看護士の仕事に、がむしゃらに没頭して気づけば中隔と呼ばれる年齢で結婚適齢期も、とう過ぎていた。だが大学付属の系列病院のオペ看として誇りを持ち働いていた。そんな時、大学病院から、とても優秀で見た目も良い医者が移動して来たらしいと看護士達の噂で持ちきりだった。しかし、沙樰は全く興味もなく朝のミーティングが終わると今日、介助に入るオペの器具を準備していた。すると、沙樰よりもずっと若い看護士がやって来て
「若桜さん、今、外科から連絡が来て午後の胃癌の手術執刀、藍染先生でしたが、急遽変更で市丸先生になったそうですよ」
はい、了解しました
執刀医変更の伝言だけを伝え自分の仕事に戻るのかと思っていたが、若い看護士は沙樰に、すり寄り
「若桜さん、市丸先生って、とてもカッコいいらしいですよっ」
あぁ・・・そう言えば、そんな話が聞こえてたわ。
「反応薄いなぁ・・・興味ないんですか?」
だって、どうでもいい話だし・・・実際、関係ないじゃない?私には
沙樰は、オペで使用する器具を準備し終え手術オーダー表に済みを記入すると器具室を後にした。午後、手術の予定時間となりクランケが、手術室に運ばれて来た。クランケに麻酔処置が終わり暫くすると、糸目の長身な術着を着た男が入って来た。糸目の長身な術着を着た男は、執刀の定位置の立つと
「ほな、始めよか」
宜しくお願いします
市丸のオペには、無駄な動きが無く器具を出すのが正直、楽だと沙樰は思った。そして、オペが終わり手術室の後処理を終えナースステーションに戻ると人盛りが出来ていたが、興味もないので沙樰は、モニターのオペ予定を確認していた。すると、背後に人影を感じて振り返ると、糸目の長身の男が立っていた
「なぁ、キミの器具出し凄くやりやすかったわ」
・・・ありがとうございます市丸先生
市丸は、沙樰のネームを取り
「…若桜 沙樰ちゃんやな。これから、よろしゅう」
・・・よろしくお願いします
その時は、社交辞令程度の挨拶を交わし私は再びオペ予定の確認に戻った。それから暫く過ぎて私が、小児科医局に用事があり向かう途中、回診を終え研修医の吉良を連れている市丸が、コチラに向かい歩いて来た。偉才を放つ市丸の手術の腕は、評判になり患者が増えたと専らの噂だった。患者には、喜ばしい事だが私には傍迷惑な人物でしかなくなっていた
「あっ沙樰やないのっ」
市丸は、沙樰に気づき近づいて来た。沙樰は名前で、呼ばれる事に抵抗を感じ一度、市丸に抗議をしたが一瞥され
“親しみが湧いてえぇやないの”
そう言う問題じゃねぇーよ!!とも言えず、未だ名前呼びをされている。
・・・おはようございます市丸先生、吉良先生
「あっ。おはようございます若桜さん」
「どこ行きはるん?」
ちょっと小児科医局に
「ほな、その帰りでえぇから、ボクの所にも寄ってな」
・・・嫌です。私は、忙しいんです。市丸先生の相手などする時間は、微塵もありません。失礼します
親しみを吐き違えてるとしか思えない。この市丸と言う男は、自分の外見を武器にして女を喰う獣だった。夜勤で偶々仮眠室を通りかかった時、市丸は看護士を連れ込み当直室でSEXをしてるのを聞いてしまった・・・下世話。
「あ゙っぁぁぁん・・・先生・・・気持ちィィ・・・」
「そないに、抱きつかんとってぇ・・・動けへんわ・・・」
「あっ・・・ダメっ・・・イッちゃう・・・」
「何度でも、イッてえぇよ・・・」
「あ゙っぁぁぁ・・イッ・・・っっ!!」
・・・ケッ獣め。・・・はぁ。当直室から艶めかしい声が漏れてるよ…。私、間が悪いわ…はぁぁ。どっと疲れが…しかし、どんだけ男に飢えているだか。と言うか下半身緩すぎでしょっ。
沙樰は毒をボソッと吐き市丸と言う男は、もっとも嫌いな分類の俗物だったと認定し尚のこと関わり合いになるのを止めようと心に決めたのだ。それなのに・・・!!!
「沙樰、そないにツンケンしはると、可愛くないで」
別に、先生に可愛いと思われても嬉しくないですから!!
