---新発田勝成---
命からがら四葉本邸の領域から逃げ出せた。俺を逃がす為の犠牲は多大であった。新発田家は俺以外…
あの化け物を放置出来無い。この世から消さないと、粛清された同胞の命が無駄になる。俺は国防軍の管理する倉庫へと忍び込んだ。
この倉庫には、あの『パンドラの箱』と言われる物が、秘匿保存されていた。あの箱を開けば打開できる気がしたのだ。災いを招くといわれている箱。中身を精査しているのだが、現代科学を以てしても、確認出来ていない。見た目も、精査した結果も頑丈な箱で、なんらかの封印がなされていた。
俺は箱の前に立ち、箱を開けるのではなく、破壊して中身を解放してみた。しかし、中身は何もなかった。厳重に封印されていたのに、何も無かった。どういうことだ?
「お前か?僕を呼び出した愚か者は…」
俺の目の前に17歳くらいの青年が現れた。その頭には角があり、背中には純白の翼が生えていた。明らかに、人間では無いのがわかる。
「あぁ、和也が邪魔なのか…まぁ、この世界で、和也に勝てる者はいないからな」
目の前の化け物は、あの化け物を知っていた。
「わかった、お前の願いは叶える。供物は…お前が総てを負え、いいな!」
目の前の化け物が近づくと、意識が遠くへ飛ばされた。
---桜井水波---
勝成さんが逃亡したが、残りの者達は捕縛できた。これで、和也君は狙われることがなくなるだろう。和也君の能力、転移術で家に帰った来た。真由美さん姉妹、エリカさんが、帰宅し、残りの住民達は、それぞれの部屋でまったりしていた時、来訪者がみえた。応対に出る私。
「和也に会いたい」
来訪者が用件を伝えてきたが、その身なりは…咄嗟に防御障壁を張れるだけ張り、叫んだ。
「深雪様、和也君と逃げてください!」
私の張った防御障壁は、目の前の者には効果が無く、簡単に抱きつかれてしまった。
『脱衣』
聞き慣れない呪文…全裸にされる私…目に見えない何かが、全身の穴という穴に入り込み、私という物を調べ始めた。
「やめてぇぇぇぇぇ~!」
私の悲鳴を聞いたのか、部屋から飛び出してきた達也様が、目の前の者に、攻撃を仕掛けた。しかし、
『エアスタンプ』
グシャッ!
達也様が…潰れたトマトのように…辺り一面は、達也様の肉片、骨片が散らばり、血溜まりが出来ている。
「貴様!」
黒羽姉弟も攻撃を仕掛けようとするが、
『ダイヤモンドダスト』
二人の身体が爆ぜていった。
「なんで…賢者様…なんで…」
和也君の声…なんで逃げないの?
「和也…迎えに来たよ。この世界は、ダメだ」
「ダメって?なんで、兄ちゃんや亜夜子ちゃん達を…」
目の前の化け物の目には…なぜか涙が…
「和也…一緒に連れて行くのには、寿命を全うするか、理不尽な死で無いと、連れて行けない。だから、理不尽な死を与えた」
「兄ちゃん…水波…深雪も…」
「そうだ、和也と一緒に連れて行く。この世界はダメだ。和也を消す為に『パンドラの箱』を開いた。いや、正式な手順を踏まずに破壊した」
『パンドラの箱』…この世に災いをもたらす遺物である。和也君を消す為に…なんで?誰が…
「水波に何をしているんですか?」
「彼女はこのままでは連れて行けない。人間では無いからな」
人間では無い?私が…
「まさか…調整体ですか…」
深雪様の震える声…
「そうだ。聖域に於いて、人間では無く、生物兵器に分類される。今、人間に戻しているところだ。和也…お前の妹にも…苦痛を与えねばならない」
「私も…調整体…」
まさか、深雪様も…
「考えてみなよ。年子での兄妹で、同学年って不思議に思わなかったか?」
思った…でも…それじゃ…
「私は誰の為の調整体ですか?」
「達也だ。達也が暴走した時、一瞬で脳を凍らせる能力を、お前に組み込んだんだ。マズい…和也、彼女の意識を飛ばせ!」
和也君は言われた通り、深雪様の意識を飛ばした。和也君に身を委ねるようにして、倒れ込む深雪様。
「自分で自分の脳を凍らせるようとするとは…危なかった。そうだ、水波君だっけ?もう少し苦しむが、耐えろよ。和也と共に連れ帰る為だ…」
「意識を…飛ばして…ください…」
耐えられそうも無いので、お願いをした。
「わかった」
目の前の化け物の声を聞き、意識は遠退いて行った。
---千葉エリカ---
夜明けと共に、アニキに起こされた。おい!まだ大型連休中だぞ!
