※この作品はR-18です。

ベル・クラネルがモテ過ぎるのは間違っているだろうか   作:ぽちょむきん

3 / 15
想定よりも行為に至らないですね。

R-18展開をお望みの方は、まだ暫くお待ちいただけますよう……。


3話「嘲笑と願望」

********迷宮都市オラリオ~西メインストリート~********

 

 

 

ダンジョンに向けて、僕はオラリオの大通りを歩いていた。

 

まだ早朝ということもあって、人通りは少ない。

 

たくさん並ぶお店もまだ仕入れや開店準備の最中で、生鮮市場ぐらいが営業してる程度だ。

 

 

 

「危ない危ない、神様寝惚けてたのかなぁ……」

 

 

 

朝はひと騒動あって、ヒヤっとしてしまった。次から神様にはしっかりベッドで寝てもらわないとなぁ……。

 

だが昨日の今日だ。今日は慎重に探索して、何事もなく――

 

 

 

 

 

 

――ふと、僕を見つめるじっとりとした視(・)線(・)を感じた

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

咄嗟に後ろを振り返るが、視界に映るのはこちらを見向きもせず通り過ぎる人々。

 

もう視線も感じなくなっていた。何だったんだろう、今の――

 

 

 

「……あのぉ、」

 

「?」

 

「!、あっ」

 

 

 

不意に正面から呼ばれているのに気付き、前に視線を戻した。

 

すると、予想よりも距離が近かったせいでその人を驚かせてしまい、体勢を崩させてしまった。

 

このままでは転ばせてしまう――

 

 

 

「あ、危ない!」

 

「きゃっ……」

 

「あ……えっと、」

 

 

 

なんとか肩(・)を(・)抱(・)き(・)寄(・)せ(・)て(・)、転ばせてしまうのは免れた。

 

しかし、よく見れば相手は女の子。エプロンドレスを着ているという事はお店の店員さんだろうか。

 

女の子の顔が上気した様に赤くなっていき、僕もカァっと顔面が燃えるような錯覚に陥った。

 

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「いっいえ、こちらこそ……急に呼び止めてしまって……」

 

「あ、あの……その、手が……」

 

 

 

これじゃあ痴漢に間違われる――と身体を離そうとしたけど、対して彼女は僕の腰に手を回して胸元に体重を預けてきたので、更に距離が詰まってしまった。

 

重心が揺らいだため肩を抱いた手も離す機会を失い、まるで抱き合うような体勢になる。

 

鈍色の前髪が僕の鼻元をくすぐり、長い睫毛の奥にある髪と同じ色をした瞳がウルウルと揺らいでいた。

 

鼻腔を刺激する甘いパンのような香りに誘われて、淡いピンクでぷるんとした唇に――

 

 

 

って、何を朝っぱらから興奮しているんだ僕は!?

 

それに近い近い!?顔が近い!!

 

危うく、名前も知らない女の子にキスをする所だった……。

 

 

 

なんとか理性を引き戻して、接吻寸前だった顔を彼女から離す。

 

「あっ……」と何故か残念そうな声と表情があった気がするけど、興奮した僕が見せてる妄想に違いない。

 

どこに好き好んで、いきなり抱きつかれた男にキスされたがる女の子が居るっていうんだ。

 

というよりも、彼女は僕に用があって声をかけたのでは無かったか。

 

 

 

「えっと、すみません。何か?」

 

「……、あのっこれ……落としましたよ?」

 

 

 

僕がブンブンと頭を振って雑念を消して尋ねると、おずおずと例の女の子が手にある物を僕らの横側に差し出してきた。

 

というか、顔は離れたけど相変わらず身体が密着したままだ。

 

身体を後ろに引くと彼女もこちらに進んで、横に重心をずらそうとしてもぎゅっと腰を掴まれてしまう。

 

……離れてもらえない?な、何で?

