前作(https://syosetu.org/novel/137098/2.html)の続きみたいな感じです。
割と意味わかんないと思うので前作を先に読んでおくことをお勧めします。
前作を読んでても割と意味が分かんないと思うので頭をできるだけ軽くして読むことをお勧めいたします。
◆◇◆◇◆
毎週金曜日は、大掃除の日。
一週間頑張って働いた世間の皆々様の、不満とか鬱屈とが、町に沁み込んで魔獣を生む。
放っておけば手ごわいカビやシミになっちゃうこの厄介者を、あたしたち魔法少女はきれいに掃除してやらなきゃならない。
毎日の掃除だけじゃとても足りなくて、あたしたちは花の金曜日に飛び回る。
眠らない町はきらびやかに煌めいて、かがやかしくも輝いて、まるで宝石箱をひっくり返したよう。
表通りの人々は、ようやく仕事が終わったって晴れ晴れとした顔でうろつきまわる。
でもその裏側ではよどんで濁った暗闇が路地にこびりつく。
誰も見やしない棚の裏や配管の中のように、人々のよろしくない感情がよろしくなくうごめきこごってる。
そう言うのを掃除して回るあたしたち魔法少女は、でも誰に褒められるってわけでもない。
お賃金も出ないし、家族や友達にだって正体は明かせない。
名誉なんていったって同じ魔法少女の仲間内だけで流通するもので、そしてそれはみんな同じくに持ってるんだから優越感もない。
魔獣をいくら倒したって、コンビニで使えるポイントがたまるわけでもないし、町に沁み込む世間様の悪感情を払ってみたところで、日本経済はちっともよくなりはしない。
だから、世間様の調子を整える魔法少女は、自分の機嫌の方は自分自身で整えなきゃならない。
魔法少女がみんなを守っても、誰も魔法少女を守ってはくれないんだから、仕方がない。
自分自身の機嫌の取り方は、魔法少女それぞれだ。
マミさんなら、金曜日に大暴れしてスカッとするほかに、紅茶やケーキの見栄えの良いもので心を飾る。
杏子なら、そう言うお菓子にありついたり、夕飯のお相伴にあずかったり。
ほむらはなんだろ。あいつの楽しみっていまいちわかんないけど。
なぎさはシンプルに暴れて食べて笑って、ああでもあたしの腕を食べるのはやめて欲しい。
結局のところ、そうやってみんなでバカ騒ぎしてるのがあたしたちの報酬で、あたしたちの調整ってことになるんだろうけど……それだけでもない。
あたしとまどかの近頃の調整は、いつもきまって同じ流れだ。
盛大に暴れて、じゃあかいさーんと打ち上げしたら、あたしたちは、あたしとまどかは、いつものセーフハウスにしけこむ。
ふたりでもつれるようにして部屋に飛び込んだ時には、体裁を取り繕う余裕もなく、あたしたちはもうすっかりできあがってた。
「さやかちゃん……さやかちゃん……ッ!」
「もう、ほら、がっつかないの、まどか。時間はあるんだし……」
変身も解いてないあたしの体を、後ろからまどかが抱きすくめる。
ううん、抱きすくめるなんてレベルじゃない。抱きつぶされちゃうんじゃないかって思うくらい、熱く火照ったまどかの体が絡みついてくる。
まるでひどく風邪をひいたみたいに熱いまどかの体の中で、その
ふわふわのスカートを押しのけて、下着なんてあっさりはねのけて、まどかの
一週間溜め込んだ熱が、まどかをもうわけわかんないくらいに熱くしてる。
そして、それで、あたしもその熱がじんわり伝わって、あたしの中でも熱が生まれ始めて、もうわけわかんないくらいになってくる。
あたしのうなじに吸い付いて、犬みたいにふんふん鼻を鳴らすまどかをなだめて、にじり寄るように浴室に向かう。
狭い密室に、熱帯雨林みたいな熱気がこもった。
「ほら、まどか、するんでしょ……?」
「うん……ッ! うん……ッ!」
あたしはわけわかんない熱に浮かされて、まどかとキスをする。
「じゃ、はじめよっか、『一晩で行けるかな? さやかちゃんをおかずに精液風呂チャレンジ!』」
いやほんとわけわかんないなマジで。
◆◇◆◇◆
