あの日、SMホテルで拘束椅子に縛られていた男ーー安藤幹哉は、黒地のスウェットにグレーのチノパンという、つっかけで近所のコンビニに向かうかのような服装で、大衆居酒屋の個室にてとある女性と呑んでいた。
その居酒屋は、個人経営ながら大きな店の作りでかなり繁盛している模様だった。大学生や社会人が大声でがなりあい、笑いあう。
そんな喧騒の中、二人は差し向かいで静かに梅サワーなどを傾け、枝豆やらなにやらをつまんで世間話に興じていた。
「幹也、綾ちゃんとわかれたの?」
そんな中、女性はこう切り出した。
驚いて彼女の顔を見る幹哉。
彼を連れ出した女性の名は、沖本真緒という。ガマガエルに寝取られた三峰綾と幹哉の共通の友人だ。
綾とは別の共通の友人から幹哉が家から出てこないという話を聞いて、彼を心配した彼女が半ば強引に家から引っ張り出した。
沖本真緒。
ブラウンのショートヘアに丸顔ととがりめの顎。普段はボディーラインが目立たないゆったりとした上とスリムジーンズを履いたラフな格好が似合うボーイッシュな女性だが、プロポーションはかなりのものだ、というのがゼミの女性たちの弁である。柑橘系の香水を愛用しているのか、いつも彼女からはオレンジのいい香りが漂っていた。
他のゼミの男連中と同じく、幹也も綾と付き合う前は沖本と付き合いたいと思っていた。サバサバとした性格が、気軽だが長い関係を持てそうな気がしたのだ。
「まぁ、な」
そう答えて、幹哉は梅サワーを一口飲む。
「綾ちゃん、寂しがってたよぉ?」
ーーああ、そうか、沖本、何があったのか知らないのか。
瞬間、あの時のことが頭をよぎり、さっき入れたばかりのつまみや梅サワーが胃の腑を勢いよく駆け上がってくる。
「うっ」
口を押さえて、なんとかしのいだものの、堪え切れるわけもなく、賑やかな居酒屋の店内を小走りでぬけて、あわててトイレに駆け込んだ。
便座の蓋をあげるのももどかしく、一気に腹の中にあるものすべてを吐き出す。
俺の後を追って沖本がやってきて背中をさすってくれた。
「どうしたの幹也、大丈夫?」
えづき、吐き続ける彼の背中を、真央は優しくさすってやる。
「ありがとう、大丈夫だ。席に戻ってまっててくれ」
そう言って真緒に戻るよう促すと、彼女は素直に戻っていった。
出すものを出すと洗面台の前に来て、顔を洗い手酌で水を口に含みうがいをして席に戻った。
「ごめんな、ちょっとね、イヤなこと思い出してさ」
出すものを出して体だけでもすっきりすると、真緒が待つ個室に戻って彼女に謝罪した。
「ひょっとして、浮気?」
「知ってたのか?」
幹哉はいきなり核心をついてきた彼女に驚いた。
「知ってたってわけじゃないけど、噂程度には。でも、二人とも仲よかったし間違いかなってね。よかったら、何があったのか話を聞かせてくれる? 私が綾を紹介したようなもんだから、こんな幹也見ちゃったらちょっと責任感感じちゃうしね」
そう言われて、幹哉はため息を一つついたあと、この前起きたことを独り言のように語り出した。
綾は、実家が造り酒屋なのだが、姉が同時になるということで、彼女は安心して都会の大学へと通うことが許されていた。なので、彼女は田舎を出て一人暮らしを始めていたというわけだ。
こちらでの生活は、家族のいない自由さもあってかなり満喫していたようだが、実家が祖父母ふくめて八人という大家族なためか、一人というのは寂しかったらしい。何度かあった真緒の誘いに乗って合コンに参加して、幹也と付き合うようになった。
肌を重ねたのも、付き合いだしてからすぐのことで、どちらからというわけでもなく、自然の流れでラブホテルで最初の夜を過ごした。
そうして、あの日が来たのである。
その日、幹哉は綾に誘われ、ワンルームの彼女の家で彼女の手料理をご馳走になっていた。肉じゃがに鮭の味噌焼き、きんぴらごぼうなど日本人の食卓といった感じだ。そこに、彼女の実家から送られてきた大吟醸の日本酒があわさり、まさに贅沢の限りだった。
ゼミ仲間たちのバカ話や互いの家族の話をしながら、楽しげな食事を進めていくが、その時はすぐに訪れた。
どうやら、どこかのタイミングで睡眠薬を飲まされていたらしい。幹哉はいつのまにか寝てしまい、気付いた時には目の前でのあの痴態が繰り広げられていたというわけだ。
幹哉は、その時のことを思い出しながらぽつりぽつりと呟くように真緒に伝える。その間、彼女は乾く口を潤す程度に梅サワーを口に含みながら黙って聞いていた。
そして、ガマガエルがどのような意図なのか五十万ほどの現金と綾を置いてホテルを出て行くと、綾は淫蛇の如くに床を這いながら幹哉の足に絡みつき、無気力になった幹哉のペニスを、美味しそうに頬張ってしゃぶりつくし、何度も彼を犯し抜いた。
そして、タクシーで彼の家に送られたところまでの話を幹哉が告白すると、真緒は彼をそっと抱きしめていた。
「そんなこと、あったんだ……大丈夫……幹哉は悪くないから」
「……」
優しく慰める真緒に、幹哉はただ小さく頷く。
「ね、幹哉。ホテル、行こうか」
二人は、それから居酒屋を出ると、そこから歩いて十分ほどの場所にあるシティホテル風のラブホテルへと向かった。幹哉も、綾と一緒に何度か利用したことのある場所で、値段の割に内装が綺麗でアメニティも充実したホテルという印象だった。
