※この作品はR-18です。

―お医者さんゴッコなんちゃって―   作:若桜沙樰

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1週間後、処方薬が無くなり久しぶりに朝からちょっと調子が悪かった。カレンダーを確認すると、そろそろ月経周期が当てはまっていた。ずっと調子が良かったので、自分が病気だと言う自覚が薄れていた。出勤して、オペ予定の確認をすると、吉良が初めて執刀する手術の器具出しとして割り当てされていた。吉良の指導医は、市丸なので必然的に逢ってしまう。今は逢いたくないってのが本音だった。沙樰は、少し眩暈がしたので断りを入れ休憩室に行くことにした。

 

「顔色が悪いですが大丈夫ですか? 若桜さん」

 

 

・・・ん。大丈夫よ

 

 

「そうですか…あんまり無理しないで下さいね」

 

 

…ありがとう

 

 

沙樰は休憩室の長椅子で休んでいると、手術準備室のロッカールームに七緒が京楽の忘れものを取りにやって来て、休憩室で休んでいる明らかに顔色の悪い沙樰を見つけ近寄って来た

 

 

「ちょっ・・・若桜さん!!」

 

 

あぁ・・・七緒。

 

 

「顔色が悪いですよ?薬の効果薄れて来てるんじゃないですか?」

 

 

…この間、薬を貰いそこねちゃって

 

 

「えっ!?京楽先生にスグ診て頂きますか?」

 

 

七緒が医療者用PHSを出し、かけようとしたので

 

 

・・・これから、器具出しなのよ。

 

 

「ちょっ!そんな状態で、何時間も立っていられるんですか?」

 

 

・・・大丈夫。簡単な手術だし短時間だから

 

 

七緒の止めるのも聞かず、市販の鎮痛薬を服用して臨んだ。吉良が初めて執刀する手術の器具出し。市丸は、手術が始まる前チラっと沙樰を見たが、直ぐに視線を変えた

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

「緊張せんでも大丈夫や。ボクが補助するよって、好きな様にやればえぇ」

 

 

「はいっ!!」

 

 

始まった手術は、思っていたよりも時間がかかった。薬が効いたのか若干良くなったが少し疲れてしまい後処理を終え、ナースステーションに顔を出し

 

 

ちょっと、休憩室に行って来る。何かあったら呼んで

 

 

長椅子に座っていると

 

 

「沙樰ちゃん、大丈夫かい?」

 

 

仕事の合間を見て、わざわざ京楽が沙樰の様子を見に来てくれたのだった

 

 

あっ・・・京楽先生

 

 

京楽は沙樰の隣りに座り、あまり顔色の良くない沙樰を見て

 

 

「七緒ちゃんから聞いたけど、体調が悪いんだって?薬貰いそこねたってどういう事なの?」

 

 

さっきまで少し体調が思わしく無かったですが今は、大分良くなりました。それと、薬を貰いそこねた件ですが、色々とありまして…

 

 

「処方してる薬は、今より悪化させない為のモノだよ?何があったか分からないけど、薬はちゃんと貰ってね。それとこれ以上の無理はしちゃダメ!!」

 

 

・・・すみません

 

 

「見るからに状態悪化が思われるから、僕から士長に事情を話すから、今すぐ診察させて、いいね?」

 

 

沙樰は、京楽の腕を掴み懇願した

 

 

・・・知られたくないんです。誰にも

 

 

「だけどね、沙樰ちゃん「士長には、ボクから事情を全て話して置きましたよって」」

 

 

そこに、術着の上に白衣姿の市丸が現れた

 

 

「そうなの?」

 

 

・・・余計な事しないで下さい

 

 

すると、ツカツカと市丸は、沙樰の前まで来ると沙樰を見据え

 

 

「具合の悪い顔して、手術室に入らんとってくれへんか。むちゃやくたいや」

 

 

腹立だしいが、事実なので何も言い返せない。すると、京楽が睨みあう二人の間に入り

 