それはなんでもないようなことだった。
少なくともあたしは、それをなんでもないことのように思っていた。なんでもないことのように思いたがっていた。事実それはあたし以外の世界中の全てにとって、なんでもない意味のないことだった。
例えば仲むつまじく手をつないでおしゃべりする少女たちを見た時。
例えばベビーカーをのぞきこんで微笑みを浮かべる老夫婦を見た時。
例えば自転車を押しながら隣の少女に歩調を合わせる少年を見た時。
例えば朝のきらめきの中を笑いながらかけていく子供たちを見た時。
あたしはふと考える。
あたしはふと考えてしまう。
あたしはあの中のどれだろう。
そもそもあの中のどれかなんだろうか。
それともあの中のどれでもないんだろうか。
さやめく風の中で、しのつく雨の中で、柔らかな日差しの中で、賑やかな人ごみの中で。
あたしはふと考える。
あたしはふと考えてしまう。
世界中のすべてがすべて、あたしと無関係に回っていて、あたしはなにともつながらないまま、ぼんやりと取り残されてしまったような、そんな言い知れない寂しさと虚しさの中で棒立ちに突っ立っている。
あたしはなんなんだろう。
あたしってなんなんだろう。
人気のない校舎の中庭の、傾きかけた日陰にひとりで突っ立って、手持ち無沙汰に意味もなくスマホをいじりながら、あたしは考えるともなしに考える。
あたしはなんなんだろう。
あたしはあの子のなんなんだろう。
ちょっと待っててって言ってた委員会は、長引いてるらしい。
仁美は少し前に、お稽古に遅れるからとごめんなさいを残していった。
そう言ったときにはもう少し遅刻していたから、仁美も人のいいことだ。
どこへも行けず、何にもならない宙ぶらりんの時間は、あたしに妙なことばかりを考えさせる。
あたしはなんなんだろう。
あたしってなんなんだろう。
あたしはまどかのなんなんだろう。
まどかはあたしのなんなんだろう。
待ち人はまだ来ない。
すこしおそくなりそう、ごめんねってメッセージと、かわいいスタンプ。
それ以来あたしのスマホはうんともすんとも言いやしない。
何分か何十分か知らないけど、あたしはその間ずっと考えてる。
幼いころに出会ってからずっと、あたしはまどかの友達だった。
いまもそれは変わらない。誰よりも大事な親友。
時々喧嘩をすることがあっても、その度に仲直りをしてきた。
まどかが落ち込んでいる時はきっと隣にいたし、あたしが沈んだ時はまどかがそばにいてくれた。
あたしのささやかな初恋を、恋だと思っていた気持ちを、きっと間違いなく恋だったあの気持ちを、支えてくれたのもまどかだった。
恋に破れ、恋を見失い、恋だった気持ちに片を付けた時も、まどかはあたしを慰めてくれた。
そのまどかは、あたしのなんなんだろう。
あたしはまどかの、なんなんだろう。
同じ時間を過ごしてきた友達、親友、幼馴染。
魔法少女として一緒に戦う仲間、戦友、相棒。
そして今はそれだけじゃない時間も共有する。
金曜日になる度に、まどかはあたしを抱く。
それが一週間分溜め込んだものにしたって、ずいぶん激しくあたしを抱く。
そうしてすっかり吐き出して、またなんでもない一週間を始める。
それは頭がおかしくなる程に気持ちがよくて、頭が痛くなる程に寂しくなる。
友達で、仲間で、それからセックスもする。
あたしはなんなんだろう。
あたしってなんなんだろう。
あたしはまどかのなんなんだろう。
まどかはあたしのなんなんだろう。
まどかは好きだと叫びながらあたしを抱きつぶす。
あたしの全てを塗り潰すみたいに、あたしの内に外に欲望を吐き散らす。
あたしの体におぼれるまどかに、あたしは優越感を覚える。
セックスにおぼれるまどかに、あたしは不安を覚える。
まどかが好きなのはあたしなんだろうか。
それともセックス?
まどかがあたしに好きだっていうのは、むらむらするってこと?
あたしの何が好きだって言うんだろう。
あたしの締め付け? あたしの肌の感触? 単純にあたしの顔?
