---千葉エリカ---
朝食…いつもより1名多い…。アニキが前もって説明をしておいてくれたお陰で、混乱も無く朝食は終わった。
「明日を0時過ぎって…まぁ、理屈はそうだけど…」
苦笑いしている兄上様。アニキは長男で、兄上様は次男である。和也は申し訳無さそうに、チョコンと部屋の隅に座っている。
「時間を指定しなかったエリカも悪いぞ」
っと、アニキ…えぇ、色々な意味で反省をしております。
「で、君は四葉の者か?」
アニキが直球の質問を投げ込んだ。
「うん?四葉って何?僕は司波和也だよ」
和也は迷うこと無く、素直に打ち返している。
「君は、いつ永い眠りに着いて、いつ目覚めたんだ?」
兄上様が変化球を投げ込んだ。
「眠りに着いたのは、ランドセル背負って学校へ行く前で、目覚めたのは…兄ちゃんが中学生だったかな…」
これも素直に打ち返しているようだ。
「そうなると7年以上は寝ていたようだな。原因は分かるかな?」
「首を絞められたことで、脳が酸欠だったかな?」
この質問は難しかったのか、首を掲げて、考えながら答えた。
「どうする、アニキ?」
兄上様がアニキに訊いた。
「どうにもならない。時効前かもしれないが、現場がわからない。いや。分かっても踏み込めないと思う」
「うん?木刀の音…ここって、道場があるんですか?」
木刀の音?私には聞こえないが…
「ここは千刃流の道場があるんだよ。良く分かったねぇ」
兄上様も怪訝な顔付きである。和也の耳って良く聞こえるのか?
「そうか…お兄さん、手合わせをお願いします」
和也が指名したのは、千刃流の次期師範の兄上様だった。
「かまわないけど…君は剣術を習っていたのか?」
「一通りの戦う術と護る術は習得しております」
と、言い切る和也。いつ、そんな時間があったんだ?お前に…私の感じた疑問は、アニキ、兄上様も持たれたようで、何かを警戒する素振りをしている。
和也は背負ってきたランドセルから、道着と木で出来た模造刀を二降り取りだし…二降り?二刀流か?それも短刀のようだ。道着に着替えだした。
その道着を目にした親父が、驚いたように口を開いた。
「聖域に行ったのか?」
聖域?聞いたことの無い言葉に、親父の顔を見る、私達兄妹3人。
「うん♪聖域での鍛錬は完了しています」
顔から血の気が失せる親父。今の会話は、どういう意味なんだ?
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道場へ場所を変えた。
「修次、本気で行け!」
親父から兄上様へ指示が飛んだ。これは珍しいことである。兄上様の力量を知っている親父は、兄上様に指示などしたことが無かったから。
「何かあるんですね。わかりました」
兄上様は剣を手にして構えた。和也も短刀を両手に1振りずつ手にして構えている。
「あの構え…アサシンだな」
アニキが呟いた。アサシン…殺し屋という認識である。親父の「始め!」の号令と共に、兄上様が素早く斬り掛かっていくが、兄上様の振り下ろした、剣の刃を短刀の峰で受けとめ、刃をレールのようにして、兄上様の懐に入り込んだ和也。
「そこまで!」
親父の号令で、バックステップをして、兄上様から離れ、構えを解き、兄上様に頭を下げた和也。兄上様は、大きな幼稚園児に負けた。腰砕けた状態で尻餅を着き、恐怖を思いっ切り味わったのだろうか、失禁をしている。
「やはり、勝負にはならんか…次、エリカよ、前に!」
親父が私を指名してきた。兄上様が負けた相手だよ。私が勝てる訳が無い。
「和也君、短刀でなくて、手ぬぐいで行けるかな?」
アイツに優しい口調で話し掛ける親父。アイツは頷き、手に手ぬぐいを持ち、構えた。えっ、何?手ぬぐい…って…
「エリカ…聖域の剣術を知る機会は滅多に無い。良い経験をさせてもらえ!」
親父は何を言っているんだ?目の前には私に礼をしている和也がいる。手には手ぬぐいを1本持っているだけだ。
「始め!」
考えても始まらない。速効で叩き切りに行く。私の繰り出す剣技を手ぬぐいで、防ぐ和也。剣と手ぬぐいが出逢う度、手ぬぐいとは思えない衝撃が私の手を襲ってくる。
「何で?何で固いの…」
切れないどころか、曲がりもしない手ぬぐい。そんな邪念を抱いた私に隙が生じ、和也が、鍔付近で手ぬぐいを巻き付け、私から剣を奪い去り、彼の拳が私の腹部へ…
「そこまでだ!」
親父の号令で、インパクト直前に拳を引き、先程と同じようにバックステップで、距離を取り、私に礼をした和也。強い…何、この強さは…
「良い物を見せてもらった。ありがとう、和也君」
親父は和也の傍に行き、頭を優しく撫でている。照れ笑いを浮かべている和也。
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お風呂で汗を流し、昼食を食べると、お昼寝タイムで、寝てしまった和也。アニキが、和也を私のベッドへと運び、寝かし付けてきたようだ。兄上様も、自分の部屋で休まれたようだ。
「親父…聖域って何だ?」
