---司波和也---
亜夜子ちゃん達と遊んでいたら、亜夜子ちゃんパパに黒い袋を被せられて…
気が付くと知らない森の中にいた。ここはどこだ?亜夜子ちゃんは?深雪は?水波は?みんな、どこにいるのかな?かくれんぼなのかな?
僕はもりの中を彷徨い歩いた。延々と…誰かに会えるまで…不思議とお腹が空かない。なんでだろうか?
森を抜けると、草原に出た。湖が有り、湖の傍には木々が生えている。湖に近寄ると、
「君がどこから来たんだい?」
大きな男の人に声を掛けられた。
「みんなと遊んでいたら、黒い袋を被せられて…」
怪訝な顔をしたお兄さんは、僕の頭に手を翳した。
「う~ん…酷い事をするなぁ…そうか…どうするかな?ここは君が来る場所では無いんだよ」
と、言われても…
「どこに行けば帰れますか?」
「うん?帰えるのか?う~ん…ここに迷い込んだってことは、簡単には帰れないと思うよ。う~ん、困ったなぁ」
「ミカエル、どうしたの?」
大きな女の人がお兄さんを呼んだ。
「あぁ、ガブリエル。問題が発生した。この子なんだけど…」
「わぁ~♪かわいい…」
僕はお姉さんに抱き抱えられた。胸の大きなお姉さんは、僕に頬ずりをしたり、キスをしてきた。
「この子、どうしたの?」
お姉さんに、小猫とか子犬のように扱われる僕。
「ここに迷い込んだらしいんだよ」
「ここに?どうやって?ここは人間は来られない場所よ」
「そうなんだけど…彼の記憶を読んでみたが、仮死状態のまま、ここに来たようだ。彼の身体は現在、植物状態だよ。どうやったら、返せるかな?」
「徳を積ませるしか無いかぁ…」
「どこに預ける?」
悩みこんでしまったお兄さんとお姉さん。
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お兄さん達により、知らないお爺さんに預けられた。
「逢いたい者はおるか?」
「妹の深雪と水波ちゃんと亜夜子ちゃん…後、真夜叔母さんと、葉山さんと、兄ちゃんかな?」
「う~ん、親に捨てられたのか?親には会いたく無いのか?」
「親って何ですか?」
「お前を産んだ母親とか、父親だよ」
「って、なんですか?」
「う~ん…」
考え込むお爺さん。
「では、やりたいことは?」
「いつも恐い顔の兄ちゃんを笑顔にすることかな?後、真夜叔母さんが恐い顔の時に、抱きつくことだよ」
「う~ん…お前ってヤツは…では、最後に苦しい生き方と、楽しい生き方だと、どっちが良いかな?」
「わからないです。苦しいってなんですか?楽しいってなんですか?」
頭を抱え込むお爺さん。
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預けられた家の朝は早い。明け方、起床して、道場の床やお屋敷の廊下を雑巾がけ。その後、お庭や玄関の箒がけ。それから朝の食事の用意だ。
お屋敷の方々も鍛錬にいらしている方々も、僕に声を掛けてくれる。それだけで、嬉しい気分になれる。今までは、真夜叔母さんと葉山さんと深雪くらいしか、声を掛けてくれなかったから…
「和也、朝飯の片付けが終わったら、道場で鍛錬だぞ!」
先輩に声を掛けられた。
「はい、わかりました」
食器類を洗い上げ、磨き上げ、収納棚にしまっていく。休み間ことなく道場へと向かう。
道場では、剣技と格闘技を学んでいる。
「おい!和也、剣筋が乱れているぞ。意識を集中しろ!」
先生に注意を受ける。今以上に意識を刃に向けて、空気抵抗に逆らわない様に、空気を切り裂いて行く。
午前中の鍛錬が終わると、昼食の準備をして、昼食が終わると後片付けをして、午後の鍛錬に向かう。午後は魔法や魔術を学ぶ。更に、滝に打たれたり、火渡りをして、どんな状況下でも意識を絶やさない行をこなしていく。
午後の鍛錬が終わると夕食の準備、夕食が終わると後片付けをして、お風呂掃除をしながらの入浴をして、最後に洗濯をして、寝床へ…そんな毎日を過ごしていた。
「和也、お前は何がしたい?何になりたい?」
当初お爺さんと呼んでいた当主様に訊かれた。
「ここで毎日を送りたいです。なりたいことは無いです。今のまま、ここで、毎日を送りたいです」
「まったく、お前は…夢も希望も無いのか…」
寂しそうに呟く当主様。
「では、お前にとっての幸せは何か?愛している者はおるか?」
当主様に訊かれた。
「あの…幸せって何ですか?愛って何ですか?無知で、すみません」
当主様に頭を下げて、謝罪した。
「そうか…それすらもわからないのか…お前は誰に預ければ、癒やされるのかの…戦う術と護る術は、お前に教えることはもう無い。お前は良くがんばった。文句を1つもこぼさなかったのは、お前が初めてだ。儂の自慢の愛弟子だ」
考え込む当主様…
「どこに預けるかな?」
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次に預けられたのは、女の人の元だった。
「う~ん…幸せと愛を教えろって…」
僕を見つめるお姉さん…
「何?『魅了』が効かないのか…どうするかな?」
ここでも戦う術と護る術を学び、家事全般をこなしていく。どの位、過ごしたかわからなくなる頃、当主様に訊かれた。
「どうだ?幸せを掴み、愛を感じたか?」
首を横にふる当主様…また、違う場所へ…転々とする僕。僕はどうすれば良いのだろうか?
