幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
いつだって、気づいたときには手遅れになっている・・・・、あのときああしていれば良かった。そんな言葉をいくつ吐き出しただろう。
「ギュウイイイイィイッァアアアア!」
澄み渡る青空をかき乱すようなけたたましい奇声がここ、『フォス平原』に響き渡たる。
害虫―『スコルピオンベーゼ』が害虫独特の雑音と振動を出して脅威を露わにしていた。さらに、他にも大中小と合わせて多数の害虫たちが蔓延っていた。
野を蹂躙し、花を散らし、水を汚す害虫たち。
しかし、ソレを野放しはさせてはいけないと語るように平原を駆ける美しき花の騎士たちが、己のチカラを振るい駆逐していく。
そんな勇気づけられる彼女たちの姿を指揮しながら、後方の丘から見守っていた。
「おー、ぉ~・・・、さすがだな~」
そして、俺の隣には合同任務に当たっているもうひとりの団長―ソドムが双眼鏡を片手に楽しそうに見ていた。
「・・・、必死に戦ってるんだから。ちょっと不謹慎よ」
「ぉぉ、・・・そうだな。わりぃわりぃ」
「フフ、困った団長様で、大変ですねリュウゼツランさん」
お互いの隣には、副団長―リュウゼツランとブルーロータスが寄り添っていた。
それからしばらくして、ひとまず討伐を終えた花騎士たちがベースキャンプに戻ってくる姿が見えてくる。
「ふぅ~・・・、とりあえずこれで安心ですね」
「深追いはしないほうが、淑女らしいですよね!」
「わきゅ~ぅ~・・・、フリージアは疲れました~」
「うん、ひとまず近くにはもう害虫はいないようですぅ~、休憩しましょ~」
順に、ギンラン、アナベル、フリージア、オギジソウが各々に脱力しながらもどってきた。彼女たちこそ、自慢の俺の部隊である。
それから、後に続くようにソドムの部隊も戻ってくる。
「団長さん、・・・任務完了です」
「みなさんのご活躍すごかったですよ~、団長さん♫」
「みんな、ケガしてない?大丈夫・・・みたいね、よかった」
「想定通りの成果ですね」
自分の団長へと嬉々として報告するヒトリシズカ、サンダーソニア、チョコレートコスモス、グリーンベル。誰一人として例外なく例のチョーカーをつけており、金の鈴が身体の動きに合わせて揺れていた。
そんな献身的な彼女らを大手を振って迎えるように、俺たち団長の最初の言葉は決まっていた。
「「あぁあ・・・、よくやったな!おつかれッ!」」
✿
「さて、アース」
「ん?・・・どした?ソドム」
「先ほどの戦闘を軍師役を交えて一度話し合いたいところだが、彼女らも疲れてる。一度、各々のテントに戻って休憩してからしようとおもうが、どうだ?」
野営訓練も兼ねての任務だった為、ゲルとも呼ばれる仮設テントが用意されていた。
「おっ、そうだな。そりゃ賛成だ」
「クククッ、そうか。なら、よかった・・・。それじゃあ一時間後に」
「あぁ、・・・またな」
そして、互いに踵を返してテントに戻ろうとした矢先、唐突に彼女から呼び止められる。
「ん?・・・どうした、リュウゼツラン」
「ぇ、ぁ、・・・・」
呼び止めたはいいが、話題を考えていなかったらしく目を泳がせている様子を感じとったアースは、自分から声を発した。
「とりま、お疲れさまだな。リュウゼツラン」
「ぇ、・・・えぇ。アース君もお疲れさま・・・」
しどろもどろになりながらも受け答えるリュウゼツランを微笑ましく想いながら話を続けるアース。
「今回の戦闘じゃ、キミのかっこいい勇姿が見られなかったのは残念だがな、ははっ」
「ふふっ。もう、女の子に「かっこいい」は変じゃないかしら?でも、次の戦闘では私もでるわ、見ててね」
「あぁ、モチロン!それじゃ、またあとでな!」
ようやっと、彼女の笑顔が表情に出てきたことに安心すると早く切り上げて休みたいだろうと思ったアースは名残惜しいのを我慢しながら自分のテントへと戻っていった。
そのとき、寂しげな彼女の表情に気づかぬまま・・・・。
テント内に入ると、ブルーロータスが紅茶を用意して待っていてくれていた。
「おかえりなさいませ、団長さま。さぁ、どうぞ一息ついてくださいな」
「あぁ、ただいま。ブルーロータス。・・・・みんなはどうだ?」
「ふふふ、ご心配なく♡みなさん、個別のテントに戻って休まれていますよ」
「そうか、ならよかった。・・・・ブルーロータスも一息ついてくれていいぞ」
「ふふ、ありがとうございます。それでは御暇をいただきますね、それではまた一時間後に」
アースの気遣いを無駄にすることにないように大人の女性の対応で微笑むブルーロータス、仮設執務室のあるゲルからゆっくりと出ていくのを目で挨拶して見送った。
それから、椅子にもたれかかっていると程なくして睡魔が身体を支配してくる。
