登場人物
ダークファルス【若人】
ユクリータ。アークス達による無残な真名看破により情緒不安定になっていたところ、或る男に介抱される。
ユクリータ
ダークファルス【若人】。とある男と将来を誓い合い体を許した程の濃密な関係を築いていたのだが、その事実を他人に漏らすつもりは無い。割と恋する乙女。
アウロラ
ユクリータに宿るフォトナー。見てくれは幼女だが精神的には普通に成人済みであるため、平然と規制音が入りそうな話をしたがる上に、酒を求める。酸いも甘いも噛み分けた魔性の女故に割とサバサバしているが、ユクリータの事は大事に思っている。
女
身長の低い女。常に腰が低く臆病者。アークスでありながら、こう見えてアークス外の第三者機関の者。間者。こう見えて守護輝士。英雄と呼ばれるほどの人望は持ち合わせているものの、空想や夢想を唾棄する程に嫌う。嫌いな物には毅然とした態度で唾を吐くタイプ。
朽ちた男
正義の味方の成れの果て。闇色の亀裂走る全身が、その罪の証。
泣き崩れる女を見つけた。
男は普段の優しさで、女の隣に寄り添った。
女は自身に耐え切れず、熱を求めて男に抱き付いた。
男を抱き締めた。
何より自身が惨めで、無様で、どうしようもなく偽物なのだと思い知らされて。
泣き崩れるしかなくなった。
寄りかかられた男は、片手の刃を握りしめるも。
胸の中で弱々しく小さくなった女を殺す事など。
腐り堕ちたその身では、出来なかった。
「【仮面】との思い出…?……何よ突然」
「いえ、その、あ…どうやら【仮面】は、別の時間軸からやって来た存在みたいで、その、ですから、あの、私と違って男のヒトだったみたいですし、ですので、その」
「…そんなに怖がらなくてもいいじゃないのよ。世界を救った英雄サマがそんなんじゃあ、…まぁいいわ。これから時間、あるかしら」
「あ、あ、ああ!はい、あります!」
「アイツとの思い出となると、どうしても長くなっちゃうし、外では話せないようなハナシも出てくるし…ね」
思えば、必然だったのかもしれない。年若く紛い物である彼女と、同じく若く紛い物である彼が惹かれ合うのは、当然だったのかもしれない。周囲を見回したところで、戦闘狂、知識狂い、幼稚、とロクな同胞がいなかった。比較的年も近い二人は、頻繁に会う事は無かったものの顔を合わせれば話し込んでしまうような、そういう間柄であった。
片や、朽ち果てた正義の体現者。
片や、ただ巻き込まれただけの被害者。
一見歪な二つの歯車は、奇跡的に噛み合っていた。
「コーヒーでいいかしら」
「あ、お構いなく!」
「……さて、元からアイツとは仲が良かったのよ。年も近いみたいだったし。まぁ、友達みたいな関係だったわね。お腹も減らないのに一緒に食事したり、弁当貰ったりしてたわ」
「……なんか、学生みたいですね?」
「そうね。ある意味…ヤンチャしてた、と言えば青春なのかしら。…なんとも苦い青春だったけれど。…話を戻しましょうか。…アンタたちから突然追い回されて、身に覚えのない思い出突き付けられて、アタシは情緒不安定になった。知らない自分が、ドッペルゲンガーみたいに存在してるみたいで、気持ち悪くて、不安になって、何より自分はダークファルスだって信じ込んでたから…自分を否定されたら誰だって困惑するでしょう。…そんな時からかしら、【仮面】とよく会うようになった」
「もう嫌。嫌よこんなの」
「ああ」
「アタシって誰なの?本当にダークファルスなの?そうじゃないの?自分じゃない。アタシじゃない。どうすればいいのよ、これから」
「…ああ」
泣き崩れる彼女を抱き締めなだめるも、慰めの言葉が見つからない。ここはリリーパの地下採掘場。それもかなり奥まったところで、【仮面】の記憶が正しければ、現在地は一般アークスの探索許可が出ていない場所である。このまま泣き崩れる彼女の背をさすり続けるのも良いが、流石に両者とも落ち着かない。
嘆息し、男は女諸共空間を移った。
男が目指すは、自らの根城、活動拠点。
「それでそれで!どうなったのかしら!」
「…アウロラ、いつの間に」
「で、【仮面】とやらとのロマンスはあったのかしら!?かしら!?」
