ベル・クラネルがモテ過ぎるのは間違っているだろうか 作:ぽちょむきん
※誤字修正しています。
ご指摘頂いた方々、ありがとうございます。
1話「お使い」
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
昨晩、がむしゃらに朝までモンスターを倒し続けてヘトヘトになりながらホームへ帰ったその日のお昼前。
仮眠を取った後、早速ステータスを更新した。
その時は羊皮紙に写すこと無く、口頭で教えて貰ったけど……何でだろう?
――いや、それよりも今日は昨日の比じゃないくらいステータスが伸びている!
神様いわく、僕には才能があるかもしれないとの事だ。
あまり自惚れる訳にはいかないけど、他でも無い神様に言われた事が嬉しかった。
そして神様は強くなる代償に無茶をして、僕が神様を一人残してしまう事はやめて欲しいとお願いされた。
……僕はアイズさんに追い付くためならなんだってする。
でもそれは強くなるために努力するって意味であって、神様への恩を返さずに命を粗末にする事じゃない。
暗に今回のような無茶な探索は終わりにした方が良いって事だろう。
僕は不安そうな神様を少しでも安心させたくて、はっきりともう危険な事はしないと約束した。
その後神様が2、3日ホームを留守にするらしい。
珍しい事だけど、他の神様との付き合いだってあるだろうし深くは追求しなかった。
でも何故か神様が自信満々な様子だったのが気になるなぁ……。
一体、何をしに行くんだろう?
********迷宮都市オラリオ~西メインストリート『豊穣の女主人』~********
先日お店を飛び出していったベルさんが心配で、朝早くからお店の前で箒をかけながら彼が通るのを待っていた。
だけども、あの純朴な男の子が現れる気配はなかった。
もう彼は来ないかもしれない……。
時間が立つにつれ、どんどん悲しくなっていく。
お昼時になった辺りで自分から探しに行こうか迷っていた頃に、お店の中を伺う様に揺れる白髪と赤い瞳。
――ベルさんが、来てくれた。
たったそれだけで胸が高鳴って、先程までの陰鬱な気分は忘れてしまった。
申し訳なさそうにこちらを見るベルさんは、どうやら昨日のお勘定を払いに来たみたい。
律儀、とは違うんだろうけど……でも、あんな勢いで出て行きたくなるような事があって、しかもミア母さんに怒られるかもしれないとわかっててしっかり謝りに来るなんて。
ベルさん、あなたは弱い男の人なんかじゃありません。私はわかってますよ?
「――すみませんでした!!」
そして、誠意を込めてミア母さんに頭を下げるベルさん。
私はミア母さんが叱り過ぎたら庇ってあげたくて、側で様子を伺っていた。
しっかりお勘定も払って、彼が何度も謝っている。
「――わざわざ払いに来るとは、感心じゃないか」
心配は杞憂で、ミア母さんも許してくれるみたいだ。
これ以上ベルさんが落ち込むような事にならなくて、本当に良かった……。
これでまたこのお店にご飯を食べに来て貰えるのがとても嬉しい。
でも、優しくも厳しいミア母さんが、最後にベルさんへ釘を差していた。
「……まぁ、来なければこっちから
「ほ、本当にすみません!!」
ドスの利いた声で、言われるものだから竦み上がってしまっている。
もう、怖がらせちゃ駄目じゃない!
私はベルさんに気を落として欲しく無くて、真っすぐ伸ばした手を取って笑いかける。
「謝らないで下さい、ベルさん」
怯え顔だったベルさんの紅い瞳を見つめて、優しく自分の本心を伝えた。
――ああ、ベルさんの手ってなんでこんなに気持ちいいんだろう?
安心させたいだけなのに、取った手に指を絡ませて感触を堪能してしまう。
「戻って来てもらえて、私は嬉しいです……」
「シ、シルさん?」
ベルさんの顔が赤くなって、絡まった手を見ながら戸惑っている。
いけない……!ミア母さんの前だし、後ろでクロエとリューも見てるのに私ったら。
取り繕うために、私は用意していた物を取り出した。
「今日もダンジョンへ行かれるんでしょう?これ……お弁当です」
「えっ……?」
今朝も、厨房を借りて作ったサンドイッチが入ったお弁当。
昨日は「予約」を果たせて貰えてないし、今日は夜に用事があるからベルさんとの繋がりが途絶えないように、
律儀なベルさんはまたお弁当箱を返しに来てくれるだろうし、ダンジョンへ行く時は毎回ウチの前を通るみたい。
そうして毎日顔を合わせていれば……またチャンスが来ますよね、ベルさん?
