---桜井水波---
大人の事情が解決したそうなので、小淵沢のお屋敷から戻ってきた。達也様の私を見る視線は暖かい。そういう関係になった為だろうか。和也君のガーディアンなのに、達也様と…まぁ、それは私だけではなく、七草真由美さん、千葉エリカさん、深雪様もそうであり、真夜様も黙認しているので、問題は無いようである。
その代わりに、和也君は、変わってしまった。馴れ馴れしく話してくれなくなってしまった。親しげに接してくれなくなってしまった。それはそれで寂しくもあり、悲しくもあり、無かったことにして欲しい。
「水波さん、兄ちゃん、深雪様、おはようございます」
朝起きての挨拶…戸惑う私と深雪様…
「兄さん、そんな他人行儀は止めてください」
「僕は司波家に居候している身ですから、お気遣いなく」
悲しそうな表情の深雪様。達也様は何か言いたげであるように見えるが、何も声を掛けなかった。
食事…和也君は自分の分だけ作り、自分の部屋で食べるようだ。
「和也君…なんで?」
「水波さんは、兄ちゃんの彼女です。僕に気を遣わないでください」
達也様との事を知られていた…だから、距離を…
「和也、そんなことは無い」
「兄ちゃん、水波さん、エリカさんに、責任を果たしてください。お願いします」
達也様に頭を下げた和也君。言葉に詰まる達也様。
---千葉エリカ---
四葉家本邸から帰ってきて、久しぶりの通学。途中で、和也達と合流したのだが、いつもと様子が違う。和也がいない…
「達也君、和也は?」
「転移した。俺達と通うのを避けている」
「なんで?」
「和也にバレているぞ、エリカ…」
バレている?なんだっけ…えぇぇぇぇぇ~!まさか、達也君と関係を持ったことをか…
「教室でも俺達を無視するだろうな…」
「なんで?なんでだ…」
「お兄様と一緒になって欲しいからですよ」
達也君の代わりに、深雪さんが答えてくれた。
「兄さんは孤独の道を選ばれました」
深雪さんの表情は寂しげである。達也君もだ…どうにかして、あげたいけど…
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教室に入ると、和也がいた。私達と視線が、合わないようにしているようだ。
「和也!」
声を掛けた。
「エリカさん、おはようございます」
心がこもっていない言葉を返された。
「どうしたんだよ、お前は?」
「自分の立場、立ち位置を理解しただけです。お気遣いは無用です」
立場?立ち位置?何のことだ?
「立場は…兄ちゃんの弟です。立ち位置は、部外者でございます」
バレている…達也君と関係を持ったことが…耳が熱くなっていく。
授業…いつもと和也は違った。真剣に考えているようだ。いつも、寝ているか、深雪さんに訊いていたけど、自分一人でどうにかしようとしていた。
お昼休み…何時の間にか和也の姿は消えてた。午後の授業が始まる寸前に、どこからか転移してきた。完全に避けられている…
そして、放課後…どこかに転移して消えていた。
---司波和也---
目の前の敵から爆裂魔法が幾重にも叩き込まれていく。吹き飛ぶ手足…意識を切らさずに、再生をさせていく。そして、敵との距離を詰めて行く。
「そこまで!」
組手の終了を告げられた。
「しかし、凄いな。再生能力か…」
組手の相手、一条将輝が目を輝かしている。
「まだまだです。再生速度が間に合わないし」
「でも、距離は縮んでいたぞ。長引けば、危なかったなぁ」
魔王ルシファーの計らいで、一条家で修行できるようになった。
「避けきれないんです。どうすれば良いですか?」
一条家の当主に質問をする。
「将輝の魔法に対して、あそこまで距離を詰めただけ、立派だよ。避けられない場合か…難しいなぁ。将輝、アドバイスをして差し上げなさい」
「いや、それは…ライバルに手の内はバレせませんよ。困ったな…」
将輝は困った顔をしていた。
「まぁ、僕が魔法を放てる余裕が無くなれば、避けやすいかな?」
あぁ、なるほど…
「将輝さん、もう1番お願いします!」
「え?まだ、やるの?タフだな、和也は…」
「鍛錬が楽しいんです♪」
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鍛錬が終わり、将輝と汗を流している。
「まさか、僕のアドバイス通りにするとは…なんだよ、あの魔法は…」
将輝のアドバイス通りに、魔法を放つ余裕が無くなるほど、僕の方から魔術を打ち込んだ。
「あれは魔法では無いです。魔術です」
「魔術…和也は古式の魔術師なのか?」