「…無かった、とは言えないわね。でも、貴方が期待するようなネトネトした関係じゃないわよ。…アタシは鬱病みたいな状態だったし、あの男はあの男で律儀すぎだったし」
「なーにーよー!つまんないわねー!女しかいないんだから遠慮しないでいいのにー!こんなに夜遅いのに下世話な話がないとかー!」
「あ、あのですね、夜も遅いですので私はこのあたりで……また後日お伺いできればと…」
「アンタは帰るの!?つまんないわねー!もうちょっといなさンギャ!」
「…アウロラを黙らせておいてなんだけど、…今日は泊っていかないかしら。ほら、貴方の部屋って此処と正反対だし、アウロラも言ってたし、だから――」
――――――――――編纂。挿入。切り取り。張り付け。
※
ヤなこと思い出させるわね、あの子。
ベッドの上に寝ころびながら、溜息を吐く女。
部屋は橙の豆電球で照らされており、彼女の身体を淡く照らす。
(アタシから逃げたのに、怖くなって逃げたのに)
「嫌いになりたくなかった、なんて」
独り言が増えた。かつての温もりを求めるように、自身の失敗を悔いるように。
恋をしていた。
好きだった。
愛していた。
「…でも」
好き、スキ、大好き、あいしてる。…なんて。
「言えるわけ、ないじゃない」
口に出さなければ想いは伝わらない。そんな事は分かっている。重々承知している。分かっている。…のに。アタシは、アタシは…。
「仕方ないんじゃなーい?」
自分の中から、声がする。フォトナーと名乗る彼女。
「愛なんて、有って無いようなものでしょ。恋人なんてただのセックスフレンド、妻も夫も金蔓か肉奴隷と同義。カネと体だけの関係をどれだけ綺麗に飾っても、キラキラの言葉で粉飾したところで…」
「…」
「…だから、男と女は自由なのに」
アウロラの言葉を、女は否定する。否定しなければならない。
聞こえないふり。
寂しさは胸をざわつかせる。心は熱を帯びるばかり。
聞こえないふり。
聞こえないまま、寝間着のボタンを外す。
乳房の解放感と、露になった肌が淡い光に照らされる事で全身が火照りだす。
唇を指で撫で、その右手を自らの胸へと伸ばす。良く膨れた肉塊を揉みしだき、“気分”を高めていく。そうして硬く勃起した乳首へと指を這わせる。
乳首を弄くる時は、決まって目を閉じる。目を閉じて、あのひとを想い浮かべる。
あのヒトの体を、あのひとの腕を、あのひとの指を思い浮かべて。
あの夜のように。あの日の夜のように。
「…………っ。ん、んっ、んん……」
声を抑えていると、あのヒトは決まってこう言う。言っていた。
『聞き耳を立てるような無粋な輩はいない。…あまり溜め込むのも良くない』
耳もとで、わざと息を吹きかけるように。
こんなコト、ただのあの日の繰り返し。
そう思っていても、腕の動きは止まらない。両手は乳房の上を這いまわり、指は硬くなった乳首を挟み、ぐにぐにといじらしく捏ね回す。…前まではあのヒトの手が私のカラダ総てを知り尽くしていたはずなのに、今となっては私自身が。…私自身が、私が感じる場所を知り尽くしてしまっている。
「っ!」
羞恥心と、じわじわとシミが広がるような快楽に、下腹部が熱を帯び始める。
『…物足りないか』
「…違うわよ……はっ、はっふー…ふー…もう、濡れてるから…早く、ん、あ、んん、んっ、なさいよ……」
空虚な自作自演。かつてのあのひとの言葉をリピートする。…そんな甘い幻聴に、空っぽな返事をする。そうして、乳房を捏ねる右手の動きを止めると、下へと指を這わせショーツの下へと潜らせる。…手の甲に伝わる冷たさは、滴らせた愛液の染みか。
熱を帯び汁を吐き出し続ける淫猥な口を、右手で撫でまわす。無論乳房を弄繰る左手の動きが止まる事はない。分泌された粘液が右手の平に広がり、にちゃにちゃと水音を立てる。…人差し指を、淫らな涎を滴らせるクチへと潜らせる。
人差し指では物足りない。
中指も入れては限界だ。
それでもまだ、刺激が足りない。
女の細い指と、男の角ばったような指では、当然太さが違う。
それに。
(あのひとのあそこは………もっと、もっと)