戻って来たアニキが、親父に聞いた。
「人が人のままでは行けない界外、この世界の外のことだ」
界外…そう言えば、和也が以前言っていたような…
「そうか…アイツは植物状態だったから…」
「たぶん、その時だろうな。幽体離脱をして、踏み入れたのだろう」
「どんな世界なんだ?」
「私も行ったことは無い。だが、千刃流の創設者に近い者が、訪れたらしい」
1冊の古い書物を、私達の前に置いた。『界外日記』と表紙には書かれている。
「この書物によると、神々、天使、悪魔など人外達の住まいし世界らしい。彼の道着の左胸に描かれていたマークはこれじゃ」
あるページを開くと、そこには界外の道着のイラストが描かれていた。和也の道着のマークと類似している。
「コレはデザインか?」
アニキが訊いた。
「文字らしい」
「あっ!」
和也の書いていたノートに似た文字があった。鍛錬先で覚えた文字と言っていた、あの文字だ。
「どうした、エリカ?」
「和也の書いている文字に似ているから…」
「そうか、彼は読み書きできるのだな。素晴らし…」
「なぁ、親父、和也は何者になるんだ?」
私が訊いた。素晴らしいとかでは無く、アイツの正体が知りたいから。
「彼は鍛錬を完了したと言った。終了では無くてな。これは、もう習う事が無いと言うことだ。彼は総ての力を得た体現者になる」
総ての力…
「ラスボスか?」
アニキが呟いた。
「違う…悪意有る者は完了出来無い。悪意のある者達は、鍛錬を打ち切られ、終了されてしまうそうだ。決して完了は出来無い仕組みらしい」
「救い人か?」
「それも違う。救う為の力では無い。彼が言っていただろ?戦う術と護る術とな。彼はガーディアンであり、メシアでは無い」
何かを護る為に戦う戦士なのか…
「ガーディアンに課せられる使命は、それぞれ違うらしい。彼は何を課せられたのだろうな」
親父の顔は、どこか楽しそうでもあり、嬉しそうでもあった。何かに気づいたのだろうか?
「親父は何かに気づいたのか?」
アニキも親父の表情から何を感じたようだ。
「あぁ。幼稚園児のまま戻されたんだぞ。幼稚園児の世界は狭い。その狭い世界に有る者は家族なんだと思う」
家族…スーパーブラコンの妹と、無表情に近い兄、母子家庭って言っていたから、後、母親か…
「エリカの元に、日付を越えて直ぐに逢いに来たってことは、そういうことだろ?そうは思わないか、寿和よ」
私に早く会いたくて、アイツは来たのか?私も護る対象なのか?
「なるほど…妹と同じ物をプレゼントしてくれたんだよな。家族同様の扱いになるのか、大きな幼稚園児君的には…」
「寿和、修次と共に、彼を手助けしてやれ。エリカの為にもなる」
「わかった♪」
えっ…ちょっと…私の好みは関係無いのか?
---司波和也---
目が覚めて、おやつを食べた後、大きいお兄さん、寿和さんが、遊びを教えてくれた。ベーゴマとかメンコとか竹馬とかビー玉とか。どれも経験した事の無い新鮮な遊びであった。
「また、来いよ!和也♪」
寿和さん、エリカの父さんに、また来て良いって言われた。とっても嬉しかった。初めての友達の家に遊びに行き、また来ても良いなんて、初めての経験であったから。
楽しい思いを一杯貰い、家に帰宅♪
「この書き置きは何ですか?兄さん!」
帰宅するなり、深雪に詰め寄られた。
『日付が変わったので、エリカの家に遊びに行きます』
と…あっ…神格文字で書き込んでいた。
「伝言メモは、私達の読める文字で書いて下さい。これでは、読めません!」
確かに…凹む僕。やらかしてしまった。
「まぁ、和也には良い経験になったし、深雪、許してやれよ」
兄ちゃんが庇ってくれた。
「でも、お兄様!ねぇ、兄さん!エリカさんに、アレコレ誘惑されていないですよね?」
「誘惑って?」
「え?それはですね…あの…」
しどろもどろになる深雪。抱き締めて、ストレスと不安を無かったことにした。
「兄さん、ズルいですよ!」
う~ん、怒りは消えないようだった。
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翌日、高校生活3日目…登校途中で、エリカと合流♪
「寿和さんにお礼を伝えてください。家に帰ったら、ランドセルからベーゴマとかメンコが一杯出て来ました♪」
こっそり、お土産を詰め込んでくれていた。なので、昨晩、文弥君から手ほどきを受けたり、家でも楽しめたのだ。
「わかった。で、クラブ活動はしないのか?」
「クラブって?」
聞き慣れない言葉を訊き返した。
「課外授業って感じになるのか?」
「授業だと受けないとダメなの?ねぇ、兄ちゃん」
指令塔の兄ちゃんに訊いた。
「帰宅部だよ、和也。普通のクラブでは迷惑をかけてしまうから」
「エリカ、帰宅部だって♪」
「そうなのか…入部するかな?」
苦笑いしているエリカ。
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放課後、真由美さんが迎えに来て、生徒会室に連れて行かれる。何かやらかしたっけ?