それとも幼馴染を汚すのが気持ちいいだけ?
そんなことを考えさせられて、あたしは嫌な気持ちになる。
そんなことを考える自分も嫌になる。
不安も不満も、あたしの中で生まれた、あたしの中にしかないものだ。
あたしは自分自身の中身を、自分自身で嫌ってる。嫌に思ってる。
まどかが好き。セックスも好き。気持ちいいことが好き。
あたしは自分が嫌いになりそうだった。
あたしはあたしの気持ちがわからなかった。
考えようとするたびに、あたしの中のぐちゃぐちゃが、あたしの考えを訳が分からないものに変えていく。
あたしは言葉を持たない魚のように、ただただ乾いたコンクリートの上でのたうち回る。
あたしはなんなんだろう。
あたしってなんなんだろう。
あたしはまどかのなんなんだろう。
まどかはあたしのなんなんだろう。
あたしは、なんなんだろう。
なにになりたいんだろう。
気持ちの悪いぬるさを伴って、粘った汗がぱたりと足元に落ちた。
日陰はもう、ずいぶん前にあたしから離れていた。
まどかはまだ来ない。
まどかはまだ来なかった。
◆◇◆◇◆
さやかって悩みとかなさそうだよねって結構言われるんだけど、これでも青春真っ盛り思春期爆走中のさやかちゃんなので、あたしだって普通に悩んだりもする。
いや普通に考えてあたしじゃなくても悩むと思う。
「なんなのよ『一晩で行けるかな? さやかちゃんをおかずに精液風呂チャレンジ!』って……」
いやほんとにどういうテンションで企画したどういう発想なんだろ。
そりゃ、まあ、あたしも賛成したからそう言う企画が通ったわけなんだけど、いまもあの時どういう精神状態だったのか、自分でも全くわかんない。
あたしたちはそりゃ、やりたい盛りの体を持て余した魔法少女なわけで、一週間も溜め込めばそりゃあ箸が転がっても盛り上がるようなお盛んさなわけよ。
他の魔法少女は別にそこまででもないって言う事実はさておいて、少なくともあたしとまどかはそうだ。
だから毎週金曜日になると、何にも考えなくたって盛り上がって大爆発する。
でも慣れてくればやっぱりこう、余裕も出てくるわけで。
いろんなことをしてみたくなったりもするわけよ。
そもそもあたしとまどかは最初からちょっと変と言うか、フェティッシュだった。
まどかはあたしの手袋を犯し、魔法少女装束を犯し、学校の制服を犯し、そうして服を通してあたしの日常や生活というものを犯して大興奮する、いっちゃあなんだけど結構な変態だった。
そしてあたしはそうやって犯されて大興奮する結構な変態だった。
その変態がありあまる精力と性欲、それに十分な時間を与えられたら、頭の悪い発想の一つや二つは湧いてくるというものなんだろう。
マミさんやほむらの衣装をまねたコスプレでしたこともある。
あのときはまどかが凄まじく興奮して盛り上がった。あたしはなんだか、抱かれてるはずなのにマミさんたちの代わりみたいで、すごい嫉妬と悔しさで変に興奮しちゃった。
最後にあたし自身の衣装でした時にまどかが一番かたくなったから、それでなんか優越感出てチャラにしてしまったけど、あれは普通に最悪だと思う。
胃の中にたっぷりと出されて、浄化することも吐き出すことも許してくれないまま、翌日の土曜日をデートした時もたいがい最悪だった。
体の表面はピカピカに磨き上げて、清潔なせっけんのにおいさえしてるはずなのに、あたしは常に鼻の奥にまどかの精液のにおいを感じてたし、時々どうしてもこらえきれずにげっぷをしてしまうと、それが鼻先で爆発した。
それなのにまどかは一切手を出してくれずそのまま平和に解散したのも最悪だ。
家に帰ってから、白いゲロを吐きながら狂ったようにオナニーしてる時に、まどかからわかってますよって感じのスマイルのスタンプがおくられてきた時はほんとこいつって感じだった。
似たようなのでは下に詰め込まれた時もあった。
おしっこの穴から、膀胱がいっぱいになって苦しくなるくらいに注ぎ込まれて、それで一日過ごす羽目になった。