「現代魔法師的に言うとそうです。僕の魔法師としての能力は、身体の再生だけですから、魔法師として攻撃は出来無いのが難点です」
能力の一部だけを知らせた。
「攻撃能力の無い魔法師か…苦労しているんだな」
「問題児かも…」
汗を流した後、食事まで頂いた。
「温泉に浸かり、食事まで。本当にありがとうございました」
「また、来いよ!楽しみに待っているから」
一条親子に頭を下げて、家に転移した。
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「こんなに遅くまで、どこに行かれていたのですか?」
水波にドヤされている。一応、遅くなると連絡はしてあったのだが…
「僕は高校生だよ、水波さん。プライベートな事は言えない」
「和也君…その言い回しは止めて!ねぇ…」
「将来、僕のお姉様になるかもしれませんから、今から言葉遣いを練習しています」
「お姉様…えっ…それは…無いよ…和也君」
「水波さん…兄ちゃんと楽しい夜を過ごしたでしょ?」
僕の言葉で耳まで真っ赤になる水波。
「あれがどういう意味の行為か、僕だって知っている。兄ちゃんには行為の責任を取るように伝えて有る。だから…つらくなるから…昔のように接しないで…水波さん…」
僕は逃げるように自分の部屋に戻った。
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「兄さん…」
僕の部屋には深雪がいた。全裸で、首には首輪を嵌めて、僕のベッドの上で待っていた。
「ペットでも良いですから…お傍に置いてください」
何かが壊れそうな気がしたので、深雪を兄ちゃんの部屋に強制転移させた。部屋のドアに鍵を掛けて、床に座り瞑想をして、あの魔法陣を脳裏に浮かべ、発動する。
意識は、どこか遠くの世界へと飛ばされていく。
「君か?鍛錬大好き人間は?」
知らない世界に出た。目の前には、僕と同じ位の青年が立っていた。
「はい…司波和也と申します」
「僕は姫島朱宇だ。で、どうされたいんだ?」
「能力を全解放して戦いたい…」
「ふ~む、全解放か…いいよ。おいで♪ここのフィールドの強度なら、君程度の能力では壊れないから」
開幕砲撃をする。幾重にも魔法陣を展開して、朱宇さんに叩き込む…あれ?発動できない…
「蒼いなぁ…そんな数の魔法陣なんか、簡単に書き換えられちゃうよ♪」
えっ?目の前に数え切れない数の魔法陣が展開していた。
「これくらい、一変に展開しないと、僕達には効果は無い。これでも少ないか…いいか、一変に万単位で展開できないと、書き換えられて、リバースされるからな、注意しろよ」
魔王ルシファーの紹介先第2弾は、目の前の賢者様だった。歴戦の戦士だそうで、並大抵の戦闘力では倒せないらしい。
じゃ、詠唱系の魔術を…あっ!
「なぁなぁ、知っていたか?詠唱系の欠点をさぁ。空気振動を止めて終えば、言霊は発生できない。故に、詠唱系は発動出来無いんだよ」
そうなると無詠唱か…いや、格闘術でどうだ♪賢者様との距離を一気に詰め、拳を打ち込む。
「中々、いい拳だな。だが、それは命取りだよ」
えっ?全身に電気が走り抜けて行った。
「相手の力量を測る前の攻撃は、オススメ出来無い」
身体が痺れて動けない。頭を掴まれ、引き釣り起こされ、賢者様のパンチを腹部に受けた。即座に無かったことに…え?無かった事に出来無い…僕の全身は挽肉になっていった。
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「『無』と『不死身』か。大抵の相手には無敵だろうな。でも、君は相手が悪かった」
意識が戻ると、全身が痛い…
「僕は『無価値』持ちだ。君の能力を無価値にしてから、攻撃したんだよ」
『無価値』…そんな能力があるのか…
「挽肉状態になった君を、僕の能力で蘇生した。『不死身』を無価値にされれば、君は再生出来無いんだよ」
賢者様は、少し手合わせしただけで、僕の能力を打破してきた。
「まぁ、いい物は持っている。もう少し強くなってからだ。うちで鍛錬するレベルには達していない。どうする?」
どうするって…選択の余地はあるのだろうか?
「選択肢はいるのか…そうだな。1ラスボス希望、2破壊者希望、3嫌われ者希望のうちから選べ!あぁ、君自身の希望する道は選択肢には入れられない。理由はわかるかな?」
ガーディアンになれないの?なんで?
「わからないのか…その辺りだよ、君の欠点はさぁ。君の戦いは、相手を倒すことしか考えていない。それは戦士なら正解だけど、ガーディアンだとすると不正解だ。その辺りを考え直してみな」
倒せば護れるんじゃ無いの?
