笑む。その表情は妖艶で、花陽は目が離せなかった。
「花陽もすぐに分かるわ。だって、土井君を見つめる時の花陽。私と同じだもの」
そう言われて、花陽の顔が真っ赤に染まり、頭から蒸気が吹き出したのだった。
花陽もそうだけど、絵里の半端ないエロさ!鼻血が吹き出る!