そして、夫となる首なしに顔が出来上がります。
それはある人物に似ているという設定です。
エリアス、名前を呼ばれて振り返る。
「怒ってるの」
「いいや、別に」
少しの間、無言になり、嘘ねと彼女が答えたので少し肩を竦めて、怒ってなんかいないと言いかけたが、その言葉を飲み込んだ。
あれは随分と昔のことだ、何故、今頃になって、しかも、この朝食の席で思い出したのだろう。
多分、今、自分は怒っているからだとエリアスは思った。
そう、怒っているのだ、何故なら。
自分の向かいの席に座り、三個目のスコーンを食べている女の顔は満足そのものだ。
そして、空になった彼女のカップに銀の君がお茶のおかわりを注ぐと、残り少ないジャムの瓶を見て、台所の奥へ消えた。
戻ってきたときには新しい木苺のジャムを手にしていた。
少し酸っぱいジャムが、エリアスは、あまり好きではなかった、チセと暮らし初めてから、食卓に上ることはなかったのに。
「やっぱり、このジャムは美味しいわ、銀の君は本当に上手ね」
普段は無表情な彼女が、その言葉にかすかな笑みを浮かべるのを見て、チセはともかくエリアスは内心、むっとした。
「起きたばかりだというのに」
嫌みにも聞こえかねない言葉を口にしたが、ちらりと視線を向けられただけで、返事はなかった。
「いつまで、ここにいるつもりだい」
女が初めてエリアスを正面から見た。
「迎えが来たらすぐに帰るわ、言っておくけど、魔法で移動は好きじゃないの」
「そうかい」
「空を飛ぶというのもね」
その言葉にエリアスは一瞬、無言になった。
エリアスの不機嫌さが、このやりとりにチセは思わず席を立った。
「課題があるのでお先に失礼します」
「がんばってね、チセ」
女の言葉に頷くと慌てて自分の部屋に逃げるように姿を消した彼女を見て、女は一言、大人げないと呟いた、すると。
「君はどうなんだい」
自分は怒っているのだろう、いや、それだけではない、苛立ってもいるのだが、感情のままに言葉をぶつけてしまう、どうして、思わずにはいられない。
こうしている間も時間は過ぎていく、彼女が目覚めたことを知れば、カタルフィスとあの男は迎えに来るだろう。
魔法を使わずに普通の方法で来るなら数日はかかる筈だ、その間に。
自分は、どうすれば、何をすればいいとエリアスは考えた。
「これが、私の顔か」
鏡に映った自分の顔を見て男は呟いた、金色の髪、鳶色の瞳、人間なら四十位、いや半ばだろうか、皺が刻まれた顔は、それより上に見える。
「ああ、これで迎えに行けるね、彼女を」
満足そうなカタルフィスの言葉に男は頷いた。
「この顔を、見たことがあるような気がする、そうだ、教区の、あの神父に似ていないか」
「会ったことがあるの、でも本人じゃない、彼には兄がいたんだ、繋がりはなかったけど、彼は嫌われ者だった」
「知っているのか」
少年は笑いながら昔の事だよ、そして大事なのは彼女だよと呟いた。
「ああっ、よく寝た、んでしょうね」
庭に咲いてる花、妖精や虫達を眺めながら女は両手を上げて伸びをした。
朝食はとても美味しかった、パンケーキでなくスコーンばかり食べたので
食事と言うよりも午後のお茶という気がしないでもないが、そんな事は銅でもよかった。
エリアスの機嫌が良くなかったが。
自分と彼の会話は時折、外国語で話しているように難解で噛み合わないことがあるが、それは自分が人間で彼が魔法使いだからと思っていた。
スレイ・ベガは違う、自分はそうではないのだから。
草を踏む音がした、チセではない、彼女なら声をかける筈だ。
多分、どんな言葉をかけようかとに迷っているのだ。
こちらからいかなければと思い、名前を呼んだ、さっきのこと、朝食の時のことなんて気にしていないからと言おうとして。
だが、言葉が出てこなかった、そこにいたのは彼ではなかったからだ。
誰と訪ねる前に相手が答えた。
君の夫、首なしだよと。