 

困惑しながらも、彼女の掌に乗っていた物に別の疑問を抱いた。

 

 

 

「……魔石?」

 

 

 

紫紺の輝きを放つ小さな結晶は、モンスターを倒した際に落とす魔石である。

 

彼女が差し出すそれを手に取って確認するが、間違いない。

 

きっと僕がこれを落としたのだと、わざわざ教えてくれたのだろう。だとしても――

 

 

 

「昨日、全部換金したはずなんだけど……」

 

 

 

――そうだ。昨日エイナさんの元へ向かった際、僕は確かにその日稼いだ魔石を窓口で換金したんだ。

 

でも落としたって事は、コートのポケットに入れていたのを忘れていて、たった今落としちゃったのかな?

 

ミノタウロスから逃げるので精一杯だったし、咄嗟にそうしたのかもしれない。

 

 

 

「すみません、ありがとうございます!」

 

「……冒険者の方ですよね?こんな早くからダンジョンへ行かれるんですか?」

 

 

 

受け取った魔石をしっかり魔石用の袋にしまっていると、彼女に質問をされた。

 

確かに、こんな早朝から探索に向かうのは珍しいのかもしれない。

 

でも僕は駆け出しだから、少しでも探索の時間を確保するために早い時間に出発しているんだ。

 

探索は夜になればなるほど危険が伴う。単独(ソロ)の僕は夕暮れまでには引き上げないといけない。

 

エイナさんから貰ったアドバイスに従って、少しでも帰還できる確率を上げるための手段だ。

 

 

 

……というか、身体を密着させたまま話題を振られてしまった。

 

鳩尾辺りに感じる柔らかい触感に、心臓の音がドンドンうるさくなっていく。

 

もしかして、会話が終わるまでこのままなのだろうか?そろそろ僕の節操なしな股間が反応してしまう……!

 

 

 

「えぇ、まぁ――あ」

 

「――、」

 

 

 

すると、股間よりも先に腹の虫がぐるぐると悲鳴を上げていた。

 

そういえば朝食を抜いてきたんだった。

 

気不味い状況に僕は苦笑いするが、何か思いついたように彼女は「待っていて下さいねっ」と後ろのお店らしき建物に消えていった。

 

 

 

――やっと離れてもらえた……ぎ、ギリギリだった……。

 

程なくして、僕の手に乗せられたのは可愛らしい布巾で結ばれた正方形の包み――つまりお弁当だった。

 

まだ理解が追いついていない僕に、彼女は花のような笑顔を咲かせていた。

 

 

 

「大したものじゃありませんが♪」

 

「そんなっ悪いですよ!初対面の人にお弁当なんて。それにこれ、あなたの朝ごはんじゃ……」

 

「気にしないでください。私の方は、お店が始まったら賄いが出ますから」

 

「で、でも……」

 

 

 

そう言う彼女が振り返る先にあるのは、お弁当を取りに行ったお店――彼女の働き先になるのだろう建物の中はまだ薄暗く、彼女と同じエプロンドレスを着た亜人(デミ・ヒューマン)の女性が忙しなく動いていた。

 

きっと夜に開店する食事処といったお店なのだろう。

 

店内に見える酒樽や、メニューの看板を見て僕は何となく察した。

 

日が暮れれば、オラリオの冒険者で賑わうのであろう事が用意に想像できる。

 

 

 

「その代わり、今晩の夕食は是非当店で!約束ですよぉ?」

 

 

 

そう言って、人差し指を立ててこちらを上目遣いに覗き込む女店員さん。

 

成る程。つまりこの子はお店の集客を狙っていたのか。僕なんて大した客にならないだろうに、けっこう食えない子だなぁ、と思っていると――

 

 

 

「――だめ、ですか?」

 

 

 

立ててた指は艶やかな唇に添えて、悩ましく眉尻を下げてお願いされてしまった。

 

清楚な見た目なのになんてあざとい娘なんだ……でも可愛い……と、断る気が失せてしまった僕。

 

こういうのを商売上手って言うんだなぁ。

 

 

 

「わ、わかりました……」

 

「うふふ、ありがとうございます♪――んっ」

 

「へ?んむぅ!?」

 

 

 

それは不意に彼女から行われた。

 

僕は女店員さんの策に嵌ったと苦笑いしてて完全に油断していた。

 