 

「とりあえず、士長にも話が通ってる様だし、今の時間なら僕、スグに診てあげられるし、それに薬の処方もしてあげられるから、行こうか」

 

 

はい・・・すみません

 

 

沙樰は、促され京楽と共に産婦人科外来に行くと、七緒が既に診察の準備を終えていて、スグに内診室に通された。沙樰は下着を脱ぎ内診台に乗ると七緒がタオルを脚にかけ、スイッチを押す。内診台は動きながら体勢を変え下半身がカーテンの中に吸い込まれて行き

 

 

「若桜さん、消毒しますね」

 

 

七緒が消毒を終えると同時に、既にスタンバイ状態だった京楽がカーテンの向こうから

 

 

「じゃ診察するよ、躰の力を抜いてリラックスしてね。触診するからねぇ」

 

 

京楽は、沙樰の膣に指を入れると腹を押しながら子宮の状態を触診した。そして、左右の卵巣の腫れ具合も確認した後

 

 

「沙樰ちゃん、もしかして次の月経予定近いかい?」

 

 

…はっはい。周期予定だと、もう数日中には

 

 

「…そっか。だと膣座薬は効果薄いかな。器具入れて子宮の状態を診てみようね」

 

 

カチャカチャと金属音の後にグイっと押し広げられる感触の後に何かを突き挿された衝撃で腰が浮き

 

 

せっ先生っ!?

 

 

「あっゴメン、ゴメン。少し痛かったね。今、子宮内にカテーテル挿入して少し膨らませるから苦しいけど我慢してね」

 

 

えっ!?でも、私まだ勤務が…

 

 

「あっ大丈夫だよ。スグに終わるからねぇ。ただ、今日の勤務が終わったら、また僕の所に来てね。じゃあ始めるよ、動かないでね」

 

 

次の瞬間、沙樰は、何とも言い難い圧迫感が襲ってきて何度も握り棒を掴んで何度も息をつめた。

 

 

「う~ん。思っていた以上に悪化してるねぇ。ちょっと子宮に薬を注入しておくからね」

 

 

えっ!?

 

 

「七緒ちゃん、炎症鎮静液ねぇ」

 

 

「はい」

 

 

カテーテルから炎症鎮静液が子宮の中に注入されていく。しかし、再びズンっと重たい圧迫感が襲ってきて握り棒を力いっぱい掴んでいた。そして、処置が終わり子宮内からカテーテルが抜かれ内診台も元の位置に戻ったが、ズンっと重たい痛みと圧迫感で沙樰は動けそうに無かった。すると、カーテンを開け七緒が顔を出し

 

 

「少し安静室で横になっていかれたらどうですか?」

 

 

しかし、勤務時間内だと言う事で、沙樰は七緒の申し出を断り職場に戻った。沙樰が、手術オーダーの確認をしていると急に腕を掴まれ振り返ると、真剣な面持ちの市丸が立っていた

 

 

「ちょっとえぇか」

 

 

…今ですか?後からじゃダメなんですか?

 

 

「今やないと、キミおらんやろうし?」

 

 

半ば強引に、沙樰は市丸に手術準備ロッカー室に連れて来られ

 

 

「ゴメンなぁ、さっきは強う言い過ぎたわ」

 

 

・・・別にいいです。ホントの事ですから

 

 

「ボク、沙樰が仕事に誇りを持ってはるのは、えぇ事やと思うけども。なぁ自分の限界を知るのも必要やで?・・・ボクな、沙樰の検査データー見たんやけど、畑違いのボクでも、キミの検査結果の数字が異常なんはハッキリわかったで?今の激務を続けながら通院して治るモンやない今以上に悪化する事はあってもな。京楽先生は優しいから強く言わへんやろうけど、ボクは違うわ。今すぐ休暇取って躰治し」

 

 

余計なお世話です。第一、市丸先生に関係ない事です

 

