幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
翌日の哨戒任務もこれといった事案もなく、退屈とも言える時間が流れていった。
………。
………………。
「………」
日も落ちきった時間、俺はシャワーを浴びた、熱冷ましにベランダからさざ波を立てる海を眺めながていた。
昨日のすれ違いから、リュウセツランとろくに話せていないでいた。
「(このままじゃ、いけない。それはわかっているのに、ナニかが心に刺さって踏む込めないでいる。……いや、嘘だな。自分でもわかってるんだ、それは、きっとソドムとリュウゼツランの関係が気になって仕方がない自分の心に……。)」
気にし始めてしまったのはキャンプでの一幕から、その後の見舞い先でのいくつかの気になった点が、それからも頭を離れずにいた。
なんとか、仕事に支障を来さないように振る舞っていたつもりだったが……。
「まぁ…、バレてんだろうな。」
アナベルも含め、最近やたらと普段からコミュニケーションをとってこようとする花騎士(なかま)が、それを物語っているように思えた。
「はぁ……」
その溜息は、想い人を懸想して故か、団長として花騎士たちに気負わせてしまっている情けなさが故か、自分でも判断がつかぬまま、おもむろにネオンで彩られる町並みを覗き込んだとき、一組の男女が目に入る。
「……?、……ん!?」
背中越しにしかみえていないが、女性が男性に肩を抱かれて夜の街を歩く、一般的な視点でみれば普通の仲の良いカップルだろう。
しかし、男性のほうが女性へ微笑みかけたときにみえた横顔でソドムだとわかり、ストレートロングの女性の髪色が鮮やかな金糸雀(かなりあ)色だとわかったとき、先程までの鬱屈とした気持ちは一切取り除かれ、目をひ開き、焦りへと一瞬で移り変わる。
俺は今、無粋なことをしている、と、頭ではわかっているつもりだ。なのに、俺の身体は、ベランダの柵から少し身を乗り出して視てしまっている。
二人の様子は、互いに水着であること以外は特に変わった様子はない。――常夏の国バナナオーシャンでは、その国柄と気温から平常時も水着で過ごしていることが多く、現に今もソドムたち以外の国民たちも水着で過ごしている人たちが過半数を占めていた。
「くそっ……、それにしてもくっつき過ぎじゃないか?」
多数の人波があるとはいえ、二人はだいぶ密着して歩いているようにみえ、嫉妬心から悪態をついてしまう。
そしてついには、そのまま見えなくなってしまう。
「ッッ……」
俺はすぐさま部屋の中へ入り、簡単な身支度を整えた後、部屋を飛び出るように出たところで、思ってもみなかった人物とぶつかりそうになる。
「きゃっっ!!」
「あ、すいません!……って、リュウゼツラン!?」
「そ、そうだけど。どうしたの?そんなに慌てて」
「え、あれ、…今、ソドムと一緒にいたんじゃ……?」
脳の整理が追いつかぬまま、言葉が口から出てくる。
「ふふっ…、なにを言ってるの?今、貴方の前にいるでしょ」
変な人ね、と、付け加えて微笑む彼女。
たしかに、目の前の彼女は薄手のライトグリーンが映えるワンピース姿ではあるが、水着では一切なかった。
「えっと…、俺を訪ねにきてくれたんだよな。なにか用か?」
「そうだけど、急ぎのようがあるんじゃ……」
「いや、大丈夫になったんだ。リュウゼツランが俺の前にいるから」
俺は心から安堵しての言葉を述べる。
「???…、ま、まぁとりあえず良かったわ。それじゃあ、私の一緒に花火を見に行かない?ちょうど今から海岸から上がるらしくて、それがこのホテルの屋上から凄く綺麗に見えるって、スタッフさんに教えてもらった所なの」
「ああ、いいぞ。楽しみだ。」
「よかった…。それじゃあ行きましょ。」
「ああ!」
出会ってから今までのすれ違っていた行動を埋めるように、俺たちは自然と手を取り合い階段を上っていった。
それから共に花火を観て、夕食も一緒にした時間はとても楽しく、胸が踊り放しだった。
そして、そのときの俺は、身近にいたもうひとりのストレートロングの髪型をした金糸雀色の女性のことを思い浮かべようともしなかったのだ……。
ううっ、読者から「はよ陰サイドでえちシーンみさせろ」って言われてる気がする(自意識過剰