至近距離でホクホクな笑顔を見せていた彼女さんの目が一瞬キラリと光ったと思うと、その顔が視界いっぱいに広がった。というよりも、再び顔が密着した。

 

しかも、先程には無かった唇に感じる感触。

 

プルプルとした柔らかい物体に口元を包み込まれて、ヌルっとした細長い何かが僕の唇をなぞる様に動いた時点でようやく「あ、キスされてる」と思考が追いついた。

 

 

 

「―っ――!?、!!っ!!!?――」

 

「♪」

 

 

 

くぐもった声を喉から出して、「どうして」と抵抗を試みるも女店員さんはうっとりと目を閉じ、両手は僕の頭を押さえているので逃げられない。

 

口内へ侵入した舌が艶めかしく歯茎をなぞり、生温くも甘さを感じる液体が流れ込んでくるのを無意識に嚥下し、代わりに驚きで溢れる唾をコクコクと味わうように飲み干されていくのを感じた。

 

――これ、食べられてる!?

 

 

 

ようやく濃厚な口吸いから開放されて、ぷはっとお互い酸欠気味の状態から息を大きく吐き出す。

 

僕らの口を繋ぐ白い糸がタラリと垂れて、ペロリと唇を舐める彼女の舌の動きに目を奪われてしまう。

 

呪いにかかったように固まった僕へ、彼女は再び太陽のように微笑む。

 

 

 

「私、今のが初(・)め(・)て(・)なんですよ♪」

 

「」

 

「文字通り、唾を付けちゃいました。冒険者さん――予(・)約(・)、しましたからね?」

 

「」

 

 

 

 

何を、と言い返す余裕は無かった。

 

えへへっとはにかんだ彼女はその後お店の奥へ消えて、戻ってこなかった。

 

僕が探索に向かうために再起動したのは、そこから三〇分ほど後の話である。

 

 

 

 

 

 

********ダンジョン上層********

 

 

 

その後、ダンジョンの上層でいつも通り探索を行っていた。

 

慎重に確実に、僕でも対処が可能なモンスターとのみ戦闘を行い、僅かな魔石を回収していく。

 

――こんな事で、いつになったらアイズさんに追いつけるんだろう。

 

  「積み重ねが大事」ってエイナさんは言うけど……。

 

 

 

途中、大量に出現したモンスターに遭遇する。

 

いつもなら、無難に撤退する量だ……でも――

 

 

 

『お願い、ベル。戦って♥』

 

 

 

妄想の中のアイズさん(とても可愛い)が小首を傾げて、僕に助けを求めてる……!

 

ここで立ち向かわなきゃ、男じゃない!

 

 

 

「や、やってやりますうううううううう!!」

 

 

 

日が暮れるまで僕は探索――、もといアイズさん(幻)を救うためモンスターを倒し続けた。

 

 

 

 

 

 

********とある協会~『ヘスティア・ファミリア』ホーム~********

 

 

 

 

 

「――ぇぇぇええええええええええ!?!?」

 

 

 

探索から帰還し、今日のステータス更新を神様にして貰ったのだが……その内容に僕は思わず叫び声をあげてしまった。

 

 

 

「神様っこれ間違っていませんか!?熟練度の上昇、トータル160オーバーなんて……ほら、一回しか攻撃を貰ってないのに、耐久値が30近くも伸びてますし――」

 

 

 

だがこれはとんでもない事だ。

 

いつもならステータスの熟練度というものは、通常1回の探索を終えた程度であるならばいずれも1桁程度しか伸びず、2桁なんて上昇した暁には大喜びだ。

 

よ(・)っ(・)ぽ(・)ど(・)の(・)事(・)がない限り、ここまでステータスが伸びるなんてあり得ない。

 

つい目の前の事実が信じられず、僕は神様へまくし立ててしまう。

 

 

 

「力も、器用さだって……初めてですよ、こんなの!」

 

「……ふんっ」

 

「……か、神様?」

 

「…………」

 

 

 

だが神様は、ステータスを僕に見せてからはこちらを振り向こうともせず、ベッドから立ち上がってしまった。

 

