ベル・クラネルがモテ過ぎるのは間違っているだろうか 作:ぽちょむきん
そのうち例の「本番有り」の目印を該当話に付けます。
********迷宮都市オラリオ~西メインストリート『豊穣の女主人』~********
「ご馳走様でした」
僕は昨日シルさんから頂いたお弁当のバスケットを返しに、お店へやって来ていた。
このお弁当も一度や二度で終わりかと思っていたら、バスケットを返す度に「次の探索はいつですか?その日も作って待ってます♪」と先手を打たれる。
そして申し訳ないのでやんわり断ろうとすると、「駄目、ですか……?」と目をウルウルさせながらあざとくお願いされるのだから弱ってしまう。
なので毎回ありがたく頂いている。のは良いのだが、毎回味が独特なので感想を伝えるのは控えているのだ。
「今日はお休みなんですか?」
「はい、急に暇になっちゃって……シルさんは休みの日って何してます?」
僕はこれといって趣味は無く、やることと言えばダンジョン探索しかない。
だが今日はリリが用事があって一緒にダンジョンへ潜ることは出来ず、今更一人で行くのも効率が悪いので、やることが無くなってしまったのだ。
鈍色の髪を後ろに括ったシルさんは、思い出すように視線を宙に浮かせて頬に指を添える。
「そうですね……読書、とか」
「読書かぁ……でも、神様が持ってる本はどれも難しそうだし――、?」
童話や英雄譚なら好きでよく読んでいたけど、神様が持っているような本を読むのは自分には向いてなさそうだ、と諦めていたらある物が目に留まった。
お店の棚に掛けられた、ぽつんと佇む一冊の本。
革の装丁に古ぼけた表紙。その題名には、
「『ゴブリンにもわかる現代魔法』……?」
「興味あります?お客様の忘れ物なんですけど、取りに来る様子もないし……この本で良ければ貸しちゃいますよ♪」
「え、良いんですか?」
「減るものでは無いですし、読み終わったら返してくれれば良いですから」
まぁ確かに、読むだけなら問題は無さそうだ。
魔法には興味があるし、題名からして僕のような初心者向けなのかもしれない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「はい、――んっ」
「っむぅ!」
にこやかに本を渡すシルさんから両手で受け取った拍子に、そのまま倒れ込むように顔を近づけた彼女に唇を奪われる。
いつぞやの魂まで吸われそうなキスではなく、軽く舌で口腔を何度かかき回すと、シルさんは離れた。
「ぁ、あの……」
「えへっ今日はお弁当ご不用みたいですし、そちらをご馳走しちゃいました♪」
名残惜しそうに、若干唾液で湿った唇を指でなぞり、シルさんはぱたぱたと厨房へ消えていった。
お弁当の時も含めて、シルさんには何度も口を吸われている。
一度避けようとしたら、信じられないくらいショックを受けていたので、それ以来何度も受け入れていた。
最近では目をつぶると彼女の唇と舌の感触を思い出す程で、非常に股間に優しくない。
どうしたものかな、と本を抱えてお店を出ていく。
『ニャァ、あれが白髪頭で、シルのオトコニャ』
『ふーん……結構可愛い顔してるんだねぇ』
『やっぱ良い尻してるニャ……』
……なんだろう、寒気?
********とある教会~『ヘスティア・ファミリア』ホーム~********
ホームに戻って、本を開く。
そこに載っていたのは、魔法に関しての大まかな概要。
才能あるものに芽生える先天的なものと、神の恩恵によって発言する後天的なもの。
魔法とは、つまり「自己実現」……。
字を目で追っていくと、だんだん意識が曖昧になり、ぼんやりとしたイメージが湧いてくる。
ページに並ぶ字がじんわりと溶け、頭のなかに染み込んでいき、やがて光の中に僕は立っていた。
――魔法。
それは炎。猛々しくて熱い、弱い僕にはちっとも似合わない、赤い炎。
雷のように疾く、
もし、叶うなら……英雄になりたい。
昔読んだお伽噺に出てきたような、「あの人」も認めてくれる、英雄に――
「――ル君。ベール君。何してるんだい?」
「ぅ、あ……、――?」
気づけば僕はテーブルに突っ伏し、神様の声で意識を取り戻した。
いつの間にか、寝てしまっていたのか。
――さっきのは、夢……?