今度の当主様は骸骨のお爺さんだった。
「ここでの鍛錬はキツいぞ!覚悟していろ!」
って、言われたのだが、みんなに声を掛けて貰えるだけで嬉しい。キツいってなんだろうか?
「おい!これを研いでおいてくれ!」
鎌を渡された。僕は言われた通り、鎌の刃を研いでいく。研ぐにつれ、指先が無くなっていく。う~ん、軟弱だからかな?翌日には綺麗に元通りになっているから、問題無いけど…
「おい、コキュートスを掃除しておけ!」
コキュートスと言うのは、一番奥にある、永久凍結エリアである。言われた通りに掃除をしに向かった。身を切るような寒さ…桶に入れた水が凍り付いていく。う~ん、雑巾が洗えない…
「おい、何をしているんだ?」
凍結庫の1つから声が聞こえた。
「掃除をして置けと言われました」
「掃除?無駄なことを…お前、虐めに遭っているのか」
「虐めって?」
「そんなことも知らないのか…おい!ここから出してくれ」
言われた通りに声の主を出して上げた。すると、代わりに僕が凍結庫に引き込まれた。身体が徐々に凍り付き、感覚が無くなっていく。意識も無くなって行き…
---サマエル--
元々天使長だったが、神に逆らい、ドラゴンに身を落とされ、更に堕天化されて、コキュートスに永久禁固刑だ。まったく、ついていない。そんな俺にツキが廻ってきた。
新米の死神か?俺を脱走させてくれるなんて、間抜けなヤツだ。しばらく歩いていると、死神王のハーデスと出会った。
「なぁ、人間の子供をどうした?」
人間の子供?こんな場所にいる訳無いだろ?ここは、冥府…死者の里だし。
「見ていない」
「そうか…どうやって、脱走したんだ?」
「間抜けな死神を騙して、出してもらったよ。コキュートスを掃除?馬鹿なヤツだ。そんな場所、掃除なんかした事無いだろうに」
「和也だ…お前なんてことをしたんだ…アイツは死神では無い。人間の…それも子供だぞ!」
ハーデスは俺に目を向けずに、コキュートスに向かっていく。俺は何かをやらかしてしまったのか?心配になりハーデスの後を追った。
「おい!和也!返事をしろ!おい!」
俺のいた凍結庫を叩いているハーデス。
「くそっ!」
ハーデスは魔法を撃ち込み、凍結庫を破壊し始めた。そして、中からアイツを引き釣りだした。
「和也…しっかりしろ!お前を嵌めたヤツは処分した。だから、戻って来い!」
ハーデスの目の窪みから水滴が浸み出してきた。死神の涙…レアアイテムである。ハーデスの涙は、アイツの身体に落ち、アイツの身体に染みこんでいく。
「和也…ダメか…」
「ハーデス。ソイツは何をして、ここに来たんだ?」
「神からの預かり物だ…ダメだ…」
神からの…あの爺からのか?それはマズいな。やらかしてしまった気がする。
「ソイツがなんでここにいるんだ?」
「後を継がせたいから、仕事を教えてくれと…」
あの爺の跡取りか…そうなると、爺の修行を終えたのか…爺も跡を考える歳になったのか…それとも、それだけコイツを見込んだのか?ピクリとも動かないソイツの魂を覗き見た。美しい…無色透明な魂…心が奪われていく…『魅了』とは違う…なんだ、この能力は…心が洗われていく…そうか、ハーデスもなのか…心が洗われて…
俺の身体に異変が起きた堕天した俺に、白い翼が戻って来た。頭には光輪が浮かび始めているし…そうか…『無 夢幻』か…今までのダメな事を夢か幻にして無かったことにする能力…俺に出来る事をしないと…天使長だった頃の気力や意気込みが甦って来た。
「ハーデス、俺の命を使う。どうせ、永久禁固の刑だったし。コイツと生きるのも悪くないかなってな」
「頼む…和也を助けてやってくれ…」
俺は頭から光輪を外し、ソイツの身体の上に置いた。光輪が身体に溶け込んでいく。それと共に俺の身体は光の粒子で構成されて行き、霧散していった。
---司波和也---
当主様に呼び出された。深雪達に危機が迫っていると伝えられた。
「まだ、戻れない身分だが、お前に無かった物が教えられそうだ。いいか、お前の妹達を護りたい、その気持ち、その心が愛だ。愛しさを感じて来い。愛しさを感じる程に、お前の力は解放されて行くから」
「はい、当主様」
僕は転移させられた。
---司波深雪---
お兄様、お母様、そして私…皆、もう戦える状態では無い。お母様のガーディアンである桜井穂波さんが障壁魔法で私達を護ってくれているけど、オーバーヒート寸前である。このままでは彼女は…
脳裏に浮かぶ兄さんの顔…兄さんともう一度、お話したかった、遊びたかった…でもダメかな?