自分の内側を抉りながら拡げていった、あの男の肉塊は、その肉がもたらす快楽は、女の指で賄えるようなものではなく。…それ故に、二本の指を潜らせては引き上げる。指が、分泌された愛液に塗れるのが分かる。ぬるぬるとしたそれが、指にまとわりつき、下の口からも零れ落ち、それらすべてが湿った音を大きくさせる。
「はっ、はっはっ、はっ、はっ…はっ…はっ、ああっ」
粘液音は大きくなり、それと同時に指の動きを早くする。…激しくさせる。
ぬるぬるで満たされた肉の管の入り口周辺を、二本の指が激しく出入りする。
にちにちと、にちゃにちゃと、卑猥な水音が部屋に響く。溢れる蜜はショーツでせき止められることは無く、寝間着のズボンに少しずつ広げ始める。
「ペルソナ、ペルソナ、ペルソ、ナ、ぺるそなぁあ…!」
いる筈もないひとの名を呼ぶ。いないと分かっていても、まぶたの裏には姿があって、頭の中には声がある。バラバラの思い出で、寂しさを紛らわす。一人で達する虚しさと、放射されるだけの熱気、唇の寂しさ、受け取る事の無いあのひとの白濁とその熱さ、それらすべての空虚を無理矢理記憶で埋め戻す。
オーガズムを迎えた後の空しさ。
無駄な行為への自己嫌悪。
誰にも見せられない、誰にも見せない卑猥な自分。
湧き出るそれらの感情を、彼の思い出でふさぎ込む。
「…分かっていると思うけれど、きっと【仮面】は帰ってこないわよ」
耳に届くアウロラの声。
「…知ってるわよ、そんな事」
「貴方がどれだけ寂しく思って、どれだけ恋しく思って、そんな風に一人で自分を慰めたところで、そもそも【仮面】が貴方になびくとも限らないわけだし」
「…知ってる」
「そんなに好きで、大好きなんだったら、…そんな気持ち全部捨て去って、新しい男作った方がいいわよ、ユクちゃん」
無情な、無粋なアウロラの言葉に返事をしてしまいそうになる。が、その言葉を飲み込む。
「嫌よ、そんなの」
「…仮に、【仮面】が帰ってきたとして。…ソイツがマトイって奴のところに行ったらどうするのよ。ソイツが今まで頑張ってきたのって、億単位の世界を渡ってきたのって、全部マトイって奴の為なんでしょう?」
「…どうしましょうね、そんな時」
自嘲するようにユクリータはそう口にし、ふふと笑った。
「ぶっちゃけ、ヤバいわよ今のユクちゃん。面影あるからって“あの女”に手ェ出そうとするとか…こじらせ過ぎよ」
「……でも、ね」
はだけた服を直しながら、女は想起する
彼の言葉。彼の決意。彼の身体。
全身に闇色の亀裂を走らせて、それでも尚【正義の味方】であろうとした彼の事を。
「忘れる事なんて、出来ないわ」
いつの間にか姿を現していたアウロラは、そうのたまう女の額を撫でる。
何とも未熟で、青い果実。酸いも甘いも分からないような少女の戯言。ひたむきに愛を求める女の戯言は、自分とは全く対照的で。
こんな事を、口走らせてしまった。
「どうしても寂しいってんなら、…次は私が抱かれてあげるわ」
「――ハハッ、冗談」
女は笑う。
二人は笑う。
――――――――――編纂。張り付け。
「…申し訳ありませんが」
女は席を立ち、去り際にユクリータの方を振り向いた。小学生と誤解されてもおかしくない身長と童顔で、女は驚く程冷たく軽蔑するかの様な顔を造って見せた。かと思えば、ハッとしたように侮蔑の表情を消し、普段の申し訳なさそうな困り顔を浮かべ、口を開いた。
「私は多分、【仮面】の代わりにはなりませんよ?」
「…ッ!」
ユクリータは息をのんだ。息をのみ、心臓を掴まれたかのような感覚に陥る。
「私はご覧の通り、【仮面】と違って女ですので。貴方の心の隙間を埋める事は出来ませんし、貴方の空虚を猥雑で低俗な肉で埋める事も出来ません…申し訳ないです」
笑顔でそう言うと、女はぺこりと一礼した。
「そ、そうね…。私が悪かったわ。引き留めて悪かったわ」
冷や汗をかきながら、ユクリータは女を解放する。先ほどチョップで潰されたアウロラは、女を見てニタニタを悪趣味な笑みを浮かべ、「ユクちゃーん」と呼んだ。
「それでは、また後日」
「え、ええ。またいつか」
※
ながいエロ小説がかきたい