あたしはすぐにトイレに行ったけど、どろどろした煮凝りみたいなまどか汁はいきんでもいきんでも全然出てきてくれなくて、半固形物が少し出てくるたびに、あたしは信じられない場所が信じられないくらい開発されてることを自覚させられた。
あの日は一日中トイレと友達だった。
なんか思い出すほどに腹が立ってきた。
精液風呂とかいう頭のおかしい企画だって、結局企画倒れだった。
ちっちゃな浴槽に座り込んだあたしをおかずに、まどかが何度も射精して精液をためていく。
あたしはその白いゲルの重さと温かさを体に受けながら、恍惚とオナニーにふける。
それを見てまどかは盛り上がってさらに射精する。
そう言う予定だった。
実際のところ、壊れた蛇口みたいに山ほど出すまどかにしても、浴槽を一杯にするのは無理だった。
最初こそ、これはいけるんじゃないかってふたりで盛り上がったけど、いくら一回の量が多くても、いくら何度でも出せるって言っても、全然足りなかった。
あとで調べたら、浴槽を一杯にするのに少なくとも200リットルは必要らしい。仮にまどかが一回に100ミリリットルくらい吐き出せるとしても、その驚異的な射精量でも二千回射精しなきゃいけない。そりゃ無理だ。
魔法少女のマジカル・ロッドから飛び出るマジカルな代物だとしても、無理があった。
途中からあたしたちは無言になったし、まどかは両手とも腱鞘炎になったし、普通にこすりすぎて痛くなったし、あたしは風邪を引いた。
なんか疲れちゃって、もういっかてなって、ふたりでシャワーであったまりながら気まずい時間を過ごしたものだ。
それで、そう言う、ふと冷静になる瞬間が増えると、あたしはつい考えちゃう。
あたしたちってどういう関係なんだろうって。
セックスする友達もあるんだろうけど、あたしはそういうのなんだろうかって。
あたしはそういうのでいいんだっけって。
あたしは、それでいいのかなって。
あたしは、まどかが気持ちよくなるための穴でしかないんだろうかって。
◆◇◆◇◆
もちろんメンヘラ慣れしてるあたしは(メンヘラ慣れってなんだ?)、こういうのはよくないメンタルだなってのがわかってる。
ソウルジェムが濁ってるのもわかる。
でも難しい。一度考えちゃうと、こういう考えはなかなか消えてくれない。
もしも誰かに相談出来たら、簡単に解決したり、解決しなくてもすこしは気持ちが回復したりするかもしれないけど、でもこんな事相談できる相手がいない。
魔法少女じゃないと相談できないし、その魔法少女はみんな身内だからなおさら言えない。
いや、魔法少女限定の悩みでもないのかな。
友達とセックスしてるんです。でも最近はセックスだけの関係なのかなって不安なんです。普段は普通に仲がいいからなおさら怖いんです。いやなにそれ。ほんと。
でも雑誌に普通に乗ってそうなお悩みだ。
普通に、普通過ぎる、普通の思春期の悩み。
その普通って言うのが、なんだかあたしを憂鬱にさせる。
普通なんかじゃない、特別な悩みなんだって思いたい気持ちと、これはありふれた下らない悩みなんだって言う気持ち。
どっちにしろ嫌になる。
いやでも、ほんとにこれはどうにかしないといけない。
あたしはついに重たい腰をあげなきゃいけなくなった。
っていうのも、あたしの様子を見かねたほむらに慰められてしまったからだった。
いや、ほむらて。
暁美ほむらに慰められるって。
仁美とか、杏子とかじゃない。
よりにもよってほむらにまであたしの調子がおかしいことを察せられて、その上で慰められたあたしの気持ちがわかるだろうか。
あたしにもわかんない。もうぐちゃぐちゃだ。
ほむらはあたしとまどかのことは全然わかってない。
セーフハウスでなにしてるかも知らない。
もしかしたら魔法少女がうかされる熱のことだって知らないおぼこだ。
そのなんにも知らないしわかってないほむらは、あたしが一人でいるところを見計らって、滅茶苦茶気まずそうに声をかけてきたのだ。
