どうぞ
今日も今日とて新しい朝が来た。
しかしそれは、果たして希望の朝と言ってもいいのだろうか?
俺の妹は喜びとともに物理的にも胸を開いていたし、大空ではなく彩加を仰いでいた。
……朝っぱらから下ネタ全開でしたねスミマセン。
とにかく俺とめぐりは平日ばりに早起きし、今日これから行われようとしている緊急会議に向け、作戦会議を行っていた。会議のための会議というやつだ。
「……引っ越して僅か一週間。部屋を移動しようと言えば必ず理由を聞かれる。それも今日いきなり言い出したとなればあいつらからしてみれば心当たりがありまくる。つまり、気まずさのバーゲンセールだ」
「……できるだけ互いに気まずくないように、慎重に動くべきってことだね」
俺とめぐりはリビングの食卓で顔をできるだけ近付け、小声で会議を進める。
「そこで相談なんだが……彩加と小町、別々に知らせるのはどうだろうか? 彩加には俺から、小町にはめぐりから。同性から知らされた方がまだマシだろ?」
「うーん。確かにそうかもだけど……結局、私たち2人に聞かれたってことには変わりないよね?」
うーん。とめぐりと2人で唸っていると、パタパタとリビングに向かってくる足音が聞こえる。
俺とめぐりは慌てて顔を離し、めぐりは軽く欠伸を、俺はグーっと伸びをする。
いや、俺たち誤魔化すの下手すぎんだろ。
リビングの扉が開き、姿を現したのは我が妹小町であった。
「およよ? お兄ちゃんたち起きるの早いね。特にお兄ちゃんが休日に早起きって、今日は槍でも降るのかな?」
「誰のせいだ誰の」
小声で小町の言葉に言い返すと、机の下でめぐりに脛を蹴られた。
「あはは、まぁ彩加くんは明日テニス部の部活があるし、4人が1日しっかりと揃うのは引っ越してから今日が初めてだからね。今日中に色々と決めておきたいこともあるし」
「決めておきたいこと?」
「え、えと、う、うん。その、あの、こうリビングのアレとかソレとか、家具の細かい配置とか、キッチンの色んな配置とか、とにかく色々だよ!」
「は、はあ」
うん、挙動不審過ぎるぞ。小町が若干引いてんじゃねーか。
それにしても、全くもって変わった様子はないな。そりゃそうか、向こうからしてみれば夜の営みが丸聞こえなんて思いもしないだろうしな。普通の話し声程度じゃ隣の部屋には聞こえないわけだし。
「彩加はまだ寝てんのか?」
何とか話を変えようと小町にいたってオーソドックスな質問をする。
「うん。ちょっと疲れてるみたい」
「……だろうねぇ」
今度はめぐりが小声で呟く。この馬鹿! 余計なこと言うな。小町には聞こえてないみたいだが、気を付けろと注意するためにもめぐりの足を机の下で軽く蹴る。
すると、めぐりがこちらをチラリと見て目で何かを訴えてきている。
(八幡だってさっき危ないこと呟いてたじゃん)
(それを注意したお前が同じことしてどうすんだよ)
(だからって蹴ることないじゃんか)
(お前だってさっき蹴ってきたじゃねーか。脛を)
(八幡は男なんだからそれくらい我慢してよ。わたしは女の子! 女の子を蹴るなんて最低だよ)
(女の「子」て、そんな歳かよw)
(カチン)
(あ……)
お互い一言も喋らずに目だけで会話を成立させる。が、成立させてしまったせいで、めぐりによる脛への集中攻撃が開始された。
俺もただでやられるわけにはいかないので、回避、回避、反撃、回避を繰り返す。
机の下で行われている攻防戦は未だリビングの扉の前に立っている小町によって終わりを告げた。
「あの、ここからだと丸見えだよ? さっきから何してんの2人とも……」
くっ、そもそもこんなことになった元凶はお前と彩加だろうが。何ちょっと引いてんだよ。
―――
――
―
とりあえず小町とめぐりが朝食を作り始め、俺はそれができるまでソファーに座りニュースでも見ることにした。
さて、どう切り出したらいいものか。とりあえず朝食を食った後、話があるって言って彩加を呼び出すか……それともその場で2人に言ってしまうか……。
くそ、なんで結婚して早々にこんなことで悩まなきゃいけないんだよ。いや、だが絶対にいつかは起こっていた事だし、早めに発覚してよかったのか? だが、こっちは妹の喘ぎ声を聞かされてめぐりと微妙な空気になるし、あっちはあっちでこれから真実を聞かされるわけで、良かったと思える点がマジで霞みまくりだろ。
ホント、真実は残酷過ぎる。
なら、嘘は優しいのだろうか。否、今回の場合は嘘をついてそれがバレたときの気まずさは計り知れない。
つまり結論はこうだ。詰んだ。
流れてくるニュースキャスターの声を聞き流し、そんな事を考えているうちにどうやら朝食が完成したようだ。
それと同時に彩加がリビングに入ってくる。
「おはよう。3人とも早いね」