「エリカ…直ぐに、喪服を着ろ!」
アニキの顔は、疲れ切っていた。誰か死んだのか?誰がって、訊こうと思ったのだが、訊く前にアニキは、部屋から出て行ってしまった。
喪服に着替えて玄関へ行くと、兄上、親父も喪服を着ていて、奥からアニキが喪服に着替えて出て来た。
「行こうか…」
アニキの言葉に、兄上、親父が頷き、アニキの車に乗り込んだ。私も二人に続いて…着いたのは、病院…霊安室に案内された。そこには…なんで?昨日、元気だっただろ?
「エリカ…寝ているみたいだろ?安らかな寝顔だろ…いつもの様に、叩けば起きそうだろう…でも、死んでいるんだよ…」
アニキの声は徐々に掠れていく。ついに、その場で、周囲の目を気にせずに、号泣し始めた…私の目からも暖かい物が大量にあふれている。目の前には、和也が寝ていた。いつもの寝顔だ…
「和也…起きろよ!おい…ふざけるなよ!かずやぁぁぁぁ~!!」
和也の身体に抱きつき、揺り動かすが、アイツの身体は有り得ないほど、冷たかった。死後強直か全身の筋肉が強張っている。
「なぁ、こいつ、『不死身』持ちだろ?死んでも、欠損箇所が再生し、心臓が再鼓動して、生き返るんじゃないのか!なぁ、アニキ!」
「和也の身体には、心臓だけが無いんだ。傷もアザも無いのに…心臓だけが抜き取られているんだ…和也の弱点を見つけたヤツの犯行だ…」
身体は再生したのか…でも、再鼓動したくても、心臓が無かったのか…誰が…
「誰が…やったんだ?」
待て!達也君達はどうしたんだ?なんで、この場にいないんだ…
「なぁ、達也君は?深雪や水波さんは…一緒じゃ、無かったのか?」
「和也以外は…ミンチ状態だった。さっき…DNA検査で、司波達也、司波深雪、桜井水波、黒羽亜夜子、黒羽文弥の死が確定した…犯人は…新発田勝成…ソイツの全身には全員の返り血が確認出来た。後、和也の心臓を握り締めていた…」
新発田勝成…昨日、逃走したヤツじゃないか…
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葬儀…密葬だった。参列者は少ない…四葉真夜様、深夜様、桜井穂波さんも死亡したらしい…四葉家は事実上、この世から消えた…
遺体として存在されているのは和也だけ…後の全員はミンチ状態だという…遺品だけが、棺に収められ、肉骨片は一纏めにされ、容器に入っているそうだ。
参列者の皆…言葉を失っている…私もだ…
焼香を終え、外へと出ると、知らない青年に声を掛けられた。
「千葉エリカさんですね」
「そうですが…あなたは?」
身構える私。
「身構え無くても良い。僕は敵では無いからね」
私を見る目が、なんか暖かい気がする。
「和也の師匠って言えば、わかるかな?」
師匠…聖域のか?
「そういう理解で良い」
目の前の青年は、私の心が読めるようだ。
「時期が来たら…和也が迎えに行く。だから、悔い無く生きろ」
そういうと、目の前の青年の身体は光の粒子に分解され、霧散していった。
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あれから、数十年…悔いを残さない為、千刃流を極め、後進の者を多く育てた。伴侶にレオを迎え、息子に和也と名付けた。
結局、最期の時まで、和也は迎えに来なかった。レオと息子が、暖かく私を見守ってくれている。最後の一呼吸…大きく深く息を吸い込んだ。走馬燈に浮かぶ記憶…最期の時が来た…
浮き上がる感覚…誰かに抱き締められる感覚…耳タブをハムハムされる感覚?はぁい?なんで?瞼を開くと、目の前には、老いた私がいて、レオと息子が泣いて縋っている。
「エリカって、老いると、あぁなるんだねぇ♪」
懐かしい声…遠い昔に聞いた覚えのある声…
「意外♪まさか、レオさんと結婚して、息子さんがいるなんてねぇ~」
えっ?なんで、お前らがいるんだ?それも、あの当時の姿で…
「うん?エリカもあの当時のままの姿だよ。乳首がまだ、ピンク色だし♪」
舌先で舐めるアイツ…お前…なんで、今頃…
「寿命を全うしないと、迎え入れが出来無いんだよ♪」
和也が私を笑みで見つめている。
「さぁ、行こう。兄ちゃん達も待っているよ」
私は和也と深雪に支えられて、空間の切れ目に吸い込まれて行った。