「ねぇ、返してください!」
知らない女性に詰め寄られる。
「何を返すんだ?」
兄ちゃんが訊いた。
「私の魔法力です。私から奪ったでしょ?」
「奪っていないよ」
「嘘!嘘は止めて!あなたしかいないのよ!」
「魔法力は奪えない筈だ。無理に保有サイオン量の上限を上げると、身体が耐えきれず、爆発するはずだよ。そうですよね、七草先輩」
兄ちゃんの問い掛けに頷く真由美さん。
「その通りです。まして、一科生では最大量を保持していた北山さんの、サイオン量を奪い取るって、奪った者の生命に危険が及びます」
「いいえ、なんらかの方法で奪ったはず」
「奪っていないよ。だって、元々持っていないでしょ?」
僕の言葉に固まる北山さん…だっけ?
「なんで知っているの?やっぱり、あなたでしょ?私の魔法師としての能力を奪い去ったのは」
「和也は奪っていない。無かったことにしただけだ」
兄ちゃんが説明をしくれた。
「無かったこと?」
「和也は魔法師キラーだ。魔法師を単なる一般人にする能力がある」
まぁ、能力の一部では有るが、兄ちゃんの言葉には嘘は無い。
「何…その能力は…」
真由美の顔から血の気が引いている。どうしたのかな?
「私、一般人にされたの?ねぇ、元に戻しなさいよ!」
また、詰め寄られた。が、深雪が術を行使したようで、彼女の生の時間は終わった。
「何をしたの?」
異変を感じとった真由美さんが訊いてきた。
「兄さんに迷惑を掛ける者の命の灯火を消しました」
笑顔で答えた深雪が、僕に抱きつき甘えてきた。
「ねぇ、達也君、深雪さんの言ったことって何?」
戸惑っているような感じの真由美さん。
「深雪は、精神干渉術で、精神を凍結しただけです」
真由美さんの問い掛けに、淡々と答える兄ちゃん。
「何…」
服部先輩の顔からも血の気が失せていく。
「元に戻らないの?」
「深雪か和也の能力で戻りますが、戻した瞬間、また深雪の逆鱗に触れますよ。いいのですか?次は一段ギアが上がる可能性があり、危険だと思います。まぁ、和也の能力でどうにか復元は出来るとは思いますけどね」
相変わらず、淡々と答える兄ちゃん。
「戻してください」
「彼女への対処も無く、戻すのは無駄だと言っているのです。和也の負担を考えてください」
「そうよね…対処…そうね、和也君に謝罪をしない場合は退学処分、謝罪した場合でも二科生へのクラス替えでどうかしら?」
「やってみる価値は有るのかな?和也、戻してあげて」
兄ちゃんに言われたので、術は無かったことにした。北山さんが、僕に再度詰め寄ろうとした瞬間、真由美さんが割った入った。
「状況はわかりました。北山さんには生徒会として2択を提示します。和也君に謝罪をして、元に戻してもらった後、二科生にクラス替えするか、退学をするかです。どちらを選択しますか」
「そ、そ、そんな、理不尽な選択は出来ません。彼が謝罪して元に戻した上で、退学が妥当だと思います」
「七草先輩、責任はそちらでお願いします。堂々巡りには付き合えませんので、これで失礼します」
兄ちゃんの言葉の後、僕達が生徒会室を後にしようとすると、
「待ちなさいよ!」
北山さんの手にはスマホ…どこかに連絡をした。どこに?
ドアから大柄な強面の男性がたくさん入って来た。
「お前らか?お嬢様に危害を加えた二科生って言うのは!」
何かの術を発動しようとしたので、産まれていないことにした。男性達は僕達の目の前から消え去った。兄ちゃんと深雪が居るんだもの、消すのが一番効果的である。僕一人なら、戦うけどね♪
「え?何をしたの?」
真由美さんに訊かれた。
「和也を怒らせたようですね。責任は彼女にあります。いつ、俺達が彼女に危害を加えましたか?七草先輩は証人です。どちらに着くかは、先輩におまかせします」
今度こそ帰宅をする為に、ドアを出た僕達。