幻想の約束 ~魔の蜜に蕩かされる気高き貴婦人~ 作:ねりうす
「おはよう、ブルーロータス。」
「はい、おはようございます。団長さん」
アースが昨日と同様待ち合わせの場所に向かうと、今度は彼女だけが居てホっとした気持ちを表すように声をかけた。
ブルーロータスも変わらずの笑顔で返していた。
「それにしても、その黒のチョーカー、騎士団内で流行っているのか?よく見かけるんだが・・・。」
何気ない質問を投げかけたつもりが、彼女にとって不意となってしまったのか、やや慌てた表情で返してきた。
「えっ!?えぇ、そうみたいですね。私も女の端くれですから、・・・似合っていませんか?」
「え、いや!そんなことないぞ、とっても似合ってる・・・。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
「そういえば、今日。新しい花騎士が来るらしいな、うちの部隊に来てくれると嬉しいけどなぁ~」
「ふふっ、そうですねぇ。」
「・・・・ぇ、アース君?!」
他愛ない話をしながら、執務室へ向かっている途中、後ろから名前を呼ばれたことに気づき、振り向くと、まずいちばんにその美しさに見惚れてしまった。
まるで沢山の陽の光を内包したような輝く金糸の髪、切れ長の瞳には意思の強さを表すような光が宿っており、そして、すれ違った男性十人中十人が見惚れて立ち止まってしまうような見事なプロポーションをしていた。
アースも例に及ばずだったが、なんとか、かぶりを振って、意識を戻した。
「・・・えっと、キミは?」
「ええぇ・・・、私の事覚えてない?」
そう言って、悲しそうな表情を見せる彼女の顔をよくみて、記憶を呼び起こそうとしている最中、彼女の髪に付いているリボンが目につくと一気に脳内でフラッシュバックが起きた。
「え、もしかして・・・本当にあのリュウゼツランなのかい?」
「(ほっ)そうよ。よかった、・・・思い出してくれて」
「・・・・お知り合いですか?団長さん」
そこで、ようやく状況が落ち着いてきたのを見計らったブルーロータスが疑問を口に出した。
アースと彼女、リュウゼツランは所謂幼馴染らしく、幼少の頃数年に渡って共に過ごしていたが、村が害虫たちに襲われて避難のため散り散りとなってしまったとの事だった。
それから、互いに連絡をとろうとしたがすれ違いを繰り返していて取り敢えず、そこからアースは将来の為に騎士学校の入り、寮生活となって次第に疎遠となっていき今に至るという状況だった。
アースが話し終えたあと、リュウゼツランは少しむくれた表情をして、アースへ訴えた。
「私はすぐ、気づいたのに。アース君は気づいてくれないなんて、・・・ちょっとショックだったな。」
「うっ・・・ごめん。しかし、・・・でも」
「でも?」
「・・・・・君が見違えるほど、綺麗になってるから、わからなかったんだよっ」
一度言いよどんだ彼が、リュウゼツランに先を促されてると、照れくさそうにそっぽ向きながら、そう言った。しかし、その表情には朱色が差し込んでいた。
「っ!!!」
そして、そう言われたリュウゼツランもまるで合わせ鏡のように表情に朱色が差し込み、顔をそむけていた。
その様子はだれがみても、恋する乙女、その人だった。
「ふふっ、お二人様?そろそろ行かないと遅れてしまいますよ」
微笑ましくも、その光景を黙って眺めていたブルーロータスだったが、時間が刻々と迫っていることに気付くと、先を促した。
「あ、あぁ、そうだな。・・・えっと、そういえば、執務室を探していたんだったよな」
「え、えぇ、そうなの。あなたの騎士団に行けたなら、良かったのに・・・」
「(うちの騎士団じゃないのか、残念だな・・・。)」
「?、なにか言った?」
「いいや、なんでもないよ。いい騎士団だといいな」
「えぇ、そうね。もし、次に異動願いが受理してくれそうなら、あなたの騎士団の所へ行くからね、待っててね」
「あぁ、楽しみしてる」
「それで、なんていう騎士団なんですか?」
「え~っと、・・・」
また、甘い雰囲気になりそうだったのを一時引き止めたたブルーロータスは彼女へ質問した。
そして、手に持っていた書類を前に出して、文字を目でおっていくと・・・。
「・・・フェガロ騎士団って、所ね」
「っっ!?」
