あらすじでも書きましたが、本編を読んでいてこの八幡たちのそんなシーンは見たくないと思う方は回れ右をオススメします。
では、どうぞ
1週間前、俺は人生のターニングポイントを通過した。
確かに、俺の昔の夢は専業主夫ではあった。だが、24歳なんて若い年齢で結婚できるなんて思ってもみなかった。俺なんかより何十倍も素晴らしい人格者なのに30半ばになっても結婚できない人が近くにいたから尚更だ。
はっきり言おう、俺は自分が勝ち組だと心から思っている。高2のときに抱いた俺とめぐりと彩加と小町の4人で1つの家に住むという夢を見事に叶え、しかも一緒に住む人間の4人のうち3人が公務員だ。
正直言って金には困らないし、1週間前から住んでいるこの家には俺にとっての癒しが3人もいる。
もう4人とも20歳を越え、結婚もし、立派な大人になったと言ってもいいだろう。だが、歳がいくつになろうとも可愛いものは可愛いし、俺にとっての癒しは何歳だろうと癒しである。
俺とめぐり、彩加と小町。俺たち4人は1週間前の同じ日に同じ場所で同じ時間に愛を誓った。
新しい一軒家に4人で住むというのは結婚前から話し合って決めていたことである。まぁ、高校時代から俺の夢がこの4人で同じ家に住むというもので、当時から幾度となく俺がそれを言っていたため特に反対もなかったが。
そんなこんなで月曜日に引っ越しを始めて約1週間が経ち、新居にも結婚生活にもようやく落ち着きが出始めた頃、俺たちは大きすぎる問題にぶち当たっていた。
その事件は昨夜の、金曜の夜に起こった出来事だった。
俺たちの家は2家族が住むのだからそれなりに大きめの2階建ての家であり、部屋の数は1階にも2階にもそれなりにあった。
そこで俺たちが最初にぶつかった問題は部屋割りである。
戸塚家が2階で比企谷家が1階。またはその逆。他にも親たちが1階で子供ができたら子供たちが2階、などと色んな案が出た結果、最終的には最後の親が1階、子が2階という案で落ち着いた。
まぁ、子供はまだいないので、そうなるとしばらくは2階は誰も使わなくなるが、今は物置きにするということになった。
ちなみに、1階にはリビングなどの他に個室が3部屋あるので、1つは俺とめぐりの寝室、1つは彩加と小町の寝室、残りは俺と彩加の仕事部屋というか、まぁ学校で使う資料を作ったりするために勉強机が2つにパソコンが2台、コピー機、色んな本や資料が置いてある部屋だ。一応小町も保育士の仕事をしているのでこの部屋に机を置こうかとも言ったのだが、寝室でやるからいいよと言われ、それならせめてこれくらいはと彩加と小町の寝室は俺たちよりも少し広い方を使ってもらうことにした。
因みに部屋の場所は俺とめぐりの寝室と彩加、小町の寝室が横に並んでおり、仕事部屋が俺とめぐりの寝室の廊下を挟んで向い側にある。
つまり俺たちの寝室は壁を挟んで隣同士なのだ。
これがどういうことなのか、俺たちはその日が来るまで誰1人として気付くことが出来なかった。
もう1度言おう、事件は金曜日の夜に起きた。
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「ふぅ、やっと落ち着いたな」
「そうだねぇ、わたしは昼間とかにも色々とできるけど3人はそうも言ってられないしね」
「まぁ仕事があるからな。逆に言えばリビングとか、生活必需品の買い出しとかはめぐりに任せっぱなしになっちまったな。大変じゃなかったか?」
「全然。むしろこれからの生活が楽しみで楽しみで、すごく楽しかったよ」
めぐりはそう言いながらニコニコと笑顔を作る。
俺とめぐりは寝室のダブルベッドに腰かけ、肩を寄せながらそんな話をしていた。
いっても俺たちはまだ25と24。全然若い上に結婚したてのラブラブ夫婦だ。お互い仕事や引っ越しで多少疲れていようが、こうして肩を寄せ合い、今日あったことを話すだけでも疲れが吹っ飛ぶ。
これが10年後、20年後となると寝ないと疲れが取れない、みたいになってしまうのだろうか。朝起きて飯食って、仕事へ行って、帰ってきて、飯食って風呂入って、次の日の準備をして寝る。そんな毎日になってしまうのかと思うと、歳はとりたくないと切実に思ってしまう。
「八幡も仕事大変でしょ?」
「まぁそうだな。つっても2年目だしそこそこ慣れたけどな。進学校だからそこまで問題児もいねぇし、俺みたいな面倒臭い奴もいない」
「ふふっ、八幡だって優秀だったじゃない」
「優秀な生徒と優等生は違うからな。にしても、相変わらず彩加の人気はハンパねぇ」
「あー、若くてあの容姿にあの性格だからねぇ。人気出ない方がおかしいよ」
「マジで指輪つけてなかったらヤバかったかもな。あの指輪が生徒や彩加自身にも抑止力になってる気がする」
「いやいや、たとえ未婚だったとしても彩加くんは生徒に手を出すような人じゃないでしょ!?」
それもそうか。そんなアホな会話をしているとめぐりが俺にもたれ掛かっていた身体を離し、部屋の角に置かれたドレッサーに向かう。
めぐりがドレッサーから細い木製の耳かき棒と綿棒を手に取り俺に見せてくる。
俺はそれを見るといつものかとフッと軽く笑みを浮かべ、身体を倒し、再び隣に座っためぐりの太腿に頭を乗せる。
「ふふっ、八幡は昔からこれをすると疲れが取れるらしいからね。今日は金曜だし1週間の疲れを癒してあげる」
「それはちょっと違うぞ。耳かきが疲れを癒してるわけじゃなく、めぐりがすることに意味があるんだ」
時刻は23時50分。
明日は休日だ。なので今日はゆっくりめぐりに癒されることにしよう。
カリ、カリと耳の奥に心地よい音が響く。昔からこの音が好きだ。めぐりの耳かきテクも付き合ってからの7年間でかなり上達しているはずだ。
左耳から聞こえるカリカリ音と右側頭部の柔らかさを堪能していると、近くの壁から何やら小さな物音が聞こえてきた。
目だけでめぐりを見てみると、特に気付いた様子もなく耳かきを続けている。
気のせいかと思い、再び耳かきとめぐりの太腿に集中すると、次は先程より少し大きめの音が聞こえる。
「……?」
流石のめぐりも気が付いたのか、音のした壁の方を向き、首を傾げている。
すると、次の瞬間俺たちはその音の正体に気が付いてしまった。
ギシッ、ギシッ、ギシッと何かが軋むような音と共に、誰よりも長く一緒に暮らしていた女性の初めて聞く喘ぎ声がほんの微かに聴こえてくる。
「「…………ッ!」」
これは、流石に気付く。確かに、月曜にここに引っ越してきて部屋を決めたり荷物を出したりと大変な1週間ではあった。更に俺と彩加と小町は仕事もある。
しかし、明日は土曜日で仕事は休み。そして何より俺たちは新婚で歳も小町に関してはまだ22歳。つまり若いのだ。
俺とめぐりも色々とバタバタしていたため結婚してからそういったことはまだしていない。それは彩加と小町も同じなのだろう。それに普通の話し声なら隣には聞こえない。
故に、それ故に、俺たちは誰も気が付かなかったのだ。
一緒に住むということは、ましてや部屋が隣同士ということは――
これは、一大事だ……
八幡たちの職業などは、活動報告に書いてありますので、初見の方はよろしければそちらをご覧ください。
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