何故、邪魔をスル
突然、目の前に現れた大きな影にチセは驚いた、
汗がじんわりと、背中から吹き出してくる、声を出して駄目だ、これはよくないと自身の本能が告げる、普段なら自分のそばにいるルツがいない、エリアスもだ。
「俺の顔が怖イかい」
人骨の骨が大きく口を開き、その言葉がだんだんと流ちょうになっていく。
「アアっ、夜の子供、アンたを食らえば、僕は人になれるノ、空気が」
体が重くなっていく、墓地の近くには、こんな禍々しいものがいたなんなて、気づかなかった、気配を消していたのだろうか、このまがまがしいモノはと思ったとき、目の前が一瞬、暗くなった。
誰かが、視界を遮るように立ったのだと気づいた時、体がふわりと軽くなった。
「この子に何か用」
女の声がした。
「ヨルナ、ああっ」
自分に近寄ろうとしていた得たいのしれないものの声には恐怖がにじみ出ていた。
「近寄るナ、喰うノカ、化ケ物、魔法使イでもないくせに、バケモノ」
化け物オオ。
その言葉がチセの聞いた最後の声だった。
「エリアスが奥さんを連れてきたと聞いたから、お祝いに来たんだけど、怪我はない」
黒髪の女性が自分を見て、にっこりと笑いかける。
渡された花束からは、とてもいい匂いがして、チセはほっと安心すると同時にうれしくなった。
木イチゴ、ベリー、野山の果実が盛られた籠を手渡された銀の君は、それを受け取ると嬉しそうに台所に行き、早速、仕事に取りかかった。
「エリアス、この人が助けてくれたんです」
自分の説明にエリアスは、そうかいと頷いただけだ。
「何の用だい」
「お祝いに来たのに、相変わらずね、友達をなくすわよ」
「友人なんて僕にはいない」
その言葉に女は大変だわと、チセを見て笑いかけた。
「僕を拒絶したのは君の方だ」
その言葉に女は不思議そうな顔になった。
「何、ここしばらく家に引き籠もっていたから、それにあなたと会ったのは数年前でしょう」
いきなり、机を叩く音がした、チセは驚き、女とエリアスを交互に見た、どんな言葉をかければいいのかと迷ったとき。
「僕の求婚を断ったじゃないか、サクラ」
部屋の中がしんとなったが、その言葉に一番驚いたのは名前を呼ばれた本人のようだった。
「求婚って、プロポーズってこと、いつ」
これにはエリアス・エインズワースのほうが黙りこんだ。
「お、覚えてないのか」
「いや、普通は結婚してくれなんて言われたら、忘れないものだけど、勘違いとか、気のせいとか」
「なんだって」
あきれたといわんばかり、そして怒りの言葉が途切れることなく続いた後、エリアスは肩を落とした。
「まあ、今はあなたもお嫁さんがいるんだし」
女の言葉に、前向きな発言だとエリアスは呟いたが、その声にチセは、はっとした。
このときまで、あっけにとられて黙っていたチセが初めて口を開いた、エリアス、今彼女にプロポーズしたらどうですかと。
するとエリアスが口を開くより先に、女はカップを手にした。
「銀の君、よければおかわりを」
熱い紅茶が注がれると女は、実は結婚を申し込まれてねと呟いた。
「それで君は受け入れるのかい
「いやあ、こんな、あたしでも嫁にしたいという奇特な相手が現れるとは驚きだわ、まあ、なんというか」
「エリアス、彼女、あなたに相談したくて来たんじゃないでしょうか」
夕食の席でベリーのタルトとお茶を飲みながら、チセは口を開いた。
「なんだい」
「その人と結婚したくなくて、断る口実が見つからなくて、何か事情があるような気がします」
「チセ、それは君の考え、想像だよね、彼女は一人でも大丈夫だよ、あだ名は化け物って呼ばれているくらいだから」
魔法使いでもないが、何故か、周りには悪魔や忌み嫌われる者と物が周りには集まっている、不思議なことに彼女は自分がどうして、この世界にいるのか、自分の家族や自身の歳さえも覚えていない。
「彼女を殺そうとした忌み物同士で争いが起きたりする、まさに変わった希有な存在、化け物と呼ばれても不思議はない」
「そんなことを聞いているんじゃありません、エリアス」
チセは大きな声で思わず叫んだ。
「久しぶりに訪ねてきた、昔好きだった人に対して、あなたの態度は、その」
言葉に詰まった、自分でも何が言いたいのかわからない。
もしかしたらエリアス自身も、突然、訪ねてきた彼女に対して、どんな態度をとればいいのか、迷ったのかもしれない、だが、これでは。
ほんの少し前に、帰っていった女性の後ろ姿を思い出す。
「怒っているのかい、チセ」
「そんなつもりでは、でも、そうなのかもしれません、あなたの態度は」
涙が出た、エリアスに対してなのか、言葉に迷う自分に対してなのか、わからない。
「少し考えてみるよ」
そう言ってエリアスは自分の部屋に戻ったが、三日後、一通の手紙が届き、部屋の中には彼の怒声が響き渡った。
「結婚します、サクラ」
という、たった一行の手紙を、エリアス・エインズワースは震える手で破り捨てた。
あ、あの女ーっと、叫びながら。