 

「躰の構造なら、よぅ知ってるで?ボク、医者やから」

 

 

挑発されているとしか受け取れず、沙樰はワナワナと拳が震えてしかたない。

 

 

ご忠告、感謝致します。では、まだ仕事が残ってますので失礼します

 

 

ズンズンと市丸の横を通り過ぎ、沙樰はロッカー室を出て行った。その後、市丸は、腕を組みながら苦笑を浮かべ

 

 

「もっと、優しく言いたかったやのに…ボクも素直やないなぁ」

 

 

仕事が、ひと段落した所で喉の渇きを補う為に、トマトジュースを自動販売機で買っていると

 

 

「あら、沙樰じゃないっ」

 

 

あっ乱菊さん・・・と、シ・・・日番谷先生

 

 

「・・・てめぇ。何でココにいんだよ。仕事は、どうしたんだ?あ゙?」

 

 

うわぁ・・・何その、仕事サボってんじゃねぇーぞ、みたいな口調。

 

 

「てめぇは、仕事サボるの得意じゃねぇーか」

 

 

「ふふふっ。確かに・・・「おめぇもだ、松本」」

 

 

「何で、私もなんですかぁ~ちゃんと仕事してますよぉ~」

 

 

うわぁ・・日番谷先生、超怖い顔してるぅ~~~そんな顔で、患者診るんですかぁ??子供泣いちゃうじゃないですかぁ~~般若みたいィィ

 

 

沙樰は、日番谷の眉間の皺をグイグイと伸ばす。日番谷と沙樰は幼馴染の間柄で、沙樰は年上である日番谷に対して言いたい放題でやりたい放題だった。日番谷自身も、昔から沙樰を女だと認識しておらず、ただのバカだと相手にしていないのだが、たまに沙樰の言動が限度を超えた時、日番谷は沙樰に手痛い制裁を下したくなる・・・それが、今だ。

 

 

「ほぅ~てめぇ、余程、俺を怒らせてぇみてぇーだな、沙樰っ!!今すぐ、その態度、改めさせてやる。来い」

 

 

嫌ですよーだ。

 

 

日番谷が、沙樰の腕を掴んだ所で、沙樰の呼び出しPHSが鳴った。

 

 

はい若桜

 

 

「急患が、急遽オペになったから・・・スグ戻って」

 

 

了解しました

 

 

今まで、ふざけた態度をしていた沙樰の顔が変わり、手術棟へと向かっていった。日番谷と乱菊は沙樰の後ろ姿見送りながら

 

 

「…念願の部署だから、張り切ってますね沙樰」

 

 

「・・・だな。さて、俺らも行くとするか」

 

 

「はい。先生」

 

 

沙樰は、買ったトマトジュースを一気飲みして、手を消毒して手術室に入った。クランケは、既に下準備を終えていた。

 

 

「あっ・・・若桜さん、大丈夫ですか??」

 

 

ふふふっ。大丈夫よ

 

 

手術室に藍染と市丸が入って来た。今回は、執刀するのが藍染の方らしい

 

 

「ふふっ。若桜くんが、器具出しかい」

 

 

よろしくお願いします藍染先生

 

 

藍染は執刀の定位置の立つと第一助手の市丸に目配せした後

 

 

「では、始めるよ」

 

 

手術が終わり後処理をしていた時に急に手術の前に飲んだトマトジュースが、せい上がって来た。口を押さえトイレに駆け込む。そこに、同じ部署の子が来て

 

 

「えっ!? 若桜さん、大丈夫ですかっ!!」

 

 

・・・ん、大丈夫よ

 

 

洗面器が赤く染まっていたので、ぱっと見、吐血だと思ったらしく、慌てて誰かを呼びに行った。

 

 

行くんじゃねぇーよ。トマトジュースだよ・・・

 

 

「若桜さん、吐血したってホントですかっ!!」

 

 