返事が欲しくて、その物言わぬ背中に手を伸ばしてしまう。

 

そしてゆっくりとこちらに振り向いた神様は、ぶすっと不機嫌顔だ。

 

何か怒らせてしまっただろうか?だがこの結果の理由が知りたくて、愛想笑いを浮かべながら再び尋ねる。

 

 

 

「えっと、その……だから……」

 

「…………」

 

「何で僕……こんないきなり成長したのかなぁ、なんて」

 

「――知るもんかっ」

 

「……神様?」

 

 

 

どうしてか怒っている様子の神様。

 

クローゼットを開けて、外出用のコートを羽織り始めた。

 

もしかしてこの時間から外出?

 

 

 

「神様、神様っ……神様、どこ行くんですか?」

 

「――っ、ばっバイト先の打ち上げだよ!」

 

 

 

何故かギクッとした後にこちらへ指を指し、神様はプンスカしていた。

 

 

 

「君は一人で羽を伸ばして、寂しく豪華な食事でもしてくればいいさっ」

 

「――、神様……?」

 

 

 

乱暴にドアを開けて、協会を出ていってしまった。

 

どうやら神様を怒らせてしまったらしい僕は、夕食を一人で過ごす事になる様だ。

 

急な成長に歓喜していた僕は冷水をかけられた気持ちになってしまい、途方にくれていた……。

 

 

 

 

 

 

********迷宮都市オラリオ~西メインストリート『豊穣の女主人』~********

 

 

 

 

 

 

今晩も、ここ「豊穣の女主人」は大盛況だ。

 

オラリオ中から冒険者の方々が集まり、料理とお酒を召し上がっていく。

 

私は店内でお盆と伝票を持ち替えながら、お客様の対応をしていた。

 

 

 

そして、そんないつもの日常とは違う事が今日は起こる。

 

今朝、店の前を通りかかった白髪が目立つ冒険者さん。

 

落とし物を渡すだけの筈だったのに、彼に抱きかかえられた瞬間に身体が燃え上がるように熱くなって……。

 

ああ、この人を逃しちゃ駄目と何かに突き動かされた。

 

 

 

結果、お近づきの印にお弁当と情熱的なファーストキスを捧げてしまった。

 

普段じゃ誰かにしようなんて思わない大胆な行動をとったけど、自分でも不思議なくらい嫌悪感は無い。

 

むしろ彼との時間がもっと欲しい、と喉の奥が乾いてしまう感覚だった。

 

 

 

彼も彼で満更じゃなかったみたいだし……抱きついた時に、お腹に当たるムクムクと膨らむナニかには気づいていたので、彼とそ(・)う(・)い(・)っ(・)た(・)ご関係になるのは難しい話じゃないかもしれない。

 

――これじゃ娼館の娘じゃない。でも、嫌じゃないかな♪

 

驚くほどの心境の変化を感じていると――お店の入り口から様子を伺う、見覚えのあるウサギの様な白髪と、つぶらな赤い瞳。

 

私は今しがたとった注文をルノアに押し付けて、彼の元に駆け寄った。

 

 

 

「冒険者さん、来てくれたんですね!」

 

「……、はい」

 

 

 

自分でも意外なほど嬉しそうな声が出てしまった。

 

しかし彼の表情は、どこか無理をしたような笑顔だった。

 

もしかして、今朝キスをした事でいやらしい娘って思われてるのかしら……。

 

ち、違います!貴方だけなんですから……とは言えないので、せめて清楚に振る舞うことで印象回復を狙う。

 

 

 

「自己紹介がまだでしたね。私、【シル・フローヴァ】です」

 

 

 

私が待ち焦がれていた、冒険者さんの名前はベル・クラネルさん。ベルさんって呼ばせてもらうことに。

 

彼をカウンター席に案内し、大盛りの食事をミア母さんに用意してもらった。

 

ミア母さんはこのお店の店長で、頼りになる素敵な人です。

 

ベルさんの事はお昼に話していて、ぜひ贔屓にしてあげて欲しいとお願いしていた。

 

出来ればずっとご一緒したかったけど、ルノアに仕事を押し付けたことをリューに咎められてしまい一旦ミア母さんに相手をしてもらう。

 

ベルさんもなんだか少し暗かったし、ミア母さんから励ましてもらえれば元気が出るよね?