「――じゃあ慣れない読書をして、まんまと眠気に襲われたってわけだ」
「そうみたいです……」
「ふふ、可愛いねぇ……っ、?――っっ!?」
いつも通り、うつ伏せになった僕に乗った神様にステータス更新をしてもらっている。
今日の出来事を神様と話していたら、何やら神様の様子が変だ。
「神様?」
「……魔法」
「――、え?」
「魔法が……発現した「えええええぇぇ!?」へぱにゃっ!」
「神様……?」
あまりの驚愕な言葉に、思いっきり起き上がってしまう。
急に転がされた神様は変な声を上げながら、ひっくり返っている。
僕は真に受けることが出来ず、逆さまの神様に尋ねるのだった。
【ファイアボルト】
・速攻魔法
わなわなと震えながら、写されたステータスに加わった新たなる行を何度も見る。
そこには間違いなく、魔法の発現が記されていた。
「まさか、魔法まで発現しちゃうなんて……」
「かっ神様!まほ、魔法ですよ!?僕、魔法を使えるようになりました!!」
感激のあまり思わず羊皮紙を抱きしめる。
僕に魔法の才能なんて無いかもしれないと半分諦めていたのに、こんな急に使えるようになるなんて。
嬉しさで小躍りしていると、神様からこの魔法についての推測を聞いた。
魔法には本来、呪文の詠唱が必要だが、この魔法にはその呪文について1文字も記されていない。
恐らく、この「ファイアボルト」には詠唱が必要ないのだろう。
それが"速攻魔法"というワードの意味かもしれない、と。
「――まぁ、とにかく明日、ダンジョンで試し撃ちでもしてくれば良いさ」
「ぇ、明日……?」
「大丈夫っ心配しなくても、キミの魔法は逃げたりなんてしないぜ?」
「――、……」
何かお預けを食らった気分になり、何も言えなくなる。
僕は今すぐにでも使ってみたかった。この身体に備わった、新しい力を。
「すいません、神様……」
夜もだいぶ更けた頃、神様も寝静まったホームの扉をゆっくり開けて、外へ出る。
鎧などは置いていき、簡単な装備だけ整えて僕は夜の街を駆けていた。
――僕、今すぐ使ってみたいです!
「っはは!、……」
『レフィーヤ、置いてくよー?』
『あ、……はーい!』
胸が踊り、つい笑いが口が溢れた。
中央広場を通った時に誰かの声が聞こえたけど、気にしてる余裕なんて無い。
僕はあっという間に、ダンジョン上層へと足を運んだのだった。
********~ダンジョン上層~********
モンスターを探し、ダンジョンを彷徨っていると、一体の小さい影を見つけた。
小型のモンスター、【ゴブリン】だ。
強さもモンスターの中では底辺で、練習台には丁度いいだろう。
こちらに気付き、様子を伺っているゴブリンに掌を向けて、その魔法名を叫んだ。
「ファイア、ボルト――っ!?」
魔法名を言い終わる直後に、翳した手から炎が吹き出た。
火傷はしないまでも、確かな「熱」を感じるその火は、こちらへ飛びかかろうとするゴブリンを貫き、黒い灰へと変えた。
「……出た――、やっっっっったぁああああああああ!!」
夢じゃなかった。
ステータスに現れた魔法は、確かに僕のものだったんだ。
嬉しさのあまり、手当たり次第に魔法を撃ちまくる。
炎雷が迸る度にゴブリン等のモンスターを次々と魔石のみ残して駆逐していく。
時間も忘れてそんな事をしていたら、僕は上層でも割りと深めの階層まで来てしまっていた。
「――っはぁ、はぁ……しまった。こんな所まで来ちゃった。そろそろ……戻らないと……、――」
踵を返して、さあホームに戻ろうかという時。
僕の意識は既に、暗い底へ沈んでいた。
『――、――』
『――……?』
何か聞いたことのある声。