青ざめた顔で現れたのは、吉良。沙樰は、苦笑しながら

 

 

トマトジュースですよ吉良先生。その子の早とちりです、すみません。

 

 

「そうでしたか・・・トマトジュース。良かったです吐血じゃなくて」

 

 

安心して帰った吉良。その後に、すまなそうな顔で、沙樰を見ていた同じ部署の子に向かい

 

 

心配かけたみたいでゴメンなさいね。・・・ありがとう

 

 

いえ・・・

 

 

口を濯いで手術室に戻り後処理の続きをしようとした沙樰だったが、既に誰かがしたようで終わっていた。気づけば勤務終了時間を随分過ぎていた。

 

 

・・・お疲れさまでした

 

 

「「「お疲れ様です」」」

 

 

ナースステーションに顔出し、その足で京楽の元に行った。京楽は、自分の部屋で論文を書いている様だった。

 

 

京楽先生

 

 

「あっ来たね、今ちょうど区切りがいいから、子宮に注入した炎症鎮静液が効いているか診せてね」

 

 

…はい

 

 

沙樰は、京楽と共に産婦人科病棟の方に降りて行きながら、沙樰は京楽から説教を受けた

 

 

「シフト表を士長に見せてもらったけど・・・あれは、キミの躰が悲鳴を上げるような激務シフトじゃないか。誇りを持って仕事するのも構わないけど、沙樰ちゃんの器具だしのシフト減らす様に士長に進言しておいた。もし、今以上に状態が悪化するのであれば僕はキミに主治医として強制的に治療休暇を取らせるよ?沙樰ちゃん」

 

 

・・・はい。肝に銘じて置きます

 

 

産婦人科病棟に着き、京楽は診察室の扉を開き

 

 

「診察台に上って待っててね」

 

 

沙樰が下着を脱ぎ内診台に上り待っていると、ひよ里が顔を出し

 

 

「何や、沙樰かい。こないな時間に診察使いよるから、救急患者かと思うたわ」

 

 

…ちょっと病気でね

 

 

「そうやろな。ほな動かすで」

 

 

タオルを脚にかけると、スイッチを押した。内診台は動きながら体勢を変え下半身がカーテンの中に吸い込まれると同時に

 

 

「消毒するで、沙樰」

 

 

…うっうん

 

 

「なんや緊張してるん?今更、何を緊張するや。お互いの見やった仲やないか」

 

 

…ごっ誤解を生みそうな事言わないでよ!!

 

 

「誤解もへったくれもあらへんはっ!」

 

 

…はぁ。何で、よりもよって、ひよ里が担当の日に…

 

 

「せやから、お互いの見やった仲やし何も思わへんし」

 

 

…はぁ

 

 

ひよ里が、沙樰の消毒を終え、京楽を呼んだ

 

 

「せんせ、お願いします」

 

 

「はーい」

 

 

京楽がカーテンの向こうにやって来たと思っていた沙樰だったが、カーテンが少し開き浦原が顔を出し

 

 

「京楽先生は呼び出しされちゃったんでぇ、あたしが診ますネ。じゃっ、診察始めるっすヨ」

 

 

浦原がパチンと手袋を嵌め、グイッと膣の中に機械が入ってきて

 

 

「うん、ちゃんと炎症鎮静液は効いてそうデスネ。ひよ里サン」

 

 

「何や」

 

 

「検査カテと血液採取、準備してクダサイ」

 

 

「了解や」

 

 

「若桜サン、やっぱり卵巣の腫れが酷いみたいなので、カテーテル挿入して卵子の状態検査と血液の検査もしまショカ」

 

 

…えっ!?はい

 

 

ひよ里が検査の用具を準備して、戻ってきた。カーテンが開かれると同時に、ひよ里が、沙樰の白衣をたくしあげ腹部を出しゲルを塗りエコーの準備をした。浦原は、沙樰の腹部にエコーを充て子宮の状態を見て