 

 

 

私はリューの目を盗んで、注文の溜まった伝票をアーニャに渡してしまうとベルさんに近づいた。

 

何やらウチの迫力ある食事に驚いてるみたい。

 

見ると本日のオススメまで――たぶんミア母さんが冒険者と知って本日の稼ぎを吐き出してもらおうって算段なのね。

 

男の子だし、きっとエールも含めてなんだろうけど……値段を見てあんぐりと口を開けている。

 

もしかしたらお財布が厳しいのかもしれない。悪いことしちゃったかな?

 

 

 

「どうです、楽しまれてますか?」

 

「……圧倒されてます」

 

「ふふ、ごめんなさい♪私の今夜のお給金も期待できそうですっ」

 

「……よかったでふね」

 

 

 

何かを諦めたように苦笑いするベルさん。観念してカリカリに揚がったお魚を頬張っている。

 

――楽しいなぁ。

 

ベルさんの声や表情が変わるだけで私の心も大きく揺れる。

 

彼とこうして話すだけで胸がときめいて、つい抱きしめてほしくなっちゃう。

 

流石にお店で朝みたいな事はしないけど……でも、二人きりになれたなら――

 

私は彼のコートに、用意していたものをチャリ、と落とす。

 

 

 

「?えっと……これ」

 

「ウチって、2階は宿みたいになってまして……従業員の大半はそこに泊まっているんです」

 

「は、はぁ……」

 

「その鍵の番号、私の部屋なんですよ?」

 

「なるほど……へぇ!?」

 

 

 

メニューの値段を見たときの倍以上に目を見開く冒険者さん。

 

私の言いたいことがわかったのか、顔が真っ赤でとても可愛い。

 

 

 

「お腹いっぱいになったら……そのお部屋で一休みして下さいね」

 

「いや!?あの、それってでもあの僕は……」

 

「私も仕事からあがったら戻りますので、その時は――」

 

 

 

他の人に聞こえないよう、ベルさんの耳元で囁く。

 

 

 

「――私の残(・)り(・)全部、ベルさんにあげちゃいますね♪」

 

「っ、っ」

 

 

 

最後に耳へ軽く息を吹きかけながら顔を戻した。

 

あんまりやると周りに勘ぐられてしまう。

 

リンゴみたいに赤くなったベルさんは、口をパクパクしたままポケットの中の鍵を握りしめている。

 

――ちょっと大胆だったかな?

 

 

 

「ニャァ!ご予約のお客様、ご来店にゃっ」

 

 

 

すると、猫人(キャット・ピープル)のアーニャが、踊るように店内へ団体のお客様を招いていた。

 

確か、今日は「ロキ・ファミリア」のメンバーが予約をしていたのだった。

 

なんでも、ダンジョンへの大規模遠征から帰還した打ち上げという話だ。

 

主神である神【ロキ】と、幹部メンバーを中心としたファミリアの主要人物達が一同に揃って、席へ着き始めた。

 

 

 

「――、」

 

「あれ?ベルさん、ベルさーん?」

 

 

 

何故かベルさんが更に顔を赤くして、今度はプルプルと震えだした。

 

目の前で手を振ってみるけど反応がない。

 

もしかして――今夜のことを想像してるのかしら。

 

もう、エッチですねっベルさん。まだ夜まではお預けですよ?

 

と思っていたけど、どうやらロキ・ファミリアの方々に見入っていたみたい。

 

彼等がウチのお得意様だと教えると、嬉しそうな顔になった。何でだろう?

