『花陽の食卓』にて
お店の扉に、大きく貼られたお知らせ。『今日は臨時休業します』と書かれている。店内にいるのは、μ,sのメンバー。みんな、思い思いに食べ物や飲み物を用意している。四人用のテーブルを二つの並べ、両側に四人座った。絵里が、ふと何かに気付き、にこに視線を向ける。
「にこ、凛がいないけど」
「ああ、凛なら今、アメリカに行ってるわよ?」
その言葉に、その場にいた全員がにこを見る。
「最近、ラブウルフの活動が忙しくてね。ようやく落ち着いたから」
「どういう事?」
「……凛の旦那、アメリカ人なの、知らなかった?」
「っえ!?」
にこの言葉に、海未と真姫以外が驚きの表情を見せた。凛の事は、二人共知っているからだ。
「向こうに子供も置いているから、多分二ヶ月くらいはあっちにいると思うわ」
そう言って、凛の旦那と子供の写真を見せる。
「へぇ~、知らんかったわ」
希が言う。にこのスマホがメンバーの手元を一周し、自分の手元に戻ると鞄に入れた。
「……そう言えば、花陽。晃太郎と付き合い始めたんでしょ?」
「…ぁわ」
いきなり話を振られ、狼狽える花陽。みんなの視線が花陽に一点集中。口をワナワナと震わせ、花陽は固まった。絵里と希がニヤニヤしている。
「大人の女の仲間入りしたのよね?」
絵里の不適な笑み。希も悪戯っぽく笑う。それを聞いて、狼狽えるのは、花陽ではなく、海未だった。
「……花陽が…破廉恥です」
真っ赤に染めた顔を両手で隠す。隣に座っていた真姫は呆れて溜め息をついていた。
「海未、花陽も年頃なんだから、それくらい普通でしょ」
頬杖をついたまま、真姫が言う。
「……それは、そうですが。真姫、貴女そのような経験が?」
「……別に、私の事は関係ないでしょ。それに、海未だって」
少し頬を染めた真姫。海未と真姫は互いを見合う。そして、視線を逸らした。そこに、にこが小さく溜め息をつき。
「……っていうか。二人はどうなっているのよ」
「……何がですか?」
「紡と絆の事。海未と真姫、付き合ってんでしょ?」
にこの問い掛けに、二人の表情が固まる。無言で視線を泳がせた。頬を染めて。二人の話に興味が湧いたメンバー。視線が二人に集中した。そこに、絵里が口を開く。
「その人達って誰なの?」
「新田紡と小林絆。二人はラブウルフのメンバーよ。この間、同窓会余興ライヴの打ち上げで逢ってるでしょ」
淡々と告げるにこ。ようやく絵里は思い出した。新田紡はラブウルフのメンバーの最年少で、見た目は美少年である。色白の肌と中性的な顔立ちなのだが、引っ込み思案で人見知り。打ち上げの時も部屋の隅で隠れるように立っていた。一方、小林絆の方はまるで白馬の王子様の様なハンサムボーイ。目鼻立ちはハッキリとしていて、常に微笑みを絶やさない。しかし、感情が読み取れないその瞳が、彼をミステリアスにしている。
「じゃあ、海未と真姫はどっちと付き合っているの?」
絵里の問いに、二人は何度か瞬き。視線を巡らせると、ゆっくりと口を開いた。
「私は、紡です」
「……はぁ、絆よ」
海未は視線を下に落としながら、真姫は溜め息混じりに言う。絵里達は一瞬固まったが、柔らかく微笑む。
「っという事は、みんなフリーじゃないって事ね」
「うち、ちょっと安心したわ」
絵里と希の言葉に、みんなは小さな笑みを見せ頷き合う。その場の空気が和み、食事を再開した。持ち寄った食事をシェアし合い、飲み物は好きな物を注ぎ合う。
「海未と真姫は、ラブウルフ結成から協力しているの?」
「ううん、結成一年経過してからかな?そうよね?」
にこが二人を見た。無言で頷く二人。迷惑そうな表情。
「海未ちゃん、全然教えてくれないから。知らなかったよ」
「穂乃果とことりに言える状況でしたか?」
「……あはは」
穂乃果の話に、呆れる海未。実はその当時、穂乃果とことりは出産と育児で忙しく、海未と会えない状況だった。凛は、海未と真姫とほぼ同時にラブウルフの協力をし始めていたので、海未達の状況を知っている。
「本当、にこちゃんの強引さには呆れると言うかなんと言うか」
溜め息混じり言う真姫。
「しょうがないじゃない。人気アイドルにする為よ。それに、そのお陰で付き合い出したんでしょ」
悪びれる様子もなくにこは言った。それを聞いて、海未と真姫が溜め息をつく。
「……あの」
ずっと黙り混んでいた花陽が口を開く。頬をピンク色に染めて。みんなの視線が花陽に向けられる。
「お手洗いに行っても良いですか?」
みんな、無言で固まった。そして、吹き出すように笑う。
「何を言うかと思ってびっくりしたわ。私達に遠慮しないで行って」
絵里が代表して言う。
「は、恥ずかしい」
「本当、花陽ちゃんはかわええなぁ」
希の言葉。花陽は居たたまれなくなり、逃げるようにお手洗いに向かった。しばらくして、お手洗いから戻る花陽。すると、他のメンバーも交代でお手洗いに行く。
「実はみんな行きたかったのよね」
絵里は微笑みながらそう言った。照れながら花陽も笑う。和やかな雰囲気で女子会は終わったのだった。
花陽の部屋
ベッドに座っている花陽を後ろから抱き締めている晃太郎。花陽は、照れながらも晃太郎の胸に身体を預けている。二人してテレビを見ながら穏やかな時間が過ぎていく。ふと、花陽は晃太郎に向き直り、その表情を見た。視線が合い、小さく笑う晃太郎。
「……どうした?」
「ううん、何でもないよ」
その言葉に、少しムッとする晃太郎。
「…言いたい事、ちゃんと言えよ」
花陽の表情が変わる。驚きの表情。視線を一度落とし、モジモジしている。
「あのね、幸せだなって」
頬を染めてそう言う花陽。晃太郎は何度も瞬き。そして、花陽を抱き締めた。
「……本当、マジで可愛い」
抱き締める腕に少し力が入る。
「……っあ」
花陽の口から溢れた声。少し甘さが混じっている。晃太郎の心臓が大きく脈打つ。すぐにベッドに押し倒し、花陽を見下ろす。
「そんな声出されたら、我慢出来ない」
「っえ!?今のはそんなつもりじゃなくて」
「もう遅い」
そう言って、晃太郎は花陽が意識を手放すまで抱いたのだった。
ちょっと話が短くなり、最後に、晃太郎と花陽のムフムフになってしまった。反省……
次回は、海未と真姫の話が入ってきます。時系列でラブウルフ結成から一年後の出逢いからですね。勿論、花陽と晃太郎の話も絡みますので、分かりやすく、海未ルート、真姫ルート、花陽ルートってな感じで進みます。三者の話が絡み合うので、書いてる自分もゴッチャにならないように気を付けねば……
不定期なアップ、続きます。