幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
無人島の浜辺で、香ばしい肉の焦げる匂いが、潮風に攫われながらも鼻腔をくすぐる。
「ん~…♪おいしそぉ~!」
「ふふっ…、アナベルちゃん、ヨダレが出てますよ」
「ふぁぁ~…、午後の任務のためにも、エネルギほきゅ~はしっかりと~…」
「はい!フリージア、午後もがんばります!」
時刻は正午すぎ、俺は団員たちと共にバーベキューを楽しんでいた。
もちろん、ソドムたちも共に楽しんでいるが……。
「団長様、お肉焼けました。食べてください…、あ~ん」
「あっ、ヒトリシズカさんだけズルイですよ!団長さま、私のも食べてください」
「団長、暑いから喉乾いてない?アイスチョコドリンク作ったから、飲んで」
「ふふふっ…、みなさん。あんまり団長さまを困らせてはだめですよ?」
ヒトリシズカ、サンダーソニア、チョコレートコスモス、グリーンベル達が我先にと言わんばかりに、自分たちの団長へと尽くしている。
彼女たちも一度シャワーを浴びて着替えたのか、先程着ていた水着より布地が少ないものとなっていて、迫るように肌を密着させようとしていた。
「おいおい、さっきあ相手してやっただろお前ら」
呆れ混じりな表情を作るソドムだが、その声音からは満更ではない様子が伺えた。
そして、その様子を俺の他に、その場に混ざらずに一人で食事をとっているリュウゼツランが目に入り、声をかけにいく。
「そっちの団長は、花騎士からモテモテだな」
「ぁ、アース君。……そうね、イイことなのよね」
「(ん?……、なんか含みのある言い方だな)」
「それに、アース君たちも、十分仲がいいと思うわよ」
「そうか?」
こういうことは、自分たちでは気づけないもの、と付け加えてくるリュウゼツランに、俺は納得する。
「リュウゼツランは、その、…ソドムと上手くいってるか?」
「ッ……、ええ、…まぁ」
イマイチ歯切れの良くない返答に、俺は――。
「まぁ、…多少軟派なヤツだけど。悪いやつじゃぁないと思うぞ」
仲を取り持つ用な言葉を送った。
ソドムとは先日の合同任務から、ちょくちょく仕事後に飲みに誘われて行くことが多くなり、多少いい加減なところはあるが、やるときはやる人物なんだろうと、信用に足る男だと思えていた。
「………」
「(まぁ、…女性からみたら、合わない場合もあるんだろうな。それに、ソドムには悪いが、リュウゼツランの恋愛対象にはならないのは安心できるな)」
「…ぉーい、団長さんもコッチにきて一緒に食べましょーよー!」
一歩離れた所から、アナベルが俺を呼ぶ声を上げながら、こちらへと向かってくる。
「ほら、アース君を呼んでるよ、いってあげて。私もみんなの所に戻るね」
「あ、ああ…」
踵を返して、俺から離れていくリュウゼツラン。その後姿がすごく寂しげにみえて……。
「リュウゼツラ―「団長っ!つーかまえた!」ッ!うぉっ!?」
よそ見していたところを正面からアナベルに抱きつかれて、よろめいて砂浜の上に尻もちをついてしまう。
「わわっ、ごめんなさい団長さん!…大丈夫?」
「あ、ああ大丈夫だ。…よそ見をしていた俺も悪いからな」
頭を下げて謝ってくるアナベルを傍目に、リュウゼツランに視線を送れば、もう、仲間たちの輪の中に入っていた。
「ほら、団長さんもいきましょっ」
グイグイと、思いの外力強いアナベルに、腕ごと身体を引かれていった。
それから無人島滞在の間、思った以上にタイミングが掴めず、リュウゼツランと話すことはできないまま。彼女を眺めていることしかできなかった。
ソレとは別に…。
「ふふっ、団長さん。無人島でのバーベキュー、楽しかったですね」
「…あ、ああ。そうだな」
積極的にコミュニケーションを求めてくるアナベルに、俺は嬉しさと戸惑いを混濁させながら、午後の任務へと赴いていった。
それから、午後の任務の間もやたらと積極的にコミュニケーションをとってくるアナベルに戸惑いつつも邪険にできずに対応するしかなかった。
幸いにも、午後の哨戒任務も特に問題なくすぎていき、日没と共に陸地へと戻っていった。
――保養所『騎遊館』
バナナオーシャンきってのリゾート地に大きく建てられた館。その場所は、俺たちの今回の任務にあたってバナナオーシャン王族から用意された宿泊地だった。
「それにしても、すごい場所ですよねぇ…。わわっ、団長さんみてください。専用のプライベートビーチとプールもあるみたいですよ!」
クルーザーを波止場に停めてすぐ、走り出すように両手を広げるアナベルに続いて、俺たちも続いていく。
そして、すでに到着していたのか。俺たちのクルーザーの向かい側にはソドムたちの船が停まっていた。
「ようこそいらっしゃいました、アース団長さま以下花騎士の皆々様方。スタッフ一同、精一杯のおもてなしをさせていただきます」
館内に入ると同時に、施設長に挨拶された俺たちはあれよあれよという間に荷物を運び込まれ、各々の部屋へと案内された。
「こちらがアース団長さまのお部屋になります。ベランダに出ますと、オーシャンビューとなっております。ごゆるりとお寛ぎください。」
スタッフに紹介された部屋の中は、一人で使うには十分以上の広さで、天蓋付きクイーンサイズのベッドが置かれていた。
案内を終えた後も、スタッフから淡々と施設の概要を聞きつつ、ベランダから海を眺めていた。
「――と、なっております。なにかご質問、ご不明点ありますでしょうか」
「ないよ。ありがとう」