どんなに、沙樰が仕事意外で関わるのを辞めようとしても市丸が何かに付け絡んでくるので沙樰は、とてもウザったく迷惑に思っていた。そんな時、躰に小さな変調が現われた。立ち眩みから始まり月経周期の乱れ、そして躰の異変は、急激に月経の量が増えて重たい鈍痛や眩暈が頻繁に起きる様になっていた。沙樰は、院内の食堂で手帳を捲りながら独り言を言いながら食事をしていると・・・
「オイっ何、ブツブツ言いながら飯食ってんだ?若桜」
ふと視線を上げると小児専門医で、沙樰とは幼馴染の日番谷冬獅郎が目に前に座った。沙樰は、サッと手帳を閉じ
あっ・・・シっ日番谷先生も、お昼ですか?
「あぁ」
すると、日番谷は沙樰の手帳に目を向け
「ふふっ。デートの予定確認でもしたのか?」
すると、沙樰はフッと口元を歪め
デートする相手が、居ると思います?この私に‼
「居るだろ?外科の市丸が」
沙樰は、拳をワナワナと震わせ、日番谷を睨み
どーにか、なりませんかねぇ!!!あの獣。払っても、払っても寄って来るんですけど
すると、日番谷は肩を震わせ、沙樰に視線を向け
「外科きって優秀だと目されている市丸を・・・獣呼ばわり・・・ふふふふっ」
笑い事じゃない!!凄く迷惑してるんです!!
「なら、本人に言ってやれば良いだろ?」
本人に言いましたよ。だけど、聞き流されて・・・はぁぁぁ。
「ふふふっ。今回ばかりは、おめぇもタジタジって訳だな」
他人事だと思ってッ!!私は、困ってるって言うのに!!!
日番谷は、食事を始め沙樰は、日番谷を睨みながらも脳裏では、自分の躰の異変を考えていた。仕事が休みの日、沙樰はドラックストアーに居た。カゴに入れたのは、産褥ナプキンと何種類かの鎮痛薬。最近の沙樰は鎮痛薬が常用化していた。会計を終えて店を出ると丁度、店の中に入って来た京楽と逢ってしまった。
「あら、沙樰ちゃん、いっぱい買ったんだ・・・ん?」
えぇ。
袋の方に視線を向けた京楽。沙樰は、袋を持ち変え
京楽先生も買い物ですか?
「あぁ。そうなんだよ。所で、何を買ったんだい?そんなに、いっぱい」
日用品とか色々です。では、京楽先生、失礼します
沙樰が、ペコっと京楽に頭を下げ歩き出した。京楽は、店内に進まず沙樰の持つ袋を見つめていると
「京楽先生、いらっしゃいませ」
「ねぇ、今の子は何をあんなに買っていったの?」
「あぁ。生理用品とか鎮痛薬とかですよ。・・・そういえば、あの子、産褥ナプキン買って行ったな・・・」
「えっ!?」
「ペットが、どうこうって言ってましたよ」
「ふぅ~ん。そうなのかい」
京楽は、その言葉に少しばかりの違和感を感じつつも、買い物を済ませ店を後にした。京楽が感じていた違和感が、確信に変わったのは沙樰が血相を変えトイレに駆け込んで行く姿を見た時だった。
ふぅ・・・ヤバイヤバイ。危うく・・・
トイレから出て来た沙樰にヒョコっと満面の笑みを浮かべ顔を出した京楽。
「今日は月のモノ1日目かい?良かったね。間に合って」
ゲッ・・・京楽先生
沙樰の口元は、ヒクヒクと動いていた。
「うん?どうしたんだい、そんなに驚く事ないだろ?僕は、産婦人科医だよ?仕事が不規則だと不順になりやすいから、何かあったら遠慮せずに僕の所においでね」
…はい
月経の異変が尋常じゃなくなって勤務にも差し障りが出てきそうになり、沙樰は士長に断りを入れ産婦人科外来に降りて行った。産婦人科外来を覗くと、患者の姿はなく午後の予約確認をしていた七緒が受付に居た。七緒は、沙樰に気づき
「若桜さん、どうしたんですか?」
・・・ちょっとね。まだ、京楽先生は、中にいらっしゃる?
七緒は、何かを察して診察室の中に入って行くと診察室の扉を開け
「どうぞ、若桜さん」
・・・えっ!?いいの??
