大人の情事、入れるつもりですが。
エリアスは骨頭のままだと思います。
「スレイベガなの」
「なんてこと」
「眠っているのね、どんな目の色なのかしら」
「早く目覚めないかしら」
口々に妖精たちは言葉を投げかける、楽しみなことだといわんばかりに。
木の根元で眠っているのは一人の女だ、見た目からして、大きさと体格から子供でないことは一目でわかる。
妖精たちは驚いた、だが、それはすぐに別の感情、喜びに変わった、無理もない、大人のスレイベガというのは決して多くはないのだ。
自身の持つ魔力が貴重な為、オークションにかけられたりする、こっそりとだ、だから、スレイベガは自分のことを秘密にして、こっそりと、ひっそりと隠れるように生きている者も少なくない、だが、これはどういうことだろう。
彼女は、こんなところで眠っていて危なくないのだろうか。
一人の妖精が女の体、空気を確かめるように鼻を動かした、もしかしたら印があるかもしれない、昔は体の一部に焼き印をする者もいたが、それは蛮族、知恵のない輩、魔法を少しだけ囓った人間のすることだ。
魔術師や魔法使いなら、護りや追跡の魔法をかける場合もある。
「かすかだけど、守りの匂いがする、でも残り香だわ、だから、彼女は」
「どれくらい、ふるい、古いの」
「十年、いや、もっと」
「古い、ものすごく古い、でも」
妖精たちは黙りこんだ、何かを感じたのだろう、だが、誰も何も言わない。
気になるのだろう、女の体を確認するように他の妖精たちも女の体をじっと見た。
一人の妖精が手を伸ばし、女の手、指先に触れた、その瞬間、何かが割れたような音が響いた。
「壊れ、た、魔法が、壊れたわ」
その妖精は驚くと同時に嬉しそうな声をあげた。
「あっ、目を覚ましそうよ」
大丈夫といわんばかりに妖精たちは女に手を伸ばし、手や足、顔に触れて歓喜の声を上げた。
ようこそ、ようこそ。
一人の妖精が首を振った、幼子ではないわ、子供じゃないわと。
すると妖精たちは嬉しそうに笑った。
成人したスレイベガを見ることなど、滅多になかったからだ。
どうして、こんな顔なんだろう、まるで骨だ、いや、そのものだ。
だが、これは自分らしいと考えた、とてもだ、魔法使いらしくていいじゃないかと思ったのだ。
家の中を歩き回って確かめたのは自分以外の誰かがいないかということだ、だが、家の中には誰もいない、そのことに彼はほっとしながら窓の外を見た。
どれくらい、いや、半月、それ以上かもしれない、本、魔法書は床に散乱したままだ、かたづける、整理するのも面倒で、そのままにしていたのだ。
魔法を使えば簡単だが、それさえも面倒に感じてしまうのだ。
数日前、オークションに足を運び、身のまわりの世話をする召使いを買おうと出かけたが結局のところ断念した。
魔法使いという輩、中でも自分は異種族扱いだ、それを考えると自分がよくても相手がどう思うか、たとえ金で買った召使いといえど、だ。
そんなことを考えると気持ちが沈み、滅入ってしまう、気分を変えようと魔法使いは外に出た、家の近くの森に出かけるのは久しぶりだ、いや数年ぶりかもしれない。
庭を出て、森の中に足を踏み入れると空気が揺れた。
森の中へと入り歩き出すと空気が揺らぎ、声を運んでくる。
それは人ではないものたちの声だ、妖精、精霊たちにさえよく思われていないのだと改めて思い知る、決して気分のいいものではないが、どうしようもない。
「何しにきたの、魔法使い」
一人の妖精が顔のすぐそばまで飛んできた、その顔は明らかに不満げだ。
だが、魔法使いは無言のまま歩き出した、それでも自分から離れようとしないことに苛立ちを感じて伺うように目隠しの布の下から視線を向けた。
「どこに行くの」
「おまえが、案内しくれるんだろう」
手を伸ばすと逃げようとするが、言葉の代わりに投げかけたのは呪文だ、同時に小さな叫びをあげた妖精は、あっけないほど簡単に手の中に入った。
「な、何をするの」
「何を隠している、案内しろ」
妖精は顔をそらし、力を込めて飛び立とうとした。
「死にたいのか、このまま握り潰すぞ」
妖精は、まずいという顔になった、この魔法使いは本気だ。
「やだ、はなせ、離して、助けて」
助けを呼んだところで無駄だと力が込められた、そのとき、木々が、葉がざわざわと、揺れる音に混じって聞こえてくる音に魔法使いは顔を上げた。
「エアリアルを、彼女を離して」
伸びてきた手が、細い指が、自分の手から妖精に触れた瞬間、妖精が羽ばたいた。
「あなたは誰」
「魔法使いだよ、僕は茨の魔法使いと呼ばれている、エリアス・エインズワース」
「駄目、虜にされるわ、相手は魔法使いなんだから」
妖精の声に女は一歩下がった。
そして、魔法使いは自分の顔を覆う布を取ろうとした、だが、その瞬間、自分と相手の間の間に金色の光、輪が相手を包み込んだ。
それは、ほんの数秒、瞬きほどの間だったかもしれない。
気がつくと魔法使いは自分が夜の森に一人、取り残されていることに気づいた。
あれは妖精、いや、人間だろうか、もしかして、スレイベガかもしれない。
その日、茨の魔法使いは森に向かった、途中、雨が降り始めた。
名前がわかれば、探索の術、魔法を使えばいいのだが、それは今の時点では無理だだとしたら、もう一度、妖精を捕まえればと考えた。
だが、雨はやまない、まるで魔法使いの思惑と術の行使を邪魔するように少しずつ、激しくなっていく。
「君は誰なんだ」
魔法使いは暗い空を見上げ、呟いた。