クソ不器用に天気の話とかして、テンパった目でぐるぐると胡乱な話をして、最終的にはあたしに錠剤を押し付けてきたのだ。
「え、なにこれ。やばい薬?」
「違うわ。い、痛み止めよ。市販の」
「んんん」
「は、恥ずかしいと思うけど、ナプキンも、保健室で、」
「え……あっ。違う待ってそういう……そういうのじゃないわよ」
「えっ」
「別に、あの……生理がつらいわけじゃなくて」
「えっ……あ、あの、ごめんなさい、私、てっきり」
「いや、うん、あたしこそごめん。そのぐらい変だったんでしょ」
「ごめんなさい、勘ぐり過ぎてしまって」
「いいわよ。ありがと、ごめんね。ああ、あと」
「なにかしら?」
「あたしタンポン派なのよ」
暁美ほむらの「なんて言えばいいかわかんないけどこれ笑うところ?」みたいな顔は多分かなりレアだと思う。
そんな感じでさやかちゃってば、人付き合いレベルが底辺近くをさまよってるほむらにさえ様子が変に思えるくらいだったらしい。
それで生理が重いのかなってなっちゃうあたりほむらの引き出しの少なさが悲しい。
今度買い物くらいは付き合ってやろう。
フードコートのドリンクとポテトぐらいは奢ってやろう。
それはそれとしてあたしはまどかに向き合わなくちゃいけない。
そして認めなきゃいけない。
あたしはなんなんだろう。
あたしってなんなんだろう。
あたしはまどかのなんなんだろう。
まどかはあたしのなんなんだろう。
あたしは、なんなんだろう。
なにになりたいんだろう。
違うんだ。
そうじゃない。
あたしは、
◆◇◆◇◆
お待たせっていって、ようやくまどかが小走りに駆けて頃には、校舎は夕日に照らされて橙色に染まっていた。
あたしは、うん、って気のない返事をしながら、山並みを見つめていた。
卵の黄身みたいに、とろけながら沈んでいく橙色を。
その周りでゆっくりと深みを増していく薄紫色を。
星々を身にまとってしずしずと歩みを進める夜の暗がりを。
「さやかちゃん……?」
「うん」
あたしはもう一回気のない返事を返して、それからほむらがくれた痛み止めの錠剤を握りしめた。プラスチック・パックの角が、手のひらに突き刺さる。その痛みが、いまは頼もしい。ような気もする。
ぼんやりと見つめる先で、日はいよいよ沈み込んで、気の早い夜が夕焼けを追いやっていく。
部活に勤しむ生徒たちの、何のものとも知れない掛け声が、少し涼しい空気を伝わって、どこか遠くから聞こえてきた。
火曜日の空の下で、あたしはまどかに振り向く。
金曜日には程遠い、何でもない火曜日。平日が始まって、まだたったの二日目。
ただの友達のはずの火曜日。あたしはまどかを見つめる。
「ねえ、まどか」
「なあに、さやかちゃん」
「あたしね。あたし、さ」
「うん」
「あたしは……」
まどかは、きょとんとしてあたしを見つめてる。
あたしが何を言おうとしてるのか、まったく見当もつかずに、少しの不安と戸惑いを、瞳の中で揺らしてる。
まるで普通の女の子みたいだ。
あたしはなんだかおかしくなる。
つまりあたしは、まどかのことを、普通の女の子だって、近頃は思えていなかったんだ。
ああ、もしかしたら、それが怖かったのかもしれない。
あたしの知ってるまどかが、金曜日ごとに失われてるみたいで。
そう考えると、なんだかあたしは途端に腑に落ちたように、心が落ち着くのを感じた。
毛羽だってさわついていた心が、沁み込んでくる夜気にしっとりと撫でつけられるようだった。
きっとあたしは、まどかのことだけじゃなくて、あたし自身のことだって、見失ってたんだと思う。
頭の中が一つのことで一杯になってしまって、心の中がその一大事で埋め尽くされてしまって、それしか見えなくなってしまってたんだと思う。
柔らかな微笑みだとか、指先の感触だとか、隣り合った時のぬくもりだとか、なんでもない空気を過ごすことの心地よさだとか、そう言ったものがすっかりなくなってしまったように感じてしまっていたけど、そんなことはなかった。