「兄さぁぁぁぁぁ~ん!」
喉が潰れてもいいと思える位に、叫んだ私。次の瞬間、海の方から強烈な爆風が吹いてきた。何が起きたの?傷つき、疲れ果てていた私。身体が軽い…
「深雪…呼んでくれてありがとう♪」
逢いたかった兄さんの笑顔。
「もう、深雪達を傷つけさせない。深雪、母さんと穂波さんを頼む!」
「はい♪」
「兄ちゃん、撃てるか」
兄さんがお兄様の封印を解いた。
「あぁ、和也…まかせろ。『マテリアルバースト』!」
『メテオフォール』
お兄様と兄さんの魔法で、大亜連合の艦隊が海に沈んでいく。
「これで大丈夫だな…深雪…またな…」
兄さんの身体は光の粒子に分解され、霧散して…消えた。早く帰らないと…
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沖縄から帰ってきて、直ぐに小淵沢の真夜叔母様の家に向かった。そして、兄さんの部屋に走り込んでいく。
「兄さん!ねぇ、兄さん!起きてよ~。このまま、お別れはダメだよ~」
兄さんの身体を揺する。
「深雪さん、何をしているの!」
私が半狂乱状態だったので、叔母様が止めに入った。
「沖縄に、兄さんが助けに来てくれたんです」
「まさか…この子は、ずっとここにいたはず…だって、動けな…」
叔母様が何かを見て、固まっていた。私が叔母様の視線の先を見ると、兄さんの手が少しずつ動き、私の服の裾を掴んでいた。
「兄さん!ねぇ…兄さん!」
兄さんに抱きつく私。
「和也…ねぇ、和也!起きて…目覚めてよ~」
「うっ…はぁ…はぁ…はぁ…」
兄さんの口から荒い呼吸音が聞こえ始めた。生命維持装置を見ると、呼吸数、心拍数、血圧、体温などが平常値に戻っていく。
「葉山!ドクターを呼んで!和也が!」
「え?若様が?わかりました」
葉山さんが、この家に常駐している医師を呼びに行かれた。
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兄さんが帰ってきてくれた。会話が出来るまで回復している。週末になる度、小淵沢の家に兄さんを訪ねるようにした。
「あの能力は何?」
私達を救ってくれた能力について訊いてみた。
「あれは『無 夢幻』だよ。魔法では無く能力だ。夢か幻のように無かったことに出来るんだよ」
そうか、ダメージを無かったことに…いや、攻撃自体を無かったことにしてくれたんだ。そして、お兄様の封印も無かったことに…
「お兄様と同時に放たれたアレも能力ですか?」
「あれは星霊系の魔法で、『メテオフォール』っていう隕石群による爆撃だよ」
「星霊系ですか?和也、あなた、神格文字が読めるのですか?」
驚いた顔をされて叔母様が、兄さんに訊かれた。
「読み書き出来るよ。後、天使文字、精霊文字、悪魔文字なんかも読み書き出来る。問題は人間の言語体系の書き取りが出来無いことかな…ははは」
「え?どこで習ったの…」
うんうん、それは私も知りたい。
「鍛錬先で…」
「聖域の世界?」
聖域の世界?何かな?
「そうです。人間にはそう言われているそうです」
人間には?どういう意味?
「深雪、ありがとう…深雪のおかげで、戻れたよ」
兄さんの笑顔…もう、見られないと思っていた笑顔…兄さんが私の顔を見つめてくれている。嬉しい…とっても…
「私のおかげ?どういう意味ですか?」
「深雪の愛を感じた。深雪の幸せを感じた。愛と幸せ…それを感じることが、帰還する為の条件だったんだよ」
私…兄さんの役に立てたんだ…なんか、嬉しい♪兄さんに抱きつく私。怪訝な顔をする兄さん。
「どうしたの?」
「深雪って胸、こんなに気持ち良かったっけ?」
耳が熱くなっていく。そんな私達のヤリトリを、叔母様が笑って見ている…叔母様って笑顔になるんだ。
「兄さん…私は成長しているんです。もうすぐ高校生だし!」
恥ずかしさを誤魔化す為、怒り気味に言ってしまった。少し、反省…
「高校生って?」
あっ…兄さん、小学校も通っていないんだ…
「叔母様、お願いがあります。高校…兄さんと同じ高校に通いたいのです。ご配慮してくえれませんか?受験まで、私が兄さんに教えますから」
「深雪と通学かぁ…ランドセル背負って元気良くだよな」
「ランドセルは小学校です!」
浦島太郎な兄さん…現実が兄さんの夢を奪っていく。
「え?ランドセル…背負えないの…」
落ち込む兄さん…う~ん、凹まないでよ~
「深雪さん、あなたの希望に沿えるようにするわ。私も和也の制服姿が見たいですしね。あぁ、和也、アナタのランドセルを買ってあるから、家の中で背負いなさいね♪」
叔母様は兄さんを溺愛しているようだ。私もたぶん…叔母様に負けないくらい…