「そんな、いや……」
「貰って下さい……。駄目、ですか?」
上目遣いに見上げて、ベルさんにおねだりをする。
こんな男性に媚びるような事は今までしたことなかったけど、ベルさんにはグイグイ攻めてしまう。
もしかしたら、私は本当にいやらしい子なのかもしれない。
「ぁはは……すみません、頂きます」
「うふふ♪」
観念して、お弁当を受け取ってもらえた。
どうやらベルさんは押しに弱いみたい。次もこんな感じで迫ることにしようかな。
「シル、彼が例の少年かにゃ?」
「確か昨日食い逃げしちゃった
「アーニャ、それは誤解だと昨日シルから説明があった筈です」
厨房から食器洗いや料理の仕込みをしながら様子を見ていた同僚のクロエ、アーニャ、リューの三人に早速絡まれる。
黒髪を襟元で切りそろえた
そして、昨日散々説明したのにアーニャがまた誤解してそれをエルフのリューが訂正している。
「そうなの、彼がベル・クラネルさん。昨日払えなかったお勘定をしっかり今日払いに来られたみたい。ね、食い逃げして居なくなるような人じゃなかったでしょ?」
「ただならぬ事情があったと察しています。彼を責める者はもう居りませんよ」
「白髪頭はシルのオトコなのにゃ。だから問題無いのにゃ」
「……やっぱりいいお尻してるにゃあ」
リューはともかく、アーニャは気が早いし、クロエのベルさんをどう見てるのかはおおよそ理解した。
そんな事を話していると、ベルさんがミア母さんに背中を押されてお店を出て行く。
「さぁ行った行った、店の邪魔になるよ!」
「あ、はい……――行ってきます!!」
もうここに来た時の暗い雰囲気は抜けている。
元冒険者だったというミア母さんに、激励を貰って元気が出たのかもしれない。
明るくお店を出て行くベルさんを見送っていると、私まで心が温かくなってきた。
軽い足取りと挨拶は、ここも一つの帰る場所と認識とされたようにも感じてしまう。
――行ってらっしゃい。
そうして彼の背中を祈ることで、私も押したのだった。
「……じゃあクロエ、少し貴方とお話がしたいな♪」
「んにゃっ!?シル、女の子がしちゃいけない眼をしてるにゃ、冒険者の眼力を出しては行けないにゃ!!」
「??、なんでシルは怒ってるにゃ」
「……アーニャにはまだ早いかもしれませんね」
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
ダンジョンからの帰り、夜の帳が落ちた大通りに面する武器商店の前で、僕は中で飾られた一振りのナイフを眺めていた。
――やっぱり、みんないい装備をしているんだよなぁ……。
今日だけじゃなく、いつもダンジョンへ赴く際にすれ違う他の冒険者の中に、自分ほど貧相な装備をしている者は居なかった。
僕の戦闘スタイル的に、強固な防具よりもやはり強靭な武器――得物で言うならナイフが欲しかった。
だが、今僕が見ているヘファイストス・ファミリアの鍛冶師が仕上げた一品は正にそういった一級品の類だ。
――手が出せないなぁ。
その値札には800,000の数字が載っていた。
とてもじゃないが、ファミリアの貯蓄をかき集めても届きそうにない。
この武器があれば、僕も少しはあの人に近づけるかもしれない……。
立派な武器を握って敵に立ち向かう自分と、アイズさんの精悍な勇姿を重ねていた。
そんな妄想と一緒に溢れたため息が、僕とナイフを隔てる硝子を白く曇らせる。
「ベルではないか」
「っ、ミアハ様」
不意に後ろから声をかけられて、振り返るとそこには「ミアハ・ファミリア」の主神【ミアハ】様が立っている。
片手にもった袋から乾燥した薬草の根が見える事から、材料の買い出し帰りの様だ。
僕は帰るわけが無い商品を眺めていた冷やかしと思われるのが恥ずかしくて頭を下げた。
「すみません……買えもしないのに」
「フッ……謝ることはなかろう」
「ミアハ様は、神様の宴には行かれないのですか?」
優しく微笑まれて、安堵した僕はそう尋ねた。
確か神様も、ホームを留守にする初日は神様の宴に参加するって言っていた。
滅多にそういった催しには行かない神様に珍しいな、と感じていたので逆にここでミアハ様と会った事が気になった。
「うむ、私も声はかけてもらっていたのだが。弱小ファミリアゆえ、商品の調合に明け暮れていてな……ベル、これをやろう」
そういって、懐から取り出したのは2本の細い瓶に入った
ミアハ・ファミリアの回復薬は市場で数千から数万ヴァリスは下らない高級品だ。
「えっ頂けませんよ、そんな!?」
「なに、良き隣人へのゴマすりだ。――それに、最近お店に来ないとナァ―ザも寂しがっている。またウチへ寄って相手をしてやってくれ。今後も我がファミリアをご贔屓にな?」
「あ、ありがとうございます……」
ミアハ様は、天界の頃から