「ん?ブルーロータス、知り合いか?」
「い、いえ。そういうわけじゃ――」
「迎えにきましたよ、リュウゼツランさん」
ブルーロータスの言葉を遮るように、一人の男が姿を現していた。
その男はまるで光を侵食していきそうな暗い髪に瞳を宿しており、アースと同様に軍服を纏い、その三歩後ろには秘書官が付き従っていた。
「え、と。もしかして・・・」
「ああ、申し遅れていたね。わたしの名前はソドム・L・フェガロ、栄えあるフェガロ花騎士団の団長さ。それで、後ろにいるのが・・・」
「私が、フェガロ様の秘書官を勤めさせていただいてる、ナズナと申します。どうぞ、よろしくおねがいしますね」
リュウゼツランを迎えにきたということで、おおよその察しはついていたが、改めて自己紹介された。
「ああ、ごめんなさい。もしかして、遅れてしまっていましたか?」
慌てて、時計を確認しようとするリュウゼツランを、ソドムはかぶりを振って静止させた。
「いやいや、まだ時間はあるよ。ただ、わたしがキミといち早く会いたくて来ただけさ。さぁ・・・いこうか」
そう言って、さらにリュウゼツランに近づいていくと、肩に手を回して、連れ出そうとした。
「ぁ、・・・ちょっと待って下さい」
「ん?どうしたんだい?・・・あぁ、そういうことか」
突然、肩に手を回され、顔を赤らめたリュウゼツランが振り払うように離れ、アースに向き直った。
「それじゃぁ、またね。アース君」
「ああ、またな。お互い、平和の為にがんばろうぜ!」
「ええ!」
そう言って、音を響かせてハイタッチしたあと、背を向けて数歩離れると、微かに聴こえる程度に呟いた。
「・・・・・、あの『約束』、覚えてる?」
「え?・・・それっ、て――」
「ううん、なんでもないの。それじゃぁ」
アースの答えを聞く前にその場からさきほどより早く足を動かして離れていき、向かう先は、ソドムのいる下だった。
「さぁ・・・いこうか」
そう言って、再びリュウゼツランの肩に手を回すと、アースだけが気付くように微かに口元を釣り上げた。
そして、自分たちの騎士団執務室へと連れだっていった・・・・。
「私達もいきましょう。団長さん」
「あ、あぁ。そうだな、いこう・・・」
力のない瞳で彼女たちが消えていった先を見つめていたが、隣りにいたブルーロータスの声に気付かされ、彼女たちが消えた先とは別の方向へと歩いていった。
✿
彼、アースと別れたあと、私はフェガロ団長に連れられて彼の執務室に入っていった。
入った途端、私から離れた彼は、力を抜くように息を吐きながら自分の執務机までいって、深く椅子に座った。
「ふぅ~・・・・・、さぁ、かけてくれていいぞ」
「え、えぇ・・・」
そう彼に促されて、先程とは打って変わって、乱雑な口調に少し戸惑いながらも、応接用の椅子に腰を掛けた。
「ん?・・・。あぁ、急に態度が変わって驚いたか?いやなに、単純なことさ。堅苦しいのは嫌いでね、あーいう公共の場以外はこーいう口調なんだ。癇に障ったか?」
「いいえ、そんなことないわ。むしろ、フレンドリーな団長さまで安心してるとこ」
「ククッ、そうか。それは、この先が楽しみだな」
含み笑いをこらえている姿が少し気になったが、彼女も気にしない様に努めた。
「・・・そういえば、先程の彼とは仲がいいのか?」
「ぁ、アース君ですか?ええ、彼とは幼馴染なんです。
害虫の襲撃で住んでいたが村が襲われて散り散りになってしまいましたが、彼は団長なるのが夢だと子供の頃から宣言していましたから、私も彼の応援をしようと花騎士となったんです」
今でも、宝物のような思い出をまるで宝石箱を少しづつあけるように、優しい表情で綴った。
「ふぅ~・・ん。それじゃぁ、彼の騎士団にいきたいっと思っちゃうのが、自然だな?」
「ええ、正直な話その願いはあったわ。だけど、勘違いしないで。この騎士団に配属された以上、全力を尽くすわ。目指す場所は貴方もきっと彼と同じなのでしょうから、共にがんばりましょう、団長さま!」
「ククッ、そうだな。それじゃぁ、まずは・・・」
「ええ、なんでも言って。完璧に任務をこなしてくるわ」
「――、おれの『恋人』になってもらおうか」
「えっ・・・・?」
彼の言っていることが、一瞬理解できず、彼の表情を見直すが妖しく楽しそうに笑うだけだった・・・・。