沙樰が、戸惑っていると診察室の中から
「沙樰ちゃん、僕に用事があるんだろう。中に入っておいで」
診察室に入ると、京楽は書き物をしていた。沙樰は、七緒に促される様に椅子に座ると京楽は、沙樰の方を向き
「で、何かあったから来たんだよね?」
・・・えぇ。まぁ・・
「・・・何か躰の事で心配な事あるんでしょ?言ってごらんよ」
沙樰は、重たい口を開き、京楽に躰に起きている異変を話した
「そうか・・う~ん。話だけでは、診断は下せないから診察してみようね、七緒ちゃん、準備して」
「はい」
健康診断の項目に婦人科の検査は、まだ含まれておらず、自主的に受ける様になっていた。準備を終えた七緒が戻って来て
「若桜さん、コチラにどうぞ」
沙樰は席を立つと内診室に入って行った。少し暗めの部屋に存在感を露わしている、それは産婦人科専用の診察をする為の内診台。
「下着は、この籠に入れてココに座って下さい」
「…なんか緊張してきたわ。散々、分娩実習の練習で乗ったのに」
すると、七緒はクスっと笑いながら
「そうでしたね、若桜さんは助産士の資格もお持ちでしたね。私達の勤務は不規則ですし躰の異変があっても、仕事の忙しさに後回しにしがちですよね。」
沙樰が内診台に乗ると七緒は、タオルを脚にかけ、スイッチを押す。内診台は動きながら体勢を変え下半身がカーテンの中に吸い込まれて行った。
「若桜さん、消毒しますね」
七緒が消毒をする為、性器に触れる。沙樰は、どんな病気なのか不安でいっぱいだった。消毒を終えた七緒は、京楽を呼ぶ
「先生、お願いします」
「はい。いま行くよ」
京楽がカーテンの向こうにやって来た。手袋を嵌める音がして
「じゃあ、診察始めるからね、力抜いててね」
はい
京楽は沙樰の膣の中に指を入れながら腹を押し触診し子宮の状態を確かめる。そして、卵巣の周辺を押すと沙樰は腰を浮かし
きょ京楽先生っ!!そこ、凄く痛いです
「ココだね。うん・・・じゃ次、器具入れるからね・・」
カチャカチャと金属音がしてグイっと入って拡がる感触。そして拡がった所からペンライトを使って膣内を診察した京楽
「あっ、ちょっと膣も爛れてるかな。次、機械入れるからね・・」
拡がった感触が消え機械が入って来る感触。モニターに映し出された沙樰の内部の状態を見て
「これは内膜症だね。子宮内膜が厚くなってるね」
…えっ!?内膜症
「うん。最近、この疾患の患者が多いんだよ。大丈夫、薬で治るよ。後日ちゃんと検査しようね。着替えたら、また診察室に入ってね」
京楽は、診察室に戻って行き、スイッチを押すと内診台は元の位置に戻るとカーテンの向こう側から七緒が
「お疲れ様でした。では、着替えたら診察室に入って下さいね」
着替えを終え診察室に戻り、椅子に座ると京楽は、沙樰のカルテを書いていた。
「薬の処方するね」
あの・・・京楽先生
「何だい?」
・・・病名は、解りましたけど・・・ココの外来に来るのは、ちょっと
京楽は、カルテを書く手を止め、沙樰を見て
「それじゃ・・僕が、出向している病院においで」
お手数かけます。スミマセン・・お願いします。
そして、京楽が週1で出向している病院に通院を始めて検査をした所、沙樰の内膜症の進行は思ったより深刻だった。休みが合わず偶々、月経のど真ん中で薬を貰いの行った時、沙樰は貧血を起して病院で倒れてしまい処置室のベットで増鉄剤の点滴を受けた時に、京楽は沙樰に打診をした
「ねぇ、沙樰ちゃん・・・今の部署を変わるか、外来勤務に移動出来ないの?」
今の部署は、やりがいがあって好きなんです。それに、希望して配属された所なので
「えっ!?そうなのかい?じゃあ、あんまり強くは言いたくないけど絶対に無理は、しないんだよ?内膜症を甘く見ているとしっぺ返しくるからね」
はい。
通院を始めて、暫くすると症状は改善され仕事も前の様に出来る様になった。しかし、相変わらず市丸が何かに付け絡んでくる事にはウンザリしていた。京楽が出向する日と勤務の休みが重なったので早めに薬をもらいにきた。受付で、診察券を出し、診察が回ってくるのを待っていた。
「若桜さん、診察室にどうぞ」