そしてその団長である【ナァーザ・エリスイス】さんに良く効くとオススメの薬を売って貰っているのだ。
でも僕なんか稼ぎが少なくて、あまり売上に貢献出来てないのに……本当に寛大な神様なんだなぁ。
僕は頂いた回復薬を受け取って自分が色んな人に支えられてると改めて実感する。
「ではな」
そう僕の肩をポン、と叩いてそのままミアハ様は夜の喧騒へ消えていく。
――応援、してもらってるんだよね。
尊敬する神様の励ましが嬉しくて、僕は何も言わず小さくなっていく背中に頭を下げた。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
神様がホームを空けてから、結構な時間が経った。
僕は手持ち無沙汰になって、西の大通りを歩いていた。
――「2、3日留守にする」って言っていたけど…神様、今日も帰って来ないのかな。
「おーーーいっ待つにゃ、
「――え?」
「あ、お早うございますにゃ」
「お、おはようございます……」
考え事をしていると、いつの間にか「豊穣の女主人」の前まで来ていた様だ。
そして、その仕事着である緑を基調としたエプロンドレスを着ている猫人の店員さんから声をかけられた。
「持って来るのを忘れたから、付いてくるにゃ白髪頭っ」
「あ、あの……一体何の話ですか?」
「にゃーからぁ、この後おみゃーはおっちょこちょいのシルに渡すのにゃ」
「えっシルさん?何を?……え?」
そして、「あ、部屋に置いてきたにゃ」と呟いてから、僕は【アーニャ・フローメル】さんに事情もわからないままお店の中まで案内される。
階段を昇って部屋が並ぶ所まで付いていった時、ここがシルさんの言っていた従業員さんが泊まっている場所なのかと思い出した。
どうやら僕に用事があるみたいなんだけど、全然具体的なことがわからない。
「おやぁ?少年じゃにゃいの」
「あ、すみません……お邪魔してます」
「んにゃ、クロエ」
廊下を渡っていたら、一つの部屋から出てきた黒髪の猫人の女性が出てきた。
エプロンドレスではなく灰色と黒のワンピースを来ていて、細い腰やしなやかな手足が綺麗な曲線を作っている。
「今日は夕方からにゃ?」
「にゃあ。にゃから今から
「……え、僕ですか?」
突然、クロエさんがこちらを見てその黒い瞳を補足しながらこちらに微笑みかける。
……嫌な予感がする。
「今はシルも居ないし、丁度いいじゃにゃいの」
「白髪頭に用事があったのかにゃ?」
「まぁ、あったというか……これからあるという感じかにゃ」
「あの……一体何の話しを」
「まぁまぁ、初めまして少年?みゃーは【クロエ・ロロ】にゃ。クロエって呼んで良いにゃよ?」
「え、うえぇ!?」
クロエさんが僕の横まで近づくと、にっこりと笑いながら名乗られた。
そして、いきなり僕の
訳が分からなくて、抵抗するが肩を抱かれる手の力に一切身動きが取れない。
――この人、力が強い……!?
「すみません!あの、お尻っ手が!」
「暴れにゃくても良いのよ、少年……みゃーの部屋で少し
「お、にゃんか良いことするのにゃか?」
「ふふ♪アーニャもそろそろお年頃だし、少年で経験しといても良いかも知れにゃいわね」
「あのっ僕、そんなつもりは……!」
「間近で見ると、可愛い顔してるにゃあ少年。つい現役の頃を思い出しちゃうにゃん」
なんだかとんでもない方向に話が進んでいってる気がする……!
僕のか細い抵抗も虚しく、クロエさんが出てきた部屋に連れ込まれて付いてきたアーニャさんがドアを締めてしまう。
というかアーニャさんは僕に何か用があったのではないのか。
すっかりこれから起こる事を見届ける事に興味が移ってしまっている。
クロエさんが普段寝ているのだろうベッドの目の前で、僕の身体に触れている手の動きがねっとりと撫でる動きに変わっていく。
熱い吐息を耳に吹きかけられ、思わず全身の力が弛緩する。
「初心にゃんだねぇ、少年。……これは刺激的なお昼ににゃりそうね♪」
そうしてベッドに僕が押し倒され彼女が伸し掛かる頃には、僕にもこれからの
汗がじっとりと頬を伝わり、股間に血が集まるのを感じながら――狡猾な猫に捕食される兎の映像が脳をよぎった。
多少焦らした様な流れになっておりますが、一旦区切らせて頂きます。
次の更新は早めにいたしますので、そこで2章は終われるかと思います。
話の後半、実はクロエやアーニャとこういった流れにする予定は無かったのですが、ベルが居ないシーンをカットした結果、2章のボリュームが一気に減ったことと、原作からのアレンジ要素が少なすぎたので、後半はオリジナルの流れにしております。
加えて基本は不定期更新になりますのでお待ち頂く事もあるかと思いますが、お許しくださいませ。
それでは次回もまた是非よろしくお願い致します。