あたしは、あたしたちは、あたしとまどかは、これまでにたくさんのことを積み重ねてきて、それは急に変わったりなくなったりするものじゃなかった。
ただその上に新しく重ねられたものが、目新しく奇抜だったから、それにすっかり戸惑っていただけだった。
あたしの中にある気持ちは、あたしの胸の中身は、少しずつ変わってはいたけれど、でもある日突然に変わってしまうようなことはなかった。
あたしの気持ちはあたしのもので、そしてそれはずっと同じことを言っていた。
魔法少女になったって、セックスするようになったって、ちょっと変態になっちゃったって。
あたしの胸の中に、まどかはいたんだ。
「ああ……うん。あたし、ようやく自分が何言いたかったのか、わかったみたい」
あたしはまどかの手を取った。
柔らかくて、小さくて、暖かくて、懐かしい。
「ねえ、まどか。あたし、まどかのことが好きみたい」
「ふえっ!?」
「順番が滅茶苦茶だけどさ、ねえ、まどか。あたしの恋人になってよ」
突然で唐突で、情緒もムードもへったくれもないあたしの告白に、まどかは目を白黒させて、それでも、ちゃんとあたしの手を握り返してくれた。
それで、うん、こちらこそって、ふんにゃりと笑ってくれたのだった。
それからあたしたちは、こっそりと教室に戻って、たくさん、たくさん話をした。
言葉で話すべきだったことを、ずっとなんとなくで誤魔化してたことを、たくさん話した。
笑っちゃうことに、まどかは教室で改めてあたしの手を取って、まどかから告白をやり直してくれた。
「ごめんねさやかちゃん。わたし、ずっと付き合ってるんだって思ってたの」
「ええ?」
「さやかちゃんも、応えてくれたんだって、ずっと思ってて……」
それはつまり、最初の金曜日に、あたしのことを好きだ好きだって言ってたことらしかった。
あれはまどかなりの告白だったらしいけど、それは、いくらなんでも、ムードがなさすぎる。あたしが言うのもなんだけど。それに、あんなときにそんなこと言われたって、性欲と区別がつかないし、わかんないよ。
まあでもあたしも悪かった。
そのあとずるずると関係を続けちゃったから、まどかは恋人同士になれたんだって浮かれちゃったし、あたしはセフレなのかなって無駄に悩んじゃったし。
なんだかおかしくなって、あたしたちは二人でくすくす笑った。
笑って、見つめ合って、それからキスをした。
触れ合うだけの軽いキスを、何度か繰り返した。
その度に、なんだか暖かいような、くすぐったいような、そんな気持ちになって、また二人で笑った。
その日、あたしは、あたしたちは、恋人になった。
恋人同士になった。
あとセックスもした。
◆◇◆◇◆
「まどかちゃんは下半身我慢できないんですかねーェ!?」
「だってムラムラしちゃったんだもん! ムラムラしちゃったんだもん!」
「かわいい語尾とかわいげのない下半身!!」
「もー! さやかちゃんが悪いんでしょ! さやかちゃんがかわいいからムラムラするんだよ!」
「じゃー……仕方ない! あたしがかわいいのは仕方ない!」
「だよね! 仕方ないよね!」
まどかが普通にムラムラしたのもあるけど、なんか普通の恋人みたいな普通に甘酸っぱい普通のイチャイチャがくすぐったくて背中がかゆくて、あたしたちはこらえきれずに暴れ出すテンションに身を任せちゃったのだった。
だってあたしたちは恋人同士なのだ。
友達で、仲間で、恋人で、それで、セックスもする。
「仕方ない、けどさー……恋人としての初セックスでそういうのはほんとムードとか死んでると思うんだけど」
「性癖に嘘は吐けないよ!」
「主人公ボイスでなんてことを……」
本編最終話みたいなキメ声でそんなことを言いながら、まどかはあたしの机をファックした。
なに言ってるかわかんないと思うけど、あたしもわかんない。というかわかりたくない。しかしわかってしまう幼馴染の理解力の悲しさよ。
まどかは黒板の前にあたしを立たせて、制服のスカートをまくらせた。
しかも片手には学生証を持たせて。
