天魔聖獣シーオルバ。そう呼ばれる生物が天界には一時的に存在していた事がある。
調和神バランシールを洗脳し、裏から確実に遍く世界を牛耳ろうと画策した邪神帝シンラ・メルタ・トロスが生み出した聖獣である。
外観は海洋生物の
主として認識した対象に絶対服従であり、言語機能は有していないもののある程度の知能はあるので、生誕理由からして考えれば不思議ではない。
だが、この生物の恐ろしい部分は洗脳支配である。二本の触手の先端を、身体を傷付ける事無く耳穴から脳へと挿入させて、特殊な洗脳波を放ち主に対しての服従精神を植え付けるのだ。また繁殖能力もあり、口腕の先にある無数の小さな穴からは精子に似た液体を放ち、母体対象へと卵を植え付ける。
洗脳と繁殖。それこそが、シンラ・メルタ・トロスが私兵を増やす為に生み出した天魔聖獣シーオルバに求めた役割である。
だが、その目論見は魔導神メビウスを始めとした多くの英雄達の手によって阻まれて頓挫する事になる。主人である邪神帝が滅んだ後もシーオルバを始めとした天魔聖獣は天界を跋扈していたが、悉くが駆逐されていった。
全てが駆逐されて滅んだとされた。
だが、実際には僅かばかりの天魔聖獣が次元の壁を越えてまで生き延びたのだ。そこには主人に対する忠誠や自らの存在理由に因るものではなく、生物として当たり前の『死にたくない』という本能からの逃避行。
やがて空間や時間を超越して幾つかの世界に分かれたシーオルバは、その地で独自の繁殖と進化を遂げて行った。
より強い繁殖能力の為に、排卵を促す洗脳効果を加え、より母体の状態を整える為に催淫作用のある物質を生み出して抵抗する精神を綻ばせていった。
時間を越えて。
それは遥か未来の他にも、遠い過去も含まれている。
即ち、魂獣界が隣立って存在する外海が拡がる地上もまた、外敵が少なくシーオルバにとって繁殖し易い環境でもあった。
天魔聖獣シーオルバ。
奴等は今、地上に於いて決して多くはないが、その存在理由を邪神帝が求めた願いから外れ、当たり前のように外海獣として外海に棲息をしていた。
◇
学園都市耶馬都近郊にある調査済みとなって久しい古代遺跡の地下に、彼等は居た。
明らかに人の手が加えられて機械化したその部屋は、隣の部屋と硝子で隔たれている。
部屋の中央にはXの形をした台が大きく鎮座しており、気を失っているにも関わらず、
衣服に乱れた様子はなく、破けた場所も肌蹴ている場所もない。強いて言うならば、靴と靴下を脱がされている事、そして胸元の葉が取り除かれている程度だ。
未だ意識が戻っていない彼女のそんな様子を、硝子越しに観察をしているのはカナトである。彼の前には、何らかの機械の画面に顔を向けているケンがいた。
「どうだい、部屋の様子は」
「問題ありません。彼女の能力である毒霧の効果は、これで完全に無効となっています。魔力の量も十二分に。例え全力で魔力消費が起きたとしても、二週間は
液晶画面に表示されているのは、明らかに意識を失っている香具耶の脳波や身体状況だ。しかし、何ら機械的な物を取り付けられていない彼女のデータをどうやって量っているのかまでは謎である。
「なら、そろそろ目が覚めるかな。いや、愉しみだね」
平坦な声で楽しむ、そう口にした所でカナトの空々しさは拭えない。だが、モニタリングしているケンも無感情に同意を返すだけなので、この遣り取りすらも意味があるのか。
「さて、君の方の準備は……ああ、大丈夫か。うん。安心して良いよ。利害は一致している。君は繁栄の為。その為に僕を利用する。僕は復讐の為に君の力を利用する。充分過ぎるほどに、共犯を成立させる理由になるさ」
振り返った先。宙に佇む『それ』へと向けて、カナトは含みのある笑みを向けた。
