※この作品はR-18です。

美女と狼の奇妙な恋愛事情   作:氷野心雫

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 居酒屋からスタートします。ここでようやく男性二人の名前が明らかになります。


奇妙な関係

 騒がしい店内でお互いの声が聞こえにくい。三人は顔を近付け、なるべく声の音量を変えずに話始めた。

「そんな事があったのね。知らなかった。今日、二人に会ったけど、そんな話聞いてないし」

 にこが男性二人が写った写真を見ながら言う。

「ん~、そもそも、にこっちとうちらが友達なんて二人は知らんやん。」

「それもそっかぁ」

 希とにこの会話を聞きながら、絵里はずっと写真に写るあの男性を見ている。希は目でにこに語った。

「絵里、もしかして、慎に興味あるの?」

 いきなり問われ、絵里が我に帰る。希とにこの視線が自分に向けられている事に今気付いた。

「……えぇ!そんな事……ないとは言えないけど」

 言って俯く絵里。希はそんな絵里を見て溜め息をついた。

「実際のところどうなん?」

「何が?」

「その人、慎君だっけ?ちょっと興味あるんやないの?」

 その問い掛けに、絵里は目蓋を閉じ考える。正直、良く分からないでいた。

「どうなんだろう?興味あるのかも知れないけど、分からないの」

 率直な今の気持ちを告げる。希とにこは無言。

「でも、一夜限りだと思うわ。もう逢う事もないでしょ」

 その言葉に希が笑う。絵里はそんな希の行動にどう反応して良いのか分からない。にこは絵里に慎の資料を手渡した。

「絵里ち、うちの感から言うと、一度きりやないよ。多分、これから何度も逢う事になると思うんよ」

「……どういう事?」

「うち、聖君に聞いたんやけど。っあ、聖君は彼の事なんやけど」

 そう言って指差す希。それは昨日、希と一緒にいた男性の事だ。にこは絵里の前に、聖の資料を差し出す。慎と聖の個人情報が、事細かく書かれている資料。絵里はそれを見た。

 

 

 時田 慎(ときた しん) 性別 男。二十五歳。

 出身、福岡県……。

 

 和久井 聖(わくい せい)性別 男。二十六歳。

 出身、東京都……。

 

「ちょっとにこ。これ、個人情報でしょう?私なんかに見せて良いの?」

 呆れた表情で絵里は言う。にこは特に悪びれた様子もない。

「別に良いのよ。絵里、慎に興味があるなら、私は反対しないわよ」

「……何言っているの?にこ、話が見えないわ」

「だから、慎と交際してもオッケーって言ってるの」

「……ちょ…ちょっと待って…話が飛びすぎて意味が分からないわ。そもそも、アイドルなら恋愛はタブーじゃないの?」

 絵里は狼狽え、真っ赤な顔でそう言った。にこは大きな溜め息一つ。

「基本はね。でも、彼らの場合はコンセプトが『愛の狩人』なのよ。だから、恋人くらいいても問題なし。」

「希は知ってたの?」

「昨日ね。聖君にその話を聞いてたんよ。ちょっと面白そうやから、立候補はしたよ」

 その言葉に、絵里の目が大きくなる。

「処女貰ってくれたんやし。絵里ちも立候補したらええやん」

 にこやかに希が言う。絵里は深い溜め息をついた。頭の中が混乱している。その混乱を落ち着かせようとビールジョッキを掴み、一気に飲み干した。

 

 

 

 

 希とにこと店を出て、絵里は一人帰路に着く。少し肌寒さが、お酒で火照った身体に丁度良い。

『折角のチャンスなんだし。良い経験だと思って付き合ってみたら?』

『そうやん。うちら、もうそんなに若くないんやし』

 二人の言葉が頭の中をグルグルと回る。

 

(簡単に言ってくれるわね)

 

 絵里は真面目な性格だ。そんな話をすぐに鵜呑みに出来る筈もない。それでも、希達の言いたい事も分かる自分もいる。

 

(……あぁ、困ったわ)

 

 気が付けば、自宅のあるマンションの前まで来ていた。エントランス前に誰かが座り込んでいる。絵里は怪訝な表情で、その人物を見た。絵里に気が付く人物。顔を上げ、絵里を真っ直ぐ見る。

「……貴方」

「よう、絵里。今帰りか?」

 そこにいたのは慎だった。紺色のジャージに身を包み、フードを目深に被っている。絵里は一瞬躊躇し、後退した。

「何で逃げんだよ」

 慎が言いながら絵里に近付く。

「……どう見ても不審者っぽいから」

「ははっ、確かに」

 笑いながら絵里の前に立つ慎。

「んで?俺の事、思い出した?」

「昨日の事は覚えていないわ。でも、貴方の事は友人に教えてもらったけど」

 そう言って、視線を反らす絵里。

「へぇ~、その友人は俺の事、どこまで知ってんの?」

 口角を上げ、悪戯っぽい表情で慎は言う。絵里は横目で慎を見た。

「貴方の全てを知っているわよ」

 絵里の言葉に、慎は首を傾げる。

「私の友人は、桂木プロダクションの社長兼マネージャーをしているわ」

 その言葉で、慎の表情が一変する。

「……っえ?もしかして、桂木社長?」

「そうよ。桂木にこ。彼女は高校時代の友人なの」

「……ええ!?マジかぁ!」

 腰を抜かしそうな勢いで慎が言う。絵里はそんな彼を見て、吹き出し笑った。

「そんなに驚く?」

「いや、普通に驚くだろ。でも、まさか桂木社長の友人とはな。世間は広いようで、狭いもんだな」

 しみじみと慎は言った。絵里も無言のまま頷く。その時、勢い良く慎のお腹が鳴った。

「腹へった。絵里、なんか食わして」

「……嫌よ。どうして、私がそんな事しないといけないのかしら?」

「…………お願いします。絵里さん、何か食べ物下さい」

 何故か土下座する慎。絵里は大きな溜め息一つ。

「しょうがないわね。でも、食べたらすぐに帰ってね」

「……善処します」

 慎の言葉に、若干の違和感を感じながら絵里はマンションの中に入った。

 

 

 

 

 一方、希の方は。

 

 

 

 

 就寝の準備中。玄関のチャイムが鳴る。

「こんな時間に誰やろう?」

 鍵を解除し、扉を開ける。立っていたのは聖。希は一瞬固まった。

「ごめん、こんな遅くに」

「……別にええけど、どしたん?」

 希の問い掛けに聖は無言で希を見つめた。首を傾げる希。聖の口がゆっくりと開く。

「今日、泊めてくれないか?」

 聖の言葉に、希の思考は停止した。希の顔を覗き込む聖。我に帰る希。

「いきなりでごめんな。ダメかな?」

「……別にうちの所やなくても、聖君なら他に女の人おるやろ?そこに行けば?」

 珍しく不機嫌そうな希。不快感を露にしている。

「……いやその…」

 急に口ごもる聖。何か怪しいと希は考えた。

「うちら、確かに身体関係は持ったけど、一回きりやん。それでうちの所に来るのおかしくない?」

 希の言葉に、聖が小さくなっていく。今にも泣きそうな表情の聖。希は溜め息をついた。

「……しゃあないなぁ。今日だけならええよ。」

 聖の表情が明るくなる。まるで子供の様だ。聖が中に入り、希は玄関の扉を閉め、鍵を施錠する。聖の後ろ姿を見つめながら、希は何度目かの溜め息をついたのだった。




 物語が少しずつ動き出しました。にこの旦那さんもいずれ出る機会があると良いなぁ。あと、他のμ,sのメンバーも。
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