 

 

「少し、ズンとして苦しくなると思いマス、では始めマスネ」

 

 

膣の中に挿入されたカテーテルが子宮口から卵管に延ばされ卵巣に到達して浦原が、エコーで確認後

 

 

「ひよ里サン、シリンジ引いてクダサイ」

 

 

ひよ里が、空のシリンダを引いた瞬間、沙樰の下腹部に衝撃が襲ってきて、思わず腰を引いた沙樰

 

 

「動かないでクダサイネ」

 

 

ゔっゔっゔっん゙ん゙

 

 

沙樰は、押えようのない声が漏れ出て耐えがたい痛みで躰が震えた。採取された卵子は、すぐさま検査科にまわされ、挿入されていたカテーテルが抜かれた後、沙樰は化膿止めの座薬を膣に挿入された。しかし、ズンっとした痛みは早々に消える事はなく血液検査の為に腕の血管を探っていた、ひよ里に

 

 

…検査を受ける為に、来たんじゃなかったのに

 

 

「うっさいわ‼黙って検査受ければえぇねん」

 

 

「若桜さん、ちゃんと検査結果を聞きに来てクダサイネ」

 

 

血液検査の処置を終えると浦原から処方箋を渡され、沙樰は、まだ少し子宮に違和感の残るまま診察室を後にした。産婦人科病棟から更衣室に行く為にエレベーターを待っていると、沙樰の白衣を掴むパジャマ姿の女の子。沙樰は、しゃがみ

 

 

「どうしたのかな?病室から逃げて来たの?」

 

 

あーちゃんコワイユメ見たの・・・

 

 

「そっか・・・じゃあ。私が、あーちゃんが寝るまで、本読んであげるね」

 

 

沙樰は、あーちゃんと言う女の子を連れ小児病棟に歩いて行った。小児病棟では、病室からいなくなって、少し騒ぎになっていた。沙樰が、ナースステーションに顔を出し

 

 

どうしたんですか?

 

 

沙樰に気づいたのは、準夜の乱菊

 

 

「どうしたも、こうしたもないわよ。西木、アザミちゃんって子が、病室から居なくなって、探していたのよ」

 

 

沙樰は、しゃがみ込んで先程逢った、あーちゃんを抱き上げる。すると、目を丸くした乱菊

 

 

「その子、どこで???」

 

 

産婦人科病棟のエレベーターの近くに居ましたよ。ねぇ~あーちゃん

 

 

沙樰が頬づりすると、ニコニコ笑っていた。暫くするとアザミは、沙樰の肩に頭を乗せ眠りに入る様に目がトローンとしていた。沙樰が背中をトントンと叩き眠りに誘うとアザミは、完全に眠り落ちた。すると、乱菊がニンマリ笑い

 

 

「ホント、子供の寝かせ付け上手いわねぇ~」

 

 

それ程でもないですよ

 

 

「謙遜は、いいわよん。それより、沙樰帰らないの?」

 

 

帰りますよ。この子を病室まで連れて行ったら

 

 

乱菊は、ナースステーションから出て来て病室を案内してくれた。病室では、眠れないのか騒いでいた。乱菊が病室のドアを開けると蜘蛛の子を散らす様にベットに入った。

 

 

「全く、元気が有り余って・・・ホントに病気なのかしらって思うわよっ」

 

 

いいじゃないですか。ツライ治療も頑張ったから、元気になったんですよ

 

 

「沙樰は、ホントに甘いわ」

 

 

沙樰は、アザミをベットに寝かせると背後に視線を感じ振り返ると、潤んだ目で沙樰を見ていた。アザミに布団を被せ、振り返り潤んだ目で見ていた子の手を取り

 

 

どうしたの?怖い夢でもみたのかな?