名前を呼ばれ、診察室に入ると沙樰は即座に帰りたくなった。何故なら、京楽ではなく専門外の市丸が診察室に居たからだ。
「じゃあ、座ってちょい待っててな」
市丸は、まだ前の患者の処方をカルテに書き込んでいて、まだ沙樰には気づいていないようだった。気づいていない今なら、帰れそうかも…薬は、次でいい…そう思って、沙樰は視線を看護士に送り、手ぶりで帰る旨を伝えた。看護士は、苦笑しながら頷いていたので、席を立って
…あの、今日は、やっぱりいいです。では
身体を回転させ、帰ろうとすると、前の患者の処方を書き終え沙樰のカルテを手元に引き寄せ、名前を見て顔をあげた。
「…ちょっ待ちぃ。逃げる事、あらへんやろ?…沙樰」
振り返った沙樰は、市丸がカルテに書かれている病名を知る前に、何とかしたかった
…まだ薬、残ってるし‥遠慮します。じゃ
市丸は、カルテをペラペラと捲り簡単に読んだ後、再び沙樰に視線を向け
「まぁ…前の処方やと、まだ残ってるみたいやけど…とりあえず、座ってや」
何の為に、わざわざ遠い所まで治療を受けに来ていたのかと・・・よりにもよって市丸に知られてしまった事の運の悪さを呪いたくなった。市丸は、更に治療過程を読み込み
「ふぅ~ん。成程なぁ。そやけども沙樰が、病気やったなんて・・普段のきびきびしてはるアレからは想像も、つかへんわ」
…あの京楽先生は?
「あぁ~緊急のカイザーが入ってもうて・・せやから、ボクが変わりになっ」
…科も違うのに、仕事熱心ですねっ
「何事も経験が、大事やて思うてなっ。それに、産婦人科の臨床経験してみたかったんよ」
…へぇ。明日、雨かもなぁ…今日の内に洗濯しなきゃ。じゃ、そう言う事だから、帰えります。
「待てって言うとるやろ」
だから、今日は帰るって言ったじゃないですかっ!!
「まぁまぁまぁ…興奮すると、また…倒れますよ、若桜さん」
それは、非常にマズい。この男に、借りを作る事は嫌だ。
「沙樰、ほな、診察してみよか」
は?
「このカルテ見ると、最近は薬の処方しか書いてへんみたいやし…ちゃんと良うなったか診察せな、判らんやろ?」
休暇の日でも否応なしに呼び出しを受ける為、京楽に無理を言い処方箋だけ出して貰っていた。確かに、市丸は正論を言っているが沙樰は、主治医でも産婦人科医でもない市丸の言う事に従いたく無かったし、それ以上に関われられたくもなかった。
…嫌です
「何でや」
京楽先生ならいざ知らず何故、畑違いも甚だしい市丸先生に
「沙樰、分かってはる?今、沙樰は患者で、ボクは、医者や。患者は、医者の言う事聞くんは、普通やろ」
私の主治医は、あくまで京楽先生で市丸先生ではないです。診察が必要なら京楽に診てもらいます
既に、沙樰が診察室に、呼ばれて20分は過ぎていた。見かねた看護士が、市丸に向かい
「あの…市丸先生、患者は、若桜さんだけじゃないんで…」
「せやな。ほな、沙樰は後回しや。」
内心ラッキーと思っていた。この隙に、帰って、後日また来ようと…すると、沙樰のカルテを一番下にした市丸は、視線を上げ
「・・・沙樰、待ってるんやで?もし帰ったりしはったら…ふふ。分かってはるやろな?」
今更ながら沙樰は、とんでもない奴に知られたんだと本気で落胆した・・・。
はぁぁぁ。帰りてぇ・・・
何度溜め息を漏らしたか解らない。診察を終えた患者が帰って行く。午前の診療終了の看板が受付に出た。
「貴女も、大変ねぇ~色々と」
憐みに近い言い回しを受け付けの人にされ、どっと疲れる。最後の患者が診察室から出て来て
「若桜さん、どうぞ」
呼ばれて、診察室に再び入る。先制的に話をして帰ろうと決めた。これ以上、ココにいると頭が可笑しくなりそうだった。
やっぱり、帰ります。じゃ
「待ちィ沙樰、診察してへんやろが」
ですから、診察が必要なら京楽に診察してもらいます!!
すると、市丸は、沙樰の腕を掴み尤もな言い分を言い始めた
「今日は、ボクがみな京楽先生から任されてはるんよ。せやから、医者の義務として言うてるんや」
だから、嫌だって言ってるじゃないですか!!離して下さい
沙樰は、腕を払い除け、そのまま診察室を出て帰った。