幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
感覚にしておよそ数秒の間、互いを見つめ合う俺とアナベル。
―その間に、俺は無意識のうちに彼女の身体を眺めてしまう。
均整のとれた肉付きにきめ細やかな肌、小ぶりで可愛らしいお尻とおっぱいが彼女らしさを表していた。
そして、間が抜けた途端―。
「キャァッッ!だ、団長さん!?」
耳をつんざくような悲鳴が鼓膜を震わす。
「ァ、アナベル!?す、すまない、入っているの露知らず」
慌てて、扉を閉めてその場を離れようとしたが、さらにタイミングの悪いことは起こる――。
「??…、アナベルちゃん、どうしたの?悲鳴が聞こえてきたけど」
どうやら、今のアナベルの悲鳴を聞き、心配したブルーロータスが様子を伺いにくるようだった。
狭くはないとはいえ、船室からシャワールームまで、大した距離はなく、例えこの場を離れたとしてもシャワー中のアナベルを覗いた事実がわかってしまう。
女性だらけの騎士団故に気をつけていたことをやらかしてしまい、団長としての信頼が、などと悶々と考えている中、アナベルに手をとられ――。
「団長さん、こっち!」
「ぇ――、ぁ、おいっ!」
そのまま、シャワールームに引きずり込まれる。――一人用に設計されたシャワールームに二人は手狭く、互いに裸のまま肌を密着させる形になる。
「いいから、静かに」
彼女の手のひらで口を覆い隠されて、黙るしかなくなる。
程なくして、ブルーロータスがシャワールーム前にたどり着くと、動機が早まるのと同時に背筋に冷たい汗が流れる。
「大丈夫?アネベルちゃん。なにかあった?」
心配そうな声音のブルーロータスが、曇ガラス扉を隔てた先から届く。
「だ、大丈夫です。心配かけちゃってごめんなさい、ちょっと石鹸で足を滑らせちゃっただけですから」
「そう、よかった。ケガはないのよね?」
「はい」
「なら、よかったわ。…それじゃ」
そして、安堵した様子のブルーロータスは踵を返して、その場から離れていった。
………。
……。
「「ふぅ~……」」
安堵と共に緊張の糸が解れ、同時に盛大な息を吐き出す俺とアナベル。
「それにしても、いきなり入ってくるなんてビックリしたよ~」
「すまない。使用中の札がかかっていなかったから、てっきり……いや、言い訳だな。とにもかくにも、裸をみしまったのは変わらない、申し訳ない」
「わっ、そんな頭を下げないで団長さん、私も悪いの。最初は水着着たままで軽く流したらすぐ出ようって思ってたんだけど、どうせならって思って水着を脱いじゃったんだから」
そう言う、彼女の足元を見れば脱いで落とされた水着が重なり合っていた。
ともかく、このままでは謝罪合戦になってしまうと悟った俺は――。
「――と、とにかく、誰も居なくなったことだし出ないか?さすがに、このままじゃ…」
依然として、俺たちは裸のまま密着したままで、彼女のおっぱいが胸板に押し当てられて感触が伝わっており、ある部分に血流が集まらないように理性で押さえつけるのが精一杯だった。
「そ、そうだよね。それじゃあ、私はもうシャワー浴び終わったから出るねっ」
今度はアナベルが慌てるように、浴室から出ていく。
そしてすぐ、手前にあったバスタオルを身体に巻き、裸体を隠した。
そのまま、その場を離れるかと思いきや、彼女は自分の身体を数秒眺めたあと、こちらに顔だけ振り向くと――。
「だ、団長さんもやっぱり、…大人で経験のある女性のが、いい?」
「(ん?なにがいいのかわからないが。花騎士としてか?)まぁ、…そうかもしれないな」
唐突な質問だったため、俺は一般的な意見しか答えれなかった。
それで、どうやら納得した様で、その場からゆっくりと離れていく。
そして、扉の先に行く前にまた立ち止まると……。
「驚いちゃったけど、私、…団長さんに見られたなら嫌じゃなかったからねっ」
「ぇ――」
「――それじゃっ!」
俺がなにかを返すまえに、真っ赤な顔をしたアナベルは扉の先―船内へと消えていった。
「………」
俺は、どう受け止めればいいかわからず、火照った顔を覚ますように冷たいシャワーを浴びた。
それからシャワーを浴びて一息ついた頃に、俺達はソドムたちとの合流地点にした無人島へと、停泊した。
――およそ3000平方メートルほどしかない小さな島で、そこで経過報告も兼ねた昼食バーベーキュー懇親会を行う予定だった。
俺は、浜辺に降り立ち安全確認も兼ねて周りを見渡すが、どうやらまだソドムたちの船は着ていない様子だった。
「仕方ない。先に支度して待っているか」
各々の荷物を降ろしてから、砂浜にビーチパラソルを挿し立て、バーベキューの準備をしていった。
程なくして、ソドムたちの船が見えてきて、たどり着くと、船から彼らが降りてきた。
「いや~…、悪い悪い。遅くなったな」
おどけた風に笑いながら、両脇に自分の花騎士であるヒトリシズカとチョコレートコスモスを伴い(当然、彼女たちも水着)、彼女らの腰に手を添え、必要以上に密着しながら歩いてくる。
――セクハラとも言えるような行為だが、彼女らの表情は嬉しげで、恋慕で蕩けた表情をみせて、むしろ自分から身体を押し付けているようにもみえていた。
それに付き従うように他の花騎士たちも歩いてくるが、そこにリュウゼツランの姿が見当たらず、何かあったのか、と、ソドムに尋ねることとした。
「ん?…あぁ、リュウゼツランなら、今、シャワーを浴びてるところだから、もうすぐ来るだろうさ」
「そ、…そうか。なにか、あったのか?」
「いや?…こっちも戦闘は無かったさ。ただ少し、汗のかく運動をしていただけ、さ」
なにやら含みのある言い方をしながら、俺の方をポンと軽く叩くと、他のみんなの待つ場所へと、自分の花騎士たちを連れて赴いてった。
――それから、数分後。
水着の上にサマーシャツを羽織、身体を隠すようにリュウゼツランがクルーザーから降りてくる。その表情は気もそぞろな感じを醸し出していた。
「ぁ、……アース君」
「おつかれさま、リュウゼツラン」
「アース君もお疲れ様。またせちゃってごめんね」
「構わないさ。…無事でよかった」
「アース君も」
「………」
「………」
何故か会話が続かず、途切れてしまう。彼女も気まずそうに、そのまま横を通り過ぎていこうとする。
「りゅ、リュウゼツラン」
「ッ…、な、なに?」
「最終日、空いてるか?…その、デートしないか」
任務最終日は、前日までに大きな問題が起きなければ、休日となっていた。
「え、……嬉しい」
驚きを隠せないまま彼女は顔をほころばせ、さっきまでの暗い表情は消え去る。
「ああ。…改めて、キミに伝えたいことがあるんだ」
「……、うん、私も」
そうして、俺たちはまた『 約 束 』する。
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