会話をするほどの知能や知性は持っていない。有しているの生命としての本能欲求。
シーオルバ。そう個体名として称される
「正直な所を申しますと」
「ん?」
「私は、まだナイアの完全催眠で副会長と花媛香具耶を支配した方が効率的だと思われます」
「効率性よりも確実性さ、ケンケン。確かに完全催眠なら早い。けれど破られてしまえばそれまでだ。ナイアの能力は高いが、物事に絶対はない。それなら……壊して、屈服させて、変貌するほどに根底から支配すれば良い」
液晶画面に視線を向けているケンにはわからなかったが、今カナトが浮かべている笑顔は、狂気を孕んでいる空恐ろしいものだ。
己の目的を達する為なら、自分を慕う者すらも
「それじゃ、僕は中に入るね。モニタリング宜しく。シーオルバ。君は迷彩化しつつ僕に着いて来てくれ。合図をすれば、それを解いて欲しい」
扉を開けて、香具耶が拘束されている部屋へと入って行くカナトとシーオルバを見送ったケンは、我知らずと張り詰めていた空気が弛緩した事で大きく息を吐き出した。
(……大丈夫だとは思うが、シーオルバの目的は繁栄だ。主と認識させて忠実となっているが、所詮は外海獣。いつカナト様に刃向うかわからない。……ナイアに思考誘導性の催眠を掛けておくように言っておくか)
ケンは従者として、カナトに危険が及ぶ可能性があるのならば、少しでもその要因を排除する。彼の懸念がなければ、或いはまた違う結果が生まれていた事は後に判明する。
優れた主と優れた従者。その両名が油断と傲慢を捨てて慎重に行動をした時、堅如磐石な企みは難攻不落と化す。
◇
カナトが歩を進める僅かな音が冷たい石床に響いた。適度な温度と湿度に保たれた室内は拷問部屋と呼ぶには、それらしい装飾がない、実に簡素な作りだ。機械化された管制室の役割を為している隣部屋とは大きい違いであり、中央で磔にされている香具耶が部屋の主役であるかのようでもある。
「ぅ……ぁ、れ……? わた、し……?」
足音で意識が覚醒した、という訳ではないのだろう。
だが掠れた声を漏らして、俯いていた愛らしい小顔をゆっくりと起こして、自分に近付いて来る存在を認めた時、香具耶の意識は完全に正常に戻った。
「気が付いたかい、香具耶?」
「! かな、と……!」
悠然と歩み寄り、四肢を動かす事が出来れば触れられるほど近付いたカナトに、香具耶はその愛らしい顔を歪め、親の仇の如く鋭く睨み付けた。
「ん、怖い目だ。だけど正しく状況を理解出来ているみたいだね」
「こんな拘束で大丈夫なの? すぐに抜けるよ、私」
手首、手足、そして胴。確かに拘束こそされているが、鎖ではなく紐だ。それも硬い材質ではない。
カナトらしからぬ甘い処理に香具耶は鼻で笑い挑発をしたが、その問答すら想定していたのか、肩を諌めるに留めたカナトは、周囲の壁を見渡しながら香具耶に彼女が置かれている状況を教えた。
「残念ながら、此処は特殊な魔力に満ちている。君が抑制状態に戻る事はないが、君の能力は何一つ使えないよ。植物操作も、毒霧による様々な行為もね」
「……チッ」
体内で循環する豊潤な魔力。それを体外へ放出する事も、魔法や能力の発露へと映そうとするとまるでホースの途中に穴が開いたかのように霧散して行く事がわかった。
忌々しさと、カナトの醸し出している余裕の態度の正体を察して、香具耶は彼女らしからぬ荒い舌打ちをしてしまう。
「嫌われたものだね。君がそんな舌打ちをするくらいなのだから」
「こんな事をして、嫌われないと思えるなら余程おめでたい頭をしているよ」
毒舌に躊躇いなどなかった。
何が気に入らないのか。
明白である。鳳凰院神那人が、冴樹志津華を裏切った。その事実があれば、香具耶が此処まで嫌悪と蔑如を露わにする事に対して躊躇いなど持つ筈がないのだ。
