絵里、希が最愛の伴侶、慎と聖に出逢う数年前
音ノ木坂学院から卒業後。海未、真姫はそれぞれの道へ進む。卒業後の二人の生活は、忙しくも充実感はあった。ただ、μ,sの時に感じた感動とは無縁。ふとした時に、小さな溜め息が口から溢れる。そんな自分が嫌で、二人は今、目の前の現実に、あの時感じた感動を忘れる為に没頭する日々を過ごす。そんな時だ。二人のスマホにメールの着信があったのは。
『にこの最初で最後のお願い』
元μ,sのメンバー、にこの切迫した内容。それを見て、二人は離れた場所にいる筈なのに、口から出た声は同じだった。
「……っえ?」
一瞬、頭が真っ白になりつつも、次の瞬間には家を飛び出していた。それぞれタクシー、自分の車に乗り込み、にこが社長として経営している桂木プロダクションへと向かう。ビルの入り口に辿り着いたのは、海未が最初だった。その数分後に、真姫も到着し、二人は見合う。
「……真姫、貴女にもにこからメール、来たのですか?」
「えぇ、海未。貴女も?」
騒ぐ心を落ち着かせながら、二人は周囲を見渡した。しかし、ビルの入り口にいるのは二人だけ。二人は怪訝な表情を見せる。
「どういう事ですか?」
「さぁ、分かんない。私達に用があるんじゃない?」
二人の間に答えはない。その答えは、二人を呼び出した本人に直接聞かなければいけない。二人は同時に溜め息をつき、ゆっくりとビルの中へ向かった。
桂木プロダクション、社長室
怪訝な表情の二人、机を間に挟み、反対側に満面の笑みのにこ。しばらく、無言で見つめ合う。
「……いきなり呼び出して、何の用ですか?にこ」
最初に口を開いたのは、海未だった。声色は明らかに怒っている。隣に立つ真姫も同じ感情だ。
「メール見たでしょ?」
「見ました。だから、ここへ来たんです。用があるなら早く言って下さい」
「二人を呼び出したのは、二人に曲を作って欲しいからなの」
「……っえ?」
「……はぁ?」
にこの言葉に、二人の声が合わさる。部屋の中の雰囲気が暗くなった。先程まで満面の笑みを見せていたにこも、今は真剣な表情になっている。
「曲を作って欲しいとは、どういう事ですか?」
「言葉の通りよ。二人に、うちのアイドルグループの曲を作って欲しいの」
「……意味分かんない。にこちゃん、私達忙しいの。分かる?」
「……分かってる。でも、二人の協力が必要なんだもん。仕方無いでしょ。それに」
二人の後ろの扉が開く。部屋に入って来たのは。
「凛も協力してもらっているから」
二人の表情が驚きに変わる。部屋に入って来た凛は、学生時代とは少し違い、髪も伸びて、今は一つに束ねていた。あどけなかった顔は、面影が残っているが、大人の女性に成長している。
「海未ちゃん、真姫ちゃん。久し振りにゃ」
口調はあの時のまま。二人の表情が少しだけ和らぐ。
「凛、貴女何やっているのですか」
「何って。にこちゃんのお手伝いにゃ」
「お手伝いって。仕事は?凛、確か貴女、アメリカに行っていたわよね?」
真姫の言葉に、凛は笑顔。小さく頷く。
「日本にいて大丈夫なの?」
「心配いらないにゃ。仕事は、パパにお願いしてるから」
「パパ?」
「凛は、アメリカに旦那さんがいるの」
当たり前の如くそう言い放つにこ。二人の思考がしばらく停止。そして、同時に声を上げた。
「っえ!?あの凛が?一番恋愛に興味なさそうだったあの凛が!?」
「……あはは、何だか酷いこと言われてるにゃ」
「子供もいるのにね」
にこが追加の情報を二人に与える。二人の口が、顎が外れそうなほど開いていた。その後、二人が平静を取り戻すまで少し時間を要することになる。
数十分後
「お願い、協力してよ」
二人に拝むにこ。凛も何故か頭を下げていた。そんな様子に。
「……しょうがないですね」
「……しょうがないわね」
二人が溜め息混じりに言う。歓喜の声を上げ、飛び上がるにこ。海未が、机を軽く叩く。
「協力するんですから、にこのアイドル、紹介して頂けるんですよね?」
その言葉に、笑顔だったにこの表情が焦りに変わる。視線も合わせようとはしない。
