登場人物
××××
体は既に朽ちている 血潮は枯れ果て、心は汚泥 幾重の世界を渡り惨敗 ただの一度も勝利は無く そこに一つの正義は無い 彼の者は常に独り屍山にて恥辱に塗れる 故にその生涯に光は無く その身体は、既に腐り堕ちていた
誰にも任せる事は出来ない。
僕の責任だ。
誰も巻き込む訳にはいかない。
僕の仕事だ。
誰しもを救わなければならない。
何故なら僕は――
「遅かったね、××××」
――正義の味方、だから。
これで最後の会話になるだろう。決して対話ではない会話を、最後の会話をしよう。まず、僕には君に言いたい事が山ほどある。けれど、その僕の疑問に対する君の答えがただ一つである事は容易に想像できる。…から、今から僕が言うのは質問でも疑問でもない、ただの悪口、ただの文句だ。心してくれ。まず、どうして君は『僕の言う事』を聞かなかったんだい?君にだって分かってたんだろう?自分の力が強くなっていく事を馬鹿正直に喜ぶような人物じゃあないって事は、僕が一番よく把握しているからね。調べたんだろう?アクセス履歴を消しもしないんだね、君は。堂々とクリアランスを偽造して、堂々と調べて、挙句コピーまで残して、足跡をくっきりと残していった。…それについて僕が文句を言わなかったのはね?…それがダーカー関連の事象ばかりだったからだ。僕はてっきり、アフィンの姉に関する事を調べているんだと思っていた。…時期的にも一致するだろう?それに、君が勝手にユクリータを【撃って】、ダークファルスじゃない事を証明して、それを僕に報告していないんだから、そう予測するしかなかったよ。で、アフィンから話を聞いて愕然としたよ。『じゃあ、君はどうしてダーカーについて…それも、ダーカー因子の汚染に関する事象ばかり調べているのか』って。…最悪だよ。見損なった。聡明だと信じて疑わなかった君が、自分の事も省みない愚か者だったなんて。マトイの事は気にかけていた。【前例】があるからね。でも、君は予想外だった。想定外だった。ならば僕はと、だから僕はとあの場に現れたのに。…最低だ。
それで?君はこれからどうするんだい?もうそんな姿じゃあアークスには残れない。かといってこれからアークスの敵になれる程、君には悪人の素質がない。…まぁ、僕が気にする事でもないか。六芒均衡はもうカタナシも同然。信頼もほぼ失墜したと見える。これから、適当な人材を頭に組織を組み直さなきゃならない。…そこに君はいないよ?
君に出来る事はもう何もない。
君かマトイか、どちらかが消えてしまうと…どう頑張ってもアークスは再建できない、安定もしないならず者集団となる。でも、それはただ単に“アークスは君達二人を主翼に動いている”という事実を踏まえた演算結果だ。でもさぁ、でもさぁ…!…片翼の鳥に、何が出来るんだよ。もう邪魔だ。邪魔なんだよ君は。…こんな事になるのなら、最初から君を頼りにしなければ、君を信頼しなければ、君を友と認識して根拠の無い信用に身を任せなければ……いや、これは僕の責任か。君の本質を見抜けなかった僕の過失だ。君は何も悪くないんだろう。邪魔な片翼を切り落として、僕達アークスは世界の秩序であり続ける。君は邪魔だ。去ってくれ。消えてくれ。頼むから。
僕達にはもう、正義の味方は必要ない。
これから君はどうするんだい?…どうでもいいか。君はずっと、それであり続ける。悪にしろ正義にしろ、君はずっとそれのままなんだ。変わる事のない。僕たちはきっと君を殺しに向かう。恨まないでくれ。
…ねぇ。最後に一つだけ。
これを聞いておかないと、僕はきっと人じゃあなくなるから。
サラの為にも、聞かせてくれ。
…。
「どうして君は、マトイを殺したんだ?」
「…」
「君ほどの力があれば、クラリッサを所持していながら…君はどうして彼女を殺した?君なら、いくらでも未来を切り拓けたはずだ。僕らに頼る事を恥と考えたのか?君なら、君なら…アークスを抜けて、フォトンを裏切って【深遠なる闇】に与することも、マトイの味方になり続ける事も出来たはずだ。…そうして、僕らの世界が滅ぼされてしまっても…僕は文句を言うつもりは無かった。…それなのに、どうして君はマトイを殺した」
「…」
「好きだったんだろう?愛していたんだろう…!?何で!何でなんだよ!分からない。理解らない!知りたくない!知りたくない!演算したくない!君の心が分からない!意味が分からないよ!好きな人を、どうしてそんなになってまで殺せるんだよ!!?君の友達を、僕の友人を!君は奪ったんだ!その手で!血の涙を流しながら!…理解できない。なんでだよ…!どうしてそんなこと…平然と……何で………!」