そんな刺々しいという言葉が生易しく感じるあからさまな態度を受けても、カナトは気分を害した様子もなく微笑ましげに笑っている。
「確かに。……さて、時間も限られているから早速。香具耶には僕達に協力して貰えるようになって貰おうかな」
「脅し? それともナイアの催眠? どっちにしても、解けたら真っ先に私はアナタ達に攻撃するけど、それでも良いならどうぞご自由に」
自分の意思を捻じ曲げる事が出来るのなら、完全催眠能力。同じように捕まっているであろうシヅカを利用するなら脅し。だがそれはいつか状況が変化すれば容易に覆す事が出来るもの。従順な素振りすら見せる心算はない香具耶は、鼻で笑った。
「いいや、違うよ。……香具耶、君には本心から僕達に従って貰う。そうなるように、なって貰う」
カナトの不可解とも取れる言動に、訝しげに眼を眇めた香具耶の視界に、異形が映る。
空間そのものが蜃気楼のように揺れ動き、カナトの背後からそれは現出した。
酸漿のような薄らと透けている身体。畝る数十本の口腕。先端が鋭利な鉤爪のようになっている二本の触手。
「
香具耶の疑念を込めて放たれた例えは、その生物を表わすのに最も適しているだろう。
だが周辺を多くの樹林が覆う外海に囲まれた耶馬都に住み、そこから出た事がない者は海洋生物である
魂獣界出身であったからこそ、大海を知っているからこそ出て来る言葉だ。或いは、外海の知識を有している冒険者くらいだ。
突如として出現した異物は空中を浮遊しながら、まるで香具耶を品定めするかのように体内に在る眼球のような物体を忙しなく動かして観察している。
その不気味さと、観察されているという感覚に不快感を隠さずに顔を顰める香具耶に、カナトは背を向けて歩き出しながら口を開いた。
「余り知られてはいないんだけどね、古生物に分類される外海獣さ。シーオルバ。そう呼ばれている」
「……それを、どうするつもり」
「安心すると良い、香具耶。痛みなんて……これっぽっちもないからね」
重厚な扉を開いて部屋から出ようとするカナトは、去り際に一度だけ振り返って嗤った。その慰めの言葉は、明らかに皮肉であり、香具耶が眉根を寄せるのは充分な口振り。
横にスライドして閉じて行く機械的な扉から視線をずらして、香具耶は浮遊しているシーオルバを見遣った。
観察をされている事に対する不快感。同時に、内側で乱回転している眼球のような球体の不気味さが、香具耶に怖気を与えていた。
「なにを、するつも―」
その言葉は遮られた。
カナトの背中から突如として現れた時と同じように、陽炎の如く霞んで姿を消したシーオルバに戸惑う間も無く、香具耶は視界を、頭部を全てシーオルバに覆われた。
「んぶっ!?」
唐突に襲われ、全く予見する事が出来なかった事態に直面し、一瞬だけ香具耶は混乱してしまう。水気を含んだ体毛が蠕動し、頭を濡らして行く。
二輪の白薔薇に合わせて膨脹しているシーオルバの身体は伸縮性に富んでいるのか、全く苦しそうではなかった。尤も、頭を飲み込まれている香具耶は、少し落ち着いたとはいえ、この異常事態を前に冷静に対処する事も出来ない。身体の自由もなく、暴れる事も出来ない彼女に、隣部屋にいるカナトの声がスピーカーから響いた。
「シーオルバは希少でね。その性能に関してもだけれど増やしておいて損はない。君を堕とすのに適役でもあるから、並行して是非とも、香具耶には彼の望む優秀な母体として活躍して欲しい」
その酷薄な言葉は、シーオルバに覆い被さられた香具耶に耳に的確に届いた。
息苦しさに喘ぎながらも、カナトの言葉を認識した瞬間に紅潮していた顔は青褪める。
「んぐっ、ぶっ、母体って、ふざけな、ごぼっ」