「いえ。では、失礼させていただきます」
軽く会釈したのち、扉を開けて退室しようとしたところで、ハっと思い至り声をかける。
すぐ立ち止まり、コチラの言葉を待つ姿勢をとるスタッフ。
「…ぁ、ごめん。ソドム団長の部屋はどこか聞いてもいいかな」
「それでしたら。ちょうどこの上の階となっております。この階がアース騎士団の皆様、この上の階がソドム騎士団の皆様がご利用していただくこととなっております」
「そうか、ありがとう。もういいよ」
「それでは」
再び軽く会釈をして、改めて退室していった。
それから、俺は一頻り部屋を見て回った後――。
「ソドムに声かけておくか」
今日の情報共有、明日以降のことも考えて、話し合ったほうがいいだろう、と、考えた俺は、上着をラックにかけて楽な格好になると、彼の部屋へと歩みを勧めた。
階段をひとつ上がって、別のフロアに出るだけで、自分がいたところとは違う雰囲気を感じてしまう。
それはきっと、学生時代などで上級生のクラスがある階に上がってしまう気持ちだ。そんな他愛ないことを考えながら、階段を上りきる。
俺の真上の部屋だと聞いていたとおりに、向かっていく途中、ちょうど進行方向からこっちに歩いてくる人影に気づく。
その人影は――。
「あ、リュウゼツラン」
「ぇっ!?ぁ、アースくん。お疲れ様」
どうやら、俺に声を掛けられるまで気づかなかったらしく、声を掛けられて慌てるように顔を上げる彼女。
俺はそんな彼女を直視することができなくなっていた。その理由が…。
「えっと、…プールにいってきたのか?」
彼女は水着だったのだ。しかし、昼までに観た水着ではなく、それよりも布地がかなり少なく、彼女の豊満なおっぱいがほとんど隠しきれていなかった。
「え…、ぁ、そ、そうなの。とっても、その、良かったよ」
歯切れの悪い言葉。それに、タオルで十分に拭いたのだとしても、髪に湿り気はないにも関わらず乱れており、水着の紐も緩んでいるようにみえて、細かな不審な点がいくつか見受けられる。
「そ、それじゃ、…またね」
「あ、…ああ。またな」
そして、まるで俺の視線から逃れるように自分の部屋へと入っていった。
「………」
言葉を続けようとしたが、何故だろう、二の句を告げずに彼女の背中を見送るしかできなかった。
それから、俺はそのことを極力考えようにしながら、足早に離れ、ソドムの部屋の前に到着する。
コンコン
「ソドム、…いるか?」
扉をノックして、扉の先にも聞こえるように声をかける。
………。
……………。
コンコンコン
再び、今度は強めなノックをする。
…………。
…………………。
かちゃっ
内側から、ドアノブが捻られる音がすると、ゆっくりと扉が開かれる。
「なんだ、結局もどってきたのか――……って、アースか。…なんだ、どうかしたか?」
当然ながら出てきたのはソドムだったが、彼の姿は半裸の状態で、下に皺のついたスラックスを履いただけの格好だった。
汗の匂いと共に、青臭い匂いが鼻をつく
「す、すまん。シャワーを浴びていたのか…。」
「…いや?そういうわけじゃないが――「も~、団長様、次はわたしの番ですよ」
彼の後を追ってくるように、扉からさらに人物が出てくる。
俺は、まさか客人がいるとは思わず驚き。さらに、その格好をみて唖然となる。
「ん?…あら、アース団長様」
出てきたのはグリーンベル、ソドム花騎士団参謀役の花騎士である。その分だけでは、特に問題なかっただろう、彼女の格好がバスタオル一枚だけという頼りないもので身体を隠しているだけで、出てこなければ。
彼女の身体は男性ならば誰しもが目を留めてしまうような、大きなおっぱいがある。そのようなものが、バスタオル一枚で隠しきれるわけもなく、ほとんど見えてしまっており、ギリギリのラインで先端の部分が隠れているようなものだった。
「アース団長さま、あんまり見ないでくださいな。恥ずかしいです」
「ッッ……す、すまない!」
無意識なうちに彼女の身体を視ていたことを悟られて、慌ててそっぽを向く。
「クククッ……おいおい、あんまりアースを責めてやるな。もとはといえば、そんな格好で出てきたお前がわるいんだからな」
「そうですね、ごめんなさい」
軽い調子で叱るソドムに、叱られるグリーンベル。彼女は、自分の身体を彼の横半身に身体を押し当てる。おっぱいは形を変え、バスタオルは今にも崩れ落ちようとしている。
キャンプ任務のときも思ったが、どうやらソドムとグリーンベルはそういう関係のようだった。
「すまん……。その、邪魔したようだな。」
「クククッ…、構わないさ。一旦落ち着いた所だったしな。明日からのことだろ、中に入って話すか?」
どうやらコチラの要件はお見通しのようだった。
「か、からかうなよ。時間を改めるさ」
「クククッ…、そうか。それじゃぁ、またな」
からかうような笑みを浮かべソドムたちは中へ戻っていく。
扉を締める間際、パサっというタオルが落ちたような音がしたが俺は気にしないように努めるのに手一杯で、かすかにソドムの身体から匂った、嗅いだ覚えのあるような匂いに気づきもしなかった……。
そして……。
「うっ、…情けない。他人の女性に欲情するとは」
リュウセツランに続いてグリーンベルの扇情的な姿をみて、素直に反応してしまった下半身を恨めしく思ってしまう。
やや前かがみになりながら、部屋に戻り(幸いにも、他の人とすれ違うことなく)、熱めのシャワーを浴びて発散させると、一日の疲れから、そのままグッスリと寝てしまった。