「(午前も大変だったしな・・・、このまま時間まで寝ちまう・・・か・・・、・・・・)」
舟を漕ぎはじめると、すぐ様微睡みへとおちていった・・・・。
――一時間後。
「・・・・さん、・・・・団長・・・さま・・・・団長さま!」
「うぉっ!?」
身体を揺すられ、強制的に覚醒を迫られ目を覚ますと、目の前にはすでにブルーロータスを含め部隊の花騎士たちが揃っていた。
「おはようございます、団長さん」
「おはよう!団長様、とっても素敵な寝顔だったわよ?」
「わきゅぅ~、フリージアはドキドキしちゃいました」
「団長さん、私の枕つかいますかぁ?」
各々に声をかけてくる仲間たち。
「・・・・ッ、ほら!もう時間になるぞ、いくぞ!」
寝顔を見られていた恥ずかしさを払うように立ち上がると、打ち合わせの会場へやや早足で向かっていった。その後ろを微笑ましそうについてくる仲間たちの視線が少しこそばゆく感じるのを我慢しながら。
✿
時計の針を気にしつつ、会議用のゲルへと急ぎ足で入っていくが自分たち以外だれもいなかったことに肩のチカラが抜ける。
「なんだ、まだ来てないのか・・・・」
とりあえず、待つことにしたアースたちは各々の席に着席した。
しかし、それから一五分経っても現れず、予定の時間より三〇分が経過しようとした矢先、呼びに行こうかと席を立とうと瞬間彼らが姿を現してきた。
「ふぅ~。すまんすまん、遅れたな」
そう言って、悪びれた様子のないまま入ってくるソドム。
その両脇をリュウゼツランと参謀役のグリーンベルを抱き寄せながら・・・。
ソドムに抱き寄せられているからか、頬が紅潮しており、服には皺が寄っており汗が滴っていた。
「ぁん♥・・・も、もうダメですよ団長様♥・・・他の方もいらっしゃるんですか、ぁ♥、ら」
彼女の左脇から滑り込むように、服の隙間を縫うように侵入したソドムの手のひらはグリーンベルの乳房を揉みしだいていた。
「ん?・・・ぁぁ、そうだったそうだった」
グリーンベルに言われて、はじめて気づいたといわんばかりに酷薄な笑みを浮かべながら、隙間からゆっくりと手を抜き取った。
「それじゃぁ、さっきの続きは、あとでな・・・・んっ」
「はい♥・・・ごしゅ、団長様♥」
そして離れ間際に肩を抱き寄せ、グリーンベルの首すじに、面前だというのに恥ずかしげもないままキスを落とした。
そんな、恋人以上のやりとりを右側に抱かれたリュウゼツランが咎めることもなく、気まずげに目を背けていた。
「そ、それじゃあ。午後の作戦会議をはじめようか!」
芳香のような甘い空気を払拭するように無駄にチカラを入れて声を出し、会議を強引にはじめた。
✿
それから、三十分後。つつがなく午後の作戦会議がおわった。
先程の似つかわしくない彼女の態度が気になり、ソドムたちがゲルを出る間際。無意識下でリュウゼツランを呼び止めるアース。
「ど、どうしたの・・・、アース君」
「いや、・・・汗かいて疲れてるみたいだけど。午後の戦闘だいじょうぶか?」
「ぇ、ええ・・・。だいじょ、んっ♥、ぅぶ、ぁ♥、よ」
話している最中、急に悶え始めるリュウゼツラン。
「ぉ、おい!?ほんとに大丈夫か!?」
「だ、だいじょう、んっ♥、・・・・もう、ぁ♥、女の子は秘密が多いんだから、ゃ♥、詮索しちゃダメよ?・・・ぁ♥」
心配になり、駆け寄ろうとするが数歩後ずさられながら笑顔で断られてしまう。そして、そのまま逃げるように自分の前から離れてソドムの後を追っていった
避けられたという事実が重く心にのしかかり、その場で棒立ちとなってしまうアース。
「団長さま、任務です。・・・がんばりましょう」
慰められるように、ブルーロータスに声をかけられ頷くと、自分も仲間を連れてゲルを出ていった。
✿
「貫きなさぁぁあああいっ!」
「ギュウウウァアアアィイィイイイ・・・ァアアアアア!!」
草原のただなかでリュウゼツランの声が響いた瞬間。一条の光の矢が害虫を貫いた直後に、竜巻が弓の先から矢を追うように起こり、周囲の害虫を巻き込みながら蹂躙していく様をアースは離れた高台から指示を飛ばしながら確認していた。
「(さすがだなっ、リュウゼツラン!具合が悪そうだったけど、俺の杞憂だったみたいで良かった・・・)」
そんなことを脇目に考えつつ、指示を飛ばし。戦況を見守っているなか、あともう少しで討伐完了というところでその出来事が起こった。
「・・・キャァアアッ!」
「!?」
戦場に聞き知った声が悲鳴となって、アースの耳に届いた。
「ど、どうした!?」
状況を確認をしようと、目線を凝らして戦場を注視していると、伝令役の花騎士が近づいてくる。
「大変です、団長様方!リュウゼツランさんが不意をつかれて巣から出てきた害虫から攻撃を受けてしまい、負傷いたしました!」