「喋れるんだね、その状態で。だけど気を付けた方が良い。喉に絡まるよ、粘液が」
シーオルバの中は空洞のようで、実際は生温かい粘液が内肌に発生しており、細かい体毛はその粘液で濡れている。その不快感たるや、全身が総毛立つほどだ。密着ではないが、ゆっくりとストロークするかのように身体を上下に動かす中で、垂れ出た粘液は、口を開いた香具耶の口内に流れ込んで、喉に絡み付く。
えずいて涙目になる香具耶の反応を嘲笑うかのように、シーオルバは数十本の口腕を肩や胸元に体液を擦り付けながら絡み付いて支えにして、上下運動を激しくする。
(くるっ、しっ! どんどん粘液が喉に、んぐっ)
ジュルゥッ、と分泌される粘液が喉の中で絡み付く。それでも詰まらないのは、懸命にそれを飲み込もうとしている香具耶の生存本能だけが原因ではない。
粘液が絡みついているのは、実際にはあくまで一瞬だけなのだ。次々と流れ込んで来ているから、息苦しさが連続しているだけであり、喉に絡み付いた次の瞬間に粘液は体内に吸収される。
そう。胃に辿り着く前に、食道に留まった一瞬の内に粘液は香具耶の身体全身に吸収されて深く入り込むのだ。
「説明をしてあげよう。媚薬だと勘違いされても面白くないからね。先も言った通り、シーオルバは個体数が少ない希少種だ。だから彼等は本能的に母体を求めている。種の長命を捗らせる優秀な母体を。加えて、彼等は母体の種族を問わない。生物として一定の大きさの子宮さえあれば、なんでも胎盤として捉える。卵生でもあるしね。ただ受精は必須。それを補う為の、その粘液なのさ」
衣服に染み込んで行く粘液の不快感。絡み付いて来る粘々とした悍ましい感触。
だが頭全体を完全に覆い尽くして大量の粘液を分泌し、香具耶の頭や髪を粘液まみれにして、ゆっくりと離れて行く。
「げほっ、げほっ!」
喉に残る違和感。絡み付いていた粘液は全てその矮躯に吸収されても不快感は消えない。激しく咳き込む香具耶の瞳に、忌々しささえ彼女に与える爽やかな笑顔がガラス越しにあった。
「おや、解析が終わったみたいだ。じゃあこれからが本番だろう。此処からはスピーカー越しでも君には届かなくなるだろうから、まあ、ちょっと特殊な手段で話そうか」
「なに、はぁ、言って、はぁ、え、ちょっとま、あぎぃっ!?」
言葉を遮られるように、背中から伸びて来たシーオルバの二本の触手が、香具耶の耳穴の中に挿入される。
反射的に悲鳴を上げて磔にされた身体を跳ね上がらせる香具耶。
鼓膜を突き破り、一気に脳髄へと侵入を果たした触手が齎す激痛に更なる悲鳴を上げようとして、口を開いて固まった。
「あ……え……?」
痛みがない。それどころか、挿入をされた耳に異物が入ったという感触すら消えていた。戸惑い、一瞬だけ呆然としてしまう香具耶は心身ともに隙だらけだ。
この異様な状況下で、想定していた事が拍子抜けしてしまうほどに起きなかったのだから、彼女の当惑は仕方がない。隙が生まれてしまうのも仕方がない。
しかし、その油断し切った身体と心に、鋭い爪が掻き立てられた。
「いっ!? あっ!? あぎっ、ああっ!?」
頭の中に走ったそれは、痛みではなかった。脳の凡ゆる神経に一瞬で伝播し、そのまま足の爪先まで。全身を余さず襲い掛かったのは、電撃のように強烈な快感だった。
香具耶の意思に関わらず、その衝撃で矮躯に似合わず成熟している括れた腰が跳ねる。
口から迸る甲高い悲鳴に合わせて縛り上げられた手足首の縄が軋みを上げ、台座が大きく揺れる。快感は強制的に香具耶の瑞々しい唇の締まりを緩ませて、ねっとりとした涎を口角から滴らせ、一筋の糸となって地面へと垂らした。
(今の、頭の中で何か引っ掻かれた感じが。でもなんで痛みじゃなくて、快感がっ!?)