 

 

「おうちに帰りたい」

 

 

それは、切実な訴え。沙樰は、胸が痛くなり抱きしめていた。

 

 

そうだよねぇ・・・じゃあ、眠くなるまでココに居るね

 

 

「ホント??」

 

 

うん。

 

 

「ちょっと沙樰っ」

 

 

大丈夫ですからっ

 

 

乱菊の心配を余所に沙樰は、潤んだ目で見ていた子をベットに寝かせると子守唄を唄った。沙樰の心地よい声のトーンは、病室内に響き小さな寝息が、一つ、また一つ、と聞えてきた。

 

 

「全く、沙樰には頭が下がりますよ」

 

 

ふふふっ。そうですか~

 

 

乱菊と共に病室を出て、乱菊は見回り沙樰は着替えの為それぞれ逆方向に歩き出したが、気丈にしていた神経が切れた。なんとか沙樰は、壁を伝う様に歩きナースステーション近くまで来るとまた気丈に歩いた。そして、更衣室にたどり着いた沙樰は、ソファ―に倒れ込み、しばし休んでいた。

 

 

明日、休みだ。忘れずに薬貰いに行かないと…

 

 

沙樰が、着替えをして下に降り職員通路口から出て駅に向かい歩いていると、横に黒塗りの如何にも高そうな車が止まり助手席の窓が開き高そうなスーツを着た市丸が顔を見せ

 

 

「今、帰りなん?」

 

 

・・・えぇ。まぁ

 

 

「送って行くよって、乗りィ沙樰」

 

 

結構です

 

 

沙樰は、すかさず、ポケットから指輪を出すと左手薬指に嵌め市丸に見せつけ

 

 

家には、大好きな旦那様が待ってますから・・・クスクス

 

 

大概は、これで終わりなのだが今までと反応が違った。

 

 

「・・・ふふふっ。ボク、キミのカルテ見てるんやけど?・・・キミ、まだ未婚やないの」

 

 

すると、沙樰は左手薬指の指輪を撫で口元の口角を上げ

 

 

訂正します、将来を近いあった彼氏から貰いました

 

 

ここまで、ハッキリ言えば、これ以上しつこくしてこないだろうと沙樰は思っていたが…運転席から、降り立った市丸は助手席の扉を開き

 

 

「…まぁ、えぇから乗りィ」

 

 

しかし、沙樰は乗るつもりは全くなく無視して歩き出した。すると、市丸は、沙樰の腕を掴み

 

 

「あんまり、ツンケンしはると可愛くないで?」

 

 

だから・・別に。先生に可愛いと思われても嬉しくないですから・・・腕、離して下さい

 

 

「具合が、良ないやろ?大人しく、ボクに送られた方がえぇと思うで」

 

 

大きなお世話です

 

 

「えぇから、えぇから」

 

 

半ば強引に車に乗せられた沙樰は、ずっと外を眺めていた。

 

 

「夕飯まだやろ?一緒に食べへん?」

 

 

・・・ふふふっ。

 

 

「なんやの急に笑って」

 

 

それが、市丸先生が女を口説く文句ですか?

 

 

「何、ボクに口説かれてくれはるの?」

 

 

車が、信号待ちで止まると沙樰は、満面の笑みを浮かべ

 

 

私、市丸先生みたいなチャラいタイプ嫌いなんですよ。おつかれさまでした

 

 

助手席のドアを開け沙樰は降り、スタスタと人ゴミの中に消えて行った。市丸は、ハンドルを握り肩を揺らし笑い

 

 

「ふふふっ。ホンマに飽きひんわ・・・ん?」

 

 

ふと、助手席を見ると白い紙を見つけた。手に取り見ると処方箋で、薬名を見て

 

 

「・・・アホな子やわ。ホンマに」

 

 

テイクアウトした食べのモノを買って家に帰って来た沙樰。時間は、既に正午を回っていた。

 

 

もぅ・・・ご飯は、いいや・・・寝よ

 

 

結局、テイクアウトしたモノに手を付けずにベットに入った。

 

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