 

 

 

ベルさんがそろそろご飯も食べ終わりそうになった頃、ロキ・ファミリアの方から大きな声が聞こえる。

 

なんでも、ダンジョンで危ない目に遭った「トマト野郎」さんがモンスターから逃げていったというお話みたい。

 

特に珍しい話でもなく、ダンジョン帰りの冒険者の方が笑いながら話す内容としてはありふれた内容だ。

 

気持ちのいい話題では無いけど、見たこともない人の話だし私は特に思う事は無かった。

 

 

 

そして、話を盛り上げていた酔いが回っていそうな狼人(ウェアウルフ)の男性が、男の魅力は強さであると乱暴な口調でお仲間の女性に語っている。

 

――そんなこと無いと思うんだけどなぁ。

 

  私は、素敵な男性にはもっと別の魅力があると思います。ね?ベルさん……

 

 

 

「――っっ!!」

 

「あ、ベルさん!!」

 

 

 

急にベルさんが席を立ち、お勘定も払わずお店を出ていってしまった。

 

慌てて追いかけるけど、物凄く足が早くてあっという間に見えなくなってしまった。

 

一体何があったのだろうか。無銭飲食を平気でするような人じゃないのは、勘だけど確信がある。

 

 

 

――もしかしたら、先程の話を聞いて何か思うことがあったのだろうか。

 

  一瞬見えたベルさんの表情は、酷く傷ついた顔をしていた。

 

  あんな純朴そうな人に、何かショックを受けるような言葉があったのかもしれない。

 

 

 

ベルさんが心配だけど、私は怪訝そうな顔をしていたミア母さんに彼を責めないで欲しいと弁明した。

 

「アンタが言うなら、あの子から来るのを待ってやるさ」と許してもらえた。

 

ミア母さんはベルさんの人柄を最初から見抜いてたのかもしれない。

 

他の娘達も、最初は疑っていたけど一生懸命説明したおかげで理解してもらえた。

 

リューに至っては「シル、彼との仲。応援します」なんて言ってきた。

 

ほんとにあの娘は何を言ってるんだ。恥ずかしくて否定も出来なかったじゃない!

 

 

 

因みに、原因と思われる狼人の男性は綺麗なエルフのリヴェリアさんにお灸を据えられていた。

 

「彼も酔いが回ってあんな事を言った。悪く思わないでくれ」と小人族(パルゥム)のフィンさんも言っていたし、私からあの人に何かする事は無いだろう。

 

問題は、ベルさんだ。

 

あの様子じゃ、もしかしたらこのお店が嫌いになってしまったかもしれない。

 

あんな素敵な人に出会えたのに……。

 

今夜、あったかもしれない逢瀬を想うと、とても悲しい気持ちになる。

 

でもあの人のポケットには、私の部屋の合鍵がある筈だ。

 

 

 

――これっきりじゃ、無いですよね?ベルさん……。

 

 

 

またあの男の子が、明日もこの店を訪れる事を願うのだった。

 

そして、機会があれば――

 

 

 

 

 

 

********とある教会~『ヘスティア・ファミリア』ホーム~********

 

 

 

 

 

 

「ベル君、一体どこへ行ってしまったんだ……?」

 

 

 

昨晩ベル君の急成長ぶりを見て祝うべきところが、それだけヴァレン某への想いが強いという事が悔しくて、適当な事を言って出ていってしまった。

 

ボクというものがありながら浮気なんて許せない、と罪もないベル君へ八つ当たりしてしまうなんて神として情けない。

 

ベル君が帰ったら、しっかり仲直りしようと思っていた。なのに――

 

 

 

「一晩中、帰ってこないなんて……」

 

 

 

昨晩、そろそろベル君も帰って寝てるだろう時間にホームへ戻るとそこは無人だった。

 

例の朝に出会った少女が働くお店とやらだってとっくに閉まっているだろうし、場所もわからない。

 

探すあても無く、ただただ教会の前でベル君の帰りを待っていた。

 

気づけば空がもう白んでいる。夜が明けてしまったようだ……。

 

恩恵を授けたベル君との繋がりは感じている。だから死んではいない。

 

これで帰ってこないって事は、ボクに愛想を尽かして出ていってしまったのかい……?

 

他所の子になろうとしているのかい?