鋭い快感の衝撃からまだ回復し切っていない中で、香具耶は愕然と勝手に打ち震えている己の肢体へと視線を落とす。
四肢に力は入らず、肌を打つように小刻みな震えが止まらない。それが恐怖ではなく、先の快感の所為である事は、香具耶に取って認め難い事実であった。
「触手による脳への侵入。尤も、耳に入った瞬間にそれは実質的に半霊的な物に変わる。鼓膜も破れない。耳も、脳も、血管も、細胞も、血肉も傷付けない。けれども、その触手は脳を犯す。意識を侵食し、脳から身体に流れる信号を自在に操る」
ぞわぞわ、と頭の中で蚯蚓が這いずり回るような感触が生まれ、全身が総毛立つ。
それは本来ならば不快感と嫌悪感しか生まれない感触の筈なのに、香具耶は頭から流れて来るその感触を、心地良いと身体が受け止めてしまっている事に戸惑う。
(これが、カナトの言ってる、ことなの? あぎぃっ!? あっ!? ああああっ!? なにこれっ!? 頭! あたまぁぁぁぁっ!? びりびりがっ、ああっ!)
「ひっ! おっ、んんぃぃぃぁぁっ!」
あられもない下品な声が勝手に漏れ出るのを、香具耶は抑える事が出来ない。頭の中で触手が動く度に身体はまるで陸に揚げられた魚のように、磔にされた状態で跳ね上がる。
「強制的に流し込まれる快感は精神的な余裕を奪うのに最適だ。ほら、下世話な話にあるだろう。拷問に適しているのは痛みよりも快感だって。あれは本当にそうさ。痛みは耐えれるし慣れる。けど快感は慣れない、耐えれない。何故ならそれは、肉体が不快だと感じられないからさ。そうして精神的な隙間が大きければ大きいほど、シーオルバの洗脳は容易くなる」
流れ込む。流し込まれる。その圧倒的な情報量の快感は、長い人生を歩んで来た香具耶が一度たりとも経験した事のない悦楽の波濤だ。下半身には猛烈な熱が生じ、秘部を覆い隠す薄布が湿り気を帯び始めている事を感じ取った。ブラジャーの柔らかい生地に包まれた小粒のような乳首も、少しずつ硬くなり、起き上がり始めている。
「せんのっ、おっ、でぇっ、ごん、なぁっ!」
まともに喋る事すらも出来ない。口を開いて言葉を放とうとすれば、代わりに出て来るのは喘ぎだ。
決して屈しないと抵抗を続ける精神と異なり、強烈な快感に香具耶の身体は悦ぶ。
「洗脳や催眠にも色々種類がある。シーオルバは侵食による上書き。頭の中を弄られて感じてしまっているのなら、香具耶の神経系の殆どはシーオルバが掌握した事になる」
「ごのっ、げど、うひぃぁっ!?」
憎々しげにガラス越しのカナトを睨み付ける香具耶の表情が驚きに染まる。
頭の中に響いている粘着く水音は、否応なく意識を通常のものから、卑猥な事を連想させるものへと促す音。理性を揺さぶる魔性の音に集中していた香具耶に、シーオルバの口腕が伸びて服の上から肢体を這う。
「んぃっ、おっ、んふぃっ、いっ! おほぉっ♥」
太股に絡み付く口腕の凹凸が肌を這う。粘着くぬめり気は幾筋もの糸を引かせながら香具耶の白い汚れが一つもない美しい肌を濡らし、揉んでいく。
その絡み付くなんて事はない動きは、今の香具耶にとって恥部を這われるのと同じ快感を齎すのも同然であり、遂に喘ぎに隠しようもない淫らな甘さが混じった。
「なにっ、ごれぇっ!? ながっ、にゃがれでぇっ、ぐるぅっ! んひぃぃっ! ひっ、ひっ、ひっ♥ あひゃ、あひゃまぁぁぁぁ……!?」
グチュグチュグチュグチュッ! と水を掻き混ぜるような激しい音が香具耶の頭の中に反響する。脳を這う触手は実体のない鉤爪で脳髄を掻き毟りながら、香具耶の身体を変えていく。鉤爪の先から流れ出す魔力が神経を犯し、香具耶の思考を緩ませ、意識を少しずつ塗り変えていく。