「おはよ。だよね、しかもお兄ちゃんが休日に早起きしてるなんて何年振りだろ」
「ははは、確かに八幡は休日は昼まで寝てそうだよね」
……こいつら、本当に誰のせいだと思ってんだ。
もうこいつら全部バラしちゃってもいいんじゃね? という思いが一瞬過る。
だが、そうもいかないよな。お互いのこれからのためにも。
―――
――
―
「なあ、やっぱり部屋の場所変えないか?」
朝食後、食器の片付けもそこそこに俺は先手を打った。
「え? いきなりだね。どうして?」
それに反応したのは彩加だ。
「昨日めぐりとも話したんだが、やっぱり2階を物置きとしてだけに使うのは勿体ないと思ってな」
「でも子供ができたら子供たちを2階にするんでしょ? そのときはまた部屋を移動するのは面倒じゃない?」
小町が俺の今さっき考えた理由に反論する。その子供ができる前の段階で問題が発生したんだっての。だが反論されるのは想定内だ。やっと部屋を決めてベッドなどの荷物も置いたのにすぐ部屋を変えるなんて面倒に決まっている。
俺は横に座っているめぐりに目線で合図を送る。
実はさっき隙をついてめぐりに新しい作戦を伝えた。ていうかこれが最も全員にダメージが少ないと思う。まぁ多少彩加に負担がのし掛かるかもしれないが。
作戦はいたってシンプルだ。俺が彩加に昨日のことを話し、小町を説得してもらう。以上だ。
彩加も本当の理由がわかれば協力せざる得ないだろう。
「彩加。ちょっと来てくれ。2階を見てから話そう」
俺はまず廊下に彩加を呼び出す。めぐりには小町の相手をしてもらう。この作戦で最も大事なのは小町には何も知らせないということだ。
全てが明るみになったとき、最も傷を負うのは小町だろう。俺たちにあんな声を聞かれてしまっているのだから。
故に彩加には小町を傷付けないためにも小町にその真実を知られないように説得してもらうしかない。
そのためにはまず、彩加に真相を明かさなくてはいけないんだけどな。
「……? 八幡? 2階行かないの?」
廊下で立ち止まった俺を不思議に思ったのか、可愛く首を傾げる彩加。
20歳を越えても彩加の可愛さは未だ健在である。今からこの可愛らしい顔が羞恥で染まると思うと興奮す、あ、いや、心が痛む。
「いや、2階に行く必要はない。ここで話がしたい」
「……? うん」
彩加は俺の前に立ち、しっかりと聞く体勢に入る。
「……その、だな。非常に言いにくいことなんだが……昨日の晩、声が聞こえてきたというか、その、お前たちの部屋から」
しどろもどろになりながらも、何とか言葉を紡ぐ。
「……あ、えと、もしかして、き、聞こえちゃってた?」
彩加はすぐに何の事かを察し、顔を赤らめながら上目遣いで聞いてくる。
「全部ではない。全部ではないんだが……その、多分一番聞いてはいけない部分が聞こえてきたというか、ラストスパートの部分が聞こえてきたというか」
俺の言葉にプシューと頭から煙を上げる彩加。彩加でこの反応だ。実際に聞かれてしまった本人が知ってしまえばどうなってしまうことやら。
「どちらかの部屋を2階にしようというのはそれが理由だ。普通の話し声程度なら聞こえないんだが……まぁ、昨日のは普通よりは大きかったからな」
「~~~~~ッ」
「そこで相談なんだが、小町に本当の理由を知られるのはマズいと思うんだ。聞かれた張本人だからな、知らない方があいつのためだ」
「……だね」
「そこでお前から小町を上手く説得してくれないか? 俺たちじゃあ説得力がないし、上手く知られないように誤魔化しながらさ」
「……あの、八幡。これぼくも物凄く恥ずかしいってことわかってる?」
そりゃあそうだろうな。逆の立場だったら正直この場にいることも堪えられないだろう。
「だろうな。だがこれを知ったときの小町のソレは計り知れないものになるぞ」
「それは、わかるけど……」
「どちらにしろこれからのためにも、移動はしないといけない。生憎、聞こえるとわかっているのにするような性癖は持ち合わせてないからな」
「ぼくだってそんなの持ってないよ!」
「だろ? だから、頼む」
「……わかった。まぁ逆の立場だったらぼくもこうしてただろうし、何とか言ってみるよ。あ、でも、昨日のことは絶対に忘れてよ?」
「わ、わかってる。とにかく頼んだ」
俺たちは互いに頷いて、リビングへ戻った。
結局、彩加が上手く小町を言いくるめ、今日は4人で部屋の移動作業に当てた。
2階に移動したのは部屋の中の物が少ないということで俺とめぐりになった。
まぁ、小町たちの寝室には小町の仕事机とかもあるしね。
とりあえず、これで最初の問題は一件落着だ。
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