金曜の夜ということもあり、大半の部屋が埋まっていて、唯一残っていたのが一番大きな部屋で、状況によってはパーティールームとしても貸し出されるようなところだった。
狭い部屋にありがちな、綺麗なヤリ部屋みたいな場所ではなく、高級な広めのワンルームマンションなのはいいのだが、大学生の身分にはいささか贅沢が過ぎるところではあった。
真緒は、ホテルの部屋の玄関に立つと早々に、
「ね、先にシャワー浴びていい?」
と、耳元で囁いてきた。吐息が耳やうなじにかかり、幹哉の背筋をぞくりと震わせる。
「ああ、構わないけど……」
幹哉がそう答えたら、彼女はふふ、と微笑み、
「ありがと、幹哉」
そう言って、玄関口のすぐそばにある、バスルームと英文字で書かれたドアの中へと入っていく。
「なんなんだ、一体……」
幹哉はそう首を傾げながら部屋へと足を踏み入れると、バスルームがあると思しき壁の部分が、一面大きな鏡になっていることに目を奪われた。
「変わった部屋だな」
手荷物を、ベッド横の籠に入れると、それまで柔らかな間接照明に照らされていた部屋が、す、と光量を落としていき、足元が見えるぐらいになる。
同時に、鏡だった壁が大きなガラスに変化して、バスルームの中の様子を見せた。そして、バスルームのドアが開く音が部屋の天井に吊り下げられたスピーカーから聞こえる。
真緒が、バスルームの中に入ってきた。
ゼミ仲間の女性たちが言う見事なプロポーションがガラスの向こうにあった。Eカップはあろうかという胸は肉房というにふさわしくも張りがあり、紅でもひいたかのように真っ赤な乳首は、重力に負けずにたわわに実っていることを誇るようにつんとしている。腰は砂時計を思わせるようにくびれ、そこから流れるように落ちていくヒップラインは生意気そうにつんと上向きで、実に官能的だ。
こんな見事な体を、色気のない服装で覆っていたのがもったいないが、ああいった服装でもしていないと、ハエのように男がまとわりついてきて大変なのだろう。
オシャレの一つも許されない、持ち腐れにするしかない体だった。
少なくとも幹哉はそう考えていた。
『ね、幹哉、見てる?』
シャワーを浴びながら、真緒は確かに言った。
『怒らないで聞いて。私、綾があんなのだって、知ってたんだ』
言いながら、彼女はほぅ、とため息をつきつつ右手に持ったシャワーを左胸の乳首へと浴びせる。
直哉は、彼女の独白めいた言葉に絶句した。
『あの子、前からああなの。恋人を作ってはわざと浮気してあんなこと……でも、私も……』
そして、左手で下腹部を撫で、子宮のあたり、ぽってり膨らんだそこをなで始める。
『私も、ひどいの……わかっていても、それが我慢できな……は、っぁあ……」
唇から漏れる吐息も、シャワー室内に仕掛けられているだろうマイクは拾っていた。
『私ね、可哀想な男が大好きなんだ……今にも泣きそうな顔で、でも、誰も頼れなくて……そんな人じゃないと、私、ダメ……感じないの』
うつむきながら、下腹部をマッサージしていた手を、ゆっくりその下へとなでおろした。よく見れば、触れる前からもどかしげに脚をすり合わせ、小刻みに震わせている。シャワーの雨粒にまみれてわからないが、きっとそこは充血し甘蜜をしたたらせていることだろう。
『ほんと、私もあの子も……どうしようもない変態なの。ごめんね、幹哉。こんな私たちに巻き込んで、ほんとごめん……』
言葉は、そこに含まれた言葉には確かに謝罪の意思が込められていた。ラブホテルで行われているこの状況を無視すれば、真緒の謝罪を飲まない男はいないだろう。
だが……
『ほんと、私が悪いのはわかってるの。でも……』
そんなしおらしい言葉とは裏腹に、左手が、とうとう肉尖にたどり着いた。
俯いていた顔を上げ、引きつったような笑みを浮かべた彼女の顔が目に入る。
『やめられないの! あはっ、見て! クリでオナってる私見て! すごっ! おかしくなりそ。はぁ……今、幹哉ってどんな顔してるのかな。怒ってる? 泣いてる? それとも、ゼミの連中がオナペットにしてる私のオナニーを見て興奮してる?』
掻き毟るかのような、女がするとは思えない乱暴な手淫だ。自分で自分をレイプしているとさえ見える激しさだ。
あんな乱暴にやっては、苦痛しか感じないだろうに、そんな事などまるで意に介さず、彼女の口からは矢継ぎ早に言葉が紡がれていく。
幹哉の顔が、一気に真っ赤になる。
薄っぺらな理性が滅多打ちにされて穴だらけになる。
怒りが血液に乗って全身を駆け巡る。
『ええ、そうよ。私は最初から幹哉を食べるためにこうしたの。いいんだよ、幹哉。そこでみじめったらしくセンズリこいてるのもいいし、このまま私を犯しにきてもいいの。何やっても、いい。どっちでも私、滅茶苦茶に感じちゃうから!』
シャワーヘッドを投げ捨て、右手で胸を鷲掴む。片足をバスタブの縁にかけ、左手で秘部を掻き分け、肉蜜でどろっどろになった肉壷の奥まで見せつける。
『さぁ! はやくきて! ねぇ! 幹哉、きてぇっ! ここにあんたのモノ、ぶち込んでよおおおぉぉっ!』
幹哉の理性が、切れた。