快楽に対する抵抗を薄れさせ、思考能力を低下させる。意識を半濁させ、身体は内側からゆっくりと生温かい熱を滲ませて力を奪う。
頭を仰け反らせながら舌を垂らして暴れそうになる身体を縫い止めるように、四肢に絡み付く口腕が蠕動する。
「んぁぁっ、あいぃっ! やだっ、ごんなっ、こんなのできもちよくなっ、ぎもぢよぐな、いっ、ひっ♥ いっ♥ いあっ! ああっ! ああああああああっ♥」
太股や二の腕の素肌に絡み付いた口腕は凹凸がツボを刺激するように蠢き、服の上から胸元や下腹部に巻き付いている口腕は分泌する粘液を増やしてバイブレーションをするように震えた。
香具耶の口から迸る嬌声は、もはや言い逃れが出来ない性感を帯びた女の声。
乳房を上と下から挟むように巻き付き、丁度子宮がある位置にも巻き付いている触手が齎す震えは、香具耶にとって自慰の際に淫核を指の腹で扱いて齎される快感と同じレベルだ。涙を滲ませながら子宮から全身に火傷するような熱い快感に飲まれ、腰がガクガクと跳ね震える。
達した。達してしまった、と香具耶自分が絶頂に到った事を自ら認めてしまう。
(うあっ、あ、うそぉ、こんら、頭の中、クチュクチュされて、イかされたぁ……♥)
忌避するべき事態だというのに、緩んでいる口元は歪な笑みの形を作っている。
左右に開かれた太股へと透明な粘汁が伝う。それは一筋ではない。ワンピースに秘されているパンツの隙間から染み出すように、股間から生まれる淫靡な愛液。
それは達した直後である今も止まる気配がなく、熱く疼いている秘所をしとどに濡らしており、香具耶の愛らしい小柄な身体が悍ましいシーオルバの触手から与えられる快感を抵抗せずに享受している事に他ならない。
「ひが、うぅ……ぎもぢいいの、ちが、あひぁぁっ!? ふぉっ♥ ふおっ♥ んぉっ!?」
身体は屈せずとも心はまだ折れない。例え淫熱で火照り、漏れ出す甲高い嬌声には甘美な快楽に酔い痴れている艶やかさが含まれていても、だ。
「自分の精神の限度を超えて与えられる快感だ。それは自慰やセックスですら届かない埒外の快楽。シーオルバからすれば香具耶、君がイった所でその手を止める理由にはならない。学習する彼等は、絶頂した瞬間のどうしようもないほどの隙間を好機と捉える。だから、何度でもその状態にさせようとする」
無感情に響くカナトの言葉は、ビクンビクンと身体を快感に打ち震わせる香具耶に届いてはいない。這い回る口腕の動きは深く、重く、そして淫猥に変わっていく。
「ああっ、だめ、まだあたまにいぃっ!? ひぎっ、いっ♥ クチュクチュしへぇっ、ひおっ♥ んぉっ♥ ふぉっ、おひっ♥ やめっ、ひぇっ♥」
一息吸うだけでも、その間に頭から流れ込む快感に喘ぎは止まらない。
服の上からでもわかってしまうぐらいに勃起した乳首の膨らみは内側からブラジャーやワンピースを押し上げ、僅かな揺れで擦れて悦楽を齎す。性感帯が生み出す快感は、他の場所を愛撫されるのとは文字通り桁が違う。
ピリピリと電気が常に乳房に流れているように疼きは全く止まらず、今すぐにでも激しく擦り、揉みしだきたくなる衝動を香具耶に与えている。
「あ、ひっ、えっ、あっ、なに、ごれっ! まりょ、くぅっ、ほどけ、ひゃああっ!」
まるで自分の身体ではないかのように、内側から放たれる信号に従って香具耶の身体は、纏っている
困惑は一瞬だけ。呆けた香具耶の表情が、否応なく卑猥に歪んだ。
纏わり付いていた口腕が、蠢き始めたのだ。今までは決して触れる事のなかった乳房や股間へと。
「あひっ♥ ふぉっ、ひゃらっ、やらああっ!」
嫌悪は叫ぶだけ。快楽に悦ぶ身体を蹂躙する数十本の口腕が全身を這って、秘部から漏れ出している愛液を混ぜ込みながら意図を以って愛撫を始める。