「なっ・・・んだとっ!?」
「それで、容態は?」
動転して言葉が詰まってしまったアースの代わりに、先を促すソドム。
「はい、幸いにも損傷は軽微。ですが意識を失っており、救急搬送されました」
「そうか、わかった。・・・・・アース、すまないが容態を確認してくる。あとを任せてもよいか?」
「ぁ、・・・・ああ、そうしてくれ」
真っ先に自分が行きたいという衝動もグっとこらえて、彼女の今の団長であるソドムに委ねるアース。
「それじゃぁな」
「あぁ」
そう言って馬に跨ったソドムは手綱をにぎり、戦場から離れていった。
その後ろ姿を眺めることしかできないアース。これほどまでに自分の無力感を味わったことがないと言わんばかりに握りしめられた拳は震えていた。
それから・・・・。
彼女のことを気にしながら、懸命に二部隊を指揮するアース。
程なくしてソドムから遣わされたと伝令役がやってくる。リュウゼツランは心配ない大丈夫だと、しかし念のため一度騎士団本部にもどって精密検査をするため離れると聞く。まずは一安心と胸を撫で下ろしてた。
しかし、ソドムとリュウゼツランは戻ってくることはなく無機質な報告書となって曖昧な状況がアースの手元に届くだけだった。
その後、できるだけ考えないように、一週間キャンプの討伐任務を粛々とこなしていった・・・・。
✿
―――一週間後。
「・・・・・・・」
騎士団屯所内から花騎士たちの寮向かって早足で歩いて行くアース。
昨日、キャンプから戻ってきたアースはなんとかその日のうちに雑務を終わらせ、今日朝一番で医務室へ向かったが、どうやら自分の部屋で療養中だとわかり、彼女の好きそうな果物やお菓子を手に持ち、向かっていた。
そして寮の前で部屋の明かりを確認してから彼女の部屋の前にたどりつくと、一息、はやる気持ちを落ち着かせ身だしなみを整えると、目の前にある扉を数度ノックした。
数刻待つが、反応はなし・・・。
もう一度、先程よりやや強めでノックする。
「・・・リュウゼツラン、俺だ。アースだ・・・、いないの、か?」
さらに、声をかける。
無機質な扉に話しかけているようで、やや虚しい気持ちになったが、この際気にしないことにした。
さらに数刻。扉の前で待っていると、ガチャっと施錠を回す音が耳に届き、ゆっくりと扉が開かれる。
「・・・お、おまたせ。・・・・アース、くん」
隙間から顔だけ覗かせた彼女は、疲労の表情が出ていた。
「あ、ああ。ごめん、なにかしていたのか?」
「えっ!?・・・ぁ、・・・ぇ・・・えっと、今、親戚の人が来てて、・・・ごめんなさい」
何故か、彼女の息遣いが荒く髪には湿気があり、ドキドキしながらも会話を続けるアース。
「いや、いいんだ。様子を見に来ただけだし・・・・、ケガは大丈夫か?」
「ぇ、ええ。・・・・た、たいしたことなかったからだいじょうぶ。・・・ありがとう」
「そうか、なら良かった。えっと、それじゃあ、コレだけ渡したいんだけど・・・」
「ぁ、ありがと・・・、ちょ、ちょっとまっててね。今だらしない格好だから」
そう言うやいなやすぐ扉を締め切る彼女。
さらに一〇分後。再び扉が開かれると、彼女が出てきた。
「ぉ、おまたせ・・・」
「お、ぉう」
声が裏返って返事をしてしまうアース。
それも仕方ないこと、と自分に言い訳しながら出てきた彼女の姿はどうやら身の丈に合っていない大きめのワイシャツを慌てて着てきたようで、ボタンも乱雑にとめられて少し屈んだら見えてしまいそうな扇情的な格好だった。
「えっと、おにいさんが来てるのか?」
「ぇ!?ぁ、ええ。そうなの・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙。
会話が続かず、お互いに誤魔化すように笑みを浮かべることしか出来ない間まである。
「そ、それじゃあ、・・・コレ」
「ぁ、ありがと・・・大切に食べる、わね」
「あぁ、それじゃあ、その、親戚の人にもよろしく・・・」
「ぇ、ええ。・・・・、また、ね」
「ああ、またな・・・」
自分でそう言いながらも、離れることができず立ち尽くす。
「そ、それじゃ・・・」
扉の方へ向き、部屋へ戻ろうとする彼女。なにか、声をかけようとするも、見送ることしかできず見ているだけだった。
「アース君」
「・・・ん、なんだ?」
「私、あなたとの『約束』、絶対に守るから」
「・・・あぁ、俺もだ」
「・・・・ありがと」
そして、部屋の中に消える彼女。
無機質な扉と手荷物が無くなり軽くなった手のひらを見つめた後、来た道を重くなった足取りで立ち去っていった。
翌日。
騎士団同士の会議室で会った彼女にいつも通りの笑顔で接し、安心している自分に気づいた・・・・。
仕方ないことだけど、主人公sideは一話で終わっちゃうのよね
ま、しゃぁないよね