そこへ、乱入するのはヨセフ、花婿。
一応ギャグです。
「おはようございます、エリアス」
「ああ」
やはりと思ったが、相手は軽く頷いただけで会話は続かなかった。
いつもなら、今日の予定はどうする、自分は手が放せないないなどとエリアス自身から話しかけて会話が続くのだが、今朝はそれもない。
朝食は自分とエリアス、ルツの三人、そしてシルキーが給仕をするのだか、今朝は客人としてリンデルがいた。
一人、黙々とパンケーキを食べている彼はチセにおはようと挨拶をすると
ゆっくりと席を立った。
森の中でリンデルと灰の目は言葉を交わした、長い会話ではなかった。
静かに言葉を交わしただけで、言い争ったわけではない。
その結果、灰の目は決断を下し、リンデルは了承した。
そして、リンデルは眠っている彼女を自分たちの、チセとエリアスの自宅への一室に運ぶ事を提案した。
そして彼女は今も眠り続けている。
「リンデル、彼女は」
出て行こうとするリンデルに一番気になっていたことをチセは尋ねた。
「目覚めるまでは何もせんでいい、あと、灰の目を、カルタフィルスを無闇に恐れる事はない、弱いのだ、あの者達は、無論、儂もだが」
その言葉に納得いかないという顔をしたチセにリンデルは肩を竦めた。
「何せ、弟子に脅されたくらいじゃからのう」
「それは嫌みかい」
初めてエリアスが口を開いたが、リンデルは、はははと笑っただけだった。
不思議だ、何故か腕の痛みが和らいでいる気がする、ずきずきと痛んでいた、あの感覚が消えている訳ではないが、随分と楽になった。
「ふむ、それも原因の一部か」
「灰の目、どうして」
ここにいるんだと振り返った少年は自分の左腕を隠すように後ろ手に回した。
「式が始まる前に、おまえはどこか具合が悪いのかと聞かれたよ」
何を言い出すのかと少年は一瞬、不可解な表情になった。
「おまえさんが、変な術師から呪い返しを受けたことを話しておいた」
灰の目は近づき、少年の腕を取った。
包帯が、まるで紙切れのように床に落ちていく。
「腕の痛みは以前ほどではないだろう、ただ、あまりにも他の者達が集まりすぎた、スレイ・ベガの力に引き寄せられたとしても、あれはないだろうね」
呆れたような声にカタルフィスの表情が少しずつ変わり始めた。
「彼女に会わないと、どこにいるんだい」
灰の目はフードの下のわずかに細めた、わからないのかいと言いたげに。
ベッドの中では女が静かに眠っていた、もう一週間になる。
長すぎないだろうか、以前、自分も力を放出しすぎて眠り続けたことがある、あのときはと思い出しながらチセは窓の外を見た。
風が少し冷たくはないだろうか、閉めたほうがいいかもしれないと思い、窓に近づこうとしたとき、奇妙な音がした。
ずりっずりっと何か重いものを引きずるような音だ、そして同時に開いていない窓をすり抜ける用にして何かが入ってきた。
あっ、思わず声を漏らしそうになたチセは、それを凝視した、いや、目を離すことができなかった。
灰の目、かと思ったが頭からすっぽりとかぶった黒いフードと背格好から違うとわかった。
ベッドに近づき、それは両手を大きく上げた。
チセは思わず叫びを上げそうになった、白いシーツの上に散乱したのは何かのゴミのように見えた。
だが、よく見ると植物だ、茶色く、からからに枯れたものだ。
フードの下に目があるとしたら、彼女を見ているのだ。
眠っているのと自分でも驚くほど自然に、その言葉が口からこぼれた。
だが次の瞬間、チセの全身が硬直した。
フードの下から手が伸びてきたのだ、
それも白い、人骨、人間の手、指ではない、異形の形をした骨はシーツの上の自分が広げたモノを手に取るとほんの少し上に持ち上げるようにして見上げるような仕草をした。
もしかして、チセは自分でもわからず庭に出た。
エリアスの姿は部屋の中にも庭にもいない事にほっとしながら、花を摘むと急いで部屋に戻った。
シーツの上に薄い赤や黄色の花をチセは広げるようにして置いた。
マントの下から聞こえる音は声なのか、息づかいなのかわからないが、この異形の者は喜んでいるのなら、嬉しい。
そう思ったとき、ドアが開いた。
エリアス、てっきり、彼だと重い振り返ったチセは、言葉を飲み込んだ。
そこには銀髪の少年と黒い礼服の首のない長身の男が立っていた。
「どうして」
チセの言葉に少年は迎えに来たんだよと笑った。
「色々な者が集まりすぎるんだ、森がちかいせいもあるけど、そいつだって惹かれてやってきた、取り込もうとしているんだ」
「でも、リンデルは目が覚めるまで」
「いつまで、数日、一ヶ月、スレイ・ベガなら数日でも彼女は違うんだ、さあ、」
黒服の男が近寄りながら手を伸ばした時、窓から何かが飛び込んできた、よく見ると妖精だ。
「駄目よ、疲れているの、凄く、とても凄く」
「だから、ロンドンに行くんだ、あそこなら」
少年の言葉に精霊はとんでもないと首を振った。
「人が多すぎるわ、よくない者も大勢、ここが安全、助けて」
精霊は叫んだと同時に、窓が開いた。
開いた窓から飛び込むように一匹の猫が入ってきた、口に何かをくわえている、シーツの上に置いた、それは木の枝だ。
「守りの枝か」
少年の苛立った声に頷くような返事が響いた。
「礼儀知をわきまえたらどうだい、人の家に無断で入ってくるなんて」
「挨拶はしたよ、さっき」
「僕を身動きできないようにしてね」
油断しているほうが悪いんだ、ぶつぶつと呟くような声で少年は独り言のような文句を繰り返す、すると。
「怒っているんだよ、僕としてはね」
はっきりとした男の声が部屋の中に響きわたった。
自分の影の中から姿を表した魔法使いにチセは驚いた、ずっとそこにいたのだろうか、自分の感情を読みとったのかとんでもないとエリアスは二人の侵入者を見た。
「言っただろう、身動きできなかったって、それと彼女はしばらく、ここに居る予定だ」
「ここに、とんでもない、灰の目は了承しても僕は反対だ、特にあんたのそばなら尚更だ」
「ヨーセフ」
言い争いはよくないといわんばかりに、手が伸びて少年の肩に置かれた。
「気の毒だ、彼女が、とてもね」
冷静さを、落ち着きを取り戻したように少年は冷たい目でチセの隣にいる骨頭の男を睨みつけた。