【R18】レズビアンの私が異世界転生したから学園百合をしようと思う 作:碧風樹
東方の辺境伯を見送るついでに、私も前線まで行ってみることにした。色々問題はあったが、私と辺境伯、そしてその娘アンリエッタの護衛として銀牙騎士団を連れて行くことで解決した。ついでに辺境伯の領地に移籍する銀牙騎士団の見送りも兼ねている。
そして王女生活史上初めて馬車というものに乗ったのだが……
「アンリエッタ、お尻いたーい!」
乗り心地はお世辞にも良いものとはいえなかった。高級な馬車らしく車輪や車軸をサスペンションで挟んで固定しているし、座席には高級なクッションが敷かれているのだが、6時間以上馬車に座りっぱなしとなるとお尻とか腰とかが痛くてしょうがないのだ。
「姫様、そういいましてもこれは最高級の馬車でして……」
アンリエッタが慰めモードに入るが効果はない。
「休憩、休憩しましょう。他の馬車や騎士団の人たちも疲れているでしょう? 休憩にしましょう!」
反応といえば予定外の休憩に喜びつつも、これで時間までに目的地につけるのかという意見が大半だった。
「大丈夫よ、今日途中で野営すれば翌日の昼には宿泊先の村に入れるはずだから、そこでゆっくりと休んでくださいまし」
私の言葉に騎士たちは歓声を上げる。が――
「姫様の思いつきは素晴らしいのですが、それをなすには多くの下働きのものの働きが必要とされます」
辺境伯はつかれた表情で言った。
「根回し、ってやつかしら?」
「はい。姫がご聡明で助かります。その根回しのために多くの人員が必要なのです」
「では……」
そう言って私は懐の袋から金貨百枚ほどをテーブルに出した。
「これで彼らを労ってください。それから休みもちゃんと与えるように。人を動かす秘訣は適切な仕事と適切な給与、そして適切な休暇ですわ」
「はは、姫にそれを指摘されるとは私もまだまだですな」
辺境伯はそんなことを言うが、日本で社会人として働いていた私には常識だ。ブラックな環境には人は集まらない。私の銀牙騎士団が盛況なのもひとえに高待遇があればこそである。
「辺境伯も銀牙騎士団流の福利厚生を取り入れてみたらいかがかしら?」
完全週休二日。有給休暇あり。年間休日130日以上。功績を上げたものには特別休暇あり。公的なカレンダーに則った祝日や休日は完備(軍務によって出勤の場合は代休あり)。軍務によって死亡、負傷した場合は年金完備。正直言ってここまで高待遇の軍は我が国には存在しないはずだ。だからこそ銀狼騎士団は若人の憧れだし最高の戦力を誇る。
まあ、それはともかく、馬車の乗り心地が悪いので私は休憩したかった。そして、念願の休憩が与えられたのである。
それから、休息を終えた私は必死で図面を書いた。なにかといえば生前の車の技術を応用した車輪や車軸に関する知識と、新しいスプリングに関するものだった。
「どう、辺境伯? お宅で独自開発して使用してみない? 調子が良好なら銀牙騎士団や王家でも技術使用料(パテント)を払って使用する準備があるわ。
「なるほど。実際の兵員輸送で試せということですな。承りました。ハーゼ辺境伯、この任務見事達成してご覧に入れましょう」
辺境伯は平身低頭する。
「頭を上げなさい。貴方ならば私が国家予算の数倍の資産を持っていることも知っているわよね? これは、私のそれを元手にしたビジネス。辺境伯は対等なビジネスパートナーよ。少なくともこの件に関して遠慮することはないわ」
「ありがとうございます!」
更に頭を下げる辺境伯。
とりあえず昼休憩を終えて、片付けの準備に入っている。日本人としては作業に参加したくなるが、ここは我慢だ。
そすして数日かけて私たちは辺境伯の守る城塞に到着した。そこは宮殿というよりは完璧に城で、居住性よりも防御性を重視した作りだった。したがって夏は暑いし冬は寒い。麦やら何やらの匂いで夏はとにかく臭くて、鼻がひん曲がるほどだと言う。
まあ、今は冬に近い時期なので臭いの心配はない。
と、そんなことを考えながら辺境伯やアンリエッタとともに食事を頂いていると、騒ぎが起きた。
なんでも騎士同士の訓練で、一人の騎士が大怪我を追ったらしい。
「この世界の医療技術は……」
こちらのローマに準じているがひどい。
「辺境伯、アクアヴィテ(命の水)をたくさん集めて! 婦人とアンリエッタは清潔な布と鋏!! それから、針と糸と焼きごて! 急いで!!!」
私は指示を出すと、練習場に駆け寄る。そこでは一人の騎士が腕に重い傷を追っていた。正直救命救急で習った範囲からはオーバーするが仕方がない。やれるだけやろう。
アクアヴィテ=蒸留酒を伯爵からもらうと、患者の傷に降り注ぐ。患者が痛がるので、木の枝を布で巻いたものを齧らせる。
それから、焼きごてで傷を焼いて止血する。それからさらに酒をかける。
次は傷を縫い合わせる。裁縫用の針と糸だが仕方がない。無理やり縫い付けてからさらに酒をかけると、清潔な布を裂いた傷に包帯を巻く。そこらの木を添え木にして、包帯を巻く。
我ながら何という手際だ。前世の知識があったとはいえ、恐るべき成果だ。
「はい、あとはベッドに入って安静になさい。誰か、彼に付き添って包帯を変えたり水を飲ませたりする仕事を五人交代でやりなさい。こまめに酒で消毒して包帯を取り替えること! いいわね!!」
と、そういうわけで普通なら腕を切断して不具になってしまうほどの傷を私は救ってしまったのだった。そして、本来ならナイチンゲールが受けるべき称号であるような天使や聖女などと呼ばれてしまうようになるのだった。