 

そして、今頃他所の女と幸せになろうとして――

 

 

 

「まさか、このまま……っ!?」

 

 

 

朝日が差し込む寂れた通りの奥に、人一人分の気配を感じて振り返った。

 

そこには、頼りない足取りで歩く少年の姿、まさしくベル君だ。

 

 

 

「ベル君、――!?」

 

 

 

ベル君は、ちゃんとボクの元へ帰ってきてくれた。

 

だが、その姿はあまりにも痛々しいものだった。

 

いつも着ているコートは裾がボロボロ。あちこちに泥を付けて、顔は額から血を流して半分が赤黒く汚れていた。

 

片目は目蓋が腫れ上がっていて開かないのだろう。もう片方の目でボクを見つけると、弱々しく微笑んでいる。

 

 

 

急いで駆け寄ると、限界だったのか膝を地に付けてしまう。

 

支えてあげるが地面にぽたぽたと落ちる血を見て、早くホームで手当をしなければと不安になる。

 

息も微かに感じるだけで、もしかして危ない状態なんじゃ――とベル君に呼びかけた。

 

 

 

「ベル君!?」

 

「――神様」

 

 

 

だが、その挫けそうな状態の彼の声からは、何よりも強い決意(きもち)を感じた。

 

そして血に濡れた顔を何とか笑顔にする少年は、神であるボクにこう告げる。

 

 

 

 

 

 

「僕……強く、なりたいです」

 

 

 

 

 

 

それは――かけがいのない眷属の、たった1つの願いだった――

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

その後、ボクは怪我の手当と血糊をお湯で流してあげたベル君に肩を貸してあげていた。

 

 

 

「良いかい、ベル君。今日はソファじゃなくベッドで寝るんだ。君は怪我人なんだから」

 

「はい……すみません」

 

 

 

いつもベッドはボクに譲ってくれているベル君。

 

だが今は神の威厳がどうとか言ってる場合じゃない。

 

 

 

「僕、もう眠くて……」

 

 

 

相当疲れているみたいだ。

 

ただ、ボクに気を使って休めないんじゃベル君に申し訳ない。

 

ここは軽いジョークでも挟んで、肩の力を抜いてもらおうじゃないか。

 

 

 

「ふふん、その代わり……ボクも一緒に寝させて貰おうかなぁ?」

 

「良いですよ……じゃあ一緒に寝ましょう?」

 

「――っなぬぅう!!、あぁ!?」

 

 

 

とんでもない返答が返ってきた。

 

もしかして、とうとうボクも彼の獲(・)物(・)として認知されてしまったのかもしれない。

 

無理もない。疲れた彼を健気にお世話したボクに、熱い想いを抱くのはしょうがないことなんだ。

 

どこぞの女やヴァレン某なんかより、真っ先にボクへ襲いかかろうとしたっておかしくない。

 

気が動転してしまい、ベル君と共にベッドへ倒れ込んでしまう。

 

 

 

「ぃっ、ひいやあぁ!?」

 

 

 

まさかとうとう、天界でどの神にだって捧げなかった三大処女神(スリートップ)であるこのボクが、とうとう愛するベル君のモノになるんだろうか!?

 

というかさっきから胸のときめきが半端じゃない!?これが「子宝雄兎」の発情効果なのかい!?

 

女神をいやらしい気持ちにさせようなんてベル君はなんて破廉恥な子なんだっ

 

こんな、なし崩しで愛されてやるほどボクの純潔は安くないんだぞぉ!?

 

 

 

「あ、あのそのっいやベル君、いい今のはいつもならキミが驚くところで「zzzzzzz……」いいいいいやだからその!!反応を期待して言ってみただけであってそのぉ、つまりだねぇ――ってもおぉ寝てるしぃぃぃいいいいいいいい」

 

 

 




とりあえず、1章(アニメ1話)は終了です。

お話の導入なので、なるべく描写をカットせずにやってみましたが……。

本来書きたい改変部分のストーリーまですんなり行けず困りました。



2章からは原作だと戦闘描写が多い内容になるのでそこを思い切り削って、

ヒロイン達との絡みに回せたらな、と思います。



それでは次回もまた是非宜しくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。