(ふひぁっ♥ やら、動き変わってるぅっ! 頭掻き回されるだけでもキツイのにぃっ、ちょくせつは、もっとぉっ、だ、めぇっ♥)
口腕の裏面は凹凸だらけ。滑らかな素肌を這うだけでも強烈な快感の刺激を与えて来るのだ。それは、硬く膨らんでいる乳首や淫核を這えばどれだけの快感になるのか。
下着の上からでもわかるほどの勃起をしている香具耶の恥部。籠もった熱気は蒸し暑さとなり、只でさえ余裕のない香具耶の意識を濛々と奪う。
下腹部に巻き付き、秘裂に食い込むパンツを凹凸でなぞりながら染み出す愛液を絡ませた先端が、搾り出すようにブラジャー越しの乳房に絡み付いている口腕の邪魔をしないように動きつつ、ボッチのように膨らんでいる乳首へと吸い付く。
クパァ、と開かれた凹凸の隙間に無数の繊毛が蠢動し、ブラジャーの上から乳首へと吸い付いた瞬間、香具耶の視界は一瞬の白濁に埋め尽くされた。
「~~~~~~ッ♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥」
声にならない甘美の悲鳴を上げて頭を仰け反らせる香具耶は再びの絶頂を迎えた。
だが注ぎ込まれた快感の膨大な量は今までの比ではなく、まるでパンツなどないかのように失禁の如く噴き出した淫潮が撒き散って石床を濡らす。
「はひ……あぇ……♥」
殆ど換気がされていない室内に、いやらしい匂いが充満し、更なる熱となって蒸す。
天井を見上げながら荒い息を吐いて虚ろな双眸が、香具耶の精神状態を表わすように揺れている。
(乳首で、イかひゃれたぁ……♥ これだめ、だめだよぉ、イったのにぃっ! 足りないって思ってる! もっとスゴイのがっ、欲しいって思っちゃうぅっ♥ んぁぁぁぁ、おまんこぉ、奥がむずむずするぅ♥)
無意識に股を擦り合わせようともじもじと動こうとする香具耶の下半身だったが、拘束されている以上それは叶わず、下腹に溜まる熱い疼きは高まるばかり。
「随分と気持ち良さそうだね、香具耶。此処からでも愛液でパンツが濡れ過ぎて、透けてしまっておまんこの形まではっきりとわかってしまうけど、良いのかい?」
カナトの挑発的な言葉に、身体がビクンと震える。
その嘲弄さえも、香具耶の心は快感へと変換させようとしているのだ。それを彼女自身が認識しているかは兎も角として。
「ふじゃけっ、いひぃっ♥ ひおっ♥ んぉっ♥ ふぉっ、おひっ♥ やめっ、あひゃまぁ、のーみそクチュクチュ、だみぇっ♥」
(もお、しゃべるのも、きつっ、ひっ♥ やだぁぁっ、ごん、な、クチュクチュ掻き回されてるぅっ、んひぉっ♥ ごんなのがぁっ、気持ち良いなんてぇ、絶対、おがひぃっ♥)
ボタボタと垂れ落ちていく愛液の粘度が二度目の絶頂後から圧倒的に高まっており、透明から少しずつ白く濁り、粘々とした糸が幾筋も床と
口腕に掬われた白濁愛液が、香具耶の肌に塗りたくられるように絡み付いて来る。
胸、子宮、淫核という性感帯部分と、脳から伝えられる異常信号はほぼ全身をそれらと同程度の感度まで高め、ただ肌を這うだけで絶頂感の波が押し寄せる。
「ああっ♥ ああああぁぁっ~~~♥ んぉっ♥ おおおおっ~~~♥♥」
「ああ、またイクみたいだね。ふむ、それじゃイった瞬間に次の段階に進もうかな」
余裕が消えた獣のような喘ぎを迸らせて香具耶は全身を震わせる。焦点の定まらない瞳が虚空を彷徨い、滴り落ちる愛液の量が一気に増した。
(ああああっ♥ んおおおおっ♥ イグイグイグイグうううぅぅっ♥♥♥♥ ぎもぢいいいっ、のーみそぉっ♥ おまんこにっ、子宮にぃっ、ちぐびぃぃっ♥ ちがうぅっ、全部っ! ぜんぶぜんぶぜんぶうううぅ!)