眩しい光を感じる声を聞いても、まだ僕の意識がすぐに浮かび上がることはない。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「帰ったら皆驚くぞ。たった一人で、階層主を倒すとは」
リヴェリアは私があのモンスターを倒したことを喜んでいる。
今回で、私は成長できたのだろうか。
それに私を「アリア」と呼ぶあの女性、彼女は一体……。
様々な事を考えながら階層を上がっていると、開けた空間で仰向けに倒れる人の姿。
もしかして犠牲者が、と思ったがすぐに容態を診たリヴェリアがため息をついた。
それにしても、あの少年……ウサギのような白髪に純朴な顔。
ここ最近ずっと考えていた人物の一人だった。
「……マインドダウンだな。後先考えずに魔法を使ったのだろう」
「――、この子」
「なんだ、知り合いか?アイズ」
忘れる筈もない。
私が逃したミノタウロスのせいで怖い目に遭い、ベートさんから嘲笑われた男の子。
酒場で悔しそうに走り去った背中を思い出す度、胸が締め付けられる。
「直接話したことは無いんだけど、あのミノタウロスの時の……」
「……成る程、我々の不手際で巻き込んでしまった少年か」
頭がとても良いリヴェリアは、少しの説明で全て察したみたいだ。
彼女は格下の冒険者を見下したりしないし、むしろ努力する人を厳しくも支えてくれる人なのは知っている。
私は、彼女なら彼の事も打ち明けて良いと思った。
「――リヴェリア……私、この子に償いをしたい」
微笑みながら、リヴェリアが教えてくれた「償い」は、私の
本当にこんな事で意味があるのか疑問だったけど、私よりずっと賢いリヴェリアが「それで十分」と言うのだから、信じることにする。
すぅすぅ、と優しい寝息を立てる彼の寝顔をじっと見つめる。
前は駆け出しだったのに、もうこんな階層まで辿り着いた少年。
その成長の疾さに、一種の眩しさを感じてしまう。
「頑張って、いるんだね……」
柔らかい初雪のような白髪に指を通して、慈しむように頭を撫でる。
そうすることで、少しでも彼に許して欲しくて。
贖罪の感情とは別に、何か温かい感情が湧いてくると感じていると、何か違和感を感じた。
「……なんだろう、これ」
何かが膨らんでいる。
具体的には、彼の下腹部。率直に言って股間がやけに盛り上がっている。
武器をあんな所に隠すわけもなく、何となく何があんな形になってしまったのかは想像できていた。
「たぶん、これって男性器……」
モンスターや生物の書物にあった、人間にも存在する性器。
女性は穴の奥に子宮が存在し、男性には棒状の性器が生えていて、「コヅクリ」をするらしい。
ざっくりとした知識は小さい頃に読んだ書物に載っていた説明だけ。
コヅクリが強さに繋がるのか気になって、ロキ達に聞いたことがあるが、
『アイズたんはそんな事知らんでええねん!必要ないもんはとっとと忘れよ、な?』
『ふむぅ、もうちっと歳を食ってからでないと、なぁ?』
『そういうのはリヴェリアに判断を任せるよ。僕には少し不向きな案件だ』
『……私に丸投げをするな、全く』
『まぁ、アイズには早いかもしれませんねぇ』
一斉に門前払いをされてしまった。
それ以降、私の目の届く所にその手の情報がある書籍は隠されてしまっている。
せめて最低限の知識だけでも、とリヴェリアに頼み込むと
『まぁ、それは愛し合う男女にとって必要な知識だ。いずれアイズにそういった男が現れたなら、改めて教えようじゃないか』
そう言って、はぐらかされている。
だが目の前の少年が股間で盛り上げている「コレ」は、間違いなく男性器である事くらいなら私にもわかる。
排泄と、コヅクリとやらに使う器官。