「違うよ。護る為に戦うんだ。なので、戦士とは戦術が違うんだ。う~ん…そうか、君には愛しいと思える者がいないのか…そこだな、問題は。愛しい者を見つけたら、また来な!いつでも、歓迎するから」
どこかに強制転移された。目を開くと自分の部屋に戻されていた。窓の外からは、朝日が差し込んでいる。立ち上がろうとするが、全身が麻痺して動けずに、その場で倒れた。まだ、賢者様の術が効いているようだ。這っても行けないようだ。腕が動かない。
ダメージを無かったことに…しかし、出来無かった。思っていた以上に、賢者様は強すぎたのだ。誰からも指摘されなかった、僕の欠点も見抜いていた。愛しい者…それは当主様に出された課題に繋がる。僕に足り無い事を、見抜いていた。もっと、鍛錬しないと…
意識がいつの間にか、落ちていたようだ。誰かに抱かれている。いや、何者か達にサンドイッチにされていた。胸板と背中に、柔らかな物が触れている。
「兄さん、大丈夫?」
「和也君…どうしたの…傷だらけだよ」
目の前に、涙目の深雪がいて、後ろに水波がいるようだ。
「なんで?兄ちゃんの傍にいたいんでしょ?僕なんか、放っておけば良いじゃん」
「私にとって、兄さんは大切な人…」
「私にとっても、和也君は大切な人だよ」
「なんで?二人共、兄ちゃんと関係を持ったのに…」
女性の考え方がわからない。
「お兄様とは、最初で最後の儀式です」
「達也様とは…ごめんなさい。浮かれていました。今後、桜井水波は、全力で四葉和也を愛します!」
愛ってなんだろうか…わからない。僕には無い物…たぶん、賢者様の言いたかった事は、戦うだけ、護るだけではダメで、愛を知ることでガーディアンになれるって感じなのだろう。賢者様の提示された選択肢には、愛は必要が無い気がするし…今の僕にはそういう選択肢しか提示出来無いんだろうな…
「ねぇ、和也君…まだ、怒っているの?」
「怒っていないよ」
「兄さん…無視しないでください」
「無視していないよ…僕にも夢が出来たんだよ。で、どうすれば、夢が叶うか考えていたんだよ」
「「夢って?」」
二人から訊かれた。
「賢者様に認めて貰って、賢者様の元で鍛錬することだよ」
「「賢者様って?」」
「僕にとって、初めての理解者かな。僕の欠点を見抜き、僕に足り無い物を提示してくれたんだよ」
「その人が、兄さんをボロボロにしたの?」
「まぁ…僕の能力が総て効かないなんて、初めての経験だ」
「総て?和也君の再生能力も?」
「そうそう♪賢者様に蘇生して貰ったんだ。僕、挽肉にされちゃったよ♪」
「「えっ!挽肉に…」」
---司波達也---
学校から帰ると、学校を休んだ和也を見守っていた深雪と水波から、和也から伝えられた情報を聞いた。
賢者と名乗る者に、和也は挽肉状態にされたらしい。その影響で、身体中が痛いそうだ。どんな能力だ?さらに『無価値』なる能力を持ち、魔法陣を万単位で展開してきたそうだ。まるで、夢物語だな。いや待てよ!どこかで見た気がする。どこだったかな…そうだ、小淵沢の家の蔵にある書物庫だ。
週末に行って来るかな?
---司波和也----
全身筋肉痛状態である。賢者様の攻撃は侮れない。深雪の肩を借りて登校している。転移して登校を試みたのだが、転移術に身体持たないというか…転移陣を展開しただけで、激痛が走った為に断念した。
「あれ?和也、今日は深雪と熱々だな♪」
エリカが合流した。
「全身筋肉痛だよ…一人で歩けないんだよ~」
「また、死んだのか?」
「うん…鍛錬中に…」
「鍛錬中に?」
心配そうに僕を見るエリカ。
「誰と?」
「賢者様…」
「はぁ?どこの?」
「わからない…たぶん、違う世界だと思う。僕の能力がまるで効かなかったから…」
「違う世界?達也君、どういうこと?」
「俺も現状では半信半疑だ。ただ、和也の言う話を、古い書物で見た記憶があるんだ。ソレを確かめに、週末にあの屋敷の行く。エリカはどうする?」
「そうだな…一緒に行くか。和也が心配だし」
え?僕でなくて、兄ちゃんといたいんだろ?
こうして、週末は小淵沢の家に帰ることになった僕達。