幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
奇跡
はぁい♪私はアナベル、花騎士をやっているわ。
日々、迫り来る害虫たちと戦って、世界を平和に導くためにがんばってるの。
戦いは大変だけど、私ができることを精一杯やっていくわ。
それはともかく、最近心配事があるのよね。
私たちの団長さん――アース君がいつも、溜息をついてばっかりいるの。
ほら、今も現場で討伐後の後片付けの最中なのに、心ここにあらずって感じ。
私は、団長さんの部下として、仲間として、もとの元気な団長さんに戻したくて色々試してみたけど、効果はなくて。
団長さんの理解者だろう、副官のブルーロータスさんにも相談してみたけど……。
「今は、…そっとしておいてあげましょう。たとえ歯痒くても、見守ることもいちじは必要でしょうから」
そう言って、ブルーロータスさんも困った笑顔を浮かべていた。
そんな、手を出したくても出せない歯痒い日にちが刻々と過ぎ去り、我慢が辛くなってきた時、――そんな折。
「……アナベルさん大丈夫?…集中できてない」
「えっ、ぁ……」
もやもやした気持ちに沈んでいた所を、声を掛けられてハっと顔をあげる。
改めて周りを見渡せば、ここは訓練場で、この前の合同任務から仲良くなったソドム団長の花騎士が一人――ヒトリシズカちゃんと稽古の真っ只中だったのを思い出す。
「…どうかしたんですか?」
「ごめんなさい。ちょっと、考え込んじゃってて……」
彼女はもちろんのこと、自分にも失礼なことをして、心の陰りと共、気が落ちる。
「……ふぅ、一旦、休憩しましょうか。このままじゃ、ケガをしてしまいそうです」
クールダウンを一息、ヒトリシズカは剣を収めた。
私もそれにならい、槍と盾を片付ける。
それから―――。
訓練所から少し離れ、私とヒトリシズカちゃんは庭園のベンチに揃って腰掛けていた。
「………なにがあったの?」
直球――前振りもなく、彼女は聞いてくる。その、素直の心が今は少し楽だった。
「実は――」
ぽつりぽつりと、事情を話していった。自分の団長が最近元気がないこと、力になりたくてもなれず歯痒く思っていることなど、せき止めていた我慢を開放するように吐露していく……。
ヒトリシズカちゃんは、そんな私の思いをただ聴いていてくれる。なにかを言ってくれるわけでもない、でも、言ってしまえば他人事なのに、真剣な表情で彼女は聞いてくれて、私の心が軽くなっていくのを確かに感じていた。
そして、一頻り話し終える。
「ごめんなさい、なんか愚痴みたくなってしまって…」
「……いいえ、相談してくれて嬉しいです。けれど、私も女性ですから、あまり力になれそうですね、ごめんなさい」
「う、ううん!話を聴いてくれただけでも助かったよ、ありがとうヒトリシズカちゃん!」
「…ぁぅ。……どういたしまして、です」
「ふふっ♪」
あまり人に感謝されたことがないのか、赤面する彼女のことが可愛らしく感じて、ますます気に入ってしまっていた。
「…ぁ、男性……。ごしゅ――団長さま、うちの団長さまに相談してみるのはどうでしょうか」
「…えっと、ソドムさんだっけ?」
一度、合同任務開始のときに自己紹介されただけの面識しかなく、なんとか記憶の引き出しから名前だけを引っ張り出した。
「はい♡、ソドム団長なら男性ですし、なおかつ同じ団長です。きっと、力になってくれるはずです」
まるで自分のことかのように、誉れ高く勧めてくる彼女。さすがに、ほぼ初対面に近い男性に相談するのも、と、考えていたが、相談した彼女がこんなにも信頼している男性ならば、と思い。私は決心した。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな、…おねがいできる?」
「はい。…では、いきましょうか」
「えっ!?……い、いまから?そんな、心の準備が……、というより、いきなり押しかけたら迷惑じゃ」
「そんなことないです。……ソドム様はお優しい方ですから」
アナベルの手を引き、歩いていくヒトリシズカ。
「(普段は、ソドム様って呼んでるんだ。ふふっ♪ヒトリシズカちゃん、ソドムさんのことが好きなんだね。じゃあ、きっと大丈夫かな。……一度、他のみんなにも相談しておきたかったけど、もしダメだったらぬか喜びになっちゃうものね)」
心の内で、結論を着けると私はヒトリシズカちゃんに導かれるまま、向かっていった……。
次から、七話だよ~