グチュグチュグチュと響き渡るのは頭を掻き回される音なのか、全身を粘液を帯びた口腕が這う音なのか、秘所を滑る口腕の凹凸が奏でる淫音なのか、香具耶には判別する事すら出来ない。
熱が溜まる。薄布に覆われた陰唇を突き出る淫核に溜まり、乳首の先端に集中し、子宮を中心に下腹部で渦巻く。
「おっ♥ おっ♥ おっ♥ おおおおっ♥ むりむりむりいいぃぃっ! イグッ♥ イグのぉっ♥ あひゃまからぜんぶとけりゅうぁぁぁっ! ああああああっ♥♥♥♥」
ガクガクと瑞々しい太股が震え、全身が跳ね打ち、長い翡翠色の髪が大きく揺れる。
三度目の絶頂を迎えた瞬間、香具耶の意識は一瞬だけその凄烈過ぎる快感の衝撃に圧倒されて途絶えてしまう。
三度に亘る絶頂によって大幅に失われた体力とすり減った精神で朦朧とし、弛緩した香具耶の頭の中に挿入されている触手が、最後の仕上げとばかりに暴れ出した。
「あっ!? あああああっ!? んいいいいいいいいっ!?」
目を見開いて涎を撒き散らし、数瞬前の絶頂感と同等の快感が一切衰える事無く全身を蹂躙する衝撃が走る。暴れ回ろうとする香具耶を口腕で押さえ付け、シーオルバは先端の鉤爪から『カナト』の豊潤な魔力を流し込む。
(グチュグチュきたぁぁぁぁああっ!? ごれっ、ごれええっ♥♥ 焼ける燃える溶ける蕩けるぅぅぅっ! 塗り潰されちゃゔゔゔぅっ♥ わだひがぁっ、かなとのになるうっ!?)
シヅカと交わされた因使と魂獣の契約。それは不変であり、契約条件が満たされている限り途絶える事はない。そしてその条件が整わない事は、二人の間ではあり得ない。
だがその契約の上から、カナトの魔力がシーオルバを伝って上書きされる。認識が覆される。シヅカとの契約は保たれまま、新たな誓約が香具耶の魂に刻まれる。
その変化を示すように、群青の美しい胸元の魂石の内側が渦巻き変色していく。全身を絶え間なく襲う絶頂感が齎す淫靡な欲望に呼応して、薔薇色に染まっていく。
子宮がある位置の下腹部に薄らと浮かび上がってくる同色の紋様は荊と蕾を意匠としたハートの形をしており、どことなくそれは子宮の形にも似ていた。
「さて、淫紋も浮かび上がった事だし……このまま十分間はその快感に溺れていると良い。そうすれば香具耶、君とっては幸せな事になっているだろう」
酷薄に告げられたカナトの言葉は、もはや理性など欠片も残らず快楽に圧迫されて絶頂地獄の只中に在る香具耶には届かない。
脳内を触手に犯され、全身を口腕に這われながら、磔にされた香具耶はアクメ狂う。
大量の愛液や淫潮を撒き散らす床を水浸しにしながら、快楽に溺れて酔い痴れる。
「えへぁぁぁぁっ♥ おおおっ♥♥ んほぉぉぉっ♥♥ あえっ、えひっ……はひっ…ひぉぉぉ……♥♥」
清楚な花の精霊の姿はどこにもない。
淫らに踊り、異形の