「にこちゃん、協力して欲しいなら、メンバー紹介して。本人達をちゃんと見てからじゃないと、そのグループの特長を曲に反映出来ないでしょ?」
「……一つ約束してもらっても良い?」
にこの言葉に頷く二人。
「本人達を見ても、協力してくれる?」
その言葉に、二人の首が傾いた。お互い視線を合わせてから、にこに小さく頷いて見せる。二人の頷きに、安堵の溜め息をつくにこ。
「メンバーの所に案内するからついて来て」
にこは椅子から立ち上がり、部屋の扉を開けた。二人はその後ろをついて行く。勿論、凛も一緒だ。長い廊下を歩き、エレベーターに乗り込むと、一つ下の階で降りる。また長い廊下を歩き、灯りが漏れている部屋の前に立つにこ。小さくノック。部屋から数人の男性の声が。
「私よ。皆いる?」
「……います」
それを確認すると、にこは部屋の扉を開け中へ。海未、真姫、凛が順に入っていく。海未と真姫の目の前には、男性が五人いて、全員ではないが二人を見ている。ただ、見ている状態が明らかに異常だ。一人は、部屋の隅に、一人は椅子に座ったまま。椅子に座っている男性の後ろに、隠れる様に二人を見ている男性。もう一人は居眠りし、最後の一人は部屋の隅で、しかも背をこちらに向けて床に座りこんでいる。
「…………にこ」
海未が小さく口を開く。にこの肩がピクリと跳ねた。
「……これはどういう状況ですか?彼らがにこの言っていたアイドルグループですか?」
「……そうなの。ちょっと色々訳ありのグループなの。でも、彼らのアイドルとしての資質はあるの。ただ、彼らがこんな感じだから」
「それで?私と真姫が曲を作れば、それなりに売れると?」
黙って頷くにこ。海未は額に手を当てた。隣に立っている真姫も溜め息をつき、天井を見つめる。
「……にこ、私達も曲作りは協力はします。でも、歌い手がこれでは、例え良い曲が出来たとして、売れるとは思いません。にこ、本当は分かっているのではないですか?」
「……にこちゃん」
二人がにこを見つめる。黙り込んだままのにこ。すると、椅子に座っている男性が口を開く。
「ねぇ、君達。社長の何?」
ブラウン系の髪、鼻筋はスッキリとしていて、薄い唇。大きな瞳の男性。爽やかな王子さまを連想させそうなその男性が、笑顔で二人に言う。
「……社長…ね……」
真姫がその言葉に反応した。その男性を真っ直ぐ見つめる。
「私達は、にこちゃんの。貴方達の社長の高校時代からの友人よ」
真姫の言葉に、男性の表情が一瞬、動いた。でも、ほんの一瞬だ。海未やにこ、凛は気付いていない。真姫が見た男性の表情は嘲笑う様な表情だった。
「……へぇ、友人ね。ああ、自己紹介していなかったね。俺、小林絆。宜しく」
何故か、真姫に手を差し出した絆。真姫は一瞬、考える。躊躇しながらも、真姫も手を差し出し、握手した。握ったその手は、ひんやりと冷たい。その上、真姫の身体から電流が走る感覚があった。それも一瞬の事だ。すぐに手を放し、真姫は自分の手を見つめる。海未は絆の後ろに隠れている男性に視線を向けた。海未の視線に気付く男性。海未は小さく溜め息をついた。
「……とりあえず、二人にメンバー紹介するわ」
にこがようやく口を開いた。そして、二人にグループの名前や、メンバーの紹介をするのだった。
その日の夜
海未と真姫は二人だけで会った。それはこれからの話をする為だ。海未はグループの特長が今一掴めず、作詩に時間が掛かりそうだ。一方、真姫の方も同じな様で、二人の口から何度も溜め息が出る。真姫の脳裏には、絆が一瞬見せた嘲笑う様な表情。そして、身体を駆け抜けた電流のような感覚。それが気になっている。海未の方も絆の後ろに隠れていた男性。新田紡の事が気になっていた。二人は知らない。これから起こる出来事が、グループの未来や二人の未来を変える事になることを。
リアルが目まぐるしい程、忙しく。アップしたくても、疲れて熟睡する日々を送っていました。大分、リアルが落ち着き始めたので、これから、アップを増やせたらと思います。