人体急所の一つとも言われ、競技での対人決闘ではこの場所への攻撃は御法度とされている。
そこが、こんなにズボンを押し上げて大きくなっているのは、
「……腫れてるの、かな」
ここらの層には蜂のような毒を持ったモンスターは居ない筈だが、打撲などで腫れているのかもしれない。
股間がこんなに腫れてる事なんて、ファミリアの中でも見たことは無かった。
どうしたものかと悩み、私はふと彼の頭を撫でていたのを思い出して、それと同じように「ソレ」をもう片方の手で包み、上下に撫でた。
「……っ、あっ……」
「痛い、のかな。ごめんね、よくわからなくて……」
少しでも痛みが和らぐように、ゆっくりと盛り上がった部分を撫でる。
指で輪を作り、絞るような形の方がより撫でやすい、と段々動きもぎこちなさが無くなってきた。
心なしか彼の顔も、段々嬉しそうな顔になっている気がする。
「よかった。これで良い、の?先の方は……少し、膨らんでるんだね」
「……っ、」
「びくん、てなった。気持ちいいの?」
肩や腰が少し跳ねるが、それは痛みではなく、ガレスやロキがマッサージを受けている時に見せる心地よさそうな時の反応に似ていた。
先端に少し膨らんでいる部分を見つけ、そこを指で引っ掻くようにしてみたり、若干強めに握って扱くように動かした時は一際気持ちが良さそうだ。
赤らんでいく頬を撫でて、何かを絞り出すように、股間を握る左手の動きを早めた時にそれは起こった。
「っぅあ、……はっ、ぅ……!」
「……っえ、何?何か出してるの?」
腰が暴れるように動くので、ぎゅっと先端まで絞り上げてからストップをかけてると、ドクンドクンと手の中で脈打つ感触を感じた。
もしかして、お漏らし?と勘違いしかけたが、ズボンが激しく濡れている様子はない。
若干布の中にぐちょっとした滑り気を感じはするけども、こんな少年に粗相の疑いをしてしまって、少し恥ずかしい。
息を荒くしながら、脱力していく彼を見ていると、何かお腹の奥がトクンと暖かくなり、再び頭を撫で始める。
そして、股間の腫れも引いてきた頃、彼の目蓋がゆっくり開かれた。
「おかあ、さん……?」
「――ごめんね、私は君のお母さんじゃない」
弱々しくつぶやかれたその言葉を、優しく否定した。
きっと寝ぼけているのだろう。
彼が最初に見たかった人物でいてあげられないのが、少し残念だ。
「げんか、く……?」
「幻覚じゃないよ……、」
「……っ、――!?っ、……!!!!」
少しムッとしてしまった。
私と少年の触れ合いを嘘にされたくなくて、拗ねたような声が出る。
まるで親を探すウサギを手懐けたい、そんな気持ちで彼の頭を撫で続けていると、だんだん彼の顔が面白くなっていた。
ダラダラと汗をかいたり全身を硬くしたり、顔が青くなったり赤くなったり、目を見開いたり口があんぐり閉じなくなったりの百面相だ。
そして急に、彼はガバッと膝から身体を起こした。
「っ、」
「ぅぅううあああぁああはあはあああああぁぁぁ……――」
「――、……」
消えていく叫び声を残して、正座の状態の私は一人取り残された。
私だと認識した瞬間、彼は器用に前転し続けながら更に上層へと去っていく。
紛れもなく、あの子が私を避けている証拠だった。
「なんでいつも逃げちゃうの……?」
嘆きに近いその呟きに、応えてくれる人は居なかった。
お馴染みのゆったりテンポです。戦闘が無いので仕方ありませんね。
とうとうアイズが登場しました。
そしてオラトリア側との接点も一応作りましたが、あちら側のエピソードはあくまでオマケ程度とお捉え下さい。
スキルが発動し、アイズがベルとどういう関係になっていくのかは、これからの展開をお待ち下さいませ。
それでは、次回の更新も宜しくお願い致します。