『女なんて糞だ』
彼女に出逢うまで、俺はそう思っていた。一週間前まで遡る。事務所の一室で、俺と聖の二人は、桂木プロダクションの社長兼マネージャーの桂木にこに呼ばれていた。
「どうして呼ばれたか分かる?」
仁王立ちして俺達を見上げる社長。俺と聖は、身長180㎝以上ある為、必然的に見下ろす形になる。
「そろそろ危機感もってくれないと、グループ自体解散になるわよ?」
その言葉に、俺と聖の表情が強張った。俺と聖は『ラブウルフ』というアイドルグループに所属している。数年前から全国的に広まったアイドル全盛期。俺達もその波に乗って、アイドルグループを結成。デビュー当時は、そこそこの人気はあった。しかし、それを維持するには、時間と努力が必要だ。だが、俺と聖はある共通の悩みでアイドルをする事に抵抗を感じていた。その悩みとは女性である。何故、女性で悩んでいるのか。それは複雑過ぎて、一言では言い表せない。ただ、言える事は、女性に対して不快感を感じている。それだけだ。それなら、アイドルなんてしなければ良い。だけど、そんな簡単な話だったら、こんなに悩んでいない。
「……まぁ、あんた達の事情も分かっているから、強くは言いたくないけど」
桂木社長は、俺達の事情を知っている。俺達だって、社長には恩を感じているし、どうにかしてその恩を返したい。俺達は同時に溜め息をついた。
「……とりあえず、たまには息抜きして来なさい。そうだ。私の友人が経営している居酒屋に行ってみたら良いわ」
そう言って、俺達にその居酒屋の店名と場所を書いたメモを渡し、にこやかに手を振ったのだった。
『花陽の食卓』と書かれた暖簾。俺達は暖簾を潜り、店内へ。店内は客で溢れていた。出入り口で立ち往生する俺達。そこに一人の店員がパタパタと近付いてきた。
「お二人様ですか?」
ほんわかと微笑む女性店員。俺達は、無表情で頷く。
「今、座る席が空いていなくて、相席でも構いませんか?」
そう言われた。俺達はとりあえず頷く。極力、女性とは会話しない俺達。女性店員は、相席出来る席がないか、店内を見渡す。店内の一番奥の席に、二人座れる席があった。その席には、すでに女性が二人座っている。顔はよく見えないが、紫色の髪の女性と金髪の女性が座っていた。
「ごめんなさい。今、空いている席がないみたいです」
女性店員はそう言った。俺達は顔を見合わせる。
「あそこの席、座れないのか?」
一応、そう言ってみる俺。女性は指された席を見る。そして、俺達を見た。
「……あそこの席は」
困り顔の女性店員。聖が俺の肩を叩く。
「今日は帰ろう。また、今度来れば良いじゃん」
そう言った。俺は何となく聖がそう言った理由が分かる。出来れば、女性の横なんて座りたくない。俺は頷いた。
「花陽、ちょっと良いかしら?」
女性店員を呼ぶ、金髪の女性。女性店員はパタパタと金髪の女性に近寄った。俺達は踵を返し、店の外へ向かう。
「あ、ちょっと待って下さい」
女性店員が俺達を呼び止める。
「相席、出来ます。」
そう言って、その席へ促す。俺達は内心。
(別に相席出来なくて良かったのに)
しかし、女性店員が今にも泣きそうな表情で俺達を見ているから、仕方なくついて行く。奥の席に向かう途中、周りの席に座っている男達から睨まれる。
(何で睨まれないといけないんだ?)
心の中で言う。それは、聖も思った様だ。俺と同じ様に複雑な表情をしている。そして、女性二人が座る席に着く。女性二人は、一瞬だけ俺達を見たが、視線を戻し、談笑を再開する。俺達は見惚れていた。離れた場所からは分からなかったが、女性二人は物凄く美人だった。それも、タイプが異なる美人。
「何してるん?座ってええよ」
立ち尽くしている俺達に、紫色の髪の女性が言う。関西方言の女性は、微笑む。一方、金髪の女性も、少し椅子をずらし、座れる場所を広くしてくれている。俺達はとりあえず会釈すると、無言で席に着く。
「なぁ、横の二人相当な美人だよな」
騒がしい店内で、聖は声を潜めてそう言う。俺は横目で二人を見ると、頷いた。
「さっき、周りの男連中が睨んだ理由が分かった。俺達が羨ましいんだよ」
「だろうな。女性店員が、相席しないようにしていたのも頷ける」
俺の言葉に頷く聖。しばらく俺達は談笑しながら、ビールを飲んでいた。目の前に置かれる唐揚げ。俺達は首を傾げた。
「っあ、ごめんなさい。それ、私達が頼んだの」
金髪の女性が、申し訳なさそうな表情でこちらを見ている。無言でそれを金髪の女性に渡す。女性は微笑んで受け取った。ほんの少し指が触れた。女性は気に止める様子もない。一方、俺の方は心臓が早鐘を打っている。理由は簡単だ。女性アレルギー。俺は女性に触れられると蕁麻疹が出る。触れた指を見た。蕁麻疹は出ていない。
(……蕁麻疹が出てない。何でだ?)
不思議に感じ、女性を見る。女性達は楽しそうに唐揚げを頬張りながら、爪楊枝を並べていく。
(何してんだ?)
お互い、目の前に五本ずつ爪楊枝を並べ、女性達はいきなりじゃんけんを始めた。聖も同じ様にそれを見ている。爪楊枝が女性二人の間を行き来していく。そして、金髪の女性の爪楊枝がなくなった。
「嘘、また負けたわ。もう希。たまには勝たせてくれない?」
金髪の女性が悔しそうにそう言う。希と呼ばれた女性は、にやけている。
「絵里ち、弱すぎやわ。うちが手加減しても勝ててないやん」
その言葉に絵里と呼ばれた女性は、渋々財布を出す。
「希の方が稼ぎが良いのに。……ごめんなさい。そこの領収書取ってもらえるかしら?」
金髪の女性が、テーブルの下に備え付けられている領収書受けを指差す。
「……なぁ、奢るから。もうちょっといてくれないか?」
俺は咄嗟にそう言った。女性二人は顔を見合わせる。
「ナンパ?」
紫色の髪の女性が言う。その表情は悪戯っ子。
「ははっ!綺麗なお姉さん達の横に座って。声掛けない男はいないよ」
女性の言葉に、聖がそう返す。女性達は楽しそうに笑う。
「綺麗なお姉さん達が帰ったら、男二人で飲む酒は美味しくないだろうな」
俺はそう言った。
(それに、もう一回。触れてみたい)
俺は金髪の女性を見る。女性が俺の視線に気付いた。じっと俺を見つめる女性。そして、優しく微笑む。
「なぁに?私の顔に何かついているかしら?」
わざとらしく自分の頬を触る女性。俺はそんな女性の仕草をずっと見つめていたのだった。
という事で、慎の視点での話でした。次回は、その続きです。勿論、ベッドシーンあります!