「……それ、は」
――顔を失い、光を失い、名を失い、貌をも喪った男は答える。
「何故なら、僕は」
「…なんだよ」
「僕は――正義の味方、だからだ」
「――そうか。マトイは、君みたいな男の夢物語を叶える為に死んだのか。…君は、自分の為に殺したんだ。…酷いな。酷い話だ。酷い結果だ。正義の味方が、聞いて呆れる」
「…恨むのなら、どうか恨んでくれ。僕は人の味方であり続けるとも。…好きなだけ恨むといい。それでも僕は、揺らがない」
1
ダークファルスを全員殺そうとした。
僕の企てがすぐさま発覚し、殺されかけた。
ほうぼうの体で時を遡った。
2
ダークファルスを全員殺そうとした。
【若人】と【巨躯】を殺す事が出来た。だが、【敗者】に殺されかけた。
ほうぼうの体で時を遡った。
5
ダークファルスを全員殺そうとした。
【双子】以外の全てのダークファルスを殺した。
だが【双子】に呑まれ、半身を失った。
血に塗れながら時を遡った。
9
ダークファルスを全員殺そうとした。
ようやくすべてのダークファルスを殺す事が出来た。
が、その時には自身が【深遠なる闇】と化していた。
闇に堕ちる前に時を遡った。
17
どうして僕はダークファルスを殺し続けているのだろう。
…ダークファルスは敵だから。
ダークファルスの存在が、人々の脅威となるから。
――ダークファルスがいなければ、マトイが深遠に堕ちる事も無い。
39
【双子】を最初に殺した。
すぐさま僕が深遠に呑まれかけた。
51
【巨躯】を最初に殺した。
すぐさま僕が深遠に堕ちかけた。
…どういう事だ。
73
…おかしい。どのダークファルスを殺しても、僕自身が【深遠なる闇】になってしまう。
その度に遡っているが、どうにも引っかかる。
始めの頃は【双子】まではなんともなかったのに、何故?
96
フォトンを裏切った筈なのに、どうしてフォトンが使える?
フォトンを使える筈なのに、どうして僕は体内のダーカー因子を浄化できない?
アークスから攻撃を受ける事も増えた。
132
止めるわけにはいかない。
止まらない。
399
【双子】の言葉を思い出す。
…正義の味方のつもりかよ。
…滑稽だ。
子供の言葉だ。切り捨てろ。
555
愛されようと、殺す。
寄りかかってくれば、好都合。
いくら弱っていようとも、その方が殺しやすい。
843
ナベリウスにて、私を見つける。
844
また、私を見つけた。
何故だ。理解できない。
僕はただ、時間を遡って…。
859
何かの間違いだ。
881
僕はこれまで何をしてきたのだろう。これまでの殺戮には何の意味も無かった。
僕は時を遡っていた訳ではなかった。
時を遡る事なんて不可能だった。
ただ僕は。違う線路に。移っていただけ。
918
前に来た世界にもう一度やって来たようだった。
そこにはダークファルスなんていなかった。
人も生物もいなかった。
ただ、ダーカー因子が結晶となって降り注ぎ、花の代わりにダーカー因子の結晶が狂い咲く黒いナベリウスがそこにあった。
闇に堕ちかけて、僕は遡った。だが実際は、違う川に乗り移っていただけだった。
それだけではなかったとするならば。
…僕が死にかける度に、僕は本当に死んでいて。
僕が闇に堕ちる度に、僕は本当に闇に堕ちていて――。
1001
僕はいくつの世界を滅ぼした?
1644
僕は結果的に、何兆の無辜の人々を殺した?
1855
(無音)
9999
僕は世界を救う。
10912
僕が一人でもダークファルスを殺せば、すぐにその世界は闇に堕ちる。
僕に出来る事は何だ。
17299
僕は正義の味方だ。
58320
マトイを守る事は、僕には出来ない事だ。
マトイを殺す事は、僕にしか出来ない事だ。
77777
闇に堕ちればそれを殺す。
マトイだろうと、僕自身だろうと。
92854
【深遠なる闇】を殺し続ける。
僕にしかできない、世界を守る方法。
マトイを守り続ける方法。
99999
誰か僕を解放してくれ。
999999
いやだ。
9999999
何度目だ。
10000000
護れない。
護り続ける。
世界を守り続ける。
それが守護者たる僕の仕事。
彼女こそが、世界の罪業。
護り続ける。
殺し続ける。
99999999
朽ちた。
錆びた。
腐った。
それでも。
決意は折れない。
×××××××××××××××××
――僕は。
正義の味方、なんでしょう?
――そうだ。
夢が叶って、嬉しいな。
――ああ。心から。
…寂しいね。
――うん。
会えないなんて。
――寂しいよ。
…。
――眠ったんだね、マトイ。
。
――――君を殺してまで、僕は正義の味方でいたかったのだろうか。