そのあたしを眺めながら、まどかはあたしの机にマウント決めてた。
教科書とか入れっぱなしの収納に、まどかのバキバキにバッキバキのバキバキがねじ込まれてる。
生身のあたしをおかずにして、あたしの机をオナホール代わりに、まどかは激しく腰を振ってオナニーしてた。
いや、まどか一流の考え方によれば、これはあたしの机を通してあたしの学校生活を犯しているのだった。
なんなら教室という空間さえもまどかはまとめて犯していた。
日常的な空間が、非日常に犯されていた。
あたしの机は、もうすでに何度かまどかの中出しを受け止めて、真っ白などろどろを端からぼたぼたと床にこぼしていた。きっとあたしの教科書や筆箱は、受精するはずもないのにまどかの精子をたっぷりと沁み込ませていることだろう。
魔法で綺麗に浄化して、何の痕跡も見つからなくなったって、あたしはそのことを忘れないだろう。
明日からのあたしは、この光景が脳裏にこびりついてきっと離れない。
授業を受けていても、お弁当を食べていても、友達とおしゃべりしていても、あたしの日常は白いどろどろを内側に隠している。
ぶるぶるっと腰が震えて、あたしは気づけば足元までぐっしょりと濡れていた。
まどかが指一本触れないうちから、あたしの体はすっかり出来上がってしまっていた。
机を犯されて、教室を犯されて、あたしの心はまどかに犯されていた。
机の脚から天板まで、まどかは時間をかけてたっぷりと愛してくれた。
あたしはもう足に力が入らなくて、黒板にもたれてがくがくと震えてた。
どうしようもない気持ちよさが、お腹の奥から込みあげて、背骨を伝って全身を震わせていた。
まどかはそんなあたしにキスをくれた。
額に、眦に、頬に、鼻先に、そして唇に、優しいキスをくれた。
そしてその度に、指先で、眼差しで、吐息で、そして言葉で、何度も、何度だって、好きだよをくれた。
まどかの好きだよが、あたしの体を、心を、優しく満たしてしびれさせていく。
「好きだよ、さやかちゃん」
「あたしも、好きだよ、まどか」
押し付けられた熱が、あたしのお腹で弾けた。
◆◇◆◇◆
翌日のお昼休み。
あたしは弁当の卵焼きをほむらに突き付けた。
「ほむら、ありがとね」
「……急に何かしら」
「心配かけちゃったみたいだしさ、改めて」
「別に、あなたのためではないわ」
「かーわいいーんだからー」
「や・め・て」
「ほむらはあたしの嫁なのだー!」
「本当にやめて」
「アッハイ」
つんとしちゃってまあ。
一応は卵焼きは頬張って、それでふいと顔をそらす姿は、なんとなく猫を思わせる。
それがかわいくって、あたしはついつい構ってしまって、それでまた嫌がられる。
それもまた猫みたい。
そうやってほむらに構ってると、まどかは嫉妬する。わけでもない。
なんだか微笑ましいものを見るみたいな目で眺めてくるもんだから、なんだかくすぐったい。
あたしだったら、まどかとほむらがあんまり仲良かったら、すこしもやっとして、まどかは私の嫁なのだー、なんて、うざいからみかたしちゃうかもしれない。
そのあたりあたしの恋愛観はお子様なのかな、なんてちょっと思う。
まどかは余裕があるというか、大人だなって、なんかちょっと悔しい。
なんて、そんなことを思いながらほむらとじゃれていたら、横合いから手が伸びてくる。
ほっぺたがむにっとつままれて、振り向いた先にはタコさんウィンナー。
むちゅっと唇に押し付けられて、その向こうでまどかが笑う。
「ダメだよさやかちゃん、ほむらちゃんをからかっちゃ」
「あはは、ほむらがかわいいからさぁ」
「さやかちゃんは私のお嫁さんなんだから」
言い切られて、ひえっと変な声が出る。
真っ赤になったほむらの視線が、突き刺さってる気がする。
あらあら、と仁美が楽しげに笑う。
もぐ、と口にしたウィンナーの味は、よくわかんない。
よくわかんないけど、悪くはない。
友達で、仲間で、少し変態